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山間の城の物語」
第一章 山間の城

6.服従の蜜 (2)

2010.07.28  *Edit 

 イブと別れてまっすぐ例の小食堂に向かうと、既にグレンは席について葡萄酒に口をつけていたが、まだ食事は始めていないようだった。
「遅れてごめんなさい」
 開口一番、レジーナはそう言った。
「いいえ。御婦人には色々と仕度もありますからね」
 グレンは微笑んだ。夕食時は給仕が側に控えているせいか、至って愛想がいい。
 レジーナは早速食事を始めるように、給仕に告げると、自分も椅子に腰掛けた。
「そういえば、蒸し風呂、楽しませていただきました」
 グレンの言葉に舌打ちしそうになる。何故この男が蒸し風呂に入るまで待てなかったのだろう。その間に勅書を探した方が遥かに安全だっただろうに。
 彼はテーブルの酒壷から、レジーナの杯に葡萄酒を注いでくれた。上流階級では、酒を注ぐのは男の役目だそうだが、いまだにレジーナは居心地が悪い。酒は飲みたい時に自分で注げばいいと思っている。
 グレンは続けた。
「素晴らしいですね。古代帝国時代の遺産がまだ使えるとは」
「……ええ、田舎にあったが為に、却って新しいものから取り残されていますから」
「歴史の浅い大公国はむしろ古代帝国時代に憧れる人間が多いですよ。蒸し風呂を公都に建造したら、さぞかし貴族が群がるでしょうね」
 空々しい会話を続けながら、レジーナはどうやって勅書の内容を聞き出そうか考えていた。
 素直に非礼を詫びれば、存外簡単に話してくれるかもしれない。なんといっても、元々は夫のものなのだ。妻であるレジーナに内容を教えてくれてもいいし、実物を返してくれてもいいはずだ。
 勅書に重要なことが書いていなければの話だが。
 万が一、昨夜グレンが示唆したようなことが、勅書に実際に書いてあったならば、グレンは内容を決してレジーナには話さないだろう。恐らくそれを知るのは彼に殺される時だ。


 食後の果物を食べ終えると、給仕は皿を片付け、新しい水差しと酒壷を置いて、隣の部屋に退出した。レジーナ自身は酔っ払ってしまう訳にもいかないので、あまり杯を重ねていないが、グレンもそう飲んではいないようだった。
 酔わせて、うまいこと話を聞き出せないだろうか。レジーナは葡萄酒がなみなみと注がれた壷を彼に差し出した。
「もう一杯いかがですか?」
「気持ち悪い声出すな。もういらないよ」
「…………」
 給仕が消えた途端にその口のきき方はどうなのだ。そうは思ったが、ここで彼の礼儀を問い詰められる立場ではない。給仕に気を使っているだけでも上等だ。
 同時に再び気安い口調に戻ったグレンに少し安心もした。
「ワイン、あまり飲まないの?」
「実は酒自体にあまり強くない」
「え~、嘘ー」
「嘘ついてどうする。うまい酒ほど調子に乗って、がぶがぶ飲んですぐ酔っ払うから、気をつけてるんだ」
 グレンは苦笑いを浮かべている。
 どうということの無い会話だが、それまでのよそよそしい空気がほんの少し緩んだ気がした。
 小さな沈黙が流れた。
 レジーナはグレンがまた何か話し始める前に、まず自分が詫びて口火を切ろうとした。
 だがなかなか言葉が出てこない。部屋に入ってきた時の、待たせたことに対する謝罪はすんなり出てきたが、今度は思案するばかりだ。
 何故なら本来なら詫びるべきことではないと、レジーナがそう思っているからだ。夫のものを妻が他人に黙っていたところで、何故詫びなければならないのだろう。矜持の高い彼女は、条理を折り曲げて、立場の為に頭を下げることに大きな抵抗があった。

