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王都の冒険者たち」
第三話 女の聖地

第三話: 女の聖地 21

2010.06.13  *Edit 

 暖炉から領主の私室へと抜け出した三人は、本館を出て離れへと急いだ。
 既にエミリーたち以外の全員は、建物の陰の目立たぬ一隅に集まっていた。
 シャムリーナはエミリーに駆け寄ると、力いっぱい華奢な体を抱き締めた。
「エミリー、ごめんね。私がこの村に誘ったから、こんなことに巻き込んで……」
 エミリーも友人の体をしっかりと抱きとめながら、首を振った。イーノックに妙な暗示をかけられていたシャムリーナだが、正気に戻ったらしい。それが何よりだ。彼女があのままだったらと思うと、寒気がする。
「無事なの?」
 シャムリーナは、エミリーの顔を覗きこみ、囁くように尋ねた。エミリーも、彼女が尋ねたいことが分かった。イーノックの花嫁にされかけた、エミリーの貞操の心配をしているのだ。
「大丈夫。ルークたちが助けてくれた」
「……よかった」
 シャムリーナは大きく息を吐いて、もう一度エミリーを抱き締めた。
「エミリー」
 抱き締め合う少女たちの肩を、歩み寄ったプリシラがさらに抱く。エミリーはそっとシャムリーナの肩から腕を外すと、プリシラの背中に軽く腕を回した。彼女はどこで調達したのか、男物の服を着て、剣を腰に佩いている。
「プリシラ。無事で良かった。ごめんなさい、私、何もできなくて……」
「いいって。いいの。──それより、あんた、大丈夫なの? あのヘンタイ領主に何もされなかった?」
 プリシラは後半、声を潜めたが、元々彼女の声は大きい。周囲の男たちに聞かれないかと焦りながら、エミリーはかぶりを振って早口に答えた。
「大丈夫よ。あの……なんともない」
「良かった~。あいつ、絶対、なんか変な趣味持ってると思うのよね。あんたがあんなのに手ごめにされて、純潔を奪われたら大変だと思ってたんだ」
 恥ずかしくて答えることもできないエミリーは、首を何度も振って全否定しながら、思わずシーマスに一瞬だけ目線を飛ばした。背中を向けた彼はぴくりとも動かなかった。
「そろそろ行こう。早く村を抜けないと」
 やはり今の話が聞こえていたのだろうか、幾分気まずそうな表情でルークが声を掛けた。彼はエミリーから目を逸らしていたが、彼女はルークをまともに見ることができず、赤らんだ顔を伏せた。
 ルークがエミリーを助けに入ってくれたのは、下着まで剥ぎ取られてイーノックに押さえ込まれていた時だった。燭台はすぐそばにあったし、彼にはほとんど全裸を見られてしまっているのだ。思い返すと、顔から火が出そうだった。

 彼らは急ぎ、村を横切って門へと向かった。
 婚礼の祭りの最中であるためか、畑の中やら、暗がりで、妖しげな物音や息遣いが聞こえたが、エミリーたちが見咎められることはなかった。
 村の門にはさすがに門番が二人控えていたが、彼らも気が緩んでいたらしい。セルヴィスの術に簡単にかかり、幻惑されてぼんやりしているところを、静かに通り過ぎて門を開けた。


 彼らが村を脱出した頃には、夏至が近い初夏の短い夜は白み始めていた。
 できるだけ村から離れ、一刻も早く王都に入らなければならない。馬も持たない彼らは、そのまま夜明けの北街道を、王都へと南下した。
 比較的人通りが多い街道とはいえ、この時間では歩いている者などいない。隊商や馬車でも通りかかれば、同乗させてもらうこともできたが、石畳の上を歩くしかなかった。
 太陽が高々と上がり、抜けるような青空が頭上いっぱいに広がる。朝の空気が全て洗い流された頃まで歩いた後、汗ばむ一同に、ルークはやっと休憩を言い渡した。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
 それでも彼らは用心のため、街道から離れた潅木の中で、枝葉に紛れながら体を休めた。ほとんど一睡もしていない上に、長時間歩きづめだった彼らは疲労の極致にあった。見張りを立てる間もなく、誰もが泥のように眠った。


