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王都の冒険者たち」
第二話 地下都市

第二話: 地下都市 9

2010.02.04  *Edit 

「よくこんなもの見つけられましたね」
 セルヴィスは感心したような声で言いながら、幻影の階段の床すれすれの高さの壁に刻まれた古代文字に目をやった。
 扉を開こうと集中している彼の目を覚まさせた時は、「もう少しで解けるところだったのに」と極めて不機嫌そうだったが、この文字を目にした彼は表情を一変させた。
「何なの、これ」
 ミクエルの問いにも答えず、セルヴィスは文字を読み続けている。代わりにシーマスは、彼に向かって上を指差してみせた。
 かなり高い位置にある天井の、そのさらに上方まで細い穴が続いている。目をすがめなければならないほど高く続くその穴の向こうに、光が見えた。この地下空間に満ちている魔術の光ではない。懐かしさすら感じるそれは、恐らく太陽の光だ。
「ここから直接地上に通じているんだ。とてもロープなんかで登れる高さじゃないけど、何か上に出られるような魔法がかかっているかもしれない」
 そう考えたシーマスは、ミクエルが止めるのも構わずに、入り口の扉を開ける為に集中しているセルヴィスを無理矢理叩き起こした。壁に書かれた古代語がその手がかりかもしれないと思ったからだ。
「そのようですね。どうもここは非常口のようですよ」
 やっと古代語を読み終え、体を起こしたセルヴィスが振り返った。
「非常口って?」
「あの広間から逃げ出す為だと思います。ここに人が入り込むと、自動的に扉が閉じる。そしてここから地上に逃げることができるようです。万一追っ手が扉を開けて通路に入り込んできても、この幻術の階段に気づかなければ、下に落ちて潰れるでしょうね。多分、あの広間はやはり……」
 尋ねるミクエルに、セルヴィスは自分の推論を説明していた。その中身に興味が無いこともなかったが、シーマスは彼の長広舌を遮った。
「後にしようぜ。とりあえず外に早く出たい」
 話の腰を折られたセルヴィスだが、気を悪くした風もなく、シーマスに向かって微笑んだ。
「そうですね。ここが非常口だとしたら、残った二人も心配ですし。というわけで、早く外に出たいあなたが一番先に行ってください」
「えー、オレ!?」
 しくじったと思ったが、遅かった。
「大丈夫ですよ。合言葉を唱えれば、魔法の力場が自動的に上に運んでくれるみたいです。多分」
「多分ってつけんな。あんたが一番先に行けよ」
 セルヴィスは首を振って答えた。
「それは無理です。私以外に古代語の合言葉を唱えられる人間がいないでしょう。私は皆さんを送り出して、一番最後に行きますから」
「え~」
 自分の思いつきとはいえ、本当に上方の穴が外に通じているのか、それが地上のどこに通じているのかは分からない。一抹どころではない不安がある。
 しかしシーマスが承知したとも言っていないのに、セルヴィスは何やら呟き、右手を彼の鳩尾あたりに押し当てた。
 視界が変わる。
 浮遊感を感じたと思った瞬間には、シーマスの体は、通路の天井近くまで浮き上がっていた。そのまま驚くほどの速さで、彼らが見上げた細い穴を上昇し続ける。
 かつて感じたことのない感覚に、肝をつぶす間もなく、再び目の前の光景が一変する。目映い陽光がシーマスの目に突き刺さった。白く眩しい午後の空が見える。
 完全に地上に体を出した彼は、その場から足を踏み出した。草を踏む感触が伝わってくる。草いきれと土の匂いに包まれた。辺りを見回すと、すぐ側に彼らが朝方下りていった、遺跡への入り口がある。
 地面に改めて視線を落とせば、シーマスが今上ってきた細い穴があるはずの場所が見当たらない。草地が広がるだけだった。
 まさか、出口が閉じてしまったのかと一瞬焦ったが、すぐに草むらの間からプリシラが顔を出した。
「スゴイ。ほんとに外出ちゃったよ」
 地面に降り立った彼女は、シーマスと同じく眩しそうに太陽を見上げた。
 清潔で快適。天気の心配も無い地下都市での生活は、さぞ満ち足りていただろう。だがどんなに便利な魔術よりも、肌を焼く太陽や、生命に満ちた春の草花の匂いのような意味の無いものこそ、今はありがたかった。
「あんた、よく地下から外に通じてるって分かったね」
 プリシラが素直に称賛するようなことを言うことは珍しい。軽く肩を叩かれた。
「土の匂いがしたんだよ」
「あんな深いとこで、地上の土の匂いが分かったの? 犬みたい」
「……」
 一言多い。
 ミクエルとセルヴィスも、間を置かず続いた。彼らが出てきた、地下に通じる長く細い穴は、やはり幻術が施され、外からは見分けがつかないようだ。
「急いで戻りましょう。エミリーたちが心配です」
 何事にもあまりやる気の無いセルヴィスが、珍しく先頭に立って、再び遺跡の入り口へと歩き出した。
「嫌な予感がします」 

