FC2ブログ

ココナッツ図書館 夜間書庫

スポンサー広告

スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



登録させていただいているサイト様
「山間の城の物語」に投票
 ↑現在連載中の「山間の城の物語」が気に入ったら、クリックして投票してください。
「乙女の裏路地」へ 「にほんブログ村 小説ブログ」へ
fc2ブログランキングへ投票 「十八禁恋愛私花集」へ
*Edit TB(-) | CO(-) 

王都の冒険者たち」
第二話 地下都市

第二話: 地下都市 8

2010.02.01  *Edit 

 咄嗟に突き上げた手が、上の階段の縁に触れる。指先でそれをつかんだが、とても彼の体重を支えるには至らない。数秒も保たない。
 温かい手ががっしりと手首を掴んだ。そのままゆっくり上に引き上げられる。這い上がるように上の段に上体を持ち上げると、緊張したプリシラの顔が見えた。シーマスはやっと息を吐く。正しく間一髪だった。
 階段を下っていると、何と下の段が消えていた。知らずにそのまま足を下ろしたシーマスは、危うく落下するところだった。瞬時に上の階段を掴まなければ、そして後ろに続いているプリシラが彼の手を捕まえてくれなければ、今頃どうなっていたか分からない。
「助かった」
 シーマスにしては珍しく素直に例を言うと、プリシラはまだ強張った顔で頷いた。
「ううん。あたしが先を歩いてたら、そのまま落ちてただろうね……。何これ」
 シーマスもやっと墜落しかけた足元を見る余裕ができた。しかし見た目は、そのまま下まで階段が続いているように見える。
 屈んで体勢を安定させ、落ちかけた段に手を伸ばすと、そこにあるはずの床を突き抜けた。
「幻術だ」
 魔術にさほど詳しくないシーマスでも、目くらましの術の存在くらいは知っている。
 彼はそのままの姿勢で、腰に下げた細縄を外すと、一方の端を握り、もう一方を階段の下方に向かって投げてみた。縄は続いているはずの階段を突き抜け、頼りなく落下した。
 どうやらこの下の一段だけが抜けているわけではなく、階段がここで途切れているようだ。幻術でその先まで続いてるように見せかけているだけだ。
「行き止まりだ」
「なんでこんな目くらましかけてんのかね」
 縄を回収しながら呟くシーマスに、プリシラは硬い声で応じた。閉ざされたドアといい、この幻の階段といい、階上の古代都市と違って、ここには悪意を感じる。
 もしかして落ちた先に何かがあるのかもしれないが、とても試してみる気にはなれない。幻術とはいえ、解かない限り、その下を肉眼で見ることはできない。
 しかし、これではやはり四人は閉じ込められたことになる。ルークたちが助けを呼びに行っているかもしれないが、往復で早くても二日はかかる。絶望にはまだ遠いが、楽しい状況ではない。
「あ~、最低」
 床に座り込んで、ついシーマスはぼやいた。
「愚痴っててもしょうがないでしょ。あたしがそのロープ持ってるから、あんたそれにつかまって下に降りてみたら?」
「え!?」
 プリシラの提案にシーマスは目を剥いた。
「だって、下見えないよ? 何があるかわかんないじゃん」
「だから行くんじゃない」
「いや、無理。酸のプールとかだったらどうすんだよ。変な怪物がいるかもしれないし、途中で胴体がぶったぎられるような仕掛けでもあったら……」
「想像たくましくしすぎ。だらしないなあ。……あたしが行ってもいいけど、あんたじゃ縄を支えてられないでしょ」
「当たり前だ。……いや、いくら何でも無謀だよ。別の手を考えようって」
「じゃー考えてよ」
 腕組みしながら答えるプリシラも、見た目より焦っているようだ。早く何か方策を考えないと、短気を起こしたプリシラに突き落とされそうである。
 幻術を解けるのはセルヴィスしかいないだろうが、彼は今扉の封印を解いている最中だ。
 とりあえず、一番最後の段に、目立つようにチョークで印をつけながら、シーマスは考えた。
 結論は一瞬で出た。入ってきた扉をどうにか開けるか、この幻影の階段の下に下りてみるしかない。
 ここまでの通路は一本道だ。他に何も無かった。注意深く歩いてきたつもりだから、何かあれば目についたはずだ。
 正直お手上げだ。セルヴィスが扉を解呪するのを待ち、それが不可能であれば……意を決してこの下に下りるしかない。
(どーせオレが下りるんだろうな……)
 下を見通すことができなくても、せめて何か手がかりがないだろうか。シーマスは階段に腹ばいになって、奈落の下の音に耳を澄ませた。例えば怪物の息遣い、溜められた水の音、地下水の流れ。何か聞こえないか。または何かの匂いがしないか。目を閉じて視覚以外の感覚を研ぎ澄ませた。