 顔に冷たいものがかかった。
 甘い果実の香りがむせるほどに広がる。飲みかけの葡萄酒をひっかけられたのだと、一瞬後に気づいた。
「何か言いたいことはあるか?」
 反射的にグレンを睨んだレジーナを、彼は氷のような目で見返した。つい今しがた感じた柔らかい空気はかき消えている。レジーナは怒りを押し殺してうなだれ、手の甲で顔を拭いながら首を振った。
「……無いわ」
「そうか。じゃ黙って聞け。お前みたいな無神経で鈍感な女には、はっきり言ってやらないと分からないみたいだからな」
 言われたい放題とはこのことだ。言い返したいことは山ほどあったが、レジーナは堪えてグレンの言葉を待った。
「昨日、ここで最初に言ったな? 自分の立場を理解しておけって」
 テーブルに置き、軽く握った手が震えた。
 忘れるわけがない。そう言われて、レジーナはこの男に触れられることを許さざるを得なかったのだ。
 立場。そんなものが無ければ、自分ひとりの身であれば、最後まで抵抗しただろう。陵辱されることはあっても、恐らくは快楽を覚えることなど無かったはずだ。
 無言のままのレジーナを見て、グレンはさらに続けた。
「略奪はしないという、昨日のお前との約束を俺は今のとこ守ってる。でもそんなもん、いつでも反故にできる。俺たちが丁寧に接しているから、お前は対等の立場だと勘違いしているかもしれないが、その気になれば、ここの領地ごと、今の俺が持っている兵力でどうにでもできる」
「分かってるわよ、そんなこと」
 黙って聞けと言われたが、つい言い返したくなった。あえて言われずとも、十分に身に染みて分かっている。
「いや、そうは思えないね」
 グレンの言葉尻こそ穏やかだったが、相変わらず目つきは剣呑そのものだった。
「昔のよしみで、多少の無礼なら許してきたつもりだけど、冗談とそうでないことの区別もつかない馬鹿だとは思わなかったよ」
「分かってるってば。勅書の写しを持っていたことを黙ってたのは悪かったわよ」
 つい叩きつけるように言った詫びをどう受け取ったのか、しばらくグレンは黙っていた。レジーナもそれ以上言うべき言葉が無い。耐え難いほどの重い静寂が澱んだ。

 中身をレジーナに引っ掛け、空になった杯にグレンは自分で葡萄酒を注いだ。酒に強くないと言っていたが、うまそうに一口含む。男はおもむろに口を開いた。
「昼間、外交にも内政にも口は出さないと言ったが、俺が認めた範囲で好きにやれということだ。俺とお前は対等じゃない。忘れるなよ」
 しつこい、という言葉を飲み込み、皮肉交じりにレジーナは言った。
「改めて心得ました。司令官殿」
「結構だ、奥方様」ささやかな嫌味など気にも留めず、グレンは目を細めた。「服を脱ぎな」
 レジーナは耳を疑った。あっけに取られながら、やっと声を出す。
「……なに?」
「着ているもん脱げって言ってるんだよ」
「今ここで? なんで?」
 聞き返しながら、体が震える。その理由は分からない。驚きか、別のものか、判断がつかない。
「何だっていいだろ。早くしろ。……断れると思うな」
 冗談じゃない。そう思ったが、グレンの目を見ていると恐怖が湧いてきた。全くくだらないことではあるが、もし彼女が断れば、何をしでかすか分からないような気がした。それはレジーナに対する暴行のような生易しいものではない、きっと。
 少しの間ためらったが、レジーナは諦めて椅子から立ち上がり、グレンに背を向けて、裾の長い簡素な服の胸元を留めている紐をほどいた。
「こっち見ろ、こっち。血の巡りが悪いな。もう一杯引っ掛けられたいのか」
 背後から容赦ない男の声がかかる。顔が赤らんだ。
