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王都の冒険者たち」
第三話 女の聖地

第三話: 女の聖地 5

2010.04.19  *Edit 

 エミリーたちが、神殿遺跡を抱える村に着いたのは、王都を出発した翌日の午後のことだった。正午を回っていたが、初夏の陽光はまだ明るい。
 村は石壁に囲まれた、堅固なつくりであった。王都に近いこの辺りは、盗賊団に襲われるようなことは少ないため、木でできた柵などで簡素に村を囲う場所も多いが、歴史があるこの村は、古代王国時代から戦乱期を経た防衛建築がまだ残っているのだろう。
 門番にシャムリーナが紹介状を見せると、彼らはすぐに中へと通してくれた。そのまま彼女たちは、領主の館へと案内される。ただの旅人と大学の魔術師では、扱いは全く違う。
 畑が広がり、木造の家が点在する、王都の周辺にどこにでもあるような農村であったが、村人の家から離れた、小高い丘の上に堅牢に聳える領主の館は、村を囲む防壁と同じく古い造りだ。その側の平地に、こじんまりとした尖塔も持たない教会がある。
 門番に続いて村を歩きながら、エミリーは神殿遺跡がどこにあるのかと首を巡らせた。目に入るのは、夏の収穫を待つ、よく実った小麦の穂ばかりである。昼食を終えて、午後の畑仕事を始めた村人たちの姿が、黄金色の麦穂の隙間から見え隠れしていた。村人は、特にエミリーたちを怪しむでも歓迎するでもなく、時折物珍しそうな視線を投げながら、自分たちの作業を続けていた。
 ほどなくエミリーたちは、領主の館へと着いた。恐らく人工的に作ったのだろう、土を盛った小高い丘の向こうに、領主の館と同じく、要塞と見紛うような頑丈な造りの、無骨な建物が見えた。
 古代の神を祀る神殿は、梁と屋根を列柱をもって支える、開放的な建物が多かったと聞いている。あれが神殿なら、エミリーの想像とは随分違っていた。
 門番に先導され、丘を上る急勾配をエミリーは息を切らせて登った。今は木造りの階段がしつらえてあるが、かつての戦乱期には、丘上の館を防御するために、そんなものは無かっただろう。村の門が破られれば、領主の館が最後の砦になったはずだ。
 館に到着後、そこで少し待たされたあとに、エミリーたちは出迎えた執事によって、館の中へと案内された。
 手が空いていたらしく、領主はすぐにエミリーたちと面会してくれた。
 応接間と食堂を兼ねているらしい、楡の長テーブルが鎮座する部屋で、領主と顔を合わせたエミリーは、彼があまりに若いので、内心驚いた。
 年頃は二十歳前だろう。若木のような生命力を溢れさせる、快活な青年であった。
「神殿遺跡をご覧においでになりましたか」
 互いに自己紹介を終えた後、尊大なところのない、丁寧な口調で彼は言った。無論、紹介状は執事から手渡され、予め目を通しているに違いなかった。
「この地と共に生き残ってきた神殿は、我らの誇りです。どうぞ、心ゆくまでご見学ください」
「ありがとうございます」
 紹介状の主であるシャムリーナが、三人を代表して礼を取る。彼女はエミリーを同僚の研究者、プリシラを護衛だと領主に紹介していた。
 彼女の仕草に目を細めながら、若い領主はにこやかに言った。
「見学の間は、どうぞこの館にご逗留ください」
「そんな。とんでもない」立ち上がったシャムリーナは、驚いたように首を振る。「どちらかのお宅の離れでもお貸しいただければ、それで結構です。明日には出発する予定ですし」
 シャムリーナが恐縮するのも無理はない。いくら古代遺跡を持つ村の領主が、王都の学者や魔術師に好意的だと言っても、身分は身分だ。相手は王から封じられた土地を代々守る副伯であり、シャムリーナもエミリーも身分を持たない平民である。
「今夜一晩なら尚のこと、こちらに滞在されるがよろしいでしょう。この通り、小麦畑以外、何も無い村ですので、旅人が珍しいのですよ。女性三人では、農家に泊まるにしてもご不便がありますでしょうし、部屋は余っています。ぜひ王都のお話でもお聞かせください」
 領主はどうやら、女性に対する社交としてではなく、本当にエミリーたちを館に招きたいようであった。こうまで言われるのなら、断る手もない。農家の一間を借りるより、この豪奢ではないが、頑丈な石造りの館で過ごすほうが快適なのは間違いない。
 プリシラなどは、もとより遠慮するつもりはなかったらしい。シャムリーナが、様子を窺うように彼女の顔を見ると、満面の笑みで頷いてみせた。


