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魔女とコヨーテ」
第一話 嫁入り

第一話: 嫁入り 6

2009.02.22  *Edit 

 レナードの体が離れ、シェリルは息をついた。
 安堵と落胆が同時に押し寄せる。
 ここで彼が諦めなかったら、どうなっていたか。
 これからどうなるのか、彼が何をするつもりなのかということばかりで、先のことなどシェリルは今の今まで考えてもいなかったが、増長したレナードが、彼女に取り返しのつかないことをしたとしたら、誰にとってもあまり良い事態にならないだろう。
 そこまでは分かるのに、果たしてその前にシェリルはレナードを拒否できたかどうか。それは分からなかった。
 シェリルはまだ弾んでいる鼓動を落ち着けようとしながら、毛布の下でそっと服の乱れを直そうとした。

 閉じたままの瞼の向こうが明るくなる。
 夜の匂いのする冷たい空気が流れ込んできた。
 窓が開いている。レナードが開けたのだろうか。
 シェリルは動きを止め、薄目を開けた。霞む狭い視界に、床に差し込む月明かりが見えた。
 寝台が軋む。背中の方に重みを感じた。
「フィリス様」
 囁き声と同時に、頭に温かい手が置かれた。シェリルは慌てて再びしっかりと目を閉じた。
 頬に唇が触れる。
 そのまま肩を掴まれ、体を転がされて上半身を仰向けにされた。膝もまた掴まれ、腰と脚も上向きにさせられる。頬に温かな手が押し当てられ、斜めを向いていた顔も仰向けにされる。
 唇が柔らかく、僅かに湿ったもので覆われた。

 毛布が取り払われる。
 服をたくしあげられたままのシェリルの体は、胸のあたりまで露わになっている。月明かりが彼女の白い肢体を照らし出していた。
 彼は夜着をさらにめくりあげ、先ほどまで弄んでいた乳房をむき出しにした。
「可愛らしい……本当に」
 囁きが耳を打つ。レナードの指先が臍から鳩尾に触れ、顎の先に触れた。
 シェリルの膝の裏が痙攣するように僅かに震える。
 レナードは諦めたわけではなかったのだ。
 どころかより大胆不敵に、窓を開けて明かりを入れ、彼女を仰向けにして自分の手で半裸にした婚約者の体を見つめている。
 止めなければ。拒絶しなければならない。
 目を覚ました振りをして、彼を静かに諭さなければならない。
 早く。
 何度も自分を急かすが、シェリルの体は意のままには動かなかった。
 温かい手に再び胸のふくらみを押さえられる。そこに熱い吐息がかかり、濡れた舌が触れた。彼は舌で柔らかい乳房を撫で、固くなったままの先端を舐めた。思わず体が震え、腰が一瞬僅かに浮く。しかし青年は今度は動きを止めずに行為を続けた。
 正面を向けられていては、歯を食いしばることもできない。乳首から流れてくる快感をこらえる為に力を入れる場所は、四肢を広げて仰向けになった状態では、もう下腹しかなかった。しかしそうすると体に慄きが走り、熱いものが徐々にせり上がってくる気がした。
「こんなに固くして……なんて可愛くていやらしい姫様なんだ」
