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山間の城の物語」
第一章 山間の城

2.宴の間 (2)

2010.06.28  *Edit 

 男の指がまるで衣装を突き破ろうとするように、静かに強く押し込まれた。レジーナのその入り口は先ほどの情事の名残でまだ湿っている。
 そう感じると、恐らくもう乾いていただろう内部までが、また潤ってくるような気がした。強く閉じた脚の間から、柔らかい熱がゆっくりと立ち上ってくる。
 触れられる度、ほんの少し体が揺れ、左手の杯の中に満たされている葡萄酒が揺らぐ。銘酒はごく僅かに揺さぶられただけで、うっとりするような淡い果実の芳香を放った。
(いい加減にしてよ……)
 グレンを再び睨みつけるが、彼はにこやかな顔で会場の人間に、彼女と自分の昔話を語っていた。こちらを向こうともしない。
 指が動きを変えて、入り口あたりを撫で回す。布地が擦れて痛いはずなのに、指はぬるぬると滑らかに動く。顔に血が上った。
 見られている。
 背後の士官に、何をされているのか見られている。士官は相変わらず直立不動の姿勢だったが、視界に入っているのは間違いない。
 目の前の聴衆にしても、前の方にいる士官たちには、レジーナの背後に回されたグレンの腕が不自然に動くのが見えているかもしれない。視線をさまよわせ、頬をわずかに紅潮させた自分の顔を見て、何かを感じ取っているかもしれない。
 杯を握る左手に知らず力がこもった。閉じた唇の奥で歯を食いしばる。誰もが自分の一挙手一投足に注目している気がした。
「さて、口上はこのくらいにして」
 グレンは急に彼女の体から手を離し、酒杯を顔の高さまで掲げて見せた。レジーナは誰にも聞こえないように静かに息を吐く。
「そろそろ皆さんもこの極上の逸品を楽しみたいところでしょう。我々と皆様の平和を祝って、乾杯!」
 士官たちだけでなく、召使いにまで景気良く行き渡った葡萄酒の杯を、その場の全員が歓声とともに掲げ、飲み干した。一拍遅れたのはレジーナだけだった。
 口に含んだ葡萄酒は、鼻から嗅ぐのとは全く違う香りを放った。内側から絡めとろうとするような、長い間熟成された濃厚な香り。神の血は甘く腐敗していた。

 会場には城で働く人間のほとんどが集まっていたが、正餐が用意されているのは、士官たちの分だけだ。召使いたちは壁際のテーブルに盛られた小料理をつまんだ後は、自分たちの仕事に戻る。給仕や侍女は料理を出し、酒を注ぐのに忙しい。
 レジーナだけが、もてなしの為に白い布を掛けられた長テーブルの上座に座り、士官たちとともに食事をしていた。グレンは当然のように、彼女の隣、主人の席に陣取っている。
 グレンがこの城の主人に成り代わり、城と彼女を征服したことを象徴しているようだった。事実、彼はそれを会場内の人間に示すつもりで席を組ませたに違いない。
 食事の話題は料理や酒の話に終始した。大公は美食家として有名で、各地から良質の食材や酒、料理人を集めているらしい。公国兵たちのお国自慢に他ならないが、この場で角が立たない話題であることは間違いなかった。
 主菜が済むと、果物の砂糖漬けが出される。
「最近、公国では食後に焼き菓子を出すのが流行っていましてね」
 レジーナの右斜め前に座った士官が、葡萄の砂糖漬けをつまみながら、快活にレジーナに話しかける。
 上座に近い席に座っているということは、身分か地位が高いのだろう。グレンより三つ四つ年下──レジーナと同じ年くらいに見えた。金髪の、貴公子然とした上品な顔立ちの青年だ。
「焼き菓子ですか……」
 レジーナにはビスケットのようなものしか浮かばなかった。間食か、保存食に使うものだ。
「バターと砂糖をふんだんに使って、柔らかく焼くのです。それにジャムを塗って食べるんですよ。これがまたおいしいんです」
 先ほどからこの青年がよく喋っている。元来話し好きなのか、レジーナに気を使っているのかは分かりかねた。壇上でべらべら話していたグレンは、食事が始まった途端、おとなしくなって、食事に専念し始めた。食べられる時に食べる、早食いの癖は傭兵時代から変わっていないらしい。
「そこのニコラスは酒が飲めないものだから、甘いものに目がないんです」
 葡萄の砂糖漬けをあっという間に食べ終わったグレンがやっと口を開いた。
 言われてみれば、ニコラスと呼ばれた士官の葡萄酒はほとんど減っていない。
「そうでしたの? 何か、お水かジュースでもお召し上がりになります?」
 レジーナは近くに控えていた侍女を呼び、葡萄の果汁を持ってこさせた。
「あまりご婦人方の前で情けない話をしないでください」
 ニコラスは苦笑いをしながらも、レジーナの気遣いには感謝しているらしい。手早く侍女が運んできた、葡萄の果汁をおいしそうに飲み干した。
 こうして話していると、征服者たちをもてなしているなど嘘のようだ。
 公国軍の士官たちは、いずれも品の良さそうな男たちで、公国貴族の子弟が多いようだった。司令官であるグレンの経歴を考えれば、叩き上げの傭兵や冒険者あがりもいないではないのだろうが、見てそうと分かるような雰囲気の男はいない。
「気をつけた方がいい、奥方様」グレンはレジーナの顔を見て、面白そうに笑った。「ニコラスはこんなことを言っているが、女性には手が早いもので。城内のご婦人にもご注意いただかなければ。公都では散々浮き名を流したものですよ」
「グレン様……あることないことを」
 咎めるような言葉尻は、士官たちの笑いに消えた。グレンの言うことは半分以上は事実らしい。意外に和やかな士官たちとグレンに、レジーナも僅かに微笑みを浮かべた。
「何があることないことだ。誰か、こいつと例の伯爵家お嬢様方との顛末を話して聞かせろ」
「グレン様!」
「では私が……」ニコラスの抗議の声には構わず、反対側に座っていた別の士官が名乗りをあげた。「確かまだ一月前のことでしたね……」
 その場の注目が話を始めた士官に集まった。

