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王都の冒険者たち」
第三話 女の聖地

第三話: 女の聖地 8

2010.04.29  *Edit 

 牢の床は湿っていて冷たい。厠の代わりに部屋の隅に穿たれた汚物用の穴から悪臭が漂ってくる。
 プリシラたちが閉じこめられてから、一度も清掃されていない牢内は、日に日に悪臭が強くなる。自分たちの汚物の匂いだと思うと、ひときわ惨めだ。最近は旅にも出ていなかった為、下水道の整った王都の清潔な厠に慣れていた。排泄物の匂いが特にこたえる。湿気がこもりがちな地下牢では尚更だ。
 牢に入れられた当初は、そんな悪臭の中、とても食べ物など口にする気にはなれなかった。しかし食べなければ体がもたない。プリシラが衰弱してしまっては、牢からの脱出も、エミリーの救出もままならない。
 それに食事は日に一度、固いパンと水が運ばれてくるきりだ。慢性的に軽い飢えに苛まれるようになると、匂いなど気にならなくなってきた。
 牢に捕らわれるのは初めてではないが、やはり惨めである。
 救いといえば、目の前に見張りがいないことだ。以前、傭兵をしていた頃に、プリシラが牢に捕らわれていた時には、牢の前に見張りがおり、食事から睡眠、排泄まで男の眼前で済ませなければならなかった。非常に屈辱的な経験だった。
 それに比べれば、囚人としてはましな状況だが、見張りもいないのでは、脱出の隙を作ることもできない。
 唯一といえる機会は、食事が運ばれてくる時であった。兵士が頑丈な鉄格子の隅に作られた食事用の小窓から、素早くパンと水を置いていく。
 プリシラはそのたびに、哀れな女二人を外に出して欲しいと情に訴えてみたが、効果は薄かった。
 地下にいては時間の流れも分からないが、食事がプリシラの予測通り一日に一度だとすれば、捕らわれてから既に四日が経過する。


 四日前、領主の招きで晩餐に与った後に、突然巫女頭と領主が、エミリーを領主の妻にするなどと言い出した。
 当然拒否した彼女たちは、その後踏み込んできた複数の男たちに捕らえられてしまった。
 食事と共に出された蒸留酒があまりに美味だったので、飲みすぎて足元が危ういうちに捕らえらたのは、プリシラにとって不覚の極みだ。領主や巫女頭から、まったく悪意や害意を感じなかったため、厚意による歓待だと思い込んでいたのだ。
 無論、プリシラは抵抗しようとしたが、男たちに腕を取られ、体を押さえつけられるうち、意識まで薄れていってしまった。
 気がつけば、この黴臭い地下の牢屋にシャムリーナと一緒に転がっていた。エミリーの姿は見当たらなかった。どうやら別の場所に連れていかれたらしい。
 これだから。
 プリシラは自分に呆れた。世間知らずのエミリーを心配してついてきたつもりだが、酔っ払って捕らえられてしまったのでは、同行してきた意味がない。
 しかしシャムリーナは、恐らく食事に薬が混ぜてあったのだろうと話していた。プリシラだけでなく、さほど酒を飲んでいなかったエミリーとシャムリーナも、意識を失ってしまったらしい。
 大地母神のお告げなどと俄かには信じられないが、もしそれが本当なら、神殿遺跡から戻った後、巫女頭と領主が謀って、食事に薬を混ぜたことになる。二人共に好印象を抱いていただけに、裏切られたような気分だった。 