 ごく僅かな風の流れを感じた。あるいは匂いか。土。それも地下の湿った土ではなく、陽光を浴びたことのある、シーマスたちがよく知る土の匂い。
 目を開ける。
 視界の横の壁、しかも今の彼のように、床に腹ばいにならないと見当たらないような位置に、刻み文字があった。古代語だろうか。シーマスには読めない。
 肘をついて上半身を起こし、頭上を振り仰ぐ。
「何?」
 表情を動かしたシーマスを見て、プリシラが腕組みを解いて尋ねる。シーマスは立ち上がった。
「戻ろう。セルヴィスを呼んでくる」



 もう何本の糸を解いただろう。それでもまだ扉を縛り付けている霊的な光の糸は複雑に結び合わされている。
 短気な人間であれば投げ出してしまうような作業を、エミリーはいささかうんざりしながらも、根気よく続けた。
 閉じ込められた仲間たちを救えるのは、魔術師である自分か、セルヴィスだけだ。
 セルヴィスもこちら側にいれば、同調して一緒に解呪ができるが、扉の反対側で恐らく同じことをしている彼は、エミリーの視界には見当たらない。どうにか自分だけで成し遂げなければ。
(一人じゃない。ルークがいる)
 彼がエミリーと一緒に残ってくれたというだけで、腹も据わって不安が掻き消えるような気がした。
 あれほど先に助けを呼びに行って欲しいと頼んだのに、自分の為に側にいてくれた。それは多分、ルークの優しさだ。友人としての好意であり、年下の少女に対する気遣いだ。ともすれば淡い期待を抱きそうになるのを必死で戒めた。
 目を閉じた瞼の裏に広がる視界が薄れる気がした。先ほどからルークのことが気になって仕方ない。集中が解けかけている。
 エミリーはもう一度雑念を追い出し、目の前の作業に意識を向けようとした。
 まだ耳の奥にルークの声が聞こえる気がする。
 ……いや。

 エミリーは集中を解いた。
 深い瞑想から覚めたばかりで、まだぼんやりしている頭に、ルークの緊迫した大声が突き刺さった。
「エミリー! 手を貸してくれ!」
 慌てて振り返ると、広間の向こうにいるルークの後姿が目に入った。集中している最中にルークのことが頭から離れなかったのは、耳が彼の声を捕らえていたからだったのだ。
 ルークに小柄な人影がいくつか群がっている。その光景にエミリーは驚倒した。彼を取り巻くのは、この広間の壁画に描かれていたような、美しい全裸の少年少女たちだった。遠目で見ても、彼らが害意を持ってルークに襲い掛かっているのは分かる。
 少年の一人がルークの右手に取り付いた。彼は腕を振って少年を振り払い、既に抜いている剣を倒れた少年に叩きつける。その間にも、別の少女が反対の手につかみかかろうとしていた。
 駈け寄ろうしたエミリーは、立ち上がりかけて右足の痛みに再び膝をつく。まだとても動けない。
 その場で集中した。宙に溶けるようなか細い声で呪文を唱える。突き出した手から、力の塊が光となって放たれ、ルークに襲い掛かっていた少女の顔を直撃した。彼女は仰け反って背中から床に倒れこむ。ルークはその隙に後ずさってその場から離れた。
 しかし、倒れた少女は顔を焼け焦がしたまま、平然と起き上がった。再びゆっくりと立ち上がり、ルークの方へ進んでくる。
 どう見ても普通の人間には見えないが、それでも少女の姿をした物を斬るのは気が進まないらしい。ルークは向かってくる少女を足で押し退けた。
 だが、その向こうにある開いた扉から、さらに何人かの少年たちが姿を現した。エミリーはその異様な光景に震え、叫び声も出なかった。

