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王都の冒険者たち」
第三話 女の聖地

第三話: 女の聖地 17

2010.05.30  *Edit 

 小窓からの星明りが僅かに差し込んでいるが、影の明暗が分かる程度だ。視界はほぼ闇に包まれている。
 ルークは廊下を壁伝いに慎重に進んだ。
 外から見た限りでは、上階ほど狭くなっているように見えた。下の階が上の階を支える構造だ。最上階であるこの部屋は、一階に比べれば狭いはずだ。
 時折壁に触れながら、足音を殺して歩いていた彼の手が、石の壁と異なる感触を捉えた。
 扉だ。
 ルークは壁から背を離し、扉に向き直ると、慎重に手先を動かして取っ手を探した。部屋の中に人間がいると仮定すれば、扉越しに物音を立ててはならない。
 やがて彼の手は金属の取っ手を探り当てる。静かにそこを握りながら、扉に耳を押し当てて、中の物音を聞いてみた。
 何も物音はしない。微かに聞こえてくる低い呟きのような声は、階段近くの部屋に残してきたセルヴィスの呪文だろう。木の扉の向こうからは静寂しか返ってこない。
 声も立てずに、誰かが中にいるのだろうか。
 ルークは意を決し、右の腰から短剣を静かに引き抜くと、取っ手を慎重に捻ってごく僅かに押した。

 扉が開き、空気が揺れる。微かな音だったが、ルークは内心息を呑んだ。
 開いた隙間からは、明かりは漏れてこない。物音、息遣いもしなかった。
 彼はそのままそろそろと扉を開き、部屋の中を覗き込んだ。反対側の壁には鎧戸を閉じた小窓がある。隙間から、外でまだ焚いているらしい篝火の光が、筋となって細く差し込んでいる。既に暗闇に十分に慣れていたルークには、その僅かな光で室内が見渡せた。
 右手に大きな暖炉、正面の壁には背の高い衣装棚が設えてある。手前の壁側に書き物机と本棚があった。壁を包む濃い影はタペストリだろう。広さや調度からして、それなりの身分の人間の部屋だと考えられる。恐らくは領主の自室だろう。
 室内に人影は無かった。
 左手に扉がある。続き部屋になっているようだ。
 ルークは引き続き足音を殺して慎重に近寄りながら、耳を澄ませた。領主がいるならこの奥の寝室に違いない。そして彼の妻とさせられるエミリーも一緒にいるだろう。
 彼女の悲鳴などは聞こえない。全て終わってしまい、嘆いている後なのか、恐怖に声も出せずにいるのか、あるいは……。
 扉に歩み寄る数歩分の僅かな間に想像を巡らせる内、あの幼い──彼にとっては──エミリーが、壇上に悠々と座っていた領主と絡み合う場面が浮かんだ。慌ててその想像を頭から締め出す。
 演奏に参加していなかったルークは、村人や領主を観察する時間が十分にあった。
 そこかしこで男女の喘ぎ声が聞こえてくるまでは、村は主の結婚に沸き、素朴で陽気な祭りを楽しんでいるだけに見えた。
 領主だという若い男も温厚で理知的な風貌で、想像とは随分違っていた。話し方や態度も、威厳を備えながらも尊大ではなく礼儀正しい。普通の町娘が彼に求婚されたなら、夢にも等しい僥倖だろう。
 しかしエミリーの場合はどうだろうか。
 十六歳といえば、結婚していても全くおかしくはない。貴族や地方の農村なら、既に子供も一人や二人いるだろう年頃だ。
 だがエミリーの場合は、恋人がいるような様子もなければ、男に恋焦がれている様子も無い。勿論、ルークが気づいていないだけかもしれないが、彼が見たところ、彼女は恋愛というものにまだ興味が薄そうに見える。
 それともそれは願望だろうか。
 エミリーも年頃だから、早く恋人ができるといい。プリシラはよくそう言っている。それを聞いたエミリーは、曖昧に笑うだけだ。
 年頃なのは分かる。だがルークとしては、彼女に安易な恋愛に走って欲しくなかった。エミリーを大切にする、誠実な男と愛し合い、末長く幸せでいてほしい。
 ほとんど父親の心境である。
 普段から地味な格好をしているエミリーは、洗練された女が好まれる王都では、男が群がるほどの関心は引かないらしい。
 だが宿や食堂に出入りしている連中の中には、若い彼女に好色そうな視線を送ってくる者もいる。一人にしておけば、たちどころに言い寄ってくるに違いない。気の弱いエミリーははっきりと断れないだろう。心配で目が離せない。
 親切心や責任感だと言えば聞こえはいいが、それは自分が彼女やミクエルの為に、何かを施したい、そして彼らに感謝されたいという、慢性的な優越に浸りたいだけかもしれない。
 それとも償いなのか。
 エミリーが男に惚れることがあれば、彼女はまず恋人を頼るだろう。ルークやプリシラは二の次だ。想像すると、うすっぺらい淋しさがじんわりと湧いた。

