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王都の冒険者たち」
第二話 地下都市

第二話: 地下都市 14

2010.02.21  *Edit 

 これ以上ないくらい悲しくて惨めだった。
 今までにも、叔父の元を一人立ちしてからは、随分とつらいことはあった。自覚が無いままの、エミリーの繊細に高いプライドを壊されるような出来事もいくつもあった。
 でも、もう耐えられないと思ったのは初めてだ。
 シーマスに怒鳴られるのも初めてではないが、こんなに激しく罵られたことはない。
 彼の言ったことは、全て本当のことだ。ガレンで勝手に怪我をして、皆の足を引っ張ってしまったこと。できることが少なくて、皆に迷惑をかけていること。
 そして、先日肌を合わせたシーマスなら、今の、切なく疼くエミリーの肉体を、何とかしてなだめてくれるのではないかと思ったことも。
 それを見透かされて拒絶されたことが、一番心に重く食い込んだ。
(もう私じゃ無理。もう嫌)
 今まで頑張ってきたけれど、パーティーの役にも立てず、仲間のシーマスに対して、こんな恥ずかしい姿を見られ、しかも哀れみの欠片もなく冷たく拒まれてしまった。もう平静で一緒にいられることなんてできない。
 誰か助けて。
 シーマスが出て行き、再び誰もいなくなった部屋で、切れ切れにそう呟きながら、エミリーは一人で泣き続けた。
 優しい叔父の顔が浮かぶ。
 私には一人でやっていくなんて、まだ無理だ。叔父に頼み込んで、もう少し助手を務めながら、何か職を探そうか。
 それはパーティーを辞めるということだ。
 冒険者に誘ってくれたセルヴィス。初めてできた親友のプリシラも脳裏に浮かんできた。パーティーを抜ければ、彼らとも縁が切れる。それは悲しかったが、かと言ってこのままパーティーにいても、何の役にも立たない。皆と一緒にいたいなら、シーマスに怒られないくらいに、もっと頑張らなければ。
(でももう無理だよ……精一杯やってるもの)
 端から見れば、縫い物ひとつできないエミリーは苦労知らずに見えるだろう。だが、だからこそ、何もできない彼女が何かしようとするのは、例えささいなことでも大変な努力がいった。
 そして無論、魔術の研究や鍛錬も手を抜いていない。まだまだ彼女は駆け出しだ。今度のガレンの調査にしても、下調べを含め、エミリーは力を尽くしたつもりだった。
 パーティーは抜けたくない。でももう頑張れない。
(助けて……)
 誰かに支えて欲しい。
 一言でいいから、エミリーの苦労をねぎらって、そして薬に冒されて、感情と肉体を昂らせる彼女を抱き締めて欲しい。
 ……ルーク。
 今までエミリーがつらいと思った時には、愛する叔父と両親の姿を励みにした。彼らに教えを受け、愛されたことが彼女の誇りだったし、彼らに励まし、慰めてもらう想像をすると、溢れていた悲しみが、静かにゆっくり沈んでいく気がしたからだ。
 こんなに悲しみに満たされている時に、ルークを思い浮かべるのは、初めてだった。
 自覚するのがやっとだった淡い恋は、静かに、しかし急速に色づいてきている。

「エミリー」
 男の声が降ってくると同時に、椅子の上に正座し、顔を覆って泣き続ける彼女の頭に、優しく手が置かれた。
 号泣していたエミリーが気づかない内に、誰かがそっと部屋に入ってきたようだった。
 そのあまりに意外な声に、彼女は嗚咽を抑えられぬまま、顔をあげた。
 シーマスだった。
 一度部屋を出て行ったはずの彼が、目の前で屈み込んでいる。
 その表情に、先ほど、エミリーが正視できなかったような激しい怒りは無かった。シーマスはそっとエミリーの頭を撫でた。
「ごめん。オレも苛々してて、言い過ぎたよ」
 温和な声で言い、彼は頭を撫でていた手を滑らせて、まだ流れ続けるエミリーの目元の涙と、号泣のあまり溢れ出た鼻水を親指で拭った。
 シーマスはどうしたんだろう。何故急に穏やかになったのだろう。
 エミリーは不思議に思った。
 次の瞬間、自分でしたことが信じられなかった。