 同じ牢に捕らわれているシャムリーナは、エミリーと同じ魔術師である。  
 しかし彼女が持ってきた、魔術に使う薬や触媒は全て他の荷物と一緒に取り上げられてしまった。魔術とは精神の世界を介して、物質の世界にその法則を超えた現象をもたらすものだが、道具が無いのでは術の行使は極めて困難だ。エミリーも同じような状況だろう。
 それでもこの四日、シャムリーナは意識を集中させて、この村のどこかにいるはずのエミリーの意識を探ったり、王都にいる仲間たちに助けを求めたりしていたが、成果は無いらしい。
 古い頑丈な牢は、周囲を石壁に囲まれ、出入り口には錆の浮いた鉄格子が嵌まっている。見張りがいないことを幸いと、プリシラは鉄格子や出入り口の小さな扉を調べてみたが、古いとはいえまだ丈夫で、蝶番も簡単に外れそうにない。中から開けるのは、現在のプリシラとシャムリーナには無理だろう。
 食事が届けられていることを考えれば、放置して殺そうという気はないらしい。エミリーへ結婚を迫るための人質として生かされているというのが妥当だろう。今のところ動きがないということは、恐らくエミリーが拒否し続けているのだ。
 だがいつまで続くか。
 領主も巫女頭も真っ当な人間に見えたが、食事に薬を混ぜるような手段を使うということは、やはり見かけ通りの人間ではないかもしれない。
 エミリーがイーノックとの結婚を拒絶し続けるなら、また別の薬を使って、彼女の精神を衰弱させ、言うことを聞かせるなどという方法を取ることもありうる。
(でもエミリーにとっては、悪い話じゃないのかも)
 じめじめとする古びた石の床に座り込み、格子越しに薄暗い廊下を眺めている内、そんな考えも浮かび上がってきた。
 エミリーはあの通りの、箱入りの世間知らずだ。プリシラたちとの冒険者稼業もいつまで続けられるかは分からない。無頼の生活は過酷だ。
 仮にどこかの仕事先で、エミリーが頼る自分やルークが死ぬようなことがあれば、彼女はどうするつもりなのだろう。それに彼女自身、こんな危険な仕事に足を突っ込み、遺跡の奥で異形の怪物に殺されるようなことがあれば……。
 だがイーノックの妻となるなら、曲がりなりにも貴婦人となる。食うに困ることもなく、生涯安楽に暮らせる。イーノックは悪い男ではなさそうだし、エミリーを娶れば、大切にするだろう。
 エミリーにとっては、頼りがいのある優しい夫を持つことが、何よりの幸せに違いない。
(……いや、違う)
 プリシラは傾いていく思考を立て直した。
 エミリーが領主の妻に納まれば幸せだ。だからイーノックの申し出を受けるべきだ。   
 そうすればプリシラはここから出られる。
 それは自分が牢から出たいだけの欺瞞だ。エミリーが何不自由なく、この閉ざされた豊かな村で暮らす。それが彼女にとっての幸せかどうか、それは彼女自身にしか分からない。プリシラが決めていいことではない。
 プリシラはそれなりに苦労してきたし、幸せだと思ったことは少ないが、自分の人生に誇りを持っていることは間違いない。
 苦労知らずの人生が幸せかどうか、それは別の問題である。
 廊下の向こう、階段の上から差し込む光は、ごく淡くて頼りない。今が日が昇り始めた朝方なのか、陽光溢れる日中なのかも判然としない。そんなうっすらとした闇の中に、数日ものあいだ閉じこめられていると心が弱ってくる。
 エミリーがイーノックの求婚を受け付けないために、自分たちが閉じ込められている。彼女さえ領主の要求を飲めば、この危機は脱出できる。そんな気になってくる。
 だがそれは安易な責任転嫁だ。最も弱い人間に我慢を強いて、最も怠惰な解決を図ろうとしているだけだ。
 あの経緯をどう考えても、エミリーには何の責もない。イーノックと巫女頭が主張していることの方が道理を外れている。
 ここはイーノックの領地であり、司法権を持つ領主である彼が何をしようと、身分も地位も持たないプリシラたちのために、誰も動いてはくれない。
 だから己の力で切り抜けるしかない。どんな手段を使ってもだ。
 端から砂山が崩れるように、磨り減っていこうとする自分を叱咤する。
 貴族だからといって、何もかも思い通りになると思うな。
 税金を納める代わりに、君主に庇護してもらえる定住者とは違う。流浪の自由業の生活は、気ままなように見えて過酷だ。生まれた時からそうして生きてきた意地を見せてやる。
 腹を括った。