 呟きながら乳首を口に含まれ、乳児のように吸われる。快楽をこらえながら、それでも顔に血が上るのは止められなかった。
 優雅な公子が、まるで玩具で遊ぶように自分の肉体を弄び、夢中になっている。一体何が、冷静なレナードにこんな恥知らずで幼稚な行為をさせているのだろう。
 それは彼女自身だ。忌々しかった彼女の肉体。体の底が熱くなる。
 しばらく乳房を弄んだ後、彼の手はまたしてもシェリルの股間に伸びた。横向きの姿勢から仰向けに、レナードのなすがままにされた彼女の両脚は、膝を立ててだらしなく半端に開いている。閉じたかったのはもちろんだが、そんな不自然な動きをすれば、彼女が目覚めていることが容易に知られてしまうだろう。
 レナードの手は軽く恥丘を撫で、躊躇もせずにその奥へと伸びた。体の中心に指先が触れ、シェリルはこれまで以上に身を固くした。
 こんな不埒な真似を許してはいけない。
 でももっと触れて欲しい。彼女がそうすることを許し、相手もそれを望んだ初めての男だ。
 時が過ぎ、体が熱していくほどに、後者の欲求は抑えがたい程に膨れ上がってきていた。
 熱くなった彼女の秘唇をそっと撫で、青年は呟いた。
「すごい。眠ったままこんなに感じて濡れてる……。こんなに淑やかそうな方なのに、こんなに淫らだなんて……」
 その言葉は、シェリルの静かに張り詰めた体のどこかを弛緩させた。なにかが許され、さらに快楽が溢れる扉がひとつ開いた。今、自分の体のそこは、男性を受け入れる為に潤っている。彼が彼女に対して興奮しているのと同じく、彼女も彼に対して興奮している。
 ずっと何を待っていたのか、ぼんやりしていたその正体が、形を成してくる。
 レナードの指は下着の上から、シェリルの秘唇の奥へ入り込んで、前後に何度も撫でた。そこが潤っていくと、下着もだらしなく湿って張り付き、彼の骨ばった指の感触を鋭敏に伝えてきた。
 指が裂け目の端にある肉の突起を探り当てた。生理学を学んだシェリルは、それが女性の体の中で、快楽を呼ぶために存在する器官だということを知っていた。
 爪の短い指先で軽く押される。痛みと尿意、そして切ない快感が突き刺さった。未知の感覚に思わず彼女は息を呑んだ。
 彼の指は容赦なくそこを小刻みに刺激し続けた。体が僅かに揺れる。次々と上ってくる快楽に、頭の中までかき回されている気がした。
「う……」
 こらえ切れず、シェリルは寝息に似せて僅かに声を漏らした。
 幸いそれはレナードには気づかれなかったらしい。彼はそのまま指を動かし、彼女の陰核を刺激し続けた。シェリルは必死で快楽をこらえる。息が弾んでいることはもう隠しようが無かったが、レナードはまだ彼女が夢うつつにいると思っているようだ。
 彼女が限界に達する寸前でレナードは動きを止めた。
 シェリルの体から手を離し、彼女の顔を覗き込んでいる気配を感じる。そのまま目を閉じていると、衣擦れの音が聞こえた。
 何をしているのか。気にはなったが、目を開けることができなかった。このままもう少し彼にされるがままになり、全てを委ねていたかった。

