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山間の城の物語」
第一章 山間の城

1.停戦会談 (1)

2010.06.17  *Edit 

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第一章
1.停戦会談 


 扉を開けて部屋に入ると、樫のテーブルに行儀悪く足を投げ出していた男は姿勢を正して、無造作に立ち上がった。
「奥方様にわざわざお越しいただくとは、お手間をかけますな」
 男は腰に剣を下げたまま、慇懃無礼に形ばかりの礼を取った。
「他に人がいませんもので」レジーナは素っ気なくその礼を遮る。「お話通り、人払いをしていただけますか?」
「もちろんですとも」
 小憎らしいことに笑顔で頷くと、男は手を振って、完全武装したままの部下たちに退出するように命じた。
「しかし、グレン様……」
 何人かはためらったが、男は「いいから行け」と威圧的な声で促す。
 レジーナも振り返り、彼女に従う侍女や侍従たちに、彼らを別室に連れてもてなすようにと伝えた。複雑な表情を浮かべながら、彼らはそれでも了承した。
 双方の部下が退出し、私的な応接間兼家族用の小食堂には、女城主と男だけが残る。
 侵略者の司令官が昔の知り合いとは。
「久しぶりだな」
 部下が消えると、グレンは相好を崩した。レジーナは微笑む気になどなれない。
「そうね」
「風の噂でつまんねー男と結婚したって聞いてたけど、あのじゃじゃ馬が貴族の奥様になってるとはね。世の中分かんないもんだねえ」
 世間話をする気などなかったが、つい皮肉を返したくなる。
「まったくね。あんたみたいな男が、大公軍の司令官に納まってるんだものね」


 グレンは昔、レジーナが冒険者として王都で稼いでいた頃の知り合いだ。同じ冒険者の一人だった。
 彼女は他の大勢の冒険者と同じく、常にパーティーを組んで行動していたが、グレンは一匹狼だった。仕事の為に一緒に組んだこともあるし、別の仕事では邪魔をされたこともある。
 一人で行動していただけあって、腕は立つし、見かけより頭もきれる。苛烈で狡猾な性格もあって、敵に回したくはないが、味方にいても安心できない、あまり関わりたくない人間の一人だった。
 だが数年するうちに彼は王都に顔を出さなくなり、レジーナたちのパーティーもこちらの辺境に拠点を移した。
 やがて彼女はここの若い城主に見初められ、才気に溢れた彼を愛し、二年前に結婚した。
 戦略的価値もない、山間の城。
 領地を治めることだけを考えていればいい、忙しいが平和な日々だった。異教の国への遠征に夫が駆り出されるまでは。
 夫は強い。傭兵として体を張って稼いできたレジーナよりも、剣の腕なら上だ。だが彼に同行したこの領地の軍はお世辞にも精鋭とは言えないし、そもそもどんなに腕が立っても、何が起こるのか分からないのが戦争だ。
 妻であるレジーナにできることは、無事を祈ることと、留守を預かり、領民の面倒を見ることだけだった。
 まさかその間に、大公の軍が進軍してくるとは、誰も考えはしなかった。
 少ない守備隊の軍人は残らず遠征に参加していて、城に残るのは老人と子供、女がほとんどだった。戦える者もいないではないが、相手はこの辺境を攻める為に、二千の軍隊を動かしてきた。
 そしてかつての知り合いの名を、敵軍の司令官として聞いた時、彼女は開城──実質の降伏を決めた。


「お互いうまく立ち回ってきた結果だろ。……何か飲み物出ないのか?」
「話の後にして」
 今は少しでも話を有利に運ばなければならない。早々に降伏したのは、被害を最小限にして交渉を有利に進める為だ。
 グレンは苦笑いを浮かべ、再び椅子に腰を下ろした。
「分かった。気が強いな、相変わらず」
 相変わらず? 知った風な口を。
 思わず眉をしかめる。彼女とグレンは知り合い以上でも以下でもない。友人とも呼べないよそよそしい関係だ。ましてや男女の関係であったことはない。
 冒険者仲間の内でも、レジーナの美しさは目を引いた。剣士として鍛えた彼女は決して華奢ではなかったが、贅肉のない均整のとれた肢体と、淡い金髪に縁取られた整った顔立ちに惹かれる男たちは後を絶たなかった。
 グレンに言い寄られたことも度々あったが、彼女はその都度あしらってきた。
 若かった当時の彼女にしてみれば、腕利きの剣士であり、荒削りだがそれなりに魅力的な顔立ちのグレンに、興味が無いわけではなかった。
 しかし彼はあまりにも狡猾で信用ならなかった。雇い主や仲間を出し抜くことはしばしばあったし、敵には怪物と言わず人間と言わず、容赦はしなかった。彼の残虐とも言える苛烈な戦いぶりを何度か目にしたが、味方にいてもレジーナは震えが止まらなかったものだ。
 女癖も悪く、レジーナの周りにも彼に泣かされた女は片手の指では数えられないほどいた。
 だが、数年を経てこのような状況に陥り、グレンが自分の名前を覚えていたことを幸いと思うことが来るなど、当時の彼女には想像もつかなかった。
 公国軍の使いが城を訪れ、開城を求められた際、受け取った書状の署名に司令官としてグレンの名前を見つけた。まさかかつて同業者だったグレンだとは思わなかったが、使者はレジーナの反応を見越したように、彼の主がレジーナと旧知の仲であるはずだと告げた。
 血の気が引いた。まともに戦った場合の損害と、敗北した自分たちの末路が容易に想像できた。
 臣下たちとも話し合った末、レジーナは結局降伏を決めた。
 停戦の交渉を他人を交えずに二人だけでしたいと告げると、大公の司令官は旧友ですらない、かつての知り合いの要望をすんなり受け入れた。