「起きろ!」
 男の鋭い声がエミリーの耳を打った。切迫した響きを感じ取り、エミリーは慌てて身を起こす。仲間たちも同じように体を起こしていた。
 声の主は既に立ち上がっているシーマスらしかった。彼の目線を追ったエミリーは、その場で目を見張った。
 彼女たちが歩いてきた街道の方角だ。何頭かの馬がこちらに首を向けて佇んでいる。
 まさか。
「追っ手か?」
 ルークが抑えた声でシーマスに尋ねる。
 通常、街道を乗用馬で疾走するのは、貴族と軍隊だけだ。王都の兵の見回りだったらいいが、イーノックが馬を出してきたとも考えられる。
「わかんねーけど……逃げた方が無難そう」
 振り返ったシーマスは、焦った仕草で手を振って、一同を街道の反対側へと促した。
「セルヴィス」
 歩き出そうとしたエミリーたちは、ミクエルの狼狽した声に足を止める。立ち上がりかけたセルヴィスが、突然膝を崩したのだ。
「大丈夫?」
「すみません……ちょっとめまいがひどくて」
 ミクエルに支えられながら、セルヴィスは懸命に立ち上がろうとしているようだが、足元が覚束ない。
「セルヴィス」
 エミリーも兄弟子に駆け寄り、ミクエルと反対側の腕を支える。
 恐らく魔術を使いすぎたのだ。昨夜は門を出る際に門番にかけただけではなく、演奏のために幻術を使っていたし、エミリーの知らないところでも他に行使していたに違いない。
「先行って」エミリーの手をどけて、ルークの長身が割り込む。「奥の林に逃げろ。馬じゃ入りにくいはずだ」
 だがルークがセルヴィスの肩を抱えようとした時、背後から大地を叩く蹄の音が響いた。
 馬だ。街道に止まっていた馬が全て、街道を逸れてまっしぐらにこちらへ向かってくる。街道からはかなり距離を取ったつもりだが、あっという間に騎兵の姿が近づく。追っ手がかかる可能性は考えていたが、馬を使ってくるとは思わなかった。
「そこの者、止まれ! 背後から撃ち殺すぞ!」
 馬上から男の一人が呼びかける。エミリーには非常に聞き覚えがあった。イーノックだ。
「おい、待て。止まれ。奴ら、弩持ってるぞ。本当にケツから撃ち殺される」
 走り出そうとする一同に向かって、シーマスが緊迫した声で告げた。誰もが足を止め、背後の追っ手を振り返った。馬上の男たちはすぐそばまで迫っている。
「頼む」
 一度抱えたセルヴィスの肩をミクエルに預け、ルークは仲間たちの間を縫って、彼らを庇うように前に出た。

 そのまま馬で突っ込んでくるかもしれないと、一同は体を緊張させたが、先頭の馬は速度を緩め、ルークの前で足を止めた。それに倣って、他の六頭の馬も止まる。
 先頭にいるのは、やはりイーノックであった。兜こそ被っていないが、鉄製の鎧を身につけ、剣を佩いて完全に武装している。背後に続く彼の配下も、同じようないでたちであった。
「貴様、旅芸人と思ったが、我が妻を奪いに来た不埒者であったか」
 馬上からイーノックは、傲然とルークを見下ろして言った。どうやら彼は、ルークこそがエミリーの恋人であったと誤解しているようだ。
 ルークは左手で剣の鞘を支えたまま、柄に手をかけることもなく、黙ってイーノックを見上げている。その隣に静かにプリシラが並んだ。
「エミリーを置いていけ。そうすれば、貴様らの罪は不問にしよう。だが、抵抗するなら、拘引かしの罪で、我が領地にて裁きを受けてもらうぞ。領主の妻の強奪は大罪だ。極刑だと思うがいい」
 沈黙を守るルークに、さらにイーノックが言い募る。彼の口上が途切れると、ルークは小さく笑って、初めて口を開いた。
「──歯は治ったか?」
「なに?」
「俺がへし折った歯はどうした? ありあまる金で、高級差し歯でも埋め込んだのか?」
 ルークの隣で、プリシラが小さく吹き出す。イーノックの顔が朱に染まった。
 敵に対しても、ルークがこんな皮肉を言うなんて珍しいとエミリーは思った。冷静な彼は、無闇に相手を挑発することはしない。
「貴様……下郎が」
「馬から下りろ」
 吐き捨てるイーノックに対して、動じない声でルークは言い放った。彼は右手を剣の柄において、滑らかな動作で長剣を抜く。
「なんだと?」
「エミリーはまだお前の妻じゃない。彼女を強奪しようとしているのはお前だ。馬上から部下を連れて威張り散らしていて、恥ずかしいと思わんのか。人ひとりの人生を、自分の思うままにしようっていうんだ。貴様自身の命をかける覚悟はあるんだろう」
 よく響く低い声が、森閑とした潅木地帯に響き渡った。エミリーたちを常に安堵させ、向かい合う者たちを威圧するルークの声は、いつ聞いても頼もしいと、その場の誰もが思った。
「それとも、そんな度胸も無いか? お貴族様は鎧を着せてもらうだけしか能が無いかな」
 ルークはイーノックの矜持に訴えて、どうにか一騎打ちに持っていこうとしているようだ。確かに、武装した騎兵七人と、冒険者七人では分が悪い。こちらには魔術師が三人いるが、セルヴィスは困憊しているようだし、騎乗している相手では、距離をあっという間に詰められて、術を使う暇もない。イーノックとルークの対決になるなら、時間も稼げるし、勝算も高い。    