 レナードの唇が彼女の唇を覆う。
 唇が押し広げられ、そこから柔らかい舌が忍び込んできた。あの偽者の公子との口づけを思い出した。口の中に他人の体の一部を無理に押し込まれている嫌悪は同じだ。なのに、何故こんなにも甘美なのだろう。
 反感と好意。嫌悪と快楽。反対の感覚のようでいて、容易に同居できるものだと知った。
 レナードの唇が離れる。
 乳房に、温かく柔らかく、しかし硬いものが触れた。指でもない。唇でもない。それは何度か彼女の乳房をするすると撫でると、同じものが彼女の唇に触れた。
 鼻腔に入り込んだ微かな生臭い匂いを嗅ぎ取り、シェリルはその正体に思い当たる。先ほど沈黙に包まれた衣擦れの中で、やはり彼は服を脱いでいたのだ。
 なんて汚い男だろう。屈辱から僅かに唇が震えた。
 それほど悔しいのなら、起き上がって彼を罵ればいいものを、しかし相変わらず体は動かせず、胸に湧いた屈辱は、甘く全身に広がった。
 レナードにどんなことをされても、なすがままだ。こんな状態を許すような、はしたない自分は今まで知らなかった。そして誇りを捨てて、レナードの意のままになる快楽も知らなかった。
 しかし、レナードはそれ以上彼の分身を彼女の口に押し込むようなことはせず、腰を引いた。
 青年の手は、今度は彼女の下着の紐を解きにかかる。
 さすがに全裸を見せるわけにはいかない。
 けれど先ほどから何度、これ以上はいけない、止めなければと思っているのだろう。その度に結局体も動かせず、口も開けずにいる。
 今度も結局シェリルは声もあげず、レナードが下着を剥ぎ取るのをおとなしく待っていた。
 むき出しになった恥丘に、唇が触れた。
 彼の指が今度は直に陰唇を広げ、陰核に触れる。シェリルはまた吐息を漏らし、顎を僅かに反らせた。その時、囁きではない、はっきりとした声が響いた。
「フィリス様、目を開けて、声をあげてもいいですよ。誰にも聞こえません」
 その言葉に逆らいようもなく、シェリルは目を開いた。 