 一体何を考えているのだろう。決まっている。自分に恥をかかせて楽しんでいるのだ。他人の誇りを傷つけて何が面白いのか。
 こみ上げる怒りをやっとのことで飲み下し、彼女は振り向いた。正面にいるグレンはじっと自分を睨んでいる。
 小さく震える手で、葡萄酒に赤黒く濡れた服の胸元を開いた。紐をすべて解き、服を肩から落とす。服はだらしなく自分の周りの床に落ちて小さく広がった。昨夜は背中が開いたドレスだったので着ていなかったが、今日はいつものように服の下には、袖が無くひざ下まで丈がある胴着を着ている。
 また少しの間尻込みしながら、グレンの反応を伺ったが、男は無言でレジーナを見据えているだけだった。
 睨み合いに観念し、レジーナは胴着の紐も解き始めた。グレンの視線を感じる。手が震えてうまく紐が解けない。
 いっそ男に脱がされた方がまだ気が楽だ。頬をさらに紅潮させながら思った。
 胴着の下には、下半身に下着をつけている他は何も着ていない。紐を解いたままレジーナが俯いてためらっていると、黙っていたグレンがやっと口を開いた。
「目を逸らすな。こっち見ろ。──早くしろ」
 顔をあげてグレンを見る。レジーナは無言で訴えかけたが、男は動かなかった。無表情に近い、固い顔でこちらを見つめるだけだ。
 羞恥の為に慄く手で、服と同じように胸元を開く。今度は素肌が覗いた。胴着を両肩から外すと、滑らかな肌をするりと落ちて、先に脱いだ服の上に広がった。胴着を脱いだ時と同じ格好のまま、腕で胸を覆う。もう下着しか身につけていない。
「おい、下着は穿くなって言っただろ」グレンの低い笑い声が聞こえる。「どうせすぐ汚しちまうんだ。それもさっさと脱げよ」
 恥ずかしい。本当に彼の顔をまともに見られない。レジーナは目を閉じて後ずさった。
「早くしろってば。次はもう言わないぞ」
 羞恥のあまりに潤んだ瞳で、再びグレンを見つめる。しかし彼自身は全く動く気が無いようだった。震えながら胸から手をどけ、下着の紐に手をかけた。
「こっち見てろ」
 食堂の明かりの中、自らの手で全裸にならなければいけないというのに、グレンと目を合わせていられるはずもない。だが、レジーナが視線を逸らす度に、彼は何度でもそう言った。そうしてまた目が合うごとに、胸の奥が波立つ。
 一瞬の内、レジーナは想像する。もし目の前にいるのがグレンでなく、見苦しく肥えた見知らぬ老人であったなら……恐らくは怒りのあまり、屈辱を感じていることを表に出すことさえ許せないだろう。憤怒と復讐心しか抱かなかったはずだ。
 だがグレンに対する怒りは、今は自分の中のどこを探しても、もう見つからない。意識が徐々に麻痺していくような甘美な屈辱に締め付けられているだけだ。そう、この屈辱は、レジーナ自身が感じたいから感じている。
 昨日、感覚を揺さぶるグレンの手に触れられてはいけないと思った。自分で自分の体や感情が制御ができなくなるからだ。
 しかし今は指一本触れられてもいないのに、既に両脚の間は濡れている。

 見つめるグレンの視線が、体の深いところまで入り込むような気がする。下着の紐を解きながら、泣き出して許しを請いたいような気分になった。
 覚悟を決めて下着を脱ぐ。嗚咽に似たものがこみ上げた。唇がわななく。
 グレンはやっと表情を緩めた。
「素直でいいね、奥方様。こっち来い」
 ゆうべも見たが、副伯夫人の肉体は素晴らしいとグレンは思った。
 均整の取れた肢体には、贅肉はほとんど無いが、胸に実る女の果実は、彼の掌に納まりきらないほど豊満だ。鍛えた腰は引き締まってくびれ、臍のあたりには薄く腹筋が浮き出している。下腹部には金の恥毛が生い茂った柔らかそうな恥丘が見えた。そこから伸びる両脚はすらりと長く、ところどころ筋肉が張っていて美しい。意外なことに長身の体を支える足首は、驚くほど細かった。
