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王都の冒険者たち」
第三話 女の聖地

第三話: 女の聖地 14

2010.05.20  *Edit 

 可憐な歌姫を華に据えた旅芸人たちが、遺跡のある村を訪れた日より遡ること三日。

 旅人や流浪の冒険者、傭兵が集まる、王都の南の猥雑な地区に、錨を抱いた狐を模した、黒い看板が下がる古い宿がある。看板通り、『狐と錨』亭と呼ばれるその宿は、この地区では珍しく鼠や虫が少ない清潔な宿だが、料理がまずいことで有名だ。味にこだわらない鈍感な人間や、料理よりも清潔な寝床を重視したい女性の冒険者が常宿にしている。
 これまで給仕をしていた太った中年の無愛想な女に代わり、最近、新しい看板娘が入ったため、料理の味で敬遠していた輩が入り浸るようになった。まずい料理でも、可愛い娘に給仕してもらえば、おいしく食べられるらしい。
 人気者の娘がこまねずみのように動き回る食堂の隅で、四人の男たちが頭を突き合わせて話し込んでいた。
 周囲の客たちは、その切迫した異様な雰囲気に気づいていたが、荷物を盗まれた哀れな旅人か、葬式の相談でもしている男たちかと思い、関わりたがらなかった。また、彼らが宿の常連だと知っている他の常客は、男たちの誰かが失恋でもしたのだろうと噂しあい、それが四人の中の誰であるかという話題で、しばし盛り上がった。
 幸いなことに、当の男たちの耳には入っていなかった。