 月の光は夜空の色を含んで青白かった。照らされているレナードの顔も体も、まるで棺から甦った死人のように白い。
 予想していた通り、レナードは下着まで脱ぎ捨てて、全裸だった。
 細身に見えた色白の体だが、肩や腹には、いくらか鍛えた筋肉がうっすらと浮かんでいる。
 シェリルの上で彼女を見下ろす表情は、あのいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。彼の股間で、繁った恥毛から立ち上がったその器官は、彼の表情とは不釣合いに荒々しく見える。初めて見る異形のそれが、自分の胸と唇に押し付けられたと思い、彼女はさらに顔を赤らめた。
 恥辱と恐怖に瞳を潤ませ、無言で問いかけるシェリルに、穏やかな声で公子は答えた。
「起きているのを気づかれていないと思っていました? 随分前から目覚めてらっしゃいましたよね? 体を固くして寝ている振りをするあなたは可愛かったですよ」
 それでは、独り言だと思っていたレナードの囁きも、全てシェリルに聞かせる為だったのだ。 謝ればいいのか、恥じればいいのか、何と言っていいか分からず、シェリルは黙り込んでただ体を震わせた。
 レナードはそんな彼女に手を伸ばし、優しい手つきで髪を撫でた。
「あなたがこんなに素敵な体で、イタズラ好きだなんて思いませんでしたよ。寝た振りを決め込んで私の動きを待ってるなんて、まるで小悪魔だ」
「ごめんなさい……」
 羞恥から涙までにじませ、シェリルは首を振って謝った。その頭を撫でたまま、レナードは尋ねた。
「どうして? あなたが謝ることはないでしょう」
「でも私……こんな失礼な……」
「あなたが恥じることはありませんよ。こんなに……」レナードはシェリルの固く尖った乳首を軽くつまんだ。喉の奥から小さな声が漏れる。「正直に反応してくれるなんて、嬉しいです。あなたは聡明そうですが、あまり夫婦生活には興味無いのではと、それだけが心配でしたから。これなら結婚後も楽しみです」
 灰色の後悔が胸に落ちた。フィリスの性的嗜好まではさすがにシェリルも知らない。もしフィリスがあまりそちらに興味が無いなら、今自分が公子に持たせた期待は罪深いと思った。
 レナードが彼女の股間に再び手を伸ばした。
 シェリルは慌ててその手を押さえる。
「公子様、待って。もう駄目です。これ以上……」
 青年は驚いたように目を見張り、やや皮肉を込めて微笑んだ。
「フィリス様。目を開けたからといって、急に慎みを思い出さなくてもいいですよ。嫌ならさっきみたいに寝た振りでもしていてください」
「そういう話ではありません……。まだ、私たち、夫婦ではないのに」
「同じようなものでしょう。大丈夫です。万が一にもあなたとの婚約を破談にさせるようなことは、決してしませんよ。何が何でも私の妻にします」
 温和な青年の力強い言葉が、シェリルの胸を貫いた。
 こんなに。こんなに望まれているのに、彼が妻とするのは自分ではないのだ。何が何でも妻にすると言ってくれているのに。
 レナードに取って、今彼が組み敷いているのはフィリスである。この瞬間、どこにもいないシェリルという人間を哀れんで、彼女は涙を流した。普段隙を見せないように振舞っている彼女が、物心ついてから、男の前で泣くのは初めてだった。
 泣いているシェリルをあやすように、レナードは片手で彼女の頭を撫で、数度顔に口づけを落とすと、彼女の脚の間に潜り込ませた指を、愛液にまみれた入り口に押し当てた。
 内部を探るように、ゆっくりと長い指が侵入してくる。
「あ……あ……あ……!」
 涙を流し続けながら、シェリルは叫んだ。
 好奇心旺盛な彼女は、一度だけ、自分の性器に触れてみたことがある。世に語られる自慰がどんなものか試してみたかったのだ。女性の自慰は最悪の罪と世間では言われていたが、偏見や迷信と無縁の魔術師の彼女は、あまり気に留めなかった。
 当時惚れ込んでいた旅の騎士を頭に思い浮かべながら、彼に触れられているつもりで乳房や秘部を撫でていると、内部から愛液が漏れてくるのが分かった。恐る恐る、指先を体の中へ差し入れてみた。だが未熟な彼女のそこは、自らの指さえ、苦痛無しには受け入れなかった。指先を辛うじて飲み込んだ膣は、痛みしか伝えてこなかった。
 しかし、今、自分より太く長い指をそこに差し入れられて、僅かな苦痛と同時に流れてくる深い快楽に、めまいがするようだ。その悦楽は、乳房や陰核から伝わるものとは次元が違った。魂を揺さぶられるような、深く重い快楽だった。
 体の中で指が優しく動く度に、シェリルは身をくねらせ、声をあげた。恥じらいはどこかに飛んでいってしまった。
「はああ……あっ……あ……!」
「フィリス様……僕の妻。なんて可愛い……」
