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王都の冒険者たち」
第二話 地下都市

第二話: 地下都市 10

2010.02.08  *Edit 

 応接室は開いていたが、どうも叔父は留守のようだった。
 隣の研究室には鍵がかかっていたが、中に叔父がいる様子はない。どこかへ出かけているのだろう。
「お留守なのかな……?」
 エミリーの後から遠慮がちに部屋に入ってきたシャムリーナは、部屋の中をもの珍しそうに見渡した。
 エミリーの師匠である叔父は、しばらく人里から離れた山奥で彼女と共に修行に勤しんでいたが、半年ほど前に王都に戻ることになった。エミリーが独り立ちして、セルヴィスのパーティーに入ることを決めたのも、その時だ。
 以来、叔父は導師の待遇をもらって、大学に研究室を持ち、ここでエミリーを始め、幾人もの弟子を育てながら、自分の研究も進めている。こちらに来てからは、叔父はかなり多忙になった。こうして研究室を訪ねても、留守にしていることも少なくない。
 応接間とは言っても、背の高い本棚が三つ並び、さらに入りきらない本が床にも平積みされているが、持ち物の多い魔術師にしては、片付いている方だ。椅子やテーブルには物は置かれず、綺麗に整頓してあった。
「綺麗な部屋だね。あたしの師匠の部屋なんか、足の踏み場も無い……っていうか、踏み込むと足が床に沈みこむよ」
「叔父様はいくつか持ち物を山小屋に置いてきたから、物が少ないのよ」
 しきりに感心しているシャムリーナに答えながら、エミリーは彼女に椅子をすすめた。シャムリーナは持ってきた資料本をテーブルに積み、そこに腰を下ろす。
 エミリーももう一脚の椅子に座り、宿から持ってきたリュックの中から、遺跡で見つけた本と、例の店跡で見つけたいくつかの宝を取り出した。
 奴隷の舞の為の衣装だと思われる、絹の布を広げ、シャムリーナは溜め息をついた。
「すごーい。これ、本当に上等の絹だね。服かな?」
 エミリーは曖昧に笑いながら、ガレンから持ち帰ってきた品々を並べ続けた。同じく、踊り子たちのものだと思われる、大ぶりの宝石のついたブローチと髪飾り。その下の広間で見つけた宝石細工の物入れ。
 最後に、そこで見つけた冊子を取り出す。
 これらの品々は、まず大学に見せ、買い取ってもらうことになる。学術的価値の無いものは、エミリーの手に戻されるので、それは別のルートで売り払えばいい。
「あ、すごい。本もあったんだ」
 女の子といえど、やはり魔術師の卵だ。シャムリーナが最も興味を示したのは、やはり最後に取り出した本だった。

 地下都市ガレンから戻って、一日過ぎた。
 エミリーの捻挫は、ミクエルの治癒術のおかげで、かなり回復してきていた。普通に歩くだけなら、もう支えもいらない。
 元々今日は、セルヴィスと共に、見つけた品々を叔父に見せ、本の解読を三人で行おうと思ったのだ。
 しかし、朝方、セルヴィスは微熱を出して寝込んでしまった。体があまり丈夫でない彼は、疲労がたまると、そうして寝込むことがたまにある。
 プリシラは傭兵ギルドへ、ミクエルは教会へ、シーマスは盗賊ギルドへと、怪我で休んでいるルークとセルヴィスを除き、他の仲間たちも今日は外出している。
 仕方無くエミリーは一人で大学に来てみたが、そこで暇そうに図書館をうろついているシャムリーナを見つけた。ついでに本の解読を手伝ってくれるよう頼むと、人との待ち合わせまで時間を潰していたらしい彼女は、ふたつ返事で引き受けてくれた。
 本を読み進めるシャムリーナの眉が寄ってくる。
「『奴隷との触れ合い方。少年奴隷の肛門は十分に開発されているので、何を入れても大丈夫だが、おすすめはやはり真珠である』……ねえ、これどこで見つけてきたの?」
「ガレンのね、地下なんだけど……」
 宝石でできた物入れを取り上げ、意味も無く撫で回しながら、エミリーはぽつぽつと地下都市での出来事を話し始めた。