 目の前に寝室の扉が迫る。僅かな距離の間にめまぐるしく駆け巡った思考を中断して、ルークは扉の向こうに集中した。
 彼は部屋に入ってきた時と同じように、体重をかけすぎないように注意して、扉に耳を押し当てると、内部の音に耳を澄ませた。
 何も聞こえない。
 エミリーが一糸纏わぬまま、あの若い領主の腕の中で眠っているところなど想像し、ルークは眉を寄せて再びそれを追い払った。
 もしも彼女が本当に領主に惚れ込んで、結婚を望んでいるなら。
 取っ手に静かに手をかけながら考える。
 祝福してやるしかない。反対する理由は無いのだ。
 苦い諦めを押し殺し、ルークは息をついて目の前のことにもう一度集中しようとした。
 宴の最中の様子を見る限り、エミリーが望んだ結婚だとは思えない。終始俯いていた彼女が、愛する男性との結婚を目前にして、はにかんでいるだけには見えなかった。プリシラたちの姿が無かったことからしても、彼女たちを人質に取られていると考えるのが妥当だろう。
 抜く際に音を立てる長剣は鞘に納めたまま、抜き身の短剣だけを左手に握って、ルークは扉の取っ手に手をかけた。
 緊張が指先から這い上がる。
 音を立てないよう、細心の注意を払いながら扉をそっと押した。
 僅かに寝室の空気が流れてくる。心臓がどくんと跳ね上がった。
 その時彼は、自分が恐れているのは、扉の向こうで待ち受けているかもしれない領主の刃ではなく、エミリーが彼の助けを拒むことなのだろうかと、一瞬だけ考えた。

 寝室は薄闇の下にあった。
 右側の壁に、居室と同じような小窓があり、そこから微かな明かりが差し込んでいる。
 大型の寝台はその真下にあった。
 誰の姿もない。
 エミリーはもちろん、領主の姿も無かった。
 居室よりやや狭い室内には暖炉、衣装棚といくつかの物入れがあったが、人がいる気配はどこにもない。
 ルークは扉をくぐり、完全に室内に踏み込んだ。僅かに木の扉が軋んで、甲高い音を立てる。
 まずいと思ったが、室内からは何の反応も無かった。
 慎重に踏み出しながら、彼は短剣を腰に納め、長剣を抜いた。木張りの床が、固い長靴の底を受け止めるたび、ごく微かな音を立てる。
 彼は寝台を改め、衣装棚や物入れの陰を覗いた。だがやはりそこには誰もいなかった。