 レナードの情熱的な囁きが、脳を焦がした。涙が止まらない。もう何の為の涙か分からない。
 彼はもう片方の手を彼女の太もものあてがい、さらに脚を開かせた。
 月明かりの下とはいえ、秘部を曝け出すのが恥ずかしく、シェリルは快楽の奥の理性を呼び起こして、必死で脚を閉じようとしたが、彼の手はそれを許さなかった。
 右手で彼女の体内を愛撫し、左手で内腿や脚の付け根を撫でられる。
 不意にレナードが動きを止めた。
 シェリルが訝る前に、彼はさらに彼女の膝を立たせて脚を広げさせると、顔を屈めてそこを覗き込んだ。
「レナード様……、待って……いや……」
 自分で見たことがない場所を、他ならぬ彼に見られるのが恐ろしく、シェリルは脚を振りほどいて閉じようとした。その度に妖しく蠢くその場所が、男の目を楽しませているのには気づいていない。
 男は忍び笑いを漏らした。
 青年は広がった陰裂の端で、小さく膨らんだ肉の突起に舌を当てた。
「あ……駄目です……恥ずかしい」
 シェリルは顔を真っ赤にし、激しく首を振ったが、レナードはさらにそこを掬い取るように舌を這わせる。指で刺激されるより、柔らかく切ない快楽が襲い掛かった。
 シェリルは顎を反らせて喘いだ。動物のように息が荒い。頭の中を溶かしてしまうような快楽から逃れようと、無意識の内に彼女は腰を引いた。だがレナードにしっかりと腰を抱えられてしまう。
「逃げないで」
 熱い囁きと吐息がさらに陰核を刺激した。シェリルは全身を震わせた。
 逃げたくなんかない。でも本当はここにいて、彼と肉の快楽を分かち合う立場にはないのだ。
 前の暗殺者の時と同じように、迂闊に扉を開けるべきではなかった。彼を招き入れてはいけなかった。
 後悔が溢れた。しかし、同じような状況に陥れば、彼女は何度でも同じ失敗をし、同じ後悔に苛まれるだろうと思った。それほどにこの青年に惹かれていた。
 シェリルのそこから顔を離し、レナードは再び彼女に口づけた。微かに自分の愛液の酸っぱい味がした。入り込んできた彼の舌に、今度は自分の舌をからめる。このまま溶けてしまいたい。
 情熱的に口づけを交わしながら、レナードは腰を動かし、その性器の先端を彼女のそこへあてがった。
 レナードが服を脱いだのを知った時から、ただ体を愛撫するだけではなく、彼がこうして彼女と繋がるつもりだと、彼にとって肉体的な意味での初夜をここで迎えるつもりだと分かっていたが、実際に直前にせまると、途方も無い罪悪感が溢れた。
 レナードは身代わりとも知らず、初夜を迎えることになり、本物のフィリスは身代わりの女にそれを託すことになるのだ。二人を騙しているのとおなじではないか。
「レナード様……やっぱり……これ以上は……」
 シェリルはもう一度彼を拒絶しようと試みた。
 そして心の裏側では、レナードがそれをまた断ることを祈っていた。拒絶しようと試みることがそのものが、シェリルが二人に見せられる精一杯の誠意だった。
 実際に行為を激しく拒絶し、この場から逃げ出す、あるいは正体を明かしてレナードに詫びる程の美しい誠意はもはや無い。レナードの肉体に対する欲求にはとても勝てなかった。それは彼女にとって初めての欲望だった。
 果たしてレナードは軽く笑って、彼女の言葉を退けた。
「今さら何言ってるんですか。ここまで来たら同じですよ。私のここも、あなたのそこもこんなに熱くなっているのに、今もう一度離れて眠るんですか? 本当に、そう望んでいるのですか?」
 シェリルは答えられなかった。ただその沈黙を肯定と捉えられないように祈った。
 彼の手が首あたりまで遠慮なくまくれあがった彼女の服にかかる。彼はそれをさらにたくしあげ、彼女の両腕を差し上げさせて、すっぽりと夜着を彼女の体から抜いた。
 二人は生まれたままの姿で向かい合った。
「フィリス様」
 レナードは再び穏やかな声に戻り、シェリルの髪を撫でる。この後、彼は本物のフィリスの髪をこうして何度撫でるのだろうと、重い嫉妬が沈んだ。
「絶対に軽蔑しません。もちろん、怒りもしませんから、正直に答えてください」
 レナードの言葉に、大きな偽りを持つシェリルの心臓は弾んだ。彼は穏やかな表情のまま続けた。
「男性と寝るのは初めてですか?」
 拍子抜けするその問いに、一片の嘘いつわりもなく、シェリルは頷いた。彼女はフィリスと同じく処女だ。それは間違いなく、レナードの誇れるものだ。
「本当に?」
 もう一度訪ねる青年の顔に、安堵と喜びを見た気がした。
「天地神明にかけて。本当です。ずっとあなたのような人を待っていたんです」
 再びシェリルの瞳からは涙が溢れた。全くの偽りもなく、レナードの前で話せる、多分最初で最後の、そして唯一の問答だろう。
 レナードは目を細めて笑い、撫でていた彼女の黒く豊かな髪を、もてあそぶように自分の手にからみつけた。
 