 どうにか地下深くの広間から脱出し、上の店でルークとエミリーの怪我の手当てを終えた後、もう少し探索するか、一度街に帰るか、彼らは話し合った。
 比較的消耗の少ないシーマスは、折角一日かけて遺跡へ来たのだから、休憩を取った後は、奥の別の貴族の館でも探索しようと言った。
 ルークが真っ先に首を振った。
「この通り生傷だらけなんだ。この先もしまた危険な怪物が出てきても、満足に戦えない」
 背後で聞こえるルークの声を聞き、エミリーは視線を床に落とした。
 襲い掛かってきた少年──擬似生物たちは、見た目通り、力も普通の人間並み、いや、屈強な冒険者たちに比べれば、腕力は弱かったと言える。
 しかし幾人かに掴みかかられたルークの腕や足には、爪あとや歯形が残り、出血していた。服の上からとはいえ、本物の人間と違って、一切手加減をしない力で噛みつかれれば、容易に服を破って皮膚に食い込む。いくつかの引っ掻き傷には、持ち主から剥がれてしまった爪が残っていたという。
 動けないほどではないが、体力の消耗も激しかったルークは、すっかり疲労しているようだった。
 それが全て自分のせいだとは、エミリーも思っていない。だが、エミリーの怪我は自分で挫いた足だけで、あれほどの数の怪物に襲われたにもかかわらず、他に傷ひとつないのは、ルークが盾になってくれたおかげだ。そう思うと、申し訳なさに恐縮する。
「エミリーのせいじゃないよ」
 治療の仕上げに、エミリーの足首に湿布の上から包帯を巻きながら、ミクエルは彼女を気遣うように優しい声で言った。
 先ほど、同じようにルークが足首の手当てをしてくれたことを思い出した。彼が巻いてくれた布は、階段を上ってくる途中で外れてしまったようだった。
 何から何まで、彼の世話になりっぱなしだ。
 そのルークは、まだシーマスに向かって話し続けていた。
「この先の貴族の館にだって、あの怪物がいるかもしれないだろう。エミリーの足だって、まだ完全に治ったわけじゃないし……」
 ルークの言葉に、シーマスがこちらを一瞥するのが分かった。エミリーは彼の表情を読み取る前に目をそらして、慌てて首を振る。
「私なら平気。ミクエルが術をかけてくれたおかげで、もう歩けるよ」
「でも、もう少し安静にしてた方がいいよ」
 彼女の言葉にかぶせるようにミクエルが口を挟み、シーマスに首を振ってみせた。
 治癒術を使えば、怪我は急速に治るが、瞬時にというわけにはいかない。それに怪我が治ったところで、体の機能が回復するには、さらにもう少し時間がかかる。ミクエルの言うことはもっともだが、エミリーはこれ以上皆の足手まといになりたくなかった。
「彼らはどう見ても愛玩用ですからね。他の場所にいたとしても、ああして襲い掛かってくることはないと思います」
「でも実際襲ってきたじゃないか。あれはどういうわけだ?」
 セルヴィスに挑みかかるように、一番怪我の多いルークが言い募る。セルヴィスは首を傾げつつ答えた。
「私も正確には分かりませんが、ここの地下はやはり秘密組織だと思います。あの扉が閉じたり、奴隷が襲い掛かってきたりというのは、広間で遊んでた身分のある人が、咄嗟の時に逃げるためではないですかね。追っ手が来るのを知ったら、中で遊んでいる貴族たちは、例の非常口に逃げ込む。そして、広間の奴隷たちが侵入者に襲い掛かるわけですよ。
 特殊なことなので、他では起きないんじゃないかと思いますけど」
 もちろん本当のところは調べないと分からないが、エミリーもセルヴィスの推測は、いいところを突いているだろうと思った。
「でもこの先にも別の魔法生物がいるかもしれないわけでしょ? なら、今日のところは引き上げようよ。用意を万全にして、また来た方がいいよ」
 慎重なミクエルは、それでも反対を唱えた。シーマスが彼を睨み返す。
「今日も用意は万全だっただろ。これ以上どうするんだよ」
「やることは色々ありますよ。魔法生物について調べたり、触媒ももっと持ってきておいた方がいいですね。一度戻りましょうか」
 話し振りからして、探索を続けたそうだったセルヴィスが、実は戻る方に賛成だったのを聞き、シーマスは渋い顔で溜め息をついた。
「はいはい。そんじゃ、一度戻りましょうね。バカバカしいけど、怪我人がいるんじゃ、確かに仕方ないな」
「なーによ、エラそーに。大体あんたがあの通路に入り込んだのが原因じゃないのよ」
 皮肉たっぷりのシーマスの後頭部を、プリシラが軽く叩いた。
「わかってるって。だからすぐ折れたじゃんかよ」 
 シーマスはプリシラの手を避けるように立ち上がった。
「まだ夕方前だ。決まったなら早いとこ出よう。陽があるうちに少しでも進みたい」
 一行を見回したシーマスの視線が自分に注がれた時、エミリーはまた後ろめたい気がして、視線を落とした。ルークの怪我は怪物に襲われて負ったものだが、自分の怪我は、階段を下りていて勝手に挫いたものだ。
(次は気をつけなきゃ)
 反射的に謝りそうになったのをこらえて、エミリーは未来のことを考えようとした。シーマスには「何でも謝るな」と何度怒られたか。同じ失敗を繰り返さないように、過去の失敗を活かすしかない。
「エミリー、立てる?」
 先に立ち上がったミクエルが、エミリーに手を差し伸べてくれた。礼を言って、彼の手に掴まって立ち上がる。治癒術のおかげで、立ってもあまり痛みは感じないが、やはり足首のあたりに違和感はある。
(ルークの手には掴まれなかったのに)
 怪物に襲われる前に、同じように手を差し出してくれたルークを無視する形になったことを、まだエミリーは後悔していた。
「つかまっていいから、右足はあまり曲げ伸ばししないで、ゆっくり歩いて」
 ミクエルがエミリーと横に並んで、彼女の右手を取り、自分の右肩に回すと、左手でエミリーの左肩を支えてくれる。
 ごく自然な動作で肩を貸してくれたミクエルは、一行の一番後からゆっくり歩き出した。
 いくら彼が優しげな風貌で、あまり男性を意識させないとは言っても、こんなに近づいたのは初めてだ。肩と腕に彼の体温を感じたエミリーは緊張して、体が強張ってくるような気がした。
 目線より少し上にあるミクエルの顔をそっと見上げると、丁度こちらを見下ろしていた彼と視線が合った。ミクエルは柔らかく微笑む。昔どこかの壁画で見た天使のようだと思った。
「エミリー、気をつけてよー。そんなにくっついてると、どこ触られるかわかんないよ~」
 すぐ前を歩いていたプリシラが、振り返っていたずらっぽく笑った。エミリーもミクエルも真っ赤になる。ミクエルが声を張り上げた。
「何言ってるの。そんなことするわけないじゃないか。怪我しているエミリーを助けてるだけなのに……」
「ウソウソ、ごめん。あんたほんっとーに真面目だね。……そうやってると、あんたたち兄妹みたいで、可愛い~」
 笑顔で言いながら、彼女はさりげなくエミリーたちを先に行かせて、最後尾についた。
 もうミクエルの顔を見ることもできず、エミリーは俯き気味に、ミクエルにつかまって歩き続けるだけだった。彼に支えてもらっている左肩が居心地悪い。そこが彼の手の感触を探っているような気がした。
 今まで親しみやすかったミクエルの隣で、こんなに鼓動が早くなるのは、一体どうしたことだろう。
 ルークだけを見つめているつもりなのに、シーマスに抱かれて乱れてしまったり、ミクエルにこうしてときめいたりしているなんて。まるで気の多い多情な女のようだ。自分が変わってしまったような気がした。