「ふざけるな」
 しかしイーノックは挑発には乗らなかった。
「盗人たけだけしい。貴様らこそ我が妻を強奪した犯罪者ではないか。私が手を下さねばならない理由などない」
「イーノック様」
 エミリーは精一杯か細い声を張り上げた。馬上からイーノックの視線が突き刺さる。しかし怯まずに彼女は続けた。昨夜シーマスに睨まれた時に比べれば、イーノックの眼差しなど何でもない。
「彼の言うとおり、私はあなたの妻ではありません。今、ここで私を村に連れて行くなら、あなたこそ誘拐の犯罪者です」
「エミリー」呼びかけるイーノックの声から、昨日までの優しさは薄れている。「来るんだ。君の体は君一人のものではない。君は母神に選ばれたのだ」
「いやです。私には関係のないことです」
 イーノックを見据えながら、エミリーはきっぱりと首を振った。領主の目尻が吊り上がる。
「君が私と共にこないなら、この者たちも無事では済まないぞ」
「彼らは私の大切な友人です。彼らを下郎などと呼ばわり、捕えて脅すような方の妻になどなれません。そんな目に合うくらいなら自害します」
 エミリーの最後の言葉を聞いて、隣にいたシャムリーナが目を剥く気配が分かった。
 大袈裟だったとエミリーも思ったが、実際にできるかどうかはともかく、そのぐらいの心づもりだった。もはやイーノックを尊敬できるところなど、欠片も無い。
 イーノックの顔が屈辱に歪んだ。
 それを見届けない内に、エミリーはその場で目を瞑った。
 半分は自分が招いた災難だ。ルークたちを巻き込んだ以上、何としてもこの場を切り抜けなければ。
 
 意識を集中させ、大地の精霊に呼びかける。
「エミリー」
 しかし左腕を揺さぶられ、彼女の集中はすぐに破られた。目を開ければ、ミクエルに掴まったセルヴィスが、弱々しく首を振っている。
「だめです。魔術を使って子爵を傷つけては。万一のことがあれば、ギルドから罰されますよ。大学にとっても、ただの小領主ではないのです」
「でも……」
 このままイーノックが部下と共に突撃してくれば、ルークたちは無事では済まない。黙って蹂躙されろというのだろうか。
 それともやはり自分がイーノックの妻に納まるしかないのだろうか。
 