「本当に、処女なのか? 魔女め」
 レナードが拳を握り締めると、巻きついた髪の毛が引っ張られ、頭に軽い痛みが走った。
 シェリルは目を見開く。
 一瞬前まで彼の顔に浮かんでいた笑みは、全く種類を変えていた。慈愛に満ちていたはずのそれは、氷のように冷え、彼女をあざ笑っている。
 今度こそ、体の芯から彼女は戦慄した。
 見破られた。
 彼女がフィリスではないということに気づかれた。
 恥や貞操を越えて、命の危機を感じ、シェリルは身をすくませた。
 だが熱に当てられた頭は、いつものようにうまく回転せず、シェリルはこの場を切り抜ける手段も考えられずに、再びただ沈黙するばかりだった。
 我に返った頃には、その沈黙は取り返しがつかない程長く伸びすぎた。もう彼に真実を確信させるには十分な長さだった。
「古語や伝説には詳しいと話しただろう。魔女の印に気づかないとでも思ったのか」
 レナードの言葉に、シェリルは自分の失敗を悟った。
 魔術師はギルドで奥義を授けられる際に、魔力の源となる印を師から授かる。それは体のどこかに刻まれる。常人には肉眼では見えないが、魔術に明るいものなら、意図的に隠さない限り、それを見つけ出す手段はいくつかある。レナードはたまたまそれを見分ける方法を知っていたのだろう。
「あんな場所に印を授かるとは、考えたな。だが、迂闊だ」
 レナードは低く笑った。シェリルは顔を赤らめる。彼女のその印は、内腿の、脚の付け根辺りにあった。通常なら、誰かと風呂に入るか、男と寝るかでもしない限り、見つからない場所だ。まさか初めてここまで許した男が、それに気づくとは。
 彼は嘆きに目を閉じる彼女に向かって続けた。
「フィリス様の振りをして、私から金でも巻き上げようとしたのか? 生憎路銀は大して持っていない。残念だったな」
「違います」
 シェリルは首を振った。声が震える。
「では何が目的だ。このまま私を騙して、公爵家へ入り込めると思ったか。婚礼の際に伯爵を呼べば、貴様の正体などたちどころに露見するぞ」
 穏やかだったレナードの顔は、別人のように冷たく締まっていた。やはりあの暖かい笑みは、婚約者であるフィリスにだけ向けられていたのだ。分かってはいたことだが、それでも悲しかった。
「そうではありません。私たちは、伯爵に雇われて、フィリス様の影武者として、辺境伯への囮の為にこの巡礼路を通ってきたのです」
 呆然とするレナードに、シェリルは事情を全て話して聞かせた。
 互いに全裸のまま、そして性器を触れ合わせたまま、そんな話をしているのが、妙に滑稽に感じられた。
 話を聞いたレナードは、苦笑いを浮かべてみせた。
「なるほど……私は伯爵の策とも知らず、囮である君をご丁寧に暗殺者から助け、ここまで連れてきたというわけか。本物の令嬢は、主街道を先に進んでいるとはね」
 彼の心を思いやると、シェリルの胸も痛んだ。
 辺境伯の元へ潜り込んでいる間諜から、フィリスが巡礼路を進んでくることを極秘に聞き、父の許しもそこそこに、従者と二人だけでここまで婚約者を迎えにきたのだ。それが囮に過ぎないと知れば、誰の悪意のせいでなくとも、腹は立つだろう。
「申し訳ございません」
 無論、シェリルにも詫びる筋合いなどないが、少しでもレナードの慰めになればと、自然に口をついて出た。自分やフィリスも含め、彼を傷つけ、心遣いを台無しにした人間全てを許せないと思った。
「君が謝ることではない。詫びは茶番を考えた伯爵から存分にしてもらおう」
 彼女の髪から手を放し、にこりともせずに青年は言った。その瞳には依然と──いや、心なしか膨れ上がったように見える怒りが据わっており、シェリルを怯えさせた。
 萎縮するシェリルをなだめるように、レナードは僅かに目元を緩ませた。汗で額に張り付いた彼女の髪を無造作な手つきでどける。その指先で彼女の唇をなぞった。
「伯爵にも告げずに、勝手に迎えに出た私も悪い。そうだろう」
「でも……公子は、フィリス様を思いやって、こうしておいでになったのに……」
 その言葉を紡ぎながら、胸が詰まった。溢れそうになる涙をやっとこらえる。雇われた魔女の分際で、この青年の前で泣くことは許されない。
「その心遣いを踏みにじるような結果になってしまって……申し訳ございません」
「そうだな」低く冴えた声で彼は答えた。「私が君を愛しいと思って、こんな真似に出たのも、とんだ恥さらしだったわけだ」
 自嘲するレナードに向かって、またシェリルは激しく首を振った。
 レナードが出会ってからのフィリス──つまりシェリルに、婚約者であるという前提の上にしろ、ある種の好意を向けてくれていたのは、うぬぼれではないだろう。彼にとっては、それをも裏切る結果になってしまった。シェリルにとっては、彼の好意に対する裏切りなど何ひとつない。全身全霊をかけて応えられる。
 けれど、雇われ魔術師が公子の好意に応えたところで、彼には何も意味が無いのだ。フィリスでなければ意味が無い。
「決して他言はしません。それに、これは公子の罪ではありません」
「当たり前だ」
 冷たい声がすかさず打ち返される。緩んでいた彼の体に再び力がこもるのが分かった。やにわに乳房を掴まれる。
「私を誘惑したのは、魔女である君だ」彼の指が彼女の秘所を探り、湿った音を響かせた。「私の婚約者を騙った罰だ。甘んじて受けろ」
 指の代わりに、熱く、固いものがシェリルの脚の間にゆっくり押し込まれた。体を引き裂かれ、熱した杭を差し込まれたような激痛が彼女を襲った。