 *****


 重い。額の奥に鉛でも詰められたようだ。意識がいつもより遠いところにある気がする。
 衣擦れの微かな音が耳に入ってくる。 
 どこだろう、ここは。今、何をしているのだっけ。
 霞んだ意識の中でぼんやり考えていたエミリーは、ようやく目を開けた。
 仄暗い、優しい闇に包まれた空間だ。頭の上に広がるのは夜空かと思ったが、徐々にそれが黒い石材でできた天井だと分かる。夜に包まれたようなその場所の端に、小さな明かりが灯っていた。
 炎が爆ぜるように、突然エミリーはそれまでの出来事を思い出した。
 慌てて身を起こす彼女の前に、熱い明かりが近づく。照らし出されたのはイーノックであった。右手に蝋燭を三本灯した、豪華な燭台を手にしている。
「エミリー。よかった、目が覚めたか」
 若い領主は美しい形の瞳を細めて相好を崩した。
 記憶をたぐった彼女は、意識を失う前までのことを思い出した。宴の最中だった。ルークたちが旅芸人の扮装をして目の前に現れ、その後逡巡しているうちに意識が遠のいていったのだった。先日、食事の最中にこの領主に捕まった時とよく似ていた。また薬を使われたのだろうか。
 エミリーの瞳に浮かんだ不審を読み取ったのか、イーノックは苦笑いして言った。
「すまないね。宴の後、婚姻を結ぶまで、君には眠っておいてもらおうと思ったんだ」
「では、食べ物に薬を入れたのですか」
 イーノックは悪びれもせずに頷いている。やはり彼は倫理の一部が大きく欠如しているのだと、エミリーは悲しくも腹立たしくも思った。
 それにしてもここはどこだろう。
 エミリーは周囲に素早く視線を走らせる。
 彼女はどうやら床の上に敷いた分厚い布の上に寝かされているようだ。起毛した厚い絨毯は、上質の大陸産の物と思われた。壁は天井と同じ、黒っぽい石が積み上げられている。イーノック以外の人間の姿は無かった。
 反対側に目を向けた時、エミリーは微かな戦慄と共に、ここがどこなのか知った。赤黒い柘榴石でできた等身大の女の彫像によく見覚えがあった。

 いつの間に神殿に連れてこられたのだろう。
 そんなことを考える間に、屈んでいたイーノックがエミリーの前で膝をついた。彼は手を伸ばし、彼女の淡い金髪をひと房手に取ると、その毛先に優雅にくちづけした。
「エミリー」彼女の髪を玩んだまま、イーノックは微笑んだ。「分かるね? 私たちはこれから夫婦となるのだ」
 エミリーは全身を強張らせた。
 普通、夫婦となるのは、神の前でそれを誓った時だ。だがこの場の面妖な雰囲気、イーノックの瞳の奥に透けて見える熱い感情から、エミリーは彼が言わんとすることは、儀式的な意味ではなく、もっと生々しいことを差しているのだと、ほとんど本能的に察知した。

 イーノックは彼女の体を拘束していたわけではない。逃げようと思えば逃げられたはずだった。
 しかしエミリーは立ち上がることはせず、イーノックの目を見つめながら首を振った。
「イーノック様、お待ちください」
 彼女は目の前の男を睨むこともしなかった。
 例えば彼が欲望を剥き出しにして、力づくでエミリーを組み敷き、言うことをきかせようとするのなら、エミリーは立ち上がって悲鳴を上げ、逃げようとしただろう。
 しかしイーノックの薄い褐色の瞳には、エミリーに対する好意と興味しか映っていなかった。エミリーにはそれが害意であるとは考えられなかったのだ。内気で、自身が繊細である彼女は、自分に好意を向けてくる人間を拒絶することができなかった。
 洞察に長けた若者はそれに気づいている。そして少女の方は自身の性質も、それをイーノックに見抜かれていることも自覚できずにいた。力関係は圧倒的であった。
「エミリー、怖がらなくていい。大丈夫だ」
 イーノックは再びエミリーに向かって手を伸ばし、緩いくせのある髪を撫でると、手を滑らせて頬に触れた。
「そうではないんです」
 エミリーはもう一度かぶりを振る。この期に及んでも、彼女は自分に好意を持っている人間が、自分が嫌うことをするはずがないという、愛されて育った人間の無意識の思い込みに捕らわれたままだった。
「私には愛する人がいるんです。ですから……」
「今は関係ない」イーノックの冷たい声がエミリーを遮った。「君がどんなにその男を愛していようと、いずれ忘れなければならないのだ。君を生涯にわたって最も愛するのは、夫である私だけだ」
 頬に触れた手に力が込められたと思う間もなく、瞳を閉ざしたイーノックの顔が近づく。エミリーが驚きに目を見張っているうち、彼女の唇は若者の熱い唇で覆われた。