 椅子に腰を掛けた左の太ももに、テーブルの下で何かが乗りかかった。決まっている。左側に座ったグレンの手だ。
 彼は行儀悪く左肘で頬杖をつき、右手をテーブル掛けの下に潜らせていた。レジーナの太ももをドレスの上から撫でると、そのままドレスを少しずつたくし上げようとした。
(いい加減にしなさいよっ!)
 触れられてからでは遅い。
 レジーナは左足を思い切り跳ね上げた。テーブルが音を立てて浮く。
「いてっ」
 レジーナの足とテーブルに右手を挟まれ、グレンが声をあげる。士官の話に耳を傾けていた一同がこちらを向いた。
 グレンが口を開く前にレジーナは優雅に微笑みながら、彼らに言った。
「失礼しました。グレン様がお酒を召し上がりながら右手を膝に乗せていたものですから、お行儀が悪いと叩いてしまいましたの。申し訳ございません。主人も食事中に同じことをするものですから、つい……」
 微笑んではいたが、内心はグレンがどう出るか恐ろしかった。こんなことで激高するような器の小さな男ではあるまいが、万一彼が怒り出せば、この上品なお食事会が略奪の間と化す。
 気が付けば彼の寛大さに期待している自分がおかしかった。そして、そう気づくと惨めだった。
 果たしてグレンは苦笑いを浮かべるにとどまった。
「失礼しました、奥方様。食事中に両手をテーブルに出しておくのは最低限の礼儀でしたね。まるで私のオフクロだ」
 一見レジーナの尻に敷かれているようなグレンの言葉に、士官たち、侍女たちは大いに笑った。レジーナは安堵の息をつくと共に、感謝した。
(……誰に?)
 グレンにだろうか。この状況を作り出した張本人に?
 ふと、めまいを覚えた。上澄み液を飲むようなこの偽りに満ちた状態は、いつまで続くのだろう。昨日までとは全く違ってしまった日常に、彼女は深く困惑した。
 笑いが収まると、グレンは無造作に立ち上がった。
「さて奥方様。せっかくですので、ご自慢の庭園を案内していただけますか?」
 グレンが目を向ける中庭は、この城が建造時に城主の為に作られた庭園だ。小さな人工の池があり、東屋も設けられている。ぐるりと歩いても四半刻ほどの狭い庭園だったが、それだけに細部まで手入れが行き届いていた。
 嫌だと言いたかったが、グレンの目は笑っていなかった。ここで断れば、さすがに良くない事態に陥りそうだ。ぞっとした。
 だが、こみ上げる恐怖とともに僅かに刺さった甘い棘のような感情は……。それに名前をつける前に彼女は考えるのをやめた。
「喜んで」
 仕方無くレジーナは立ち上がる。
「では我々も……」
 ニコラス始めとした士官たちが腰を浮かせたが、グレンは手を振った。
「お前たちは残って、酒でも飲んでろ。副伯夫人と二人で話がしたいんだ」
 ぴしゃりと言われると、士官たちの表情が僅かに引き締まった。グレンは愛想良く、侍女の一人に微笑みかけた。
「そういうことで、しばらくの間奥方様と庭園を独占させていただきます。これからのことについて話もありますので、散歩がてらね。私の配下たちの相手を頼みます」
 話しかけられた年若い侍女は小さな声ではい、と返事をした。
 
 今後のことを話しながら、庭園で散歩。
 グレンについて歩きながら、レジーナは思った。
 一体この会場内の何人の人間が本当にそう考えたのだろう。

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