 もう一度術を使い、ルークの一番近くにいた少年の頭に光を命中させる。すかさずルークはその少年の首筋に剣を叩きつけた。
 普通なら勢いよく吹き上がるはずの出血が無い。やはり人間ではないのだ。
 ルークは再び少年の首筋に斬りつけた。頭部が首から叩き落される。しかし首の無いまま、少年の美しい体はルークに手を伸ばした。
 悲鳴を飲み込みながら、エミリーは考えた。
 姿かたちは異なるが、同じような怪物に遭ったことがある。生ける屍だ。魔術や呪い、自身の恨みにより、死して魂が肉体から離れた後も、本能に従って動き続ける、生者が忌むべき怪物。
 彼らはもはや痛みも感じない。血も流れていない。腕を落とそうが、胴を二つにしようが、目的に向かって動き続ける。止めるには五体をバラバラにするか、呪いや魔術を解いて、神の元へ強引に送ってやるしかない。
 大抵の屍たちは、神の祝福を失って腐敗しているか、白骨化している。こんな若い肉体を備えたままの屍には遭ったことがない。
 扉から次々と現れた少年たちは、もはや十数人を越える。彼らの動きは鈍いが、数が多すぎる。ルークが危険だ。
 エミリーは今度は違う呪文を唱え始めた。
「エミリー、一度上に逃げるぞ! 先に行け!」
 ルークの声が聞こえたが、構わず術を続けた。
 この地下都市に無数の気配を感じる、土の精霊に呼びかける。元々土の精霊とエミリーは相性がいい。操りやすかった。


 
 渾身の力を込めて、目の前の少年の腿に剣を叩きつけた。成長しきっていない細い脚は、ルークの強烈な一撃を受けて、骨ごと断たれて吹っ飛んだ。バランスを崩して、少年は床に無様に倒れこんだ。
 とりあえず脚を傷つければ、連中もその場から容易には動けない。そして少しずつ後退し、一旦階上に退避するしかないだろう。とてもルークとエミリーだけで全滅させられる数ではない。おまけに、奥の扉からはまだ少年たちが溢れてくる。
(なんなんだ、こいつら……)
 人間でないことはよく分かる。だが、年端もいかない少女の姿をしたものに剣を向けるのは抵抗があった。見た目は人間にしか見えないのだ。
 尚一層不気味なことには、彼らは明らかにルークに害意を持って噛み付き、引っ掻こうとしているにもかかわらず、その表情は穏やかに微笑んでいた。

 奥の部屋に並んだ少年の一人が目を開けて、身を起こした時には、生きている人間かと思った。
 立ち上がった菫色の瞳の美少年は、突然ルークの首筋に顔を寄せた。
 この少年たちは、性の奴隷だったようだし、ルークは首筋に口づけでもされるのかと思った。しかし男色趣味の一切無い彼は、慌てて少年を振り払う。力を込めすぎたのか、少年は大きく後ろに仰け反って尻餅をついた。
 乱暴するつもりは無かった。「大丈夫か?」と詫びながら手を差し伸べると、彼は突然ルークの手に噛み付いた。声をあげ、咄嗟に少年の顔を蹴りつけた。若かろうと美しかろうと、ルークは少年にはあまり容赦しない。
 後頭部から仰向けに床に倒れた少年は、すぐに何事も無かったかのように体を起こした。美しく整った鼻筋が歪んでいる。強烈な蹴りを正面から受け、鼻が折れてしまったのかもしれないが、全く鼻血は出ていなかった。
 普通の人間ではない。
 ルークが後ずさると、部屋に横たわっていた他の少年少女たちも、ゆっくりと身を起こした。
 彼は戦慄しながら剣を抜いた。