 食堂で、領主と共に軽食と飲み物を馳走になった後、エミリーたちは早速神殿の見学へと赴いた。
 やはり館の後方、村のもっとも奥まった場所に、まるで領主に守られるように、館の陰に陰鬱に聳える建物こそ、大地母神を祀る神殿だという。
「列柱様式ではないのですね」
 エミリーが問いかけると、領主に紹介された、巫女頭だという遺跡の案内役である壮年の上品な女は、穏やかな笑顔で振り返った。
「私もこの村にいるものですから、他の遺跡のことは存じませんが、女神を祀る神殿は、こうして屋根と壁に閉ざされた建物が多かったそうですよ」
 巫女頭の言葉遣いは、丁寧で教養を感じさせた。領主の親戚筋などにあたる、学識のある女性なのだろう。ただの農村の女房には見えなかった。
 建物はほぼ完全な箱型である。外側からは、先ほどの領主の食堂と同じくらいの広さしかないように見える。前方を丘に聳える領主の館、後方を村の防壁に囲まれたため、影に包まれて暗く見えるのかと思ったが、近づくと斑紋を含む、黒っぽい石材で建てられていることが分かる。外から見て、建物に窓が無いのが、エミリーの目には興味深く映った。
「光が差し込まない祈りの場というのは、今日の教会と比べても珍しいですね」
 彼女が質問を続けると、巫女頭は入り口で立ち止まり、再び笑顔で答える。
「そうですね。大地母神特有の発想だそうです。祈りの場は、女神の胎内なのですよ」
 彼女はふくよかな腕で、木戸が設けられた入り口を差した。
「ですからこの入り口は、女陰にあたります。この形、覚えはございませんこと?」
 上品な巫女頭は、笑みを崩しもせずに言ってのけた。
 言われてみれば、無骨な建物の縦楕円の入り口上部には、幾重にも襞のような溝が刻まれている。エミリーは自分やその他の女性の性器を見たことこそないが、なんとなくそのような形だろうと、想像はつく。
「はー、なるほど」
 エミリーと同じく、シャムリーナは気まずく黙り込んだが、最後尾にいたプリシラがしきりに感心している。
「ここを通って、膣にあたる通路──この神殿では地下に降りる階段となりますが、そこを下っていくと、女神の子宮である、祈りの場に辿り着くのです。かつて古代では、そこで多産と安産を祈り、月経中の女性の身を預かり、女神の神託を受けたのです。──明かりをつけますね」
 巫女頭は持ってきた包みの中から燭台を取り出し、石を打って火を灯し始めた。
 ということは、陽の光も差さない暗闇の地下で、巫女と神託を受けに訪れた男たちが交わっていたのだ。
 そこまで考えて、エミリーは思わず目を瞑った。発想が下品である。あくまで神事であり、ただの男女の下劣な営みではない。
「古代人たちの発想は奔放だったのねえ」
 シャムリーナがやや顔を赤らめながら、照れ隠しのようにエミリーに呟く。それを聞いたらしい巫女頭が、明かりを灯しながら穏やかに言った。
「ごく自然なことだと私は思います。現在の禁欲的な教会の教えは、理性的ではありますが、産み、増えようとする生命の本能とは、あまりに相反するものではございませんかしら。男女が愛し合い、子をなす行為を、まるで恥や罪であるかのように教えられては、自分が生まれてきた理由すら分からなくなるではありませんか」
 顔を上げた彼女は、明かりを灯した燭台を手に取ると、童女のように無邪気に笑った。
「……今のは、どうぞ教会の司祭様には内緒にしてくださいませね。でも私は、教会の教えとは不能の男性やお年寄りが寄り集まって、若い方々を妬んで作り上げたのではないかという気がしてならないのですよ。神様が本当に、そんな融通の利かない、窮屈なことおっしゃるのかどうか」
「あっははは。そうですよね~!」
 プリシラは、今の巫女頭の冗談が気に入ったらしく、腹を押さえて笑っている。
 確かに巫女頭の言うことも一理あるだろうと、ほとんど恋愛経験のないエミリーも思った。だがあまりに奔放すぎると、ガレンの地下都市で遭遇したような、歪んだ魔法生物を作り出して、生命の営みとは切り離された肉体の快楽に溺れるようになるのではないかとも考えた。
「今でも教会の入り口はこの形でしょう。あれは古代の名残りです。教会の方々が意味を知っているかどうかは分かりませんが」
 巫女頭はいたずらっぽく続けた。
 確かに小さな教会はともかく、王都にあるような大聖堂は、襞のような刻みを持つ入り口が多い。そこに彫刻が施されていることもある。今彼女が言ったような意味で考えると、非常に卑猥な気がした。真面目なミクエルが聞いたら目を回すに違いない。