 シーマスの頭にごつ、という音とともに、軽い衝撃が落ちてきた。
「でっ」
 痛いという程ではなかったが、予想もしなかったことなので、彼は思わず小さな声をあげた。
 目の前に、拭ってやったそばから、まだ涙を溢れさせているエミリーが見える。
(え……?) 
 不覚にも、ほんの一瞬、頭が真っ白になった。
 握り締めたエミリーの小さな右拳を見た。もしかして、今、エミリーはその拳でシーマスの頭を殴ったのだろうか。
 深く考える前に、今度は右頬が鳴った。
「たっ」
 今まで彼が女たちから食らった平手打ちと比べれば、やはり痛いという程でもないが、また声をあげてしまった。
 今まで誰に何を言われようと、ほとんど言い返したこともないエミリーが、シーマスの頭を拳で殴り、左手で平手打ちをくれたことが、相変わらず彼には信じられなかった。
「なによ……」
 大きな瞳は涙を零しながらも、まっすぐにシーマスを見据えていた。
「ひどいよ。あんなにひどこと言っておいて、いっつも私には謝るなって言っておいて、しれっとごめんだなんて、ひどいよ。ずるいよ」
 てっきりこちらが先に頭を下げれば、『私も悪かったの』とエミリーはすぐに詫びを受け入れると思っていたシーマスは、予想だにしなかった彼女の反応に困惑した。
「ああ……そうだね。ごめん」
 毒気を抜かれたように、半分呆然としてそう言うと、再び頭をはたかれた。元々腕力が弱いエミリーだったが、薬が効いているのか、あまり力が込められているようには感じられない。
「もう、いいもん。もう、いいよ」
 エミリーは目を閉じ、首を激しく振った。
「もういいって、何が? さっきのことは悪かったよ」
「いいの! 本当のことだもん。悪くないよ。でももう、いいの。もう嫌だもん。頑張ってきたけど、もういいんだもん」
 あどけない外見だが、年齢より大人びた話し方をするエミリーが、まるで幼女のように拙い口調で、意味のよく分からないことを繰り返している。
「だから、もういいって何が? そんなに泣くな」
 溜め息をつきながらも、再び涙と鼻水を拭ってやり、シーマスは辛抱強く問いかけた。
(これだから、泣いてる女は嫌なんだ……)

 部屋を出る寸前に耳にしたエミリーの呟きは、外に出たシーマスの胸に、いいようのない痒みを残した。
 これ以上、室内でエミリーと向かい合っているのは御免だったが、さっさと部屋を離れてしまえば、別の人間が入ってくるかもしれない。その人間に、あんな姿を見られてしまうのは、さすがにエミリーが哀れだ。
 散々罵ったものの、エミリーが憎いわけではないし、シャムリーナに頼まれた手前もある。彼女が戻るまでは、扉の前で他の人間が入ってこないように見張っているつもりだった。
 閉じた扉の前で、室内から微かに漏れてくるエミリーの盛大な泣き声を聞きながら、唇を噛んだ。
 誰か助けてと、まるで彼から逃れるようにエミリーは呟いていた。
 この状況で、エミリーが最も望んでいる助けは、ルークだろう。シーマスも、部屋に入る前までは、彼女の病状によっては、図書館前にいるルークを呼んできてやってもいいと思っていた。
 しかし今ルークを呼んで、半裸のまま泣いているエミリーがいる部屋に放り込んだらどうなるだろう。
 ルークの狼狽ぶりを想像すると、苦笑いしたくなったが、ほぼ同時に強烈な嫉妬を覚えた。
 今のところシーマスしか知らない、エミリーの艶やかな白い肌、弾力のある豊満な乳房と薔薇色の乳首までもが、ルークの前にさらされる。
 そのエミリーがああして泣きながらルークに助けを乞えば、生真面目なルークも心だけではなく、欲望も動かされるはずだ。
 リーダーのルークとエミリーが──例え肉体だけにしろ──結ばれれば、彼女にとって、先日のシーマスとの情交など、ものの数でもなくなるだろう。いい練習台だったくらいにしか思わないかもしれない。
 そして今後シーマスがいかに怒鳴りつけようとも、もうエミリーは泣くことはないはずだ。
 シーマスは廊下を見渡した。誰の姿も無い。辺りは静寂に包まれ、シャムリーナが戻る気配も無かった。
 彼はもう一度取っ手を静かに捻り、扉をそっと開けた。
 唸るようなエミリーの泣き声が耳に刺さった。まだ勢いを衰えもさせず、慟哭しているようだ。
 エミリーが泣き出しやすいとはいっても、いい年の女をここまで泣かせてしまったのは、自分の態度も大人げないだろう。幾分冷えた頭で、ばつが悪く思いながら、シーマスはエミリーに静かに近づいたのだった。