「おーい、何してるー」
 エミリーの頭の中に、絶望の黒い幕が下りようとしていた時、街道の方から男ののんびりした声が聞こえた。
 目を凝らすと、十数人の人間がこちらへとぞろぞろ歩いてくるのが見えた。
 隊商かと思ったが、よく見れば全員剣やら槍を手に武装している。傭兵団か、あるいは盗賊かもしれない。
 エミリーたちは勿論、振り向いたイーノックたちにも緊張が流れた。
「誰だ」
 イーノックの短い誰何に、男たちを引き連れて歩いてきた先頭の男がのんびりと答える。
「通りすがりだよ。質問してるのはこっちなんだけど」
 人を食った答えを返す金髪の男の顔に、どこか見覚えがある気がする。
「あ……」
 隣のシャムリーナが微かな声を上げ、興奮した様子でエミリーの腕を掴んだ。
 エミリーもやっと思い出した。歩いてくる男は、シャムリーナのパーティのリーダーだ。その後ろから、彼女のパーティの仲間たちと、全く見知らぬ、傭兵風の男たちが数人続いている。
 全部で二十人近くいる彼らは、ゆったりした足取りで近寄りながら、さりげなくイーノックたちの騎兵を取り囲んだ。
 ただならぬ気配を察し、動揺する馬を宥めながら、イーノックは言った。
「君たちには関係無い。我が領地から逃亡した犯罪者を捕らえに来たのだ。巻き込まれたくなければ去れ」
 命令することに慣れたイーノックの声は威厳に溢れていたが、生憎、無頼の冒険者たちの胸には全く何も呼び起こさなかったようだ。
「犯罪者?」薄笑いを浮かべ、悠々と腕組みをしながら答えたのは、ジェフリーだった。「冗談でしょ、旦那。奴らはオレたちの馴染みですよ。王都の住人だ。ここんとこ、旅に出たまま戻ってこないから、探しに出たとこなんですよ」
「犯罪者って、何の犯罪ですか?」
 ジェフリーの後を引き取り、別の男が続けた。
「誘拐だ」動じずにイーノックは答える。「私の妻を領地から攫ったのだ」
「旦那の奥方様? あの中には、オレの見知った顔しかいないようですが……」
 ジェフリーはわざとらしく背伸びなどして、エミリーたちを覗き込んでいる。
 エミリーは腹に力を込めると、思い切って声を上げた。
「違います! 結婚などしていません。子爵が一方的に私を花嫁だと見初め、村に監禁しようとしたのではありませんか」
 ジェフリーたちが引き連れているのが誰だか分からないが、ここで彼らに味方についてもらわなければ、全員五体満足で王都に帰りつけないかもしれない。緊張に顔を赤らめながらも、エミリーは細い声を精一杯張り上げ、イーノックの罪を暴き立てた。
「ちょっと、旦那」
 イーノックが反論する前に、ジェフリーが口を開いた。
「話が違いませんかね。あの子の言ってることが本当なら、誘拐犯は旦那の方ってことになりませんか」
 揶揄するような口調で続ける彼に、イーノックは鋭い視線を送った。
「なんだと、無礼な」
「まさか、お貴族様だからって、領地の外でも無理が通るとはお考えでないですよねえ」
 ジェフリーの台詞と共に、騎馬を囲んだ男たちは一斉に身じろぎした。体に緊張を漲らせる、剣呑な仕草だった。
 二の句を告げずにいるイーノックに、シャムリーナたちのリーダーが、挑戦的に言い放つ。
「俺たち流れ者は、あんたら貴族様に守ってもらえない分、同業同士、助け合うことになってるんだ。ここで力ずくであの子を攫うっていうなら、俺たちだけじゃなくて、王都中の冒険者を敵に回すと思えよ」
「その前にまず、この場をどうするかって問題もあるけどな」
 別の赤毛の男が低い声で言いながら、背中に負った長い槍を構えた。穂先に斧状の刃が付いているその巨大な得物は、振り上げれば馬上の人間の頭部をも粉砕できそうだ。
 イーノックは張り詰めた表情で周囲を見渡した。
 エミリーも固唾を飲む。
 ジェフリーたちは、ああは言ったものの、セルヴィスの言うとおり、子爵であるイーノックを殺したりすれば、王都でも大罪にあたる。流浪の人間と、王家から領地を封じられた貴族が、公正に裁かれるわけはない。
 イーノックが退かなければ、この場の全員が本当に犯罪者になる覚悟で戦うか、あるいはエミリーが村に戻るしかないのだ。

「愚か者め」
 イーノックの苦々しい声が響いた。
「貴様等は理解していないのだ。これはただの結婚ではないというのに」
 歯ぎしりが聞こえるかと思うほど歯を食いしばりながら、イーノックはエミリーを睨んだ。目が合った瞬間、彼の瞳に純粋な悲しみと嘆きが見えた気がした。だが錯覚かもしれなかった。
 そしてエミリーの脳裏にも、捕えようのない感覚が沸いた。悲しみだろうか、落胆だろうか。苦く、僅かに切ないそれは、柘榴石のような赤黒い残像を彼女の頭に残した。
「王都に住む諸君、いつか後悔するぞ」
 若い領主は陳腐に聞こえる捨て台詞を吐くと、供の兵を促して、馬首を返した。
 慌てて道を空ける男たちの輪を抜けて、イーノックたちの蹄の音はすぐに遠のいていった。