「正面から訪ねていっても、拉致があかないと思いますよ。警戒されるだけです」
 魔術師ギルドの使いとして遺跡の村を訪れ、領主に面会した上で、エミリーたちのことを尋ねる、そんな正攻法にはセルヴィスは真っ先に反対した。
 エミリーとプリシラが出かけてから六日が経った。彼女たちに同行しているシャムリーナが無事なのは、彼女と同じパーティーにいる魔術師が、魔術によって確認したとジェフリーは言っていた。
 傭兵と魔術師二人の手に負えないような、大規模な盗賊団に拉致された可能性も皆無ではないが、それよりは村に辿り着いた後、何かトラブルに巻き込まれて帰れなくなったということも十分に考えられる。人通りが多く、整備された北街道に大きな盗賊団が出れば、すぐに旅人たちの噂に上るはずだ。
 シーマスたちはそう仮定し、とにかく件の村に行ってみることにした。そこまでは決まった。
 彼らが話し合っているのは、その方法である。
 魔術師たちは訪れていないと返信を寄越してきた領主に対し、大学の使いだと名乗って、正面から訪ねるか、あるいは領主に邪心ありと仮定し、正体を偽って慎重に動くか。
 セルヴィスが勧めた通り、エミリーたちを探していることは隠して村に入る方がいいだろうと、シーマスも考えた。
 正面から訪ねていっても、しらを切られたらそれで終わりだ。次の手を打つ前に、相手を著しく警戒させてしまうだろう。
「でもさ」釈然としない顔でミクエルは呟いた。「領主がエミリーたちを捕まえているとしても、理由は何なんだろうね。大学とも交流があるってことは、旅の女の人をいきなり監禁したりするような領主じゃないんでしょ?」
「人格者らしいですよ。何年か前に、大学を訪れたこともありますし、寄付もしています」
 主観を混じえずに淡々とセルヴィスが答える。料理が片付けられたテーブルに頬杖をついたまま、シーマスは首を傾げた。
「どーだかねえ。人格者とか言われる人間に限って、裏ではロクでもない趣味持ってたりするじゃん」
「それはそうなんですけどね」
 セルヴィスは苦笑して、カップを手に取り葡萄酒を口に含んだ。
「大学の紹介状を持っていったエミリーたちが魔術師であることは、子爵も知っているはずなんです。魔術師を勝手に村に監禁したり、害を加えたりすれば、大学を敵に回しかねないことは分かっていると思うんですが……」
「わかんないだろ。領主が前後考えないバカだったら、村に来た旅の若い女を見て涎垂らして、何も考えずに……」
 調子に乗って喋っていたシーマスは、口を噤んだ。その先はあまり考えたくなかったからだ。
 捕まった女が辿る運命は決まっている。陵辱され、飽きれば殺されるのだ。嗜虐趣味を持つ男だったら、もっと悲惨な出来事が待ち受けているかもしれない。世の中には流血や生傷を見て興奮する人間もいる。
 王都に来る前にシーマスが住んでいた南の地域は、教会の勢力が弱いせいか、概して北より倫理観が薄い。地方領主の権力も強く、ひとたび暴君が領主となれば、止める手立てもなく、領民にとっては地獄の生活が始まる。旅の女子供が領主に捕らわれ、彼らの慰み物になることなどざらだった。
 王都周辺と北の地域は、貴族たちが現王室の縁戚で占められているためか、領主たちは信仰に厚く、高潔であることが多いらしい。しかし例の村の領主が例外でないとも限らない。
 暴君に捕まった哀れな旅人が辿る運命は決まっている。しかしシャムリーナはまだ生きているという。それならプリシラとエミリーも無事である可能性は高い。
 問題は時間である。早く動かなければ、手遅れになるかもしれない。
「正面から訪ねていけないならどうする? 行商にでも化けるか?」
 口を開いたルークは話題を変えた。この王都の食堂で、離れたプリシラたちの運命や、会ったこともない領主の意図などを想像していても仕方がない。できることをするしかないのだ。
「オレたちだけじゃねえ……ちょっと行商っつーには説得力ないんじゃないの」
 シーマスは肩を竦めた。
 商売柄、体格のいい強面が多い冒険者たちの中で、シーマスたちのパーティはやや異質である。力仕事や荒事に耐えられそうなのはルークだけで、シーマスもミクエルも小柄な体格だし、セルヴィスも痩せている。他二人は女性である。他の同業者からは、シーマスたちは『ウサギちゃん一家』などと陰で揶揄されているらしい。冒険者や傭兵の集団には見えないということだ。
 言いたい連中には言わせておけばいい。陰口は構わないが、たとえば行商などに変装するには、やや都合が悪い。
 普通、行商は商人の他に荷物持ちが数人ついているはずだが、ルークはともかく、シーマスやミクエルが荷物持ちだというのは無理があるだろう。領主に怪しまれては意味が無いのである。
「では旅芸人はどうでしょう? 流浪の民は古代の神を信仰する者も多いですし、村を訪れるにも不自然ではありませんよ」
 葡萄酒を飲み干したセルヴィスが、空になったカップを置きながら、明るい声で言い出した。シーマスは彼に視線を移しながら、再び首を傾げた。
「あ~、いい考えだとは思うけど、旅芸人ったって、あんたたち芸できるの?」 
「私は何ひとつできませんよ」
「……なに威張ってんだよ。ミクエルは?」
 シーマスに顔を向けられた少年は、困った顔で首を振る。
「お金を取れるような芸なんかできないよ」
 詳しく聞いたことはないが、ミクエルが属する修道会は、巡礼を積極的に繰り返し、同じ立場の信者に教えを説いて保護をする役目もあるらしい。
 従って、身の回りの雑事はひと通りこなせるし、彼らの中には、へたな傭兵より武術に長ける者もいるという。
 ミクエルも王都に来る前から、方々の聖地を旅していたらしいが、生憎芸人の真似事などは身につけていないようだ。
 シーマスはルークに視線を移した。青年は無言で肩を竦める。ルークが歌や踊り、演奏や手品もできないことは、昔から知っていた。剣と格闘の道一筋なのである。
「あなたは何かできるんですか?」
「笛ぐらいなら」
 セルヴィスの問いに、シーマスは短く答えた。
 王都に来たばかりのまだ幼い頃、同じ立場の孤児たちと組んで、広場で大道芸を見せていた。子供が金を稼げる、数少ない手段である。必死で練習したおかげで、シーマスの笛は、仲間内で最も上達した。
 もっとも、盗賊ギルドに入ってからは、聴衆から小銭をもらうよりも、集まった彼らの財布をすりとることが主要な仕事になっていったのだが。
「それなら、笛と歌だけでやってみましょうか」
 セルヴィスは男たちの顔を見渡した。ぬるい麦酒の入ったカップを取り、シーマスは眉を寄せてみせた。
「歌って、誰が歌うんだよ。へたな楽器より難しいんだぜ。素人じゃ……」
「まあ、聞いててください」
 渋い顔のシーマスに、魔術師は笑顔を返した。
 彼は左手にしている指輪を外し、それを木のテーブルにこつこつと打ち付け始めた。瞼を閉ざした顔から、表情がすっと消える。
 集中を始めているのだ。