 鍛えた戦士の体。だが男が触れたがる部分だけは、柔らかく艶かしい。それは全身丸ごと男の為に磨き上げた娼婦などより、よほど淫靡に見えた。
 レジーナは両手を体の前で不器用に組み合わせ、少しでも肌を隠しながら、小股でテーブルを回り込んで、グレンの隣に来た。
 彼はいつも通りきちんと服を着ているせいで、レジーナ一人が日常から外れて卑猥な気がする。それに隣の部屋には、自分たちが退出した後に、最後に片付けをするために年若い給仕がまだ控えているはずだ。万一彼が今ここに入ってきたらと思うと、再び羞恥に体が震えた。
「見れば見るほどエロイ体してるな、奥方様」
 さらに赤面するレジーナを鼻で笑い、グレンは椅子ごと彼女に向き直ると、腰掛けたまま、開いた自分の左腿を軽く叩いた。
「まあ、とりあえずここに跨れ」
「え……」
 後ずさるレジーナを、グレンは捕まえようとはしなかった。ただじっと見つめているだけだ。
 いっそのことゆうべのように、体を捕らえて縛めて欲しい。それなら拒絶しながら身を任せているだけで済むといのに。 
 しばらくの逡巡ののち、レジーナは彼に歩み寄り、顔を赤らめて、服を着たままの腿をゆっくり跨いだ。
 お願い、気づかないで。心の中で哀願する。その一方で、彼は既に自分が濡れていることに気づいているだろうという気もした。そして次にグレンに何を言われるかを待っている。期待している。

 男の脚に腰を落とす。腿の内側に布地の感触があった。
 体重を完全に任せてしまうと、自分の秘部を男の腿に押し付ける形になる。それがためらわれて、彼女は僅かに腰を浮かせようと、腰を落としたまま足だけ爪先立ちになった。
 まるで無関心な客に取りすがる娼婦だ。服を着込んだグレンに対し、全裸の自分が惨めだった。しかも体は火照り始めている。
 あるいは……レジーナはまだ少女の頃、修道院で飼っていた雌の犬が、彼女の脚に時々陰部をこすりつけていたことを思い出した。可愛がっていた犬が自分を使って自慰をしていると思った彼女は、突然犬を汚らわしく感じ、他の修道女に世話を頼んだ。後から聞いた話では、それは自慰では無かったらしいが、まだ初潮を迎えたばかりの少女だったレジーナには、強烈な体験だった。
 今の自分はあの時の犬のようだ。恥ずかしさに涙がにじみそうになる。
 レジーナの様子に気づかないはずはないと思うのに、グレンは脚に彼女を跨らせたまま、ゆったりと葡萄酒をあおった。グレンが腕を伸ばしてカップを手に取るだけで、男の腿が僅かに動き、そこに触れている脚の間に微かな刺激を伝えてくる。それがを昇り、脳に到達する時には、全く違った溶けるような甘い感覚に変換されている。
 グレンは杯を手にしたまま、レジーナを眺めた。
 見ないで欲しい。爪先立ちになった足が震える。露骨に腕で体を隠すと、また何か言われると思い、両腕を臍の辺りで組み合わせて、少しでもグレンの目に触れる部分を減らした。だがとても目を合わせていられず、彼女はテーブルの方へ視線を逸らす。
 恥らうレジーナの姿はグレンを楽しませた。
 仮にも副伯夫人が全裸で、服を着たままの彼の脚に跨っている。視線をあちこちにさまよわせて恥らってはいるが、はしたなくも脚を開き、体の前で組み合わせた両手の間から陰毛が見える。かつての女戦士の姿など微塵も無い。自分を欲しがって甘える、ただの可愛い女だ。
「飲む?」
 そんなレジーナの前に、グレンは自分の飲みかけのカップをつきつけた。
 彼女は首を振ったが、無理やり唇に押し付けられる。
「いいから飲んどけ」