「ねえ、もういいって何? オレたちから抜けるってこと?」
 彼女の顔を拭いながら尋ねると、盛んに首を振っていたエミリーの動きが止まった。
 そのままエミリーは何も答えず、少し小さくなってきた彼女の嗚咽だけが響いた。迷っているらしい。
 シーマスは先に口を開いた。
「そんなこと言わないで。さっきは言い過ぎたよ。エミリーに抜けられたら困るよ」
 涙に濡れてすっかり湿った頬を撫でると、嗚咽に震える弱々しい声が返ってきた。
「だって、『もうやめちまえ』って、よく言ってたじゃない」
「それはほんとに駆け出しの頃の話だろ。今はそんなこと思ってないよ」
「違うよ……」エミリーは再びうな垂れて首を振った。「だって、それならどうしていつもあんなひどいこと言うの? 頑張った時は何も言ってくれなくて、失敗した時だけ怒られるんだもん。つらいよ」
 甘えてんじゃねえよ。
 子供の論理を延々と垂れるエミリーに対して、反射的と言ってもいい程の苛立ちが再び沸いた。
 やはりこの娘は、叔父に相当に甘やかされて育ったらしい。シーマスや、恐らく他の仲間たちが、とうの昔に学んで乗り越えたようなことを、十六にもなってまだ愚痴っているのか。
 十二になった頃に母親に手放され、以来、頑張ったからと言って誉めてくれる人間もなく、それでも何かしなければ飢え死にする。成長するまでの毎日を必死に生きてきたシーマスは、実の家族に大切に愛されて育ったであろうエミリーに、羨望と嫉妬を覚えた。 
 しかし、彼はその衝動をエミリーにぶつけるのをこらえた。それこそ、自分の甘えた八つ当たりだ。
 育ちは本人にはどうしようもない部分もあって、それを理由にエミリーを甘ったれや苦労知らずと罵るのは、不当だろう。
 以前にルークに「何故エミリーにばかりきつく当たるのか」と怒鳴られたことがある。他の仲間には何も言わず、エミリーだけを叱りつけるのは、弱い者いじめと同じだと彼は続けた。
 あの時、シーマスは我を忘れる程逆上し、遥か上にあるルークの胸倉を掴んだが、それは痛いところをつかれたからだ。
 今度のガレンでのことや、薬を吸い込んでしまったことだって、相手がプリシラであれば、シーマスはここまで腹を立てなかっただろう。それは普段から、戦士である彼女の世話になっているというのもあるが、彼女が恐ろしいからという理由の方が大きいはずだ。
 それに、エミリーがこんな弱音を吐いたのは、考えてみれば初めてだ。いつも黙って泣いているのは、シーマスに怒鳴られる度に、心に渦巻いてきた、こうした台詞を押し殺している為なのかもしれない。
 束の間、シーマスが己の態度を省みる間にも、エミリーは途切れ途切れに呟き続けた。
「私、不器用だし、頭の回転も早くないし……体力も無いから、せめてできることだけでもやろうと思ってるのに……。時間はかかっても、これから頑張ろうと思ってたのに……。そんな言い方ひどいよ。ひどいよ。この前だって……あんなことしておいて……」
(う。やっぱ覚えてたか……)
 当たり前である。
 シーマスは、最も扱いづらいところに話が及ぶにあたって、内心冷や汗をかいた。舌が回る彼にしては珍しく、どもりがちになる。
「あ~……あの……あれは……」
