FC2ブログ

ココナッツ図書館 夜間書庫

スポンサー広告

スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



登録させていただいているサイト様
「山間の城の物語」に投票
 ↑現在連載中の「山間の城の物語」が気に入ったら、クリックして投票してください。
「乙女の裏路地」へ 「にほんブログ村 小説ブログ」へ
fc2ブログランキングへ投票 「十八禁恋愛私花集」へ
*Edit TB(-) | CO(-) 

王都の冒険者たち」
第三話 女の聖地

第三話: 女の聖地 10

2010.05.06  *Edit 

 雲ひとつない、初夏らしい晴天だった。
 大地を撫でるような穏やかな風が、重たげな麦の穂を優しく揺すっている。今年は麦の出来もいい。
 大地母神の古代神殿を抱える静かな村は、久しぶりの明るい話題に沸き返っていた。祝いの日に相応しい快晴で、これも女神の祝福に違いないと村人たちは口々に語った。
 街道沿いにあるこの村だが、王都から見て少し手前に大きな宿場町があることもあって、滞在する旅人の数は多くない。しかし大学の研究者や流浪の民をはじめ、伝説に詳しい人間たちが、大地母神の神殿跡を訪ねにくることもあった。旅人たちの中には、教会の教えを嫌い、古代に信仰されていた古き神々を崇める者が多いからだ。
 今日この日、村を訪ねてきたのは、流浪の旅芸人たちであった。それを見つけた門番の兵は、これも女神の導きではないだろうかと感激した。流浪の民が来る機会はそう多くない。それがこの喜ばしい日であるとは、偶然とは思えなかった。
 神殿に詣で、一晩の宿を請う歌姫の一行を門番たちは喜んで招き入れた。
 彼らは芸人たちを村の広場へと導いた。畑仕事に精を出していた村人たちは、何ごとかと農具を放り出して集まってくる。普段静かな村では、稀に訪れる旅芸人や詩人の類は、最大の娯楽であった。
 畑の間を通る道が全て集まってくる、村の臍とも言える広場に、概ね村人が集まったと見ると、門番の男は芸人たちを見やった。
「神殿を詣でる前に、ぜひここで演奏してみてくれないか。実は今日、ご領主様の館で慶事があるのだ。お前たちの腕によっては、ぜひ宴に招きたい」
「まあ。ご領主様の御前で?」
 一行を率いているらしい、髪を長い布で慎ましく覆った女が喜色を見せた。流浪の民らしい、派手な化粧を施した面差しは、しかし上品で美しかった。
 光栄ですわ、と答えた女は、すぐに連れている芸人たちに命じて、支度を始めさせた。
 荷物持ちらしき、色黒の大柄な男が担いでいた大型の背嚢を下ろす。一行の長である長身の女は、そこから光沢のある薄緑の絹のショールと、涼やかな音を立てる鈴を引き出した。
 もう一人の男が、背嚢から縦笛を取り出す。彼は手際よく、いくつかに分解された笛を繋ぎ合わせている。
 女の方は、やはり顔と髪を布で覆った、すとんとした細身の質素な服を着たもう一人の女に近づいた。長身の女が、絹のショールを小柄な女に手渡す。微かに頷いた小柄な女は、服と同じ、茶色の覆いを顔からどけた。
 真昼の光を反射させ、輝くような波打つ金髪が露わになる。色白の美しい少女だった。
 彼女は絹のショールを、日光を遮るように緩やかに髪に纏わせると、集まった村人たちに微笑みかけた。その右後ろに鈴を持った女、そして左の後ろに笛を持った男が並ぶ。
 門番は、歌姫は長身の女だと思ったが、この美少女の方がこの一座の花形に違いないと考えた。
 誰からともなく、演奏前の拍手が沸き起こる。
 小柄な男が笛を唇に当てると、物悲しいような旋律が流れ始めた。
 俯きがちになった長身の美女が、右手に握った銀色の鈴を振る。しゃらんという、美しい音色が、規則正しく音色を刻んだ。
 歌姫が優雅な足どりで一歩進み出る。