(くそ、数が多すぎる……)
 一人一人は大した力も無いし、動きも鈍いが、倒しても起き上がってくる上に、数が多い。
 エミリーの様子が最も心配だが、とても後方にいる彼女の様子を伺う為に振り返る隙が無い。後ろから魔法で援護してくれているところを見ると、事態に気づいてはいるのだろうが、痛めた足で、あの長い階段を登れるだろうか。
 左手で少女を押し退け、右足で正面にいる少年を思い切り蹴りつける。さすがに息があがってきた。
 さらに左手に掴みかかろうとする少女を、罪悪感を感じながらも殴りつけようとした時、不意に左足をすくわれた。視界が傾ぐ。
 やばい、と思った時にはルークは床に倒れこんでいた。彼によって足を切り落とされた少年の一人が、這いずったままルークの足を掴んだらしい。
 その少年の頭を蹴りつけて起き上がろうとしたが、上から少女がのしかかってきた。さすがに手加減している余裕は無い。彼女の肩口に斬りつけ、左手でその体をどかす。だがその間に、別の少年が倒れたままのルークの脚を押さえ込んだ。
 あっという間に少年たちに取り囲まれる。剣や腕で振り払っても、彼らはまとわりついてきた。左腕に服の上から激痛が走った。誰か一人に噛み付かれたらしい。
「くそっ……どけ!」
 さすがにルークも、死の恐怖と背中合わせになって恐慌した。もはやでたらめに手足を振り回す。剣だけは掌から離さなかったが、その腕や脚の先にいくつかの爪や歯が食い込んだ。

 突然、音を立ててルークの先の石造りの床に亀裂が入った。その上に群がっていた少年少女たちは、一瞬の後、亀裂へと吸い込まれた。
 さらにそこから土ぼこりをあげて、巨大な手が二本出現する。彼は息を呑んだ。その手は大地の色をしていて、ルークの身長より遥かに大きかった。
 巨大な手はルークの前にいた少年たち数人を無造作に掴むと、大地の底へと引きずり込んだ。悲鳴もあげず、彼らは亀裂の奥へと飲み込まれていく。
 自分の体を押さえていた少年たちが消えたことで、ルークはやっと我に返った。素早く立ち上がり、まだ周囲に残っている美しくも醜い怪物の脚を切り落とすと、背を向けて、全速力でエミリーの元へ駈け寄った。
 今のはエミリーの魔法に違いない。ありがたい。
 少女は例の扉の前で、どうにか壁に手をついて立ち上がろうとしているところだった。



「大丈夫か」
 大きな術を使った後のだるい体を必死で引き上げようとしていると、力強い腕が肩を掴んで支えてくれた。
 顔をあげて、そこにルークの姿を見ると、エミリーの瞳に涙がにじんだ。彼が無事でよかった。
 精悍な顔にはいくつか引っ掻き傷ができていたが、大きな怪我はしていないようだ。
 ルークは硬い表情で元来た方を振り向いた。エミリーの術によって、かなりの数の少年たちが姿を消したとはいえ、開いた扉の奥からは、まだ何人もの哀れな奴隷たちが姿を見せ、亀裂を避けてこちらにゆっくりと歩み寄ってきていた。
「エミリー、一度上に戻ろう。俺が下で防ぐから、ゆっくりでいいから階段を上がって」
「でも、一人じゃ……」
 そうは言ったものの、消耗したエミリーには、せめてルークの手を借りずに一人で逃げること以外できそうになかった。ルークは彼女を安心させるように微笑した。
「階段なら狭いから、大丈夫。一人ずつ相手にすれば、心配ない」
 彼はそう言うと、「先行って」と穏やかに彼女を後方の出口へと押しやった。つい振り向いたエミリーには、もう身構えるルークの背中しか見えなかった。
 閉じ込められたままのプリシラたちももちろん心配だが、今はとにかくルークと自分が生き残ることだ。
 こらえきれずに溢れた涙を拭いもせず、彼女は痛む足を引きずって歩き出した。
 どうにか階段にたどり着く。そこで振り返ると、ルークも彼女に合わせて後退してきていた。しかし、例の怪物たちはすぐそこまで迫っている。足の怪我さえ無ければ難なく逃げられるというのに、今のエミリーが動ける速さは、この緩慢な怪物より遅いのだ。
 左足を上の段にかけるその一瞬、痛めた右足を激痛が襲う。エミリーは両手を突っ張るように壁に押し付け、できるだけ体重を分散させようとした。
 右足を引き上げ、もう一段登る。痛みに声をあげそうになったが、どうにか耐えた。ルークに余計な心配をかけたくない。
 エミリーは一段ずつ慎重に階段を上った。上を見上げると、その長さに眩暈がしそうだった。少し下では、鋼と肉がぶつかる音と、ルークの荒い息遣いが聞こえる。もう怪物に追いつかれてしまったらしい。
(早く……とにかく上へ)
 息が苦しい。魔術で体力を消耗したところへ、痛む足を引き摺って階段を上るのは骨が折れる。でも諦めたら終わりだ。自分はともかく、ルークを巻き添えにしてしまう。
(ルークだけなら逃げられるのに……)
 多分、二人ともそれは分かっている。けれどエミリーは自分を置いて逃げてとは、ルークに言えなかった。本当に純粋に彼が大切なら、容易に口に出せるはずなのに、どうしてもできなかった。やっぱり自分の身が一番可愛いのだろうか。
 そんなエミリーと共に逃げる為に、ルークは留まって身を挺してくれている。申し訳なさと嬉しさに涙が止まらない。どんな状況であれ、恋している男に庇われて嬉しく思わない女がいるだろうか。
 エミリーは必死で体を引き上げた。右足の激痛は耐えがたいほどになっていたが、壁についた両手でどうにか体を支える。乾いた石壁にこすれ、手袋をしていない、彼女の柔らかい指先には擦り傷ができ始めていた。