 決意したのはいいが、だからといって状況が変わるわけではない。 
 エミリーと接触できれば、対策を練ることもできる。彼女が一度領主の要求を飲む振りをして、プリシラたちを解放してもらった後、後からエミリーを救出する方が簡単だろう。
 しかし食事を持ってくる兵士に何度頼んでも、エミリーはおろか、領主や巫女頭にも会わせてはもらえなかった。
 次の手にして最後の手段は、その一日に一度、食事を持ってくる兵士をどうにかすることである。
 言葉で訴えても通じないなら、女の体を使うまでだ。
 自分や友人の命が掛かっているなら、プリシラはさほど貞操にこだわらない。屈辱には違いないが、プライドを守りながら惨めに餓死するほどの信念はない。受けた屈辱は、生き延びてこそ、後で返してやることもできる。
 食事を持ってきた兵士を誘惑し、牢に引きずり込む、あるいはプリシラを牢から出させる。そこまですれば、あとは簡単だ。武器は取り上げられてしまっているが、油断しているところを狙えば、素手でもどうにかなる。
 プリシラがそうした思い切った手段に出られないのは、シャムリーナが共にいるからだ。
 兵士を誘惑するような手を使えば、否応なしにシャムリーナも巻き込むことになる。シャムリーナは若くて可愛い少女だ。筋肉質のプリシラと、小柄で可憐なシャムリーナが並んでいれば、八割方の男はシャムリーナを選ぶだろう。プリシラが兵士に誘いをかければ、その気になった男が、シャムリーナに目を移すことも十分考えられる。
 自分が貞操より命を取るからといって、シャムリーナもそう考えるとは限らない。中には見知らぬ男に触れられるくらいなら、死を選ぶ女もいる。プリシラには無い発想だが、それが間違っているとは思わない。
 まだ若いシャムリーナに、望んでいないのに肉体を武器にさせることは酷だろう。

「やっぱりダメ。エミリーがどこにいるか、分からない」
 プリシラが考え込んでいると、背後からシャムリーナの呟きが聞こえた。満足に動けず、僅かな食事と水分しか与えられていない彼女の声は、やや掠れている。疲労が溜まっているように見えるのは、時折精神を集中し、王都の仲間やエミリーに交信を試みているからだろう。
「いいよ、シャミー。無理しないで。倒れて、いざという時に動けなくなると困るから」
 振り返ったプリシラは、石壁に背中をもたれさせた。苔が生えかけている壁が、ぬるりと不愉快に後頭部を撫でる。
「……ごめん」
 伏し目がちにプリシラに視線を送りながら、シャムリーナは呟いた。
「あたしが、エミリーやプリシラを誘ったから、こんなことに巻き込まれて……」
「関係ないよ。あんたが謝ることじゃない」
 つい突き放したような口調になる。事実、シャムリーナの責任だなどと思っていないが、他人を優しく慰められるほど、今はプリシラも余裕がない。
 危険があった場合に、エミリーやシャムリーナを助けるためについてきたというのに、何の力にもなれず、ただこうして閉じ込められているしかない自分が情けない。
 それに比べて、この半年以上もの間、プリシラやエミリーたちを率いてきたルークは、常に冷静沈着だ。盗賊に囲まれたり、異形の獣に襲われた時でも、彼は臆することも恐慌することもなく、最善の指示を出していた。ルークの落ち着いた低い声を聞くと、沸き立っていた精神が落ち着く気がしたものだ。
(ルークがいれば……)
 プリシラは大きく溜め息をついた。いない人間を求めても仕方がない。今できることを考えなければ。
 だが、繰り返しそう考えても、つい思考が空回りするのは、打つ手が無いからに違いない。この四日、ずっとそれを繰り返している。
 エミリーがイーノックの申し出を受けなければ、プリシラたちがずっと閉じ込められていることも考えられなくはない。
 だがあの領主と巫女頭が、そんなに気が長いとも思えない。エミリーに言うことを聞かせるために、プリシラたちを利用するだろう。それにエミリーも、友人たちが幽閉されていると知りながら、彼らの要求を突っぱね続けられるほど、意志の強い冷血人間ではあるまい。  