 悲鳴をこらえ、呻きすら噛み殺したのは、彼への愛なのか意地なのか、よく分からなかった。
 声を立てまいと、シェリルは必死で歯を食いしばってこらえる。しかし健気な彼女の忍耐を試すように、容赦なくそれは体の奥へと突き込まれた。
 レナードの呼吸が獣のように荒くなる。彼は彼女の中に差し入れた器官を、腰を揺すってさらに荒々しく突き入れた。
 その度にシェリルの体の奥底には、火を放たれたように熱くひりひりとした痛みが走る。たまらずに彼女は小さな呻きを漏らした。
「魔女の癖に本当に処女だったのか」
 頭上から降ってくる声に、閉じていた目を開き、シェリルは嘲笑を浮かべているレナードの睨み返した。
 魔術と処女性は何も関係が無い。女魔術師が淫乱だというのも迷信だ。
「余計なお世話よ……」
 初めてシェリルは、この青年に弱々しいながら挑発的な言葉をぶつけた。実際に重なるまで求めてやまなかった青年に、処女を差し出してしまったことを、この一瞬、彼女は後悔した。
 レナードはその視線に全く怯まず、むしろ面白そうに受け止めると、劣情に顔を歪めながら彼女に口づけ、彼自身の腰の動きに合わせて揺れる豊かな乳房を握った。
「名前は? 君の名前」
 はあはあと荒い息の下、レナードが耳元で問いかける。
「……シェリル」
 彼女の声も、痛みと分けの分からない重い感覚に揺さぶられ、囁くように小さなものになった。
 レナードは薄く笑った。
「綺麗な名前だ。君にぴったりだ」
 シェリルとは、この辺りの伝説では悪女の代名詞だ。若い愛人への劣情の為に、夫を寝所で刺し殺した貴婦人とされている。
 無論、彼女にこの名前をつけた両親が聞いている伝説は、全く違った。だがそれをこんな場所でこんな青年に長々と説明しても仕方ない。シェリルはレナードの皮肉な笑いを無視した。
 レナードはシェリルの両腿をつかみあげ、抱えるようにして増々激しく腰を動かし始める。さらに鋭い痛みが体の奥を突いた。
 やめて。抜いて。
 魔女である自分がそう悲鳴をあげれば、彼は満足だろうか。絶対に言ってやらない。シェリルは唇を噛んで叫びを押し殺した。
「シェリル……」
 先ほどフィリスの名前を呼んだのと同じ熱、同じ甘さで青年が囁いた。それを耳にした瞬間、彼女の中で凍っていた炎が溶け出した。こらえる間もなく涙が溢れてくる。
「レナード様」
 そんな権利もないのに、シェリルは彼の名を呼び、彼の背中に縋った。
 再び唇が触れ合う。彼女の体内で混じるふたつの性器のように、二人は舌を絡ませあった。
「レナード様……熱い」
 痛みを訴えることがためらわれ、ただ彼女はそう喘いだ。実際、彼女に何度も突き刺さってくる彼自身は、猛って熱く、彼女の体の芯を通じて全てを焼き尽くし、揺さぶって破壊するようだった。
「シェリルの中も熱いよ。濡れていて……柔らかい」
 幸せだと思った。
 レナードのうわ言のような喘ぎを聞いて、これ以上の幸せは無いと思った。彼にこのまま体を壊されて死んでもいい。今、この場で世界の終わりが来ても構わない、むしろ今こそ終末が下りてきて欲しいと望んだ。 
 こんなに愛している人とひとつになれたのだ。もう何もいらない。
「レナード様……レナード様……」
 彼の名を呼びながら、彼に揺らされて、シェリルは泣いた。涙に霞む視界の中で、レナードが何度も頷くのが見えた。
「あ……」
 レナードが荒い息を吐き、呻いた。腰の動きが一度止まった後、何度か深く彼女の中に突き入れるように動いた。その度にシェリルも小さな声をあげた。

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NoTitle 

ここまで読んでUPしました(*´ω`*)

この小説は・・・JAMPro訊きながら見るモノではないということがわかった。。。

Re: 紅猫さん 

こんにちは。

読んでいただいて、ありがとうございます。
このお話は概要に記載している通り、お笑い場面があるものの、基本は暗い&ドライなんですよ~。
ホラー要素は三話にて若干含んでいますが、紅猫さんの好みに合うといいんですけど…^^;
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