 女の声が聞こえる。
 囁くように旋律をなぞる声は、高く澄んでいて、美しい響きだ。
 シーマスは周囲を見渡したが、近くには酒を飲みながら猥談に興じる男たちしかいない。食堂の中で、女の姿は給仕のアデラしか見当たらず、動き回っている彼女が歌など歌っている様子はない。
 セルヴィスの魔術か。
 視線を魔術師に戻す。彼は相変わらず手にした指輪でテーブルを小さく規則的に叩きながら、口を引き結んでいる。
 幻術は視覚だけではない。他の五感に訴えかけるものも作れる。優れた幻術使いになると、触れた感触や匂いすら再現することができるという。セルヴィスは術を使って、美しい女の歌声をこのテーブルに響かせているのだ。
 ルークとミクエルもそれに気づいたらしい。
「きれいな声だね」
「これなら確かに、ちょっとしたものだな」
 シーマスも彼らに頷いてみせる。王都にいれば、広場や宿で芸人の歌を聞く機会は多いが、この幻術ほど美しい歌声にはなかなか出会えないだろう。
「……他にもできますよ」
 目を閉ざし、集中を続けたまま、うわごとのようにセルヴィスが呟いた。
 と、楽器の音のようだった女の声が、一転して低い男の声へと変わる。張りのある深い響きの、壮年の男を思わせる声だ。細くてやや高いセルヴィスの声とは全く異なる。男の声が戦乱時代の七王国の物語を歌い始めた。
「これもいいねえ」
「セルヴィスにこれを使ってもらって、ルークが歌っている振りをすればぴったりじゃないかな」
 術に集中しながらも、シーマスたちの褒め言葉が聞こえたのか、セルヴィスは再び声を変えて、今度はあどけない幼女の歌声を響かせ始めた。
「ガキの声もできるのかー」
「すごいな」
「……他にも、色々とできます」
 術を操っているセルヴィスは無表情のままだったが、声に得意そうな響きが混ざった。彼は続いて、朗々と愛を語る青年の声、市民に訴えかける権力者らしい男の演説、古代王国の伝説を語る老人の声など、次々に披露してみせた。
 幻術を構成する技術もさることながら、これほど豊富な声や音を再現できるセルヴィスの正確な想像力も大したものだ。
 今度は夫を失った悲嘆にくれる女の泣き声を聞きながら、シーマスは内心、本気で感嘆した。変人でも魔術の腕は確かである。
『あん……あっ、いやっ。そこ……』
 突如響き始めた甘い女の声に、シーマスは目を剥いた。酒を飲んでいたルークがむせる。
『ああっ、お願い、そこ、もっと……』
 若い女の悩ましい声は、格別それまでの幻術より大きかったわけではないが、近くで女の話で盛り上がっていた男たちが、こちらに顔を向ける。女の泣き声は耳に入らなくても、喘ぎ声はよく聞こえるらしい。
『あああああん……! もうだめっ……』
「やめろ、バカ」
「う」
 延々と嬌声を再現し続けるセルヴィスの頭をシーマスは平手で叩いた。
 小さくテーブルを打ち続けていた指輪の動きが止まり、眉をしかめながらも集中から覚めたセルヴィスが目を開ける。
「集中している時に乱暴はしないでください」
「アホか、バカ。怪しい上に恥ずかしいだろ」
 不満げなセルヴィスにシーマスが目を吊り上げて言い返すと、彼は心外そうに呟いた。
「あなたが喜びそうだと思ったんですけどねえ」
「よけーなお世話だよ。時と場所考えろ」
 シーマスの言っていることは全く正論だったが、セルヴィスは釈然としない顔で指輪をはめなおした。
 その間、シーマスは振り向いた隣のテーブルの男たちに、「あ、何でもないす。手品の練習」などと愛想笑いを振りまいてごまかしておいた。魔術師など王都では珍しくないが、宣伝して回って良いことはない。
「まあ、とにかく」気を取り直して、何とも言えない顔でルークが口を開いた。「今の術を使えば、そこそこの旅芸人には見えそうだな」
「女の声も出せるなら、丁度いいよ。神殿には女しか入れないっつってたから、男だけで村に行くわけにいかないからな」
「誰か女の人を雇って、歌姫の振りをして一緒に行ってもらうの?」
 ルークの言葉に頷くシーマスに、ミクエルが尋ねた。少年の普段通りの穏やかな表情に、一瞬だけ不安がよぎるのが見えた気がした。


