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王都の冒険者たち」
第二話 地下都市

第二話: 地下都市 7

2010.01.29  *Edit 

 座り込んだままエミリーは既に集中を始めているようだった。
 エミリーの言うことは分かるが、やはり無防備な彼女を一人置いて、街に助けを求めに帰ることはできないだろうとルークは考えた。
 幸い扉は木製だ。エミリーがどうしても封印の魔術を解けなかった場合は、助けを呼ぶより、扉を叩き壊した方が早い。
 それでもただ彼女の側で何をするともなく座っているのも手持ち無沙汰だ。エミリーに言った通り、念の為他の部屋を見て回ってもいいが、また妙な仕掛けがあっても困る。
 ルークは立ち上がり、もう一度広間の中を歩いてみた。
 壁のところどころに施された壁画は、どれも淫靡だった。全裸の少年──ミクエルより年下に見える──に、腹の突き出た中年男二人がのしかかっている図。枯れたような老人の陰部に少年と少女が顔を埋めている図。三人の逞しい少年たちが、でっぷりと肥えた中年の女の体を愛撫している図。
 芸術に理解の少ないルークにも、淡い色彩で描かれたそれらの絵が美しいと言われるだろうことは分かる。だが、生来潔癖気味の彼には、刺激的にも感じられない。下劣だと思った。まだ子供と言ってもいいほどの少年少女たちを、分別を備えたはずの中高年の男女が、性の慰みに使っていることに、単純に義憤を覚えた。
 街を出る前に、エミリーが酔っ払いに襲われたという事件を思い出す。古代人は奔放だとセルヴィスは言っていたが、結局現在でも人間は変わっていないのかもしれない。
 違う場所にあった壁画では、四つん這いになった少年少女たちに首輪がかけられ、そこから伸びた皮ひもを年かさの女たちが、犬でも連れるように従わせている。この空間で千年も前に行われていた破廉恥な行為に、吐き気がしそうだった。
 不意に心配になり、エミリーの方を振り返ると、彼女はまだ閉ざされた扉に向かって集中し続けているようだった。
 エミリーももう子供という年ではないが、ルークはどうも彼女が心配で、目が離せないところがある。引っ込み思案で、言いたいことも言い出せないエミリーを見ていると、面倒見のいい彼は何とかしてやりたいと思うのだ。
 盗賊のシーマスは逆にエミリーがそうして物怖じするところが気に入らないらしく、よく彼女を怒鳴りつけていた。
 彼の言うことももっともだ。年頃を考えれば、エミリーは世間や物事を知らなすぎるし、自分の身の回りのことも満足にできないのでは、冒険者としてやっていくのには不都合だ。
 しかし仲間からどやされてすすり泣いているエミリーを黙って見ているのは、弱者に優しくあれと教えられてきたルークには難しいことだった。
 特に女性が目の前で泣いたりすると、自分のせいでなくても、ルークなどはどうしていいか分からず、それだけで落ち着かなくなる。
 よくもシーマスは、あんな可憐な少女に大声を浴びせて泣かせた挙句に、さらに説教などする気になれるものだ。
見かねてシーマスを諌めると、彼はルークと喧嘩までする気はないらしく、すぐに興味を失ったように場を外した。 