「だって……シーマスが内緒にしろって言うから、皆には……プリシラにも話してないのに。シーマスを脅すつもりだったなんて。そんなこと考えてないよ……」
(内緒? そんなこと言ったっけか?)
 シーマスは首を傾げた。
 記憶がぼんやり甦ってくる。そうだ。言った。
 あの時、女を抱いた直後の虚しさと苛立ちのまま、エミリーを置いてとっとと部屋を出ようとしたシーマスは、思いがけない場所で処女を失い、避妊薬を受け取ったまま呆然としているエミリーに、僅かに残った罪悪感と気遣いから、そう言って微笑みかけた覚えがある。
 まさか自分でも忘れていたような、ついでに出たような言葉を、馬鹿正直にエミリーが覚えて、守っているとは思わなかった。
 それに比べて、つまらない対抗意識から、うっかり自分はジェフリーに喋ってしまった。
「そうだったね。ほんとにごめん」
 シーマスは、椅子の上に正座したままのエミリーの頭を抱えて抱き締めた。
 気が治まらないのか、エミリーは右手で弱々しく彼の胸を押して、体を離そうとしている。少女が見せた僅かな反抗心が、シーマスの腹の底、怒りと異なる部分に火をつけた。天邪鬼の彼は、自分の意志に従わないものにこそ、却って執着する悪癖がある。
 エミリーの動きを封じるように、さらに背中に腕を回して強く抱き締めると、頬に彼女の髪が触れた。薄着のシーマスは、胸に押し付けられたエミリーの柔らかな乳房と、既に固く尖ったその先端の感触を感じた。
 下半身に急激に血が集まる。実のところ、先刻エミリーを怒鳴りつけていた時から、シーマスの股間は固くなり始めていた。
 顔をずらして、亜麻色の髪が張りついたエミリーの頬に口づける。
「ひどい……」
 少女は首を振り、シーマスの体から逃れるように肩を動かしたが、薬で弱っているのか、彼にとっては何の抵抗にもならないほどの力でしかなかった。
「ごめん。許して」
 深く考えずにそう囁いて、エミリーの瞼に口づけた一瞬だけ、二人の立場は入れ替わった。
 無口で無力で甘ったれなエミリーに、自分から赦しを乞い、膝をつく。彼女に使役されている錯覚を覚えた。
 唇に触れるエミリーの顔が熱い。
 嗚咽は収まりかけていたが、まだ彼女の細い肩は小さく上下していた。
 唇を触れ合わせる。泣いていた彼女のそこだけは、水分を失って乾いていた。唇を静かに押し開き、舌を差し入れると、今の今までシーマスを押し退けようとしていたエミリーが、僅かに顔を押し付けようとしてくるのを感じる。
 エミリーの手は抱き締められたまま、シーマスの薄い胸に当てられていたが、そこから押し返そうとする力は、ほとんど感じなかった。
 まだ薬が効いているのだろう。古代の薬は効き目が強いと聞く。何もせずに効果が薄れるまでは、まだ大分時間がかかるかもしれない。シャムリーナが解毒薬を作ってくるのにも、やはり時間はかかるだろう。
 先ほど自分が叱りつける前は、エミリーはあんなに切なそうにシーマスの助けを求めていたではないか。このまま放っておくのは、彼女が可哀相だ。
 しかし、また先日のようなことになってはまずい。
(触って、慰めてやるだけ……入れなきゃいいんだ)
 シーマスは、戸惑ったように身を固くするエミリーの、柔らかい乳房に手を伸ばした。

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