 目の端に光の帯が差し込む。
 階上にある扉が開き、兵士が五回目の食事を運んできたのだ。
 だがプリシラの耳は、湿った階段を下りてくる、複数の足音を聞き取った。今まで、食事を運んでくるのは帯剣した兵士一人だった。
 いつもと違う。
 彼女は体を無意識に緊張させ、腰を浮かせて鉄格子から下がった。シャムリーナも足音に気づいたのだろう。プリシラに隠れるように、同じく牢の奥へと下がる。
 鉄格子の前に兵士が二人、姿を現した。
「そっちの女」
 二人とも若い兵だったが、そのうちでもプリシラより年上に見える、年長の方が口を開き、ぞんざいにシャムリーナを指差す。
「こっちに来い」
「私?」
 シャムリーナは兵士に向かって首を傾げる。
「そうだ。お前に用がある」
 シャムリーナは、プリシラを不安そうに振り向いた。プリシラも内心、固唾を飲む。エミリーが求婚を受けたということではないだろう。それなら、二人一緒に外に出されるはずだ。
「何の用なの」
 プリシラが凄みのある低い声で兵士に尋ねる。女はもちろん、多くの堅気の男は彼女の声を聞いて怯むことも多いが、若い兵士は表情を変えず、そっけなく答えた。
「ご領主様がお呼びなのだ」
「彼女一人じゃ不安なのよ。あたしも出してよ」
 だめでもともとと言ってみたが、やはり兵士たちはにべもなかった。
「お前はまだここにいろ」
「いつまでいりゃいいのよ」
 男たちを睨みながら言ったが、今度は答えすら無かった。
 兵士の一人が腰に下げていた剣を抜く。もう一人が手に持っていた鍵で、牢の頑丈な錠を開け始めた。
 好機だ。
 だが、相手は二人。一人は抜刀している。いくらなんでも、丸腰の身では、今組み付いても勝てるはずがない。
 焦燥を抑えて、プリシラは男たちの隙を窺った。 
 一人が錠を外して、鉄格子の扉を開く。剣を抜いた方の兵が、腰を屈めて、低い扉から中に入ってきた。プリシラを脅すように睥睨すると、彼女を押し退けるようにして、空いている方の手でシャムリーナの腕を取る。
「来い」
「離してよ。一人で歩ける」
 シャムリーナは男の腕を振り払おうとしたが、しっかりと掴まれて果たせなかった。
 兵士はそのまま、油断無くプリシラに目を配りながら、小柄なシャムリーナを牢から引きずり出す。
 隙が無い。
 プリシラが歯噛みするうち、再び無情に牢の扉は閉ざされ、錠がかけられた。
 もう一人の男は、手に持っていた縄で、シャムリーナを後ろ手に縛り始める。
「ちょっと、女を手荒く扱うんじゃないわよ。そんな女の子を縛ったりするなんて、怖いわけ?」
 プリシラは挑発するように男たちに言ったが、彼らは意に介さなかった。
「うるさい。食事だ」
 無愛想な声と共に、いつもの食事用の小窓から、パンと水が差し入れられる。一人分だった。
 急に激しい空腹を覚えたプリシラがそれに気を取られている間に、彼らはシャムリーナを追い立てるようにして、階段を上り始める。彼女が助けを求めるように、プリシラの方を一度振り返ったが、兵士に小突かれるようにして、前を向かされてしまった。
 なすすべもなく、その後姿を見送るプリシラの前で、階上の扉が閉じる音が響き、束の間差し込んでいた光は消えた。辺りは再び淡い闇に閉ざされた。

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~ Comment ~

RE:拍手お返事 >Kさん 

拍手、ありがとうございます~!

もりもり食べてたらクスリが効いて…って、典型的捕まりパターンですね。

プリシラさんは単純ですが、アホではない、という設定にしてます。
教養が無いのとアホは違う…という風に書けていたらいいんですけど…><

プリシラの男好きは、多分ビョーキです(笑)
生まれた性別は女ですが、脳みそは60%ぐらい男でしょうねえ、この人^^;
プリシラを好きと言ってくださる方は少ないので、気に入っていただけて嬉しいです♪

女性向けファンタジーで牢屋というと、ロマンスの香りがしますが、どうも別の匂いの方が先に漂ってきます><;
リアル描写もほどほどにしないと、夢ぶちこわしですねえ…。
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