 ただ一度だけ、興奮したシーマスが、エミリーの家族や叔父までも侮辱するかのような言葉を吐いた時に、珍しくルークは激高したことがある。
「大体、お前、なんでエミリーにだけそうきついんだ? 俺やプリシラにだってできない事はあるだろう。なんで俺たちには言わない? 結局エミリーが弱い女の子だから、言いたい放題怒鳴ってるんだろうが。ただの弱い者いじめだろ」
 そのルークの台詞を聞いた時、シーマスの顔色が変わった。図星だったのだろう。
「なんだと、てめえ。ちっと外出ろ」
 勝てない喧嘩はしない主義のシーマスが、ルークの胸倉を掴んだのは初めてだったかもしれない。殴り合いになれば、体格差だけでも、シーマスは圧倒的に不利だったはずだ。しかし同じく激怒していたルークも、当時は手加減するつもりはなかった。
 さすがにプリシラたちが仲裁に入り、結局殴り合うことはなかったのだが、泣きながらシーマスに謝るエミリーを無視し、黙って背を向けて部屋に戻る彼の後姿を見ていて、果物でも投げつけてやろうかと思うほど腹立たしかった。
 しかしその後、プリシラに呼び出された。
「エミリーがあのチンピラに怒鳴られてると確かに可哀相だけど、あんまり庇わないようにしない? あの子、ほんとにいい子だけど、ちょっとのんびりしすぎているからさ。あたしたちが庇うと、自分で何もしなくても周りが助けてくれることになっちゃうでしょ? 今までそうやって育ってきたんだろうけど、いつまでもそのままじゃ、あたしたちも困るし。何度も庇われると、自分は悪くないって、無意識に思っちゃうかもしれないし。別にシーマスもガーガー怒鳴ってるだけで、手まであげる気は無いみたいだしさ」
「でも……エミリーが怖くなって、パーティー抜けちゃったらどうする?」
 プリシラの言っていることは正しいと思いつつも、ルークは口を挟んだ。プリシラは苦笑いを浮かべて、軽く肩をすくめた。
「それは、残念だけど仕方ないんじゃない? エミリーが決めることだよ。シーマスに怒鳴られるのが嫌でパーティー抜けちゃうくらいなら、今後も冒険者生活なんか続けてられないんじゃないの」
 随分とエミリーを可愛がっているように見えたプリシラだが、意外にドライだ。ルークはエミリーが少々哀れになり、続いて自分がとても甘い人間のように感じられた。表情からルークの心中を読んだのか、プリシラは僅かに微笑んで続けた。
「あたしだって、あの子は好きだし、抜けて欲しいなんて思ってないよ。でも彼女の親みたいに、いつまでも手取り足取りできるわけじゃないしね。あんな失業中のゴロツキみたいな男に怒られたぐらいじゃ、びくともしない女になって欲しいな。むしろひっぱたき返して鼻血吹かせるくらいタフになるといいけど」
 そこまでタフにならなくてもいいだろうとルークは思った。プリシラが二人になるようなものだ。鼻血を出させるほどシーマスを張り倒すエミリーなど見たくないような気がした。無論、賢明な彼は、その場で口には出さなかった。
 しかし、プリシラの言っていたことは正しかったようだ。彼女もルークも、エミリーがシーマスに叱られている時はそっと場を外すようにした。
 その度にルークの心は痛んだが、エミリーが泣き出すことは徐々に少なくなった気がする。

 今日とて、足を痛めたというのに、ルークを頼ることなく、実に冷静にできることをしようとしていた。娘の成長を見守る父親というのは、こんな気分なのだろうかとぼんやり考えた。嬉しい反面、自分が彼女の為にできることが少なくなったことに、少し淋しさも覚える。
 しばらくエミリーの後姿を見守った後、ルークは再び壁の方に視線を向けた。
 そこは手枷や足枷のついた怪しげな寝台がいくつも並んでいるあたりだった。少し先にある扉が開いている。内心息を呑んだ。
(さっき開いていたか……?)
 覚えていない。最初に広間をざっと見て回った時は、この怪しい器具に目がいき、いくつか扉が並んでいたが、それが全て閉じていたかどうかまでは記憶に無かった。
 恐る恐る足を運び、開いた扉をそっと覗き込んだ。
 そこには簡素な寝台がいくつも並んでいた。ルークが目を見張ったのは、その寝台に壁画にあるような十代半ばくらいの少年少女たちが、何人も横たわっていたからだ。
 そっと入り口に近寄る。先ほどのように勝手に扉が閉じてしまっては困るので、部屋の中には入らないようにした。
 エミリーの話によれば、この地下都市が滅びたのは約千年前。恐ろしく昔の出来事だ。壁画に描かれた貴族も奴隷も千年前の人物たちのはずだ。
 だが、目の前で寝台に横たわる少年たちは、白骨でもミイラでもなく、生身の人間のように見えた。いずれも全裸で、皆驚くほど美しく、ただ目を閉じて横たわっているだけなのに、どこか艶かしかった。
 生きているはずはない。しかし、死体にしてはどこも損なわれていないのが妙だ。それとも魔法で保存されているのだろうか。何の為に?
 ぼんやり考えながら、ルークは一番近くにいる少年を眺めた。まだ十五歳になるかならないかという年頃だろう。痩せていて、体格は子供と言ってもいい。しかし白銀色の巻き毛といい、陶器のような肌といい、実に見目麗しい少年だった。ルークは少年趣味は無かったが、それでも心臓の鼓動が早くなった気がする。
 目を離せずに見つめていると、突然少年の両目が開かれた。その瞳は類稀な菫色だった。

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