 来た時と同じ、長い階段と門、地下都市の大通りを進み、例の店までやっとたどり着いた。
 相変わらずセルヴィスの表情は険しいままだったが、ここに来るまでに変わったことは無かった。
 店に入る前に何となくシーマスは金属製の看板を見上げた。勿論、古代語の読めない彼には意味は分からない。
「この地下は、多分貴族の秘密組織か何かだったと思います」立ち止まったシーマスを追い抜き、店の奥に入りながらセルヴィスは続けた。「奴隷と言っても、あんな装置を使って、若い奴隷を玩具のように弄ぶのは、やはり古代でもそう表立ってはできなかったんでしょうね」
 続いて店に入ったプリシラが頷く。
「そーよねー。だって、あれは完全に変態の域に入ってるもん」
「……意外と守備範囲が狭いんだな」
 シーマスが茶化すと、彼女は顔をしかめてみせた。
「やーだ、何あんた。あんなの嬉しがって使う気になるの? 手枷だの足枷だのさー。タチの悪い変態女と遊びすぎてんじゃないの?」
「いやでもあのくらいは、男だったら一度は使ってみたい……」
「後にしませんか? ルークたちと合流してからにしてください」
 自分の緊迫感が伝わらず、呑気に話し続けるシーマスたちに、セルヴィスは苛立っているらしい。常にマイペースで、むしろ他人を苛立たせることの多い彼が不機嫌な声を出すのは稀だ。
 シーマスは肩をすくめ、開かれたままの落とし戸から、真っ先に階段に降り立った。そのまま早足で下る。セルヴィスが感じているような危機感を覚えたわけでもないが、せっかちな彼は、階段を上り下りする時は自然と早足になった。
 セルヴィスは焦っているようだが、エミリー一人ならともかく、ルークもついている。何事も無いだろうとシーマスは考えていた。
 魔術師の予感というものは、全く根拠の無いものではないと分かったのは、階段の下方で倒れ伏すエミリーの姿を見つけた時だった。 