 杯が傾けられ、赤い葡萄酒が流れ込む。口の端からこぼれて滴った。仕方なくレジーナは小さく口を開けて、それを飲み込んだ。甘い。それはとてつもなく甘かった。
「こぼすなよ、勿体無い」
 カップをレジーナの口から外し、彼女の口から首筋に滴る葡萄酒に、グレンが唇を寄せて吸った。
「あぁっ」
 やっと触れてもらえた。首筋を撫でる柔らかい快楽は、切なくすらあった。やるせないため息は、誘うような媚に満ちていた。
 だがグレンはすぐに顔を離してしまう。再びテーブルの上に手を伸ばし、酒のつまみに用意されていた木の実を手に取ると、レジーナの前に突き出した。
「食べる?」
 断っても先ほどと同じように、無理やり食べさせられるだけだろうか。考えている内にやはりグレンの指は、レジーナの唇をこじ開けて木の実をねじ入れた。舌先に触れたその指を、彼女はごく自然に舌で撫でる。僅かにグレンが眉を寄せた。
 男はすぐに彼女の口から指を引き抜き、テーブルから二つ目の木の実を取る。その間に一つ目を噛んで飲み込んだレジーナは、次の餌を待った。
「うまい?」
 二つ目を口に詰められ、またグレンの指ごと味わいながら、痺れた頭で彼女は頷く。
 自分が男に取って相当に扱いづらい女だろうことは、自覚している。そもそも扱いやすい女になどなる気はなかった。
 常に彼女に優しく、紳士的で、穏やかだった夫。傍目には夫が尻に敷かれているようにも見えただろうが、根本的には夫に手綱を握られているとレジーナは思っていた。奔放で苛烈な彼女を操縦できるのは夫だけだと。

 では今グレンに対するこの気持ちは何なのだろう。
 餌付けされているような気分で、三つ目の木の実を含ませられながら、レジーナはぼんやりと考えた。
 命令されることも強制されることも忌み嫌う自分が、奴隷か愛玩動物のように、彼にされるがままになっている。好き好んでそうしているわけではない。拒絶の気持ちはあるが、それは恐ろしいほどに甘美だ。そしてグレンを憎むどころか、体の芯を快楽に潤ませてまでいる。自分という存在、辛酸を舐めて築いてきた価値観や人生観といったものが、歪んで形を変え、どろどろに溶けていく。
 レジーナの口から引き抜いた指を、グレンはだしぬけに彼女の股間に伸ばした。体がびくりと震える。恥毛を押しのけ、彼の脚に押し付けられている秘唇に触れた。レジーナの下半身から疼く様な感覚がせり上がってくる。
「ぬるぬるだな。自分で勝手に服脱いで、勝手に俺の脚に跨っただけで、勝手に濡れちゃったのか」
「あんたがやれって言ったんじゃない……」
 弱々しくレジーナは反論した。
「言ったよ。でも俺は別にお前に触ってもいないし、股を濡らせとは言ってないけどねえ」
 言葉に詰まった。代わりに体の中心から熱いものが溢れ出してくる。自分の目では直接に見えないが、流れ出した愛液がグレンの指にまとわりつくのを想像すると、頬が熱くなる。
「こんないやらしい奥方様に留守を頼んでるんじゃ、旦那も気の休まる暇も無いだろうな。気の毒に」
 グレンは彼女の性器にあてがった指をゆっくり動かして、入り口の襞のあたりをそっと撫でた。それだけでねちねちと淫靡な音が響く。快楽と恥辱に、レジーナは眉を寄せ、唇を噛み締めた。
 グレンの指は、しかしレジーナの中までは入らず、脚の間から離れた。彼はそのままベルトを外し、昂る様子も無くズボンと下着の紐を解く。レジーナはその様子を横目にして、期待に鼓動が高まるのを感じた。ほとんど意識しない内に、グレンのそれが膨れ上がってきているのに気づいていたからだ。早く欲しかった。

「重いよ、離れろ」
 自分で跨らせておいて、グレンは脚を動かし、レジーナをどかせた。ずっと爪先立ちだったのでふらつきながら彼女が体をどけて立ち上がると、彼女がいた場所には、あふれ出した粘液が、グレンの服の上に染みを作っていた。