 巫女頭が女性器だと言った扉をくぐって、エミリーたちは内部へと入り込んだ。
 非常に妙な心持ちであった。産み落とされた母の胎内に帰っていくような、穏やかな気持ちでありながら、石壁がまるで生々しい肉の壁であるかのような気分も味わった。
 遺跡の地上部分は、長方形の石の台座が置かれているだけの、殺風景な空間だった。
「巫女たちが事務作業をした場所です。特に興味深いものはありませんわ」
 巫女頭は素っ気なく言い、すぐに地下へと続く階段を下り始めた。
 また足を挫いてはならないと、エミリーはシャムリーナに続いて慎重に階段を下りたが、ガレンの階段を比べると、段差が緩い。女性のための場だからだろうか。
 長い階段を降り切った場所は、天井の高い空間になっていた。
「こちらが広間です。儀式は主にここで行われました」
 巫女頭の声が反響してよく響く。
 彼女の持つ明かりが照らす壁に、エミリーが何気なく目をやると、座ったまま抱き合う全裸の男女の壁画が見えた。思わず彼女が目を逸らせば、隣にも違う形で絡み合う男女の絵姿が。こちらは四つんばいになった女性に、後ろから男性が覆いかぶさる図である。初めてシーマスに触れられた時のことを思い出し、エミリーは薄闇の中で顔を赤らめた。
「ほあー、スゴイ。儀式って、聖娼が男性と交わって、神託をもらう儀式ですか?」
 エミリーよりも露骨に、堂々と壁画を眺めながら、プリシラが尋ねた。
「それもありますが、他にもたくさんですよ。女性の出産はここで、女性のみに囲まれて行われました」
 答えながら、巫女頭はゆったりとした足取りで歩き出す。エミリーたちも続いた。
 広間は思ったより広く、彼女が持つ燭台だけでは、その場を照らすことができなかった。プリシラが持ってきた道具の中からランタンを取り出し、燭台の火を移してもらう。明かりが増えると、大分視界は効くようになった。
 ガレンもそうだが、古代の遺跡では、魔術によって岩壁が発光することが多い。だがここには、そうした仕掛けは施されていないという。
「畏れ多くも女神の胎内ですもの。光で満たそうなんて、男性的で不遜な考えです」
 そう言った巫女頭は、古代でもこうして、燭台のような小さな明かりだけを灯し、この暗く広い空間で儀式を執り行っていたと説明した。
 次に彼女が立ち止まったのは、壁に設えられた大きな石版だった。そこにびっしりと古代文字で名前が刻まれている。
 巫女頭は、代々の巫女頭の名前であると説明した。
 一体何十代連なっているのだろう。膨大な名前の一番最初は、ひときわ大きな文字が刻まれている。
「女神の娘です。人間の男を父に持ち、地上に産み落とされました」
 美しい響きのその名前を読み上げ、巫女頭は言った。
「神様が人間と合体して、子供を産むんだ……」
 古代の神に詳しくないプリシラは、不思議そうに呟いている。教会の教える、謹厳にして父性愛に満ちながら、苛烈な神の姿からは、想像しがたいだろう。
 魔術師であるエミリーは、神に正しい姿かたちは無いと考えている。教会が考える神の姿、古代人が考えた神の姿、どちらも正しい。思い描く人間の心、それぞれにあるのが、真の神の姿である。
 だがこうして、女神の胎内だと言われる、やや湿った空気が満ちる空間にいると、何故か安らぎが満ちてきた。教会の教えよりも、古代人の信仰に共感したくなるのは、自分が女性だからだろうか。
「では祭壇へご案内しましょうか。女神のお姿を祀った場所です。どうぞ、私語はご遠慮なさってください」
 親しみやすく、柔らかだった巫女頭の声が、急に翳った。つられるようにエミリーたちも姿勢を正す。確認するように娘たちの姿を見渡すと、小太りの巫女頭は、明かりを持って広間の奥へと歩き出した。
 最奥部には、穿たれたような縦長の穴がある。小柄なエミリーでも、腰を屈めなければ入れないような高さだ。そこは黒く重たげな布に覆われていた。
 女神の姿とはどのような物だろう。シャムリーナと読んだ資料には記載が無かった。
 巫女頭も屈み、布を捲り上げて中へと入る。彼女と同じように頭を屈めて内部に入るシャムリーナの後ろ姿を見ながら、エミリーはこの場所もまた女性の体内への入り口のようだと思った。

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re: 拍手お返事 >Kさん 

拍手、ありがとうございます!

多神教の古代の建物は、大体自由で奔放な感じですよね~。
昔は「生きてて当たり前」という時代じゃなかったので、生殖ってきっと、神に祈る一大事だったんでしょうね…。
今回、巫女頭が言ってたことは、現実世界での俗説らしいですが、教会の入り口とか…確かに似てる…(笑)

神社の参道=参道は、知りませんでしたが、言われてみればなるほどですね!

ちゃちいイマジネーションですが(泣)、伝奇ものっぽく見えていれば嬉しいです…。
もっと知識と表現を磨いて、頑張ります!
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