「ねえ、見て。カワイイ~!」
 アデラの甲高い声がシーマスたちの耳を打った。彼らは一斉に食堂の裏口へと顔を向ける。宿の主人や給仕が住む一階の奥から、アデラに押し出されるようにして、渋い顔のミクエルが歩いてきた。
 隣に座って酒を飲んでいたルークが身を乗り出すのが、シーマスの視界の端に見えた。首を捻って真後ろを振り向いたセルヴィスも「はあ~」などと感嘆の声を上げている。
 驚いた。
 薄化粧を施し、淡い藤色のショールで髪を覆い、町娘が身に付けているような長いスカートを履いたミクエルは、初々しい年頃の少女にしか見えなかった。
「すごい……」
「女にしか見えない」
「夢見る中年男が涎を垂らして喜びそうな清純さですねえ」
 シーマスたち三人が声を揃えて褒め称えても、情けなさそうな顔のミクエルは微笑みひとつ見せなかった。 
 出発前にエミリーが、古代遺跡は男子禁制であったと語っていた。そんな村を訪れるのに、男だけではやや不自然だろう。セルヴィスが幻術で女の声も再現できるなら、女を混ぜた旅芸人に変装する方が、現地でも動きやすいはずだ。
 別の女冒険者を雇うより、彼らにはいい方法があった。
 食堂の営業が終わる頃、シーマスたちはアデラを捕まえて、ただ一人、この計画に大反対しているミクエルに、化粧をして女装させてくれと頼んだのだ。
 裕福な王都では、貴族や娼婦以外の客商売の女も化粧をしていることが多い。アデラもそうだ。
 彼女は何故かふたつ返事で嬉しそうに引き受け、ミクエルを伴って、食堂の裏口から、自分が寝泊りしている部屋へ消えたのだった。  
 四半刻ののち、アデラの私物らしい女物の服を着て現れたミクエルは、シーマスたちの想像以上に可憐であった。元から少女めいた繊細な顔立ちだが、服装さえ整えれば貴族の娘だと言っても通用するくらい気品にも溢れている。
「よし、これで行こう。歌姫と演奏者たち」
「よくないよ……」
 シーマスの声に、一同は頷いた。ミクエルだけは不満そうだったが、黙殺された。
 ミクエルには歌姫を装ってもらい、セルヴィスが幻術の歌声を響かせる。
 術に集中するために、彼は触媒を使わなければならないが、銀の鈴を調達することになった。それで先ほどのように、一定のリズムで音を刻みながら、魔術師は精神の世界での集中を続けることができるらしい。
「俺は荷物持ちしかできることがないな」
 心なしかやや残念そうにルークが呟く。シーマスは首を傾げながら言った。
「太鼓でも叩くか? リズム取るくらいなら、お前でもできるだろ」
「いえ、やめておいた方がいいでしょう」セルヴィスが溜め息と共に首を振る。「どこからボロが出るか分かりませんからね。同じように旅芸人に変装して怪しい村に潜入した冒険者たちが、太鼓叩きがへたくそすぎて、正体が露見してしまったという伝説を聞いたことがあります」
「何それ。聞いたこともねーよ、そんな伝説……」
「とにかくルークは荷物持ちに徹してもらった方が無難です」
 自分がこまごまとした芸に不得手であることは承知しているルークは、セルヴィスの言葉に黙って頷いた。
「面白そうね~」
 ルークが飲み干した麦酒のお代わりを持ってきたアデラは、目を輝かせて言った後、表情を変えて肩を竦めた。
「あ、ごめんなさい。女の子たちの行方が分からないっていう時に……」
 『狐と錨』には、シーマスたちのような冒険者や傭兵、旅人が主な客だ。船乗りが入り浸る宿ほど柄が悪くはないが、お世辞にも上品とは言えない。そんな店ですすんで働いているアデラも、冒険者のような無頼の生活に興味はあるらしい。
「気にしなくていいよ。悪いことばっか考えてたら、やってらんないからな」
 シーマスが穏やかな声で答えると、好奇心旺盛な給仕娘は微笑み返した。彼女は近くの椅子を引っ張ってきて、シーマスたちの輪の外側に腰を下ろす。
 既に宿の主人夫婦は後片付けも終えて、奥に引っ込んでしまった。食堂の中の明かりもあらかた消され、シーマスたちのテーブル近くにある燭台だけが小さな炎を灯している。二階の宿に泊まっているので、シーマスたちは食堂を閉めるこの時間まで飲んでいることも少なくないが、客が完全に引けた後の、酒と食べ物の匂いを残した食堂は、こんなに広かったのかと、いつも軽い驚きを覚える。
「私もついていけたら、一緒に行きたいんだけどねー。お店を放り出すわけにもいかないし……」組んだ足の膝に頬杖をつきながら、アデラは呟いた。「私、昔は旅芸人一座にいたのよ。横笛吹いてたの」
 アデラの屈託の無い独特の雰囲気に、シーマスは合点がいった。彼女が無頼の人間に好意的だったのは、自身が流浪の人間だったからなのだ。
「気持ちだけで嬉しいよ。村では何があるから分からないからね」
 暗に現地での危険を匂わせて、苦笑しながらルークが答える。
「でも旅芸人の振りをするなら、女が多い方が怪しまれないと思うけど」
「もちろん、そうです」
 アデラの言葉尻に被せるようにセルヴィスが声を張り上げた。  
「歌姫一人が男に囲まれているのは、いかにも胡散臭く、不潔な感じがするでしょう。仕方がありません。そこで、私も女に化けましょう。アデラ、私にも化粧を施してもらえますか?」
 ごほっと、再び麦酒を飲んでいたルークがむせた。アデラが僅かに顔を顰める。
「え、あなたも……?」
 真面目くさった表情でセルヴィスはひとつ頷いた。
「そうです。ルークやシーマスを女装させても、出来の悪い冗談にしかならないでしょう。私しかいません」
「おーきなお世話だよ……」
 先ほどから沈んでいるミクエルを見ると、喜んで女装したいなどとは思えないが、釈然としない思いでシーマスは呟いた。
 アデラはセルヴィスの細面を眺めながら、「うんと化粧を厚くすればいけるかもしれないわねえ」などと言った後、──ミクエルの時とは違い──微妙な顔つきでセルヴィスを伴って、再び自室へと姿を消した。
 古の森の民の血を引くセルヴィスは、年齢よりかなり若くは見えるが、いい年である。目鼻立ちは整っているものの、ミクエルのような見事な出来にはならないのではないか。 
「……なんで、あいつあんなに嬉しそうなんだろ」
「さあ。知らないし、考えたくもない」
 二人の後姿を見送った後、シーマスはぼそりと呟いたが、ルークが冷淡な答えを返してきただけだった。