 助かった。
 深い安堵の息をつき、シーマスは早足でジェフリーに近づいた。振り返ったジェフリーも、大きく表情を崩している。
「助かった! よく間に合ったよ」
 シーマスが肩を叩くと、ジェフリーは疲れたような息を吐きながら答えた。
「オレもそう思う……。今朝、開門と同時に出発してよかったよ」
「いや、本当に助かったよ。ありがとう」
 珍しいことだが、シーマスは心から素直に礼を言った。今ほど、ジェフリーはじめ、仲間と同業者との絆をありがたく思ったことはない。
 イーノックが戦うと決めたならば、騎兵七人が相手では、勝ち目が無かっただろう。
 ジェフリーのパーティー以外の男たちは、恐らく彼が王都から助っ人に連れてきた、冒険者か傭兵だろう。貴族であるイーノックに対抗するために、ジェフリーたちはこれだけの人数の男たちを集めてくれたのだ。
 流浪のシーマスたちは、領地に縛られることが無い代わりに、誰も守ってくれる人間がいない。自分の身は自分で守り、仲間や同業の人間たちと助け合うしかないのだ。王都に数多くいる冒険者たち横の繋がりを、初めてありがたく、誇らしく感じた。
「ジェフ、ありがとう」
 シーマスが無言で胸を震わせていると、後ろから息を弾ませてシャムリーナが駆け込んできた。彼女の黒い瞳も、安堵に潤んでいる。
 シャムリーナに目を向けたジェフリーが答える前に、彼の背後から別の男の声がかかった。
「ジェフ。お仲間が無事で良かったな」
「ああ」
「じゃあ、これでオレたちの仕事も終わりか?」
 頷くジェフリーに、別の傭兵が歩み寄ってくる。その後からぞろぞろと、ジェフリーのパーティー以外の男たちが続いてきた。シーマスがざっと数えて、十五人いる。
「そうだな」
「じゃあ、早いとこ金くれや」
 男たちは満面の笑みでジェフリーを取り囲んだ。
(そりゃそうか……)
 肩を落として財布を取り出すジェフリーの後ろで、シーマスは内心肩を竦めた。先ほどは、彼らが義侠心のために、ジェフリーたちに協力してくれたのかと思ったが、よく考えればそんなはずはない。ジェフリーたちが金を払って、雇った連中なのだ。
 男たちは順にジェフリーから銀貨を受け取ると、「また、何かあったら声かけてくれ」「いつでも協力するぜ。金さえ払ってもらえばよ」などと口々に言いながら、さっさとその場を去って、街道へと戻っていった。