「犬におもらしされたみたいだな。どうしてくれんの、これ」
 嘲笑されて、レジーナは首を振る。グレンはそんな領主夫人を面白そうに見やりながら、ずらした下着から、立ち上がった彼自身を引き出した。
「おいで」
 逆らえない。低い穏やかな声に引き寄せられるように、レジーナはグレンの真正面に踏み出した。座って服を着込み、屹立した性器だけを露出させた男と、一糸纏わぬ姿の女が向かい合った。
「いいか、今後はつまらない隠し事や、無謀なことは考えるなよ」
 座ったままグレンはレジーナの腰を撫でた。彼女は何も考えずに頷く。ただ本能のようにこの男に服従したい。
 自尊心の強いレジーナの、存在の拠りどころと言ってもいい強烈な自意識。それをごみ屑のように捨ててしまう。このひとときの享楽のために。なんて香しく甘美なのだろう。
「よしよし」
 座ったグレンが自分に向かって腕を伸ばす。レジーナはごく自然に膝をついて、男の手が頭に届くようにした。掌で髪を撫でられて、豊かな金色の髪が乱れる。心地いい。他人にされるがままになる。どこまでも飼い慣らされていく。
「ほれ、じゃあまたゆうべみたいに舐めろ」
 撫でていた頭をグレンが押し下げる。視界に入った男根にレジーナは一瞬たじろいだ。それに対する嫌悪感はまだ残っていた。だが、グレンが望んでいることだ。従わなければ。従いたい。
 レジーナは腰を落として座り、ゆっくりとした動作で、醜悪な男性器に口づけた。見下ろすグレンの表情は変わらないが、微かに唇が歪んだ気がした。
 舌を出して、あの彼の肉体で最も柔らかく繊細な部分を優しく舐める。グレンが息を吐いた。
「手も使え。握って」
 ゆるい悦楽に掠れる男の言葉を聞いて、レジーナは昨日は縛められていた手を、陰茎に添える。剣を使う彼女の右手は、グレンほどではないが、皮が厚く荒れている。まだ幾分柔らかい左手でそれを握り、愛しむように右手の指先を添えた。
 そうしておいて、思い切って性器の先端を口で包む。
「あ……」
 ゆうべ何度もレジーナがあげたような、切ないため息のような声をグレンがあげる。二千の軍隊を率いる男が、何度も自分を責め立てた男が、そしてもしかしたら、いつか自分を殺すかもしれない男が、彼女が与えた愉悦に身を任せて、声をあげている。暗く冷たい炎のような満足感が広がった。
 レジーナはグレンが彼女の性器にそうするように、顎を規則的に動かす。彼の喉が僅かにのけぞった。
 息苦しい。生臭い不快な匂いが鼻に突き抜ける。グレンの為にそれに耐えている自分自身が、とてつもない堕落の罪を犯している気がする。その思いがまた次の快楽を生む。
「レジーナ……気持ちいいよ」
 グレンのうわずった囁きを聞くと、脚の間から熱い液体があふれ出すのが分かる。もっと言ってほしい。もっと褒めてほしい。
「出すぞ」
 律動させる間に降ってきたグレンの声に、レジーナは首を振って、陰茎から口を離した。見上げると、不愉快そうなグレンと目が合う。
「なんだよ、途中でやめるな」
「やだ。ねえ、お願い」
 精液を口の中で吐き出されることが耐え難いことだったわけではない。だが彼が射精し、次に再び立ち上がるまで、彼を欲しがっているレジーナの中心部分は耐えられない。
「あとでそっちにも突っ込んでやるから」
 グレンは苛々と言い、再びレジーナに男根を咥えさせようとするが、彼女は頑強に首を振った。
「いやだ。今すぐ欲しい」
 言ってしまってから、レジーナは赤面した。我に返るより早く、グレンが苦笑いを浮かべながら座ったまま、彼女の腕を掴んで立ち上がらせる。
「ワガママだな。──じゃ、今度はこっちに跨りな」