(やだ……キスされちゃった)
 一瞬遅れてエミリーは事態を悟ったが、突然起こった出来事についていけず、頭の中はただ驚愕に固まるだけだった。そうしているうちに、イーノックが左手で彼女の小さな背中を抱きよせる。
 青年の体温がぐっと近づいて、やっとエミリーは金縛りから解けた。ほとんど反射的にイーノックの体を押し返す。
「待って」
 少女の切羽詰った声は、それでも甲高く細い。イーノックには若い娘の可憐な恥じらいにしか聞こえなかった。
「エミリー」
 さらに熱っぽい瞳でイーノックは彼女を見つめたかと思うと、両手でしっかりと華奢な体を抱き締めた。馴染みのない人間の体温に包まれ、エミリーの体は緊張に強張る。
「もう待てない。私はずっとこの時を待っていたのだ。君に会うたびに衝動を抑えるのに苦しかった」
 イーノックの温かい吐息が耳と髪を覆う。エミリーの顔に血が上り、胸の奥が苦しくなった。心臓が早鐘を打つように弾む。
 エミリーが結婚を承諾するまで、塔の小部屋に閉じ込められていた時には、イーノックは朝と夜、食事時にエミリーを訪れ、何度も彼女を説得した。侍女と見張りの兵士しかいない小部屋で、イーノックは狼藉を働こうと思えば簡単にできたはずだ。しかし彼はシャムリーナを伴って現れるまでは、エミリーに丁重に接していた。
 だが紳士的な振る舞いの裏で、やはり彼女に対して欲望を感じていたのだ。
 何故かそれは不快ではなかった。屈辱も嫌悪も感じない。むしろ、心の奥底に生まれた感情は感銘に近かった。

 戸惑ううち、導くように顔を上げさせられて、イーノックの腕の中でもう一度くちづけを受けた。
 エミリーは首を振って頭を離そうとしたが、しっかりと頭を押さえられてしまった。
 乾いた唇が彼女の唇を啄ばむように僅かに動く。上唇の内側に濡れた、柔らかい物が触れた。苦い酒の匂いが微かに漂う。
 舌を受け入れてはだめだ。エミリーは思わず目を瞑り、歯を食いしばった。彼女の唇の中に入り込んだイーノックの舌は、宥めるように歯や唇の内側を撫でる。生まれつき内気で従順なエミリーは、反射的に目の前の男が望むことに従いたいとも思ったが、意志を奮い立たせて口を閉じながら、首を振り続けた。
「エミリー、力を抜いて」
 漸くイーノックは唇を離し、小声で言った。彼が側の床に置いた蝋燭の炎は、青年の瞳を照らしている。彼の瞳は情熱に潤んでいたが、声色はとても穏やかだった。
「いやです。待って」
 イーノックの優しい声から作り出される雰囲気に流されそうになりながら、エミリーはやっと拒絶の意志を口にした。床に手をついて後ずさり、その場から離れようとしたが、彼女の背中を抱いたままのイーノックがすかさず力を込めて、再びエミリーを抱き締める。
「待てないと言っただろう」
 もう一度、くちづけされる。イーノックの唇は次にエミリーの顎に触れ、喉にある女性のまろやかな丸みに音を立てて触れた。ごく軽くくちづけされただけなのに、一瞬、息が詰まってしまうかと思った。