「それで、そっちの望みは何? 何をしに来たの?」
 レジーナは椅子に掛けず、グレンを見下ろす。少しでも威厳を保ちたかったが、男は余裕たっぷりだった。
「まあ、まず副伯夫人の話から聞こうじゃないの。降伏の条件は?」
「軍を退いて公国に帰って。二度とここに来ないで」
「わっはっは」
 グレンは声をあげて笑った。いっそ無邪気とも言えるほどの豪快な笑いだった。
「そりゃそうだろうなあ。それがこの国にとっては一番いいことだもんな。だが、俺たちが同意するはずないだろう? 言うだけ時間のムダだ。他に頼みごとがあるだろう」
「そうね、時間の無駄だったわ。……領内で略奪をしないで。どんな用事か知らないけど、領民や城内の人間を傷つけたりしないで。お金やものが欲しいなら、彼らから私が徴収する」
「ふ~ん。ま、いいでしょ」
 また皮肉を返されるかと思えば、やけにあっさりと彼は頷いた。
「……本当に? 約束を守る気あるの?」
「あるよ。俺らだって、無傷でここを手に入れてるんだ。連中もそう荒ぶってるワケじゃない」
 どうにも信用ならない気もしたが、一応納得して彼女も頷いた。
「言ったからには、部下への指導を徹底してよ」
「分かったって。一応大公国の正規軍だぜ。傭兵じゃねーんだ。司令官の言うことは聞く」
「あんたが司令官なら、そうでしょうね」
 レジーナは白けた声で答えた。それだけグレンが部下から尊敬されているということではなく、彼が単に恐ろしいから、兵士たちも黙って従っているのだろうと思った。彼女は腕組みをして続けた。
「……それで、そっちの条件は?」
「俺が連れている軍をしばらく駐留させる」
 女城主が敵司令官に告げたのは頼みごとだ。だが彼が告げたのは決定事項だった。立場の違いを改めて感じ、レジーナは屈辱に僅かに唇を震わせる。
「それだけ? しばらくってどのくらい?」
「分かんね。まあ一年かそこらか。峠を抜ける間道を作るのに、この城が必要なんだ」
 峠の向こうは別の伯爵領だ。そこの伯爵も確か遠征に出かけているはずだ。
 本当の目的はそちらか。二千の軍団の多くは工兵だったのだ。
(私たちの領地は通り道に過ぎないわけね……)
 だとしたら何て運が悪かったのだろう。嘆きたいような気もしたが、しかし逆に言えばうまく立ち回れば、被害を受けることは少ないかもしれない。
 軍隊は駐留させるには金がかかる。兵たちの糧食をこの小さな領地で賄えるだろうか。
「それさえできれば、ここには被害を与えるつもりはないのね?」
「無い。こんな小さな領地を取り上げても仕方ない」
 レジーナは自嘲した。彼の言うとおりだ。爵位を取り上げられたりしなくても、大公の言いなりになるしかないのだ。
 自由だった冒険者の頃には誇りや自由の為なら何でもできた。侮辱されれば、相手に唾を吐きかけながら死んでいけると思っていた。怖いものなどなかった。
 だが、幸福と引き換えに、守るものを背負ってしまった今は、そうはできない。
「……分かった。今遠征中の兵舎を使って」
「あの兵舎では入りきらないだろう。士官連中は城内に滞在させる」
「いいわ、それで。部屋は整えさせるから。じゃ、話は終わりね? 今葡萄酒でも持ってこさせる」
 レジーナはさっさと話を切り上げ、部屋を出ようとした。