「よくあんな人数雇うお金あったね」
 男たちが去った後、シャムリーナがのんびり呟くと、悪魔のような形相でジェフリーは振り返った。
「あるわけねーだろ! 頭下げて、一緒に村に来てくれるだけでいい、ヤバいことになっても戦わなくていいって拝み倒して、格安でやっと十五人雇ったんだぞ。それでもオレたちの全財産は、ほとんどパーだよ!」
「えっ」
「えじゃねー! 元はといや、誰のせいだ」
「ごめん……」
 すっかりしょげ返っているシャムリーナに、さらにジェフリーが言い募ろうとしているのを見て、シーマスは彼を宥めにかかった。普段、自分はもっと激しい口調でエミリーを罵っているのだが、他人が同じことをしているのを見ると、落ち着かなかった。勝手な話である。
「まあまあ、無事だったんだし、シャミーも好きで巻き込まれたわけじゃないし、いーじゃない」
 のんびりと言うと、ジェフリーはシーマスを陰険に睨んで、だしぬけに上に向けた掌を突き出した。
「なら、傭兵雇った費用、半額とは言わないけど、三分の一でも払ってくれよ。おたくらのエミリーとプリシラを助けるためでもあったんだからさ。あいつらを連れてこなかったら、わりーけど、オレたちとお前らだけが相手じゃ、あの貴族だって簡単に引っ込まなかったぜ」
 そう言われて、断るわけにもいかないが、金額を聞いたシーマスは、目が飛び出すかと思った。戦わなくていいという条件で、格安で雇ったと言いながらも、大層な金額である。全員の持ち金をかき集めて、払えるかどうか。
「マジで? たっけー……」
 金額を聞いて、ついぼやくシーマスに向かって、ジェフリーは憮然と返した。 
「王都を出る時は、最悪、あの領主の村中相手にケンカ売るつもりだったから、できるだけ人数雇ってったんだよ。傭兵十五人雇ってこれぐらいの金額なら、安い方だって」
「そりゃそーだけど……」
 肩を落としたかった。
 どうやら領主の部屋から持ち出した短剣は、彼の小遣いにすることなく、売り払うことになりそうだ。こんなことなら、他にも調度や小物を盗んでくればよかった。
(何が同業の絆だ。結局金じゃねーか)
 嘆息しながら、それでもシーマスは、あの場で戦いにならなかった幸運に感謝した。もし戦うことになっていれば、ジェフリーたちは加勢しただろうが、雇った傭兵たちはさっさと逃げ出したはずだからだ。
 また稼ぎ直しだが、生き残っただけ、運がいいと思うことにして、シーマスは仲間たちの元へと歩き出した。背後では、ジェフリーがシャムリーナに説教している声がまだ聞こえている。
 シーマスは灌木を掻き分けて歩きながら、さて、自分のところでは、見通しが甘いまま旅に出たエミリーに、シーマス以外の誰が説教できるかなどと考えていた。
 彼の視線の先にいるエミリーは、座り込んでいるセルヴィスをミクエルと共に介抱しているようだった。もっとも、実際に薬を与えているのはミクエルで、エミリーはセルヴィスの傍らに屈みながら、おろおろとしているだけだ。その周りでは、プリシラがルークに何ごとか話して聞かせている。村にいた間に出来事だろう。
 領主を撃退し、一応の危機を逃れたことで、一同の表情は和んでいる。
 そんな場で、ジェフリーのように、エミリーに説教を垂れようものなら、揃ってシーマスを非難して止めに入るのは目に見えている。「今、そんなことを言わなくてもいいだろう」「無事だったんだから良かった」などという、ミクエルやルークの台詞までが浮かぶようだ。
 しかし同じことを繰り返されては困る。近い内に二人になる時間を見つけて、エミリーに言って聞かせなければ。
『ルークや皆がいると言いづらいから?』
 昨夜、エミリーに言われた言葉が蘇った。
 再びふつふつと腹が立ってくる。
 普段は口も回らないくせに、あんな時だけ的確にこちらの欠点を突いてきた。
 エミリーは、ああして他人を責めるようなことを口にしたことがない。少なくともシーマスは初めて聞いた。自分が悪くなくても謝る女だ。
(なんでオレにだけ、偉そうに口答えすんだよ……)
 普段の彼の態度を考えれば、エミリーの反論など取るに足らないものであったが、シーマスは得心できず、苦々しくエミリーを睨んでいた。やはりいずれ、思い知らせてやらなければならない。
 だが確かに、今でなくてもいい。ともかく女たちは無事だったのだ。
 まずはジェフリーたちに請求されている、莫大な必要経費のことから話すか。
 金額を聞いた時の彼らの面持ちを想像し、シーマスはひとりほくそ笑んだ。それは仲間たちに近づくごとに、苦笑いの混じった笑みに変わっていった。


<女の聖地:おわり>


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~ Comment ~

RE:拍手お返事 >Kさん 

拍手、ありがとうございます!!

やっと三話、完結しました^^;
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます~。

少年マンガ的な展開なら、悪い領主を皆でやっつけて、メデタシメデタシというところですが、フィクションながら現実路線を走りたいので、無難な解決としました。
すごすご引っ込んだ悪徳領主は…いずれまた…^^;
元々、このお話は三話構成で、最終話として考えていたものですが、色々と構成をいじくった結果、この位置に来ました。
お話全体のタイトルにその名残が…。

一番納得いってないシーマスですが、彼が言う、思い知らせるってのは、まあ…その通りです><
あんま懲りてないように見えるエミリーのその後も、四話で述べたいと思います。

四話再開まで間が空きますが、気が向いた時にまた読んでいただけると嬉しいです!
反省点を活かして、この後のお話も頑張ります。

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