 絹が滑る軽やかな音と共に、服の裾がたくし上げられた。衣装と同じ絹のストッキングを穿いた脚が空気に触れる。温かい掌が彼女のほっそりとした、しかし柔らかい太ももに触れた。
「いや……」
 捲れた服の裾を直そうとしたが、イーノックに腕を掴まれる。そのまま男に体重をかけられて、エミリーは上体を厚い敷物の上に倒した。
 まるで彼女の支配者であるかのように、真上に来たイーノックの顔が笑みを刻んだ。
「恥ずかしがらなくていい。君の一番美しい姿が見たいのだ」
 腿を撫でていた手が脚の上へと滑る。エミリーは大きく首を振った。
「イーノック様、待って。お願いです。心の準備ができるまで……」
「待てないよ、エミリー。この場で、女神の前で私たちは結ばれて夫婦となるのだ」
 エミリーは目を逸らし、視界の端に映る赤黒い女神の像をちらりと見た。何故かぞっとして、同時に心臓がさらに鼓動を早めた。下腹部がうっすらと熱くなる気がする。像はあくまで石の塊に過ぎないはずなのに、そこにもう一人人間が佇み、エミリーとイーノックを見つめているようだった。
 きっと逃げられない。この場でイーノックと交わるようなことがあれば、本当にこの村から出られなくなってしまう。
「いやっ。やめて!」
 突然、そんな予感にかられたエミリーは、今までにないくらいの激しい口調でイーノックを押し退けようとした。    
 イーノックも表情を変える。初めて彼の眉が寄った。
「エミリー。静かにしておくれ。怖がらなくていい。君は乙女ではないということだが、同じくらい大切に愛するよ」
「違う……いやなの」
 首を振ってイーノックを押し退けようとすると、両手を彼に掴まれた。
「エミリー。約束したはずだ。友人たちを王都に帰すことと引き換えに、君は私の妻になると」
 恐慌寸前だったエミリーはそれを聞いて、捕らわれているだろうプリシラたちのことを思い出した。彼女の手から力が抜ける。
 不可思議な力でイーノックに幻惑されたシャムリーナは、彼の言うがままだった。エミリーがここでイーノックを拒絶するなら、彼はシャムリーナに同じことをするだろう。いずれはプリシラにも手を伸ばすかもしれない。
 自分か友人か。エミリーは自己犠牲に溢れている性質ではないが、シャムリーナがイーノックに抱かれることは、自分がそうされるより残酷だろうと想像した。イーノックがシャムリーナに対して愛情を持っているとは思えないからだ。愛しても、愛されてもいない男に抱かれるなど、あまりにも彼女が哀れだ。
 しかしイーノックはエミリーのことは愛していると言っている。少なくとも一方向の愛はあるのだ。
(私さえイーノック様を愛することができれば、すべて収まるのかもしれない)
 冴え冴えとした若者の眼差しに捕えられ、エミリーの胸にそんな考えが去来する。
「いいね、エミリー」
 イーノックは表情を和らげ、彼女の手を離すと頬を撫でた。
 よくはない。
 だがそう答えることができず、エミリーは悲しみに戸惑いながら、イーノックを見上げているしかなかった。

 イーノックは腕を広げ、再びエミリーを抱き締めた。彼は取り立てて大柄でもないが、華奢で小柄なエミリーは腕の中にすっぽりと納まってしまう。
 軽く上半身を浮かせられ、背中でイーノックの手が動くのを感じる。後身頃の紐を解いているのだ。
(どうしよう……)
 混乱に襲われているエミリーの頭は、うまく働かなかった。確かにシャムリーナたちの身の安全と引き換えに、イーノックの求婚を承諾した。だが本当に彼の妻となっていいものだろうか。
 衣装の紐を解く間も、イーノックの唇はエミリーを安心させるように、額や目尻、頬に触れた。大切に慈しまれているような気がしてくる。
 背中の紐を解き終わると、イーノックは服を引っ張って、ゆったりと膨らんだ袖をエミリーの肩から抜き、腰まで衣装を引き下ろした。焦りや欲望を欠片ほども見せない、優雅といってもいいほどの動作だった。
 腰を持ち上げられ、足からすっぽりと衣装を抜き取られる。下に着ている胴着は袖が無く、膝丈の物だったので、腕や脛はむきだしだ。慎み深く育てられたエミリーは顔を赤らめた。
「君はなんてきれいなんだ」
 囁きながら、イーノックは彼女の額を撫でて前髪をどけた。再びくちづけされる。
 青年の右手が、胴着の上からエミリーの胸の膨らみをそっと押さえた。豊かな乳房の形を確かめるように、何度かそこを押さえた手は、やがて包むように揉み始める。
 顔がさらに熱くなった。エミリーは目を閉じて、羞恥と得体の知れない熱さをこらえようとした。

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~ Comment ~

RE:拍手お返事 >Kさん 

拍手、ありがとうございます~。

自信過剰の領主は、自分が嫌われるはずない、と思い込んでいるようです。幸せですねー。

まあ確かに、地位と金を持っている若い男性なら、女性に困ることはないんでしょうけどね、特にこういう時代…。
いや、不況の現代でも…(笑)

縫い物も一人でできないエミリーさんも揺れてます^^;
「誰からも嫌われたくない」という意識はあるでしょうね。
他人からの悪意に慣れていないので、極端に弱いです。

だからといって、おとなしくしていると、相手の思う壷なんですけどねー。
まごまご迷ってて「やっぱりイヤかも」と思った時には、既に手遅れという…。
一話の教訓が、まーったく活かされていないようです(笑)

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