 もしも鳥になれるなら 今すぐあなたの元へ飛ぼう
 薔薇の中の薔薇と讃えられた 東の城に住まうあなた

 澄んだ、高く美しい声が、微風に乗って空へと流れる。
 主である騎士の若い妻に恋焦がれる、若い従士の歌だ。大抵は男が歌うことが多いが、こんな可憐な娘の声で聞くと、また違う趣があると、その場の人間は思った。
 悩める若者の心情を、切なげな笛の音に合わせて、娘は見事に歌い上げた。合間にしゃらしゃらと規則的な鈴の音が入る。笛の音と歌姫の美声だけで十分で、鈴の音は不要である気もしたが、村人たちは大いに演奏を楽しんだ。
 歌い終えて、娘が大きく礼を取ると、聞き入っていた村人たちは、割れんばかりの拍手と喝采を送った。
 歌姫は笑顔でそれに応えていたが、絹のショールを外すと、再びくすんだ茶色の覆いを被ってしまった。日焼けを嫌っているらしい。
「素晴らしかったぞ」
 門番は演奏を終えた彼らに駆け寄って労った。
「勿体無いことです」
 長身の女が伏し目がちに答えた。
「私についてきなさい。ぜひ領主様にお目通りしてもらいたい」
 芸人たちは、当然のように門番の提案を快く受け、荷物をしまうと、彼について歩き出した。
「お祝いとは、どんなことですの?」
 門番について歩きながら、女が尋ねた。やや低い、掠れた声だったが、流浪の民にしては、言葉遣いも美しく、訛りも少ない。
「ご領主様のご結婚だ」
「まあ、おめでたい」
 女はひときわ甲高い声を上げた。女というものは、赤の他人のことでも、結婚となるとはしゃぎたがるものだと、そろそろ中年になる門番は思った。
「すみませんが」
 村の奥、小高い丘の上に聳える領主の館を目指す間、一行の最後尾を歩いていた荷物持ちの男が口を開いた。
「宿はありますか? ご領主様にお会いする前に、できればこのでっかい荷物を置いておきたいんですが……」
「宿はない。大きな農家の離れに泊まってもらうか、お前たちの演奏次第では、今夜は館の離れを借りることもできよう」
「ご領主様の館ですか?」
 驚いた声を上げる男に、門番はぞんざいに頷いた。
「勿体ないお話です。ご領主様のご婚礼となれば、他にお招きされているお客様もおられましょうに。私たちのような卑しい芸人風情を、お館に滞在させていただくなど」
 長身の女は、芝居がかった仕草で色っぽい溜め息をつき、首を振った。
 門番は憂いを含んだような、女の色白の顔を見下ろす。歌姫と比べればとうが立っている。恐らく二十歳は超えているだろう。未亡人かもしれない。演奏の間、鈴を振っているだけだったこの女の仕事は、恐らく売春だろうと門番はあたりをつけた。旅芸人には珍しいことではない。
 無論、今夜花嫁を迎える領主には不要のものだが、閉ざされた村で、くたびれた妻以外の女と関係を持つことは難しい。
 彼は緩んでいく口元を必死に引き締めた。
 美しい女だ。いくら必要か分からないが、できれば今夜相手をしてもらえないだろうか。
「村に来た芸人や旅人は、いつもご領主様のお館へ招かれているのですか?」
 門番が下心をもって女を眺めていると、不意に女が相好を崩して彼を見上げた。男の鼓動はらしくもなく高鳴る。
「ああ……大体はそうだ。見ての通りの村で、旅人が珍しいのだ」
「あら、じゃあ、私たちの他に旅の方はいらっしゃらないのかしら」
「いない」
 門番は、女の青灰色の瞳から目を逸らせずに、首を振った。この女、先ほどからずっと自分を見ているが、もしかしたら気があるのかもしれない。彼はそう思った。
 女は彼の思惑に気づいたかのように、艶然と目を細めた。

BackNext


ネット小説ランキング>【R18部門】>王都の冒険者たち

 ↑ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。


登録させていただいているサイト様
「山間の城の物語」に投票
 ↑現在連載中の「山間の城の物語」が気に入ったら、クリックして投票してください。
「乙女の裏路地」へ 「にほんブログ村 小説ブログ」へ
fc2ブログランキングへ投票 「十八禁恋愛私花集」へ
*Edit TB(-) | CO(1)

~ Comment ~

RE:拍手お返事 >Kさん 

拍手、ありがとうございます!

憂いを帯びた厚化粧の美女…ノリにのって色仕掛けしてますね(笑)
こういう田舎のくたびれたオジサンだと、すぐ引っかかっちゃいそうです。

正体を知ってもいい! 顔が綺麗ならいい! …という人もいそうですね^^;
逆に、○○○とやるぐらいなら、どんなブサイクでも×××の方がいい、という人もいるようです。
(何のことやらサッパリ…)

一話のような怒涛(?)のアクションはありませんが、ちまちまと収束させていきたいと思います。
ありがとうございますー。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。