「そんなのよくあることだってー」
 エミリーの話を聞き終えたシャムリーナは、手を振ってみせた。
「この前も言ったけど、好きな人以外にも、ちょっといいなと思う人がいたら、そりゃ意識しちゃうよ。エミリーは人の話聞いたりとか、本とかで読んだりしてるから、恋愛を堅苦しく考えすぎだってば」
「そうなのかな……」
 もじもじと卵型の宝石細工をいじり回しながら、エミリーはシャムリーナの向かいの椅子で肩を落とした。
「そうだよ。あたしなんか今好きな人の他に、ときめいちゃう人をあげたら、十本の指じゃ足りないよ」
 恥ずかしげもなく、むしろ何故か大威張りのシャムリーナを見ていると、確かに悩むようなことではないような気もしてきた。
(プリシラも、恋人じゃない人とでも寝るって言ってたし……)
 子供の頃から無数に読んできた本の中には、恋愛を述べたものも多くあった。人口の半分を占める異性の中から、たった一人を選び出す恋というものに、エミリーは自覚は無しに夢をみてきた傾向はある。独立してパーティーに入り、ルークに対する淡く温かい感情を覚えた時、先人たちが本に書いてきたことは本当のことなのだと、半ば感動すら覚えた。
 でも実際はもっと生々しい。
 ミクエルの、あの針仕事から怪我の治療まで器用にこなす指先を思い浮かべた。色白のあまり節くれだっていない、女性のような繊細な手。それが女の人を撫でる時は、どんな風に動くのか。まだエミリーと同い年の、あの優しいミクエルは、女の人に触れたことがあるのか。一体どんな表情で。
 そしてルークは。
 彼の鍛えた長身の体に今まで抱き締められたのは、どんな人だろう。この先、自分が抱き締められることはあるのだろうか。この前シーマスにそうされたように、ルークの大きな手で、素肌を撫でられることがあるのだろうか。
(なんだか信じられない。世界中の夫婦や恋人たちや、そうでない男の人と女の人が、あんなことしているなんて……)
 ルークやミクエルだけでなく、プリシラも、セルヴィスも、自分の父や母も。叔父も。異性と交わる時は、あんなにはしたなく乱れるものなのだろうか。
 気がつけばそんなことを考えていることに気づき、エミリーはまた顔が熱くなるのを覚えた。
「まーさー、ここまでやりたい放題になっちゃうのもどうかと思うけど」
 シャムリーナは、当然エミリーが考えていることなどに気づくはずもなく、傷めないように慎重な手つきで、ガレンから持ち帰った本を読み始めている。
(このシャミーも、男の人と寝たことはあるのかな)
 次第に本に夢中になっていく友人の姿を見つめる。
 この前は自分の話ばかりで、彼女の話を聞くことができなかった。シャムリーナは今、大学の先輩に夢中のようだが、彼とはどうなったのだろう。あるいは、もっと前に、別の男の人と寝て、この前エミリーがシーマスに囁いたようなことを言ったのだろうか。
 徐々に体の内側が熱くなってくる気がした。何故だか分からないまま、切ないものがこみあげる。何かが自分に足りない。早く埋めたい。