「待てよ」
 嫌な予感はした。だが無視するわけにもいかない。彼女は再びグレンに顔を向けた。
「何?」
 つっけんどんに尋ねると、グレンは椅子から立ち上がった。
「城内の召使いどもと領民には話を通すんだろうな」
「もちろんよ。今後もお互い友好的にありたいから、親睦を深める為に今夜は夕食会を開かせる準備もしてます。そこで城内の人間には状況を説明して、あんたたちを紹介するわよ」
 副伯夫人の言葉を聞き、グレンは軽い感嘆を覚えた。即時降伏したことといい、冷静で頭のいい女だ。
 若い頃のレジーナの記憶は、正直なところ薄い。田舎城主の妻に納まるような女だ。ちょっとした美貌が唯一の取り柄であるじゃじゃ馬だと思ったが、こんなところに埋もれさせておくのは勿体無い。
「なるほどね。もの分かりがよくて助かる」
 グレンは大股にレジーナに歩み寄った。彼女は後ずさって身構えたい衝動をこらえてその場に留まる。肩に馴れ馴れしく男の手がかけられる。
「お美しくて頭のいい奥方様のことだから、当然分かってるよな」
「……何の話?」
 下劣な男。嫌悪感をこらえながらレジーナがとぼけると、グレンは一言もなく彼女の唇を自分の唇で覆った。
 レジーナはわずかに身をよじって、グレンの胸を押し返したが、鍛えた体はびくともしなかった。図々しくも彼女の唇を割って、男の舌が侵入してくる。
「あ……」
 レジーナは掠れた声をあげた。
 下唇に軽く歯を立てられ、舌で上あごの内側や歯茎を探られる。
 嫌悪感に鳥肌が立ったが、彼女は息を弾ませた。男の耳に甘く響くように。
 快感を覚えていると、男に信じ込ませなくてはならない。吐き気すらしそうだったが、レジーナは喘ぎに似た吐息を漏らしながら、グレンの舌に自分の舌をからめ、吸った。
 薄目を開けてグレンの顔を覗き見ると、彼は目を閉じていた。
「はぁ……」
 彼女は興奮しているような息を吐き続けながら、静かにそっと、右手を自分の腰へ滑らせた。左手を男の背中に回し、服をつかむ。
 自分の動きを悟られない為の演技だったが、気を張っていないとその演技が作り出す雰囲気に飲み込まれそうだった。
 二人だけでの会談の条件は、レジーナが武器と鎧をつけないことだった。彼女はドレス姿でこの場にやってきた。
 襞をたっぷり取った裾の長い衣装は、脚に武器を隠すのに好都合だった。
 長い裾をめくりあげて武器を取り出している時間は無い。相手も歴戦の男だ。彼女は幾重にも布を重ねたような襞の一つに、外から見えないように切れ込みを入れておいた。
「ん……ふぅ」
 衣擦れの音を聞かせまいと細心の注意を払いながら、それを隠すようにわざと声をあげ、舌を動かして唾液が交じり合う音を立てる。先ほどまで感じていた嫌悪感など、この緊張の前にはどこかへ消えてしまった。
 しくじれば、自分はもちろん、城内の人間も領民もただではすまない。
 殺すなら、一撃で、確実に。
 司令官さえ仕留めれば、あとの連中は何とかなるかもしれない。今、広間で士官たちをもてなしている女官たちも、レジーナが訓練を施した女戦士たちだ。彼女の号令ひとつで、酒に酔う士官たちを始末できるだろう。隊長を失った兵たちは烏合の衆だ。
 正面切って戦うほどの力は、今のこの領地には無い。だが降伏したとは言っても、レジーナたちはまだ全てを諦めたわけではない。
 再びグレンの顔を盗み見る。男も彼女とのくちづけに、目を閉じたまま酔いしれているようだった。
 レジーナは服をかき分け、切れ込みから手を差し入れて、太ももの外側にくくりつけた、鋭く研いだ短剣の柄に触れた。静かに握る。

 一動作で抜き放ち、やはり鎧をつけていないグレンの胸を突く。何度も頭の中で繰り返した。
 だが彼女が短剣に力を込める寸前、右手をすさまじい力で掴まれた。
 驚いて目を開いて顔を離すと、グレンも既に目を開けてレジーナを見ていた。口元に薄笑いを浮かべている。
「ばれないと思った? 田舎暮らしで鈍くなったんじゃないのか?」
 右手にさらに力が込められる。指がつぶれそうだ。レジーナはうめいた。
 グレンは短剣を握ったままの彼女の手を持ち上げ、右手で短剣をねじりとる。
 唯一の武器は彼の手に渡ってしまった。グレンは取り上げた短剣をばか丁寧に、テーブルに静かに置いた。
「妙なことは考えない方がいい。せっかくいい条件で降伏したんだからな。俺を殺したところで、公国から代わりの人間がやってくるだけだ。そいつにどんな目に合わされるかは分からんぞ」
 悔しいが、彼の言う通りだ。レジーナは諦めのため息を漏らした。
 先ほどの条件を彼が本当に呑んでくれるのなら、グレンが司令官でいるのも、そう悪いことではない。
 だがこの好色な男が、レジーナを始め城内の女官や城下の娘たちを、紳士的に丁重に扱うとは思えない。夫以外の人間に触れられるのは嫌だった。しかし自身の事情によって、領民たちを苦しめるわけにはいかないことも分かっていた。
「自分の立場が分かったか? お前は俺に気を使って、もてなさなきゃいけないんだよ」
 彼女にとっては屈辱的な台詞を吐き、彼はレジーナを固く抱き締めて再び口づけた。
 先ほどは肩に手が沿えられていただけだったが、今度は右手で強く抱き寄せられている。
 再び無遠慮に舌が侵入してくる。軟体動物を口に押し込まれたような感触に、レジーナは怖気すら感じた。
 彼女の肩を拘束しているのは片手一本だというのに、レジーナが身じろぎしても、微動だにしない。がっちりとグレンに体を押し付けられ、彼の胸板の厚さを感じた。

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