 結局、衣装の調達までアデラに付き合ってもらい、彼女はミクエルとセルヴィスを見事な『女性』に仕立て上げてみせた。セルヴィスを妖艶な美女に化けさせたのは、ひとえに彼女の化粧の腕だろう。元旅芸人だというから、化粧の技術も持っていたのだろうが、もしかするとアデラは娼婦として働いていたこともあるのかもしれないとシーマスは思った。無論、そうだと仮定しても、彼女に対する興味が褪せることはなかった。
 翌日の昼、小道具まで揃えたシーマスたちは、遺跡の眠る村へと出発した。

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~ Comment ~

 

いつも楽しみにしています。シーマスも好きですが、一度想い人ルークとエミリーのラブシーンもみてみたいです!コヨーテの時は悲しい終わりでしたので、今回はエミリーに幸せになってほしいです!

これからも頑張ってください!

RE: 5/20に匿名でコメントくださった方 

コメント、ありがとうございます!

シーマス、いやな奴ですが(笑)、気に入っていただいてありがとうございます。
いいとこばかりのルークは、この後もカンペキ男でいられるでしょうか…。
エミリーとの仲も微妙な感じですね^^ 今のところ、完全に妹か娘扱いです。

もう少し続きますので、またお暇な時に目を通していただけると嬉しいです。
『魔女とコヨーテ』も読んでいただいたのですね。
ありがとうございます~m(_ _)m

RE:拍手お返事 >5/22に匿名でくださった方 

拍手、ありがとうございます!

ミクエルを気に入っていただいて、ありがとうございます!
豹変系人種は、私も大好物です(笑)

セルヴィスは一話では何だかよく分からない役回りでしたが、二話ではそれなりに存在感出てますでしょうか。
頭の良い人って、どこか「ダイジョーブか?」と思わせるところがありますよね^^;

彼が恋愛する時は、相当なドタバタ喜劇になるか、純文学的恋愛になるかのどちらかでしょう~(笑)
恋愛…かどうかは分かりませんが、いずれ彼が主役の番外編を掲載するつもりです。
…かなり…先になると思いますが><
覚えていていただけたら、読んでいただけると嬉しいです。

その前に本編続きを頑張ります! 
ありがとうございました~。
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