 薄皮で装丁された一見重厚な本なのに、中身はとにかく卑猥だ。
 奴隷たちの予約記録の他、男女の奴隷との交わり方や楽しみ方、奴隷の特徴などが記されていた。詳細を解読するには、もう少しじっくり読む必要があるが、ざっと目を通しただけでも赤面してしまいそうだ。
 古代人が性に関して奔放なのは知っていたが、これはシャムリーナが今まで目にしてきたどの本よりも過激だった。もはや変態だと彼女は思った。
 しかし極めて貴重な資料になりえる。シャムリーナは、書庫から持ってきた、古代語の辞書などと照らし合わせて、早速解読を始めようと思った。
 顔を上げてエミリーに目を向けると、彼女はまだぼんやりと考え事をしているようだった。シャムリーナは視線を戻し、一人で解読を始めてみることにした。エミリーの身辺にはここのところ色々あったようだ。考え事も多くなるだろう。
 ページをめくり、とりあえず最後の方まで目を通してみる。読み進むほど、尻の叩き方のコツや、壁の鈎針に吊るして奴隷をいたぶる方法などが、ご丁寧に挿絵入りで記されている。
 こういった行為が古代人には一般的だったのだろうか、それとも特殊な趣味の持ち主がこの本を書いたのか。古代人に夢を持っているシャムリーナとしては、後者であって欲しかった。
 読み進むシャムリーナの手が止まった。
 酒と薬に関する記述のようだが、よく読めば媚薬に関するもののようだ。今シャムリーナが片想いしている相手をどうにかできるものはないかと、つい読み込んでみた。
『満ち潮と呼ばれる薬。性欲が減退している方に使うこと。奴隷も興奮させる効果がある。塗ったり、経口する必要はなく、ごく自然に紳士淑女たちを、めくるめく熱い渦へと導くことができる。さりげなく効果をもたらすので、特に中高年の男性の誇りを傷つけることがない』
 シャムリーナが目を見開いたのは、その表記の隣の小さな挿絵に見覚えがあるからだ。卵のような大きさの宝石に台座がついた形状は、今エミリーが持ってきたものではなかったか。
「エミリー、それ薬だから、触っちゃだめ」
 慌てて顔を上げてエミリーに告げると、正しく挿絵通りの緑色の宝石細工をもてあそんでいた彼女は、手を止めて首を傾げた。
「え? 薬?」
「そう。その中に入ってるのかな? 開けちゃダメだよ」
 エミリーは素直に頷き、宝石細工をテーブルに置いた。シャムリーナは再び本に目を落とす。
 媚薬と言っても、これはまだ片想いの段階では強烈だ。シャムリーナが興味があるのは、惚れ薬の方だが、どうも本に書いてある酒や薬は、主に催淫効果を持つものらしい。
 その後のページには、著者の覚書がいくつか記載してあった。客の好みの傾向についての考察などがあり、なかなか興味深かったが、じっくり目を通すのは後にしよう。
「ねえ、シャミー」
 シャムリーナが一度本を閉じ、別の資料本を開いたところで、テーブルを挟んで向かいの椅子に座っていたエミリーが、立ち上がってこちらに寄ってきた。
 シャムリーナの隣にももう一脚椅子があったが、エミリーはそこに腰掛けず、椅子に座ったままの彼女の前に膝をついて、正面から向かい合った。
「どうしたの?」 
 改まったエミリーの仕草に、シャムリーナは軽く困惑した。
 思いつめたようなエミリーの表情。瞳は僅かに潤んでいて、落ち着きなく辺りをさまよった。
(エミリー、かわいいな……)
 兎や子犬を思わせるエミリーの小さな顔を見ながら、そんなことを考えていると、彼女の細い腕が伸びて、シャムリーナは突然友人に抱き締められた。
 友人同士、しかも女同士だから、軽く抱擁を交わすことはよくあるが、今シャムリーナに抱きついているエミリーの腕は、そんな罪の無いものではない。ほとんど本能的にシャムリーナはそれを察知した。
「シャミー」
 耳元で名前を囁くエミリーの声に、感じてはいけない響きが混じっている。慌てて彼女の華奢な体を離そうとしたシャムリーナの唇に、エミリーの柔らかく、温かい唇が情熱的に押しつけられた。 
 