 力を失ったように見える少女のさらに下の段では、小柄な人間に群がられ、剣を手に応戦するルークの後姿が見えた。
「おい」
 エミリーが死んでいるのかと思うと、さすがに背筋が冷えた。声をかけながら、全速力で階段を駆け下りる。
 幸いなことに彼女は顔を上げた。泣き濡れたその顔が安堵に歪む。
(生きてんじゃねーか。びびらせんな)
 見たところ大怪我を負っているわけではないようだ。足を痛めていたようだから、階段を登っている途中で動けなくなったのだろう。
 それよりは下にいるルークの方がよほど心配だ。
「ルーク! 上がって来い!」
 声をかけると、彼は目の前の少年に斬りつけながら、振り向かずに返事を返した。
「エミリーを先に連れてってくれ! 怪我で動けないんだ!」
 彼に襲い掛かっているのは、美貌の少年だ。
(でもなんですっぱだかなんだ……?)
 しかもニヤニヤしやがって、いかれてるんじゃないかと思ったが、一瞬後にそれが広間の壁に描かれていた、古代の奴隷と同じ姿だと気づいた。
 肩口にルークの長剣の一撃を受けた少年が、後に続く別の少年たち何人かを巻き添えにして、見苦しく階段を数段転げ落ちた。だが彼が平然と起き上がるのを目にして、シーマスも慄然とした。
 その少年を押し退けるように、金髪の色白の少女が微笑みを浮かべたまま、ルークにつかみかかった。穏やかな笑みと、それに似合わぬ凶暴な体の動きのあまりの落差に、薄気味悪さを感じた。一方で、そんな場合ではないと知りながら、動くたびに揺れる少女の形のよい乳房や、頭髪と同じ金色の恥毛が茂る股間から目が離せないでいたりもした。
 しかしルークは躊躇せずに、剣を握ったままの右手で、少女の顔を殴りつける。彼女もまた先の少年のように、白い尻を見せて仰向けに階段を転がり落ちた。
 ルークが肩で息をしていることに気づき、やっと我に返った。
「エミリー、立て」
 この事態では、怪我をしてようが関係無い。立って自分の足で歩いてもらわなければ困る。彼女の腕を掴んで強引に持ち上げようとしたが、あまり腕力の強くないシーマスでは、力の抜け切った少女の体を立ち上がらせることはできなかった。
「もう立てない……」
 嗚咽混じりのエミリーの情けない声に、喉まで怒声が出かかった。まだ戦っているルークに無駄な気遣いをさせまいと、どうにか飲み込んだが、舌打ちをこらえることはできなかった。
 それを耳にしたらしいエミリーが僅かに顔を上げる。シーマスの形相を見て、涙を流している彼女の表情が強張った。
「エミリー、大丈夫?」
 後からプリシラが追いついてこなければ、今度こそエミリーを怒鳴りつけていただろう。彼女はプリシラの姿を目にすると、さらに顔を歪めて嗚咽をあげた。
 プリシラは強引にエミリーの腕を引っ張り上げようとするシーマスに、軽く非難じみた視線を送ると、彼の手を払って、エミリーの体を抱きかかえようとした。
 しかしエミリーは首を振った。
「先にルークを助けに行って。もう限界だと思うの。怪我もしてるし、このままじゃ死んじゃう」
 喋るうちに感情が高ぶったのか、言葉の後半は嗚咽が混じってはっきりとは聞き取れなかった。プリシラは頷くとシーマスを押し退けるように階段を下って、ルークの元へ駆け寄った。
「ルーク、代わるよ。先に上にあがんな」
 狭い階段でどうにか剣を抜いた彼女は、ルークの体の後ろから、彼の目の前にいた少女の口元を剣で貫いた。むごいような気もしたが、階段の下にひしめいている彼らが普通の人間ではなく、敵意を持って襲ってきているのは間違いない。それだけで、プリシラには手加減の理由は一切無いようだった。
「だめだ、プリシラ。こいつら、倒しても起き上がってくる。数も多いし、逃げた方がいい」
 プリシラと体を入れ替えながら、ルークは大きく息を弾ませて言った。
「じゃあ、あたしが食い止めるから、早く外に出て!」
 苛々と叫び、プリシラは、目の前の少女を容赦無く蹴り落とした。
「エミリー、行くぞ。立て」
 プリシラの体力とて無限ではない。早く逃げなければ彼女も危ない。シーマスはもう一度エミリーを立ち上がらせようとした。
 エミリーは今度は頷いたものの、やはり体を動かす気配が無い。引き摺っていくしかないのかとシーマスが考えた時、ミクエルが下りてきた。
「なんだ、あれ」
 彼もプリシラに襲い掛かる異様な集団に、不気味さを覚えたらしい。
「あれは、奴らにまかせろ。それより、エミリーだ。動けねえらしいんだ」
 ミクエルは素早く屈んで、エミリーの顔色を伺った後、シーマスに軽く頷いてみせた。
「仕方ない。二人で運んでいこう。シーマスは足を持って」
 言いながら、ミクエルは膝をついた彼女の体を反転させ、仰向けにさせた。体勢を変える際に、足でも痛むのか、エミリーが小さく呻いて顔を歪めたが、事態は切迫しつつある。シーマスもミクエルも、彼女の呻きに構わず、仰向けにした彼女の肩をミクエルが、膝から下をシーマスが持ち上げ、階段を登り始めた。
 エミリーがいくら小柄で細身とはいえ、二人で彼女の体を抱えたまま、長い階段を登るにはてこずった。
 先に逃げろとプリシラに言われたルークは、結局彼女の元に残ったようだ。途中ですれ違ったセルヴィスもそれに加わったようだったが、シーマスの位置からは、もう背後の様子は分からなかった。