「あっ」
 左足が崩れた。つられて落ちた右膝を階段に打ち付ける。つい声をあげてしまった。
 まだ半分もきていないが、もう足が動かない。限界だ。痛めた右足を庇い続けた左足が悲鳴をあげていた。体力の無さが恨めしい。
「エミリー!?」
 彼女の小さな悲鳴を聞きつけたのか、下からルークの声が聞こえる。
「大丈夫……」
 答えながら下を振り向いたエミリーの視界に、少年の姿の怪物と苦闘するルークの姿が映る。ぞっとした。かなりの数の怪物を屠ったと思ったのに、既にぞろぞろと少年たちは階段の下へと続いている。その数は先ほどと同じく、十数人を越えようとしていた。
 確かに狭い階段なら、取り囲まれることはない。だが、ルークの体力ももう限界に近いはずだ。
 エミリーは両手と両膝を使って、這って階段を上り始めた。
 嫌でも上に続く階段が目に入る。まだ先は長い。少しでも早く進まなければ、削り取られるのは時間などではなく、ルークの命だ。そしてそれはエミリーの命にも繋がっている。
 段差のある階段は這って上るのもつらいが、下で戦っているルークに比べればどうということはないはずだ。
 エミリーは上を見ないように、ただ目の前の階段だけを見つめて、できる限りの速さで体を持ち上げ続けた。もう深く呼吸をすることができない。喉がぜいぜいと嫌な音を立てる。
 その時、上から足音が聞こえた気がした。
 顔を上げたエミリーは、遥か上方からも例の怪物が何体か降りてくるのを見た。戦慄する。
 だめだ。
 自分は魔法を使うどころか、立ち上がることもできない。挟み撃ちになってもルークの背中を守ることもできない。
 今まで必死に奮い立たせていた気力が萎えていく。我慢していた嗚咽が漏れた。体力の限界を迎え、ほとんど気力だけで這っていた彼女は、力を失って、顎を床にあずけた。
(それでも動かなきゃ。私が死んだら、次はルークだ)
 必死で己を叱咤するが、もう顔も上げられない。流れ出した涙が、押し付けられた頬を伝い、不自然に温かい床に広がった。
「おい」
 ルークのものではない、だが聞き慣れた声に、彼女は信じられない思いで気力を振り絞って顔をあげた。
 階上から下りてきたのは怪物などではなかった。シーマスたちだ。

BackNext


ネット小説ランキング>【R18部門】>王都の冒険者たち

 ↑ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。



登録させていただいているサイト様
「山間の城の物語」に投票
 ↑現在連載中の「山間の城の物語」が気に入ったら、クリックして投票してください。
「乙女の裏路地」へ 「にほんブログ村 小説ブログ」へ
fc2ブログランキングへ投票 「十八禁恋愛私花集」へ
*Edit TB(-) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。