 今までにないほどに、信じられないくらい近くに、目を閉じたエミリーの顔がある。その小さな愛らしい顔と、触れ合わせた唇の柔らかさに、シャムリーナは一瞬陶然となった。床に膝立ちになった彼女は、シャムリーナの背中に腕を回し、すがりつくように体を寄せている。胸のふくらみに、エミリーのそれが押し当てられた。
 思わず自分の腕もエミリーの背中に回そうとしたところで、シャムリーナは我に返った。
「えっ、エミリー」
 仰け反るように顔を離し、エミリーの肩を掴む。エミリーの混じり気の少ない青い瞳は、潤んでいて、傷ついたようにシャムリーナを見つめ返していた。白い頬は上気して、薔薇の花びらのような色に染まっている。
(ヤバイ……)
 薬だ。
 エミリーが先ほどから握っていた、あの宝石でできた物入れ。あの中の催淫薬を何かの拍子に吸引でもしてしまったのかもしれない。間違いなくエミリーは普通の状態ではない。
「シャミー、お願い。抱き締めて……」
 シャムリーナの左手を握りながら、今にも泣き出しそうな表情で訴えるエミリーを見て、動悸が激しくなるのを覚えた。
 シャムリーナは、同性を恋愛の対象として見たことがない。当然エミリーにも友情以外の感情を抱いたことはないが、それでも今の彼女を見ていると、頭がくらくらするような気がする。
 彼女の望む通りに抱き締めてあげたい。
 しかしそれは、二人の友情にとてつもない危機をもたらすかもしれない。エミリーは薬に酔っているだけなのだ。
 シャムリーナはそっとエミリーの手を払い、彼女の両手を改めて強く握った。
「エミリー。あの薬飲んだり吸ったりした?」
 夢見心地のような、とろんとした表情でエミリーは首を振った。握った手を握り返す赤子のような彼女の仕草に、再び愛しさが溢れる。
 テーブルの上の、例の宝石に目をやるが、確かに蓋は開いてない。エミリーが中の薬を飲んだりはしていないのは、嘘ではなさそうだ。だが、今の彼女はどう見ても、催淫薬が効いているとしか思えない。
 考えている内にも、エミリーの華奢な体がシャムリーナの胸に倒れこんできた。再び背中に手を回されそうになったので、慌ててエミリーの腕をつかんで、また体を離す。視線が合ったエミリーは、僅かに息が乱れていて、苦しげですらあった。
「シャミー、ごめんね。困らせてごめんね。でも……私ね……」
「エミリー……」
 もうどうでもいい。このままこの小さなエミリーの望む通りにしてあげたい。その誘惑と必死に戦いながら、シャムリーナは声を絞り出した。
「座って、少し待ってて。あたしの師匠に言って、薬をもらってくるから。絶対、ここから出ちゃダメだよ。お願い、待っててね」
 エミリーの両肩を掴んで、軽く体を引き上げてやり、椅子に座らせた。少女はされるがままになりながらも、震える声で呟いた。
「行かないで……。ここにいて、シャミー」
「すぐ戻るから。動いちゃダメだからね」
 エミリーの肩を友情を込めて叩き、シャムリーナは身をもぎ離すような気持ちで部屋を出た。エミリーは追ってはこなかった。

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