 グレンは反り返った自分の男性器を指差した。レジーナの下腹部が震える。しかし彼女はためらわずに、座ったままのグレンと向かい合うように、男の体と椅子の背もたれに脚を絡めて、その上に腰を落とそうとした。背中をグレンの手に支えられて、女陰が彼の先端に触れる寸前に止められる。
 非難を込めてグレンを見る。彼もまた彼女を見据えた。
「もう一言、言うことがあるだろ」
「……なに?」
 本当に分からなかった。呂律の回らない舌でやっと問うと、男は目を細めた。
「悪かったわよ、じゃないだろ。ちゃんと謝れ」
 グレンの言葉が体の隅々にまで染みていく。痺れる。数瞬の陶酔ののち、レジーナはやっと声を絞り出した。
「──ごめんなさい」
「よし」
 瞬間、グレンがレジーナの体を押し下げ、彼女は彼自身に貫かれた。
「うわっ、はあああああっ!」
 自分で驚くほどの声がほとばしる。全身が待ちかねた歓喜に震えた。
「声が大きいって、お前。隣の部屋の坊やに聞こえたらどうすんだよ」
「ご、ごめんなさい」
 震える声で彼女はそう言い、自分の口を塞いだ。快楽のあまり涙が溢れる。
「随分素直になったな」
 レジーナの様子を見て、グレンはうっすらと笑うと、すぐに彼女の体を持ち上げるように腰を動かし始めた。
 体が一瞬浮き上がり、すぐに沈む。また突かれる。攻撃的な悦楽に、レジーナは口を塞いだまま悲鳴のような声をあげた。急速に快楽が駆け上がり、体中に満ちる。頭の中にも、手足の指先にも。頑丈な樫の椅子が二人分の体重を支えて、男が動くたびに軋んだ。

 狂おしいほどの快楽だった。下腹部から押し上がり、激流のように体を流れて暴れる。
 レジーナは手を伸ばし、グレンに縋りつこうとしたが、男は彼女の腕を振り払った。
「だめだ。触んな」
「どうして? だって……」
 慎みも忘れ、夢中で彼女はグレンに唇を寄せるが、それもかわされてしまった。
 吐き出せない、伝えられない愉悦が体中に溜まっていく。全身でグレンと繋がりたいのに、触れている部分は、体を支える背中の手を除けば、互いの性器だけだ。もどかしい。そして残酷だ。
 手足が大きく震えだす。体の中、今グレン自身が突き上げている彼女の内部も小刻みに震えている。自分の体は、心はどうなってしまうのだろう。
「レジーナ、気持ちいいか?」
 彼女を自分の体から離したまま、腰だけを動かしながら、ゆうべのようにまたグレンはそう訊いた。レジーナは何度も頷く。
「き、気持ちいい」
「そうか。いいか、もう俺の裏をかこうなんて思うなよ」
「分かった。分かったから……」激しく揺さぶられて、ぶれる声をやっと搾り出す。「許して。ごめんなさい。ごめんなさい!」
「分かればいい」
 子供のように、許しを請う言葉をなまめかしい声で叫び続けるレジーナを見て、グレンは心底満足したようだった。より激しく、立ち上がるほどの勢いで、男性自身をレジーナの中に向かって突き上げる。
「あ、ああああっ! グレン……ああっ! ごめんなさい! ゆ、許して……!」
 意味も無いまま、許しを請いながら、レジーナは激しく打ち込まれる熱い塊に呑まれた。体の芯が痙攣する。グレンを飲み込もうと、ぐいぐいと締め付けている。恐ろしいほどの悦楽に、骨までが軋むような気がする。痙攣はすぐに全身に広がり、まるで自分の体全てを使って、グレンの精液を搾り取ろうとしているようだった。
 絶頂を迎える寸前、グレンがやっと彼女を抱き寄せた。震える体を押し付け、貪るように彼に口づけながら、レジーナはまたあの金色の光が降って来る幻を見た。

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