 どうにかミクエルと二人でエミリーを落とし戸の上まで運び上げた時には、すっかり息があがっていた。
 それでもシーマスは、もう一度階段に下り、まだ下で戦っている三人に向かって声を張り上げた。
「上がって来い! 無事逃げ出したぞ」
 一番上にいたセルヴィスが、真っ先に息を弾ませながら、階段を上ってきた。
 目の前の少年の姿をした魔物を押しやったプリシラとルークも、身を翻して階段を駆け上ってくる。それを追う奴隷たちの動きは鈍い。全員無事に落とし戸をくぐって、階段から脱出すると、落とし戸を閉じてセルヴィスが何か呟いた。
「これで、合言葉を唱えない限り、扉は開きません」
 セルヴィスの言葉を聞き、シーマスだけでなく、他の人間も胸を撫で下ろしたようだった。
 全員、そのまま床に座り込み、乱れた息を整えた。
 ミクエルは、足をひどく捻り、歩くこともままならないエミリーに向かって、聖別された特殊な薬を使って、治癒術を試みている。
 手足に相当の数の噛み傷や引っ掻き傷を残しているルークの怪我もひどいが、歩けないのでは、移動もできない。彼女の治療の方が先だった。
 エミリーにかかりきりのミクエルに代わって、ルークの怪我の手当てを手伝っていたシーマスの耳は、床下──落とし戸の下から聞こえる微かな音を拾い上げた。
 無数の手が落とし戸を開けようと、押し上げている音だ。とんとんという音が徐々に大きくなってきた。
「……下?」
 もう他の連中にも聞こえるらしい。眉をひそめてプリシラが呟いた。
 斬りつけても死ぬことのない、姿の美しい少年たちが、自分たちを狙って外に出ようと、落とし戸を叩いている。決して開かないと知っていても、なんとも不気味で落ち着かなかった。
「何なんだ、あれは」
 ルークがセルヴィスに向かって訊いたが、彼も首を振った。
「多分、昔の奴隷だったんでしょうけど、何故我々を襲うのかまでは分かりません。人間でないことは確かです。魔術によって作られた、擬似生物ですよ」
 意外な答えに、他の仲間たちは目を見開いた。
「じゃあ、昔の貴族が下の部屋で遊んでたのも、擬似生物なのか?」
 信じられない思いでシーマスが尋ねると、セルヴィスは今度は首を傾げる。
「全員が全員そうだったかは分かりません。……あるいは、このガレンで使っていた奴隷全てが擬似生物だった可能性もありますし、今後の研究で明かされるでしょう」
 その哀れな生物たちが、下から床を叩く音は耐え難いほどになってきている。大きな音でないが、這い寄ってくる美貌の少年少女たちの姿を想像すると、背筋が寒くなった。
 地面の下の楽園に閉じこもった、古代人の心の歪みを目の当たりにした気がする。シーマスは早くも地上の太陽が恋しかった。
 

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