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山間の城の物語」
第一章 山間の城

7.恐慌 (3)

2010.08.08  *Edit 

 湯に浸って、見下ろす自分の体が、異物のようにも愛しくも感じられる。不思議だった。
 避妊薬の副作用なのか、体がややだるかったが、客室で寝直した後、朝からまたレジーナはよく働いた。今日は役人を引き連れ、城下の外、農地や牧草地の領民を見舞いに行った。せまい領地とはいえ、山の中だ。一日で回りきれるものではないが、泊り込んで旅に出ることは避けたかった。まだ着いて一日しか経たない公国軍を残して自分が城を空けるのは不安があったからだ。一箇所だけ訪問し、夕方前に早々に帰ってきた。
 当分はこの領地を周ることになるが、早めに兵卒たちが詰めている兵舎も視察したい。改築の具合や費用も執事と相談しなくては。
 することは山ほどあった。

 風呂に浸かるのは一日ぶりだ。昨日はそんな暇が無かった。
 一昨日、公国軍が来る前に沐浴を済ませた時とは、自分が違ってしまったような気がする。実際、二日の間に何度もあの男に蹂躙され、押し広げられた陰部が湯に沁みて痛い。
 自分の体のどこを見ても、グレンに触れられたことを思い出す。初めて夫と肌を重ねた後、嫌いだった自分の女の体が愛しく思えた。その時と似ている。だが与えられて刻まれたのは、愛情などではなく、堕落したねっとりとした情熱──欲望だけだ。
 それを屈辱と思う一方で、誇らしいような気持ちも湧いてくる。
 考えてみれば、夫が出征する半年ほど前から、この肉体が、それだけで夫を惹き付けたことはない。彼を惹き付けたのは、レジーナに対する愛情だった。そして惹き付けたのは夫の精神だけだ。それだけで満たされていると思っていた。
 レジーナは湯船から体を起こし、体を拭いた。自分の手が自分の体に触れる。何でもないことなのに、たびたびグレンの愛撫が思い起こされる。

   
 風呂のある棟を出ると、夕暮れが目に焼きついた。
 風呂に入る前に侍女からの言付けがあった。今日もグレンが夕食を一緒にしたいという。自分の部下と食えよ、と伝言を返したかったが、そうもいくまい。
 そういえば昔からグレンは、男同士の食事が嫌いだった。それぐらいなら一人で食べた方がいいと、仲間の輪から離れて食事することもあったという。実際どうだったのかは、レジーナは見たことが無いので知らない。何故なら、レジーナの顔を見れば当然こちらに寄ってきて、ちゃっかり彼女たちの仲間と混ざってしまったからだ。
 その彼がよく男の園とも呼べる軍隊に入ったものだ。食事の時にその話を聞いてみたい気もした。
 しかし夕食の後のことを考えると、気が重い。抱かれるのも嫌だが、そうでないのも、何となく寂しいような気がする。そんな自分がもっと嫌だった。
 だが、グレンも若いと言ってもそろそろ三十を過ぎる頃のはずだ。そうそう毎日女を抱く体力は無いだろう。
 考え事をしながら、ひと気の無い貯水槽のあたりに来た時、一人の男が貯水槽の蓋にかけられた鍵をいじっているのが見えた。
「ちょっと、何してるの」
 彼女は男を城下の領民だと思った。だから自分の身は考えずに声をかけた。領民はレジーナの顔をよく知っているし、領主夫人であり、元傭兵である彼女を軽んじることはなかったからだ。
 顔をあげた髭面の男は、見覚えが無かった。そして向こうもそう思ったようだった。髭に隠れた顔に、軽い驚愕が表れている。やがてその口元が下卑た笑みを浮かべた。
「おネエちゃん、何見てんだ」
 おネエちゃん。少なくとも城下にいる領民が、レジーナを捕まえてそう呼ばわることはありえない。よそ者か、あるいは……。
 男は頬と顎に髭を生やしているが、まだそう年はいっていないように見えた。黒髪はぼさぼさだ。旅人かならず者のような風体である。まっとうな堅気には見えなかった。
 男は逃げるでもなく、レジーナに向き直った。ひと気の無い、城の外れの別棟だ。時刻は夕暮れ。偶然にもここを通りかかる人間は少ないだろう。ならず者が女を見かければ不埒なことを考えても不思議は無い。
 だが、ここしばらくそういった類の人間はこの近辺に現れなかった。だから城壁や城門の警護も甘い。たまたま旅人狙いの追いはぎが外から入ってきた可能性もあるが、そうでないかもしれない。
 男の目つきはすこぶる剣呑だ。人を呼ぶ為に声をあげたり、逃げる為に身を翻した瞬間、飛び掛ってくるような気がした。
 レジーナは男に目を据えたまま、踵の高い靴を静かに足だけで後ろに脱ぎ捨てた。

 男が大股に近寄ってくる。
「綺麗なねえちゃんだなあ。なあ、おとなしくしてろよ」
 腰をやや落としたまま、寸前まで待って、伸びてきた腕を振り払った。男は舌打ちし、腰に差した短剣を抜いた。
「おとなしくしてねえとケガするぞ」
 刃物を持っていたのか。内心、レジーナも舌打ちしたかった。自分は丸腰の上、動きにくい裾の長い服だ。愛用の短剣は、一昨日応接間でグレンに取り上げられた後、どうしてしまったのだっけ。
 今はそんなことを考えている暇はない。
 レジーナはゆっくり後ずさりながら、男が動くのを待った。刃物を出しても動じないレジーナに苛立ったのか、男は踏み込んで短剣を突きつけてきた。
「おい、動くなって」 
 その右手を思い切り掴んで引っ張り、傾いだ男の顔に反対の拳を叩きつける。
「ぶっ」
 声をあげて男が仰け反った拍子に、掴んだままの右手をさらに引いて体を反転させ、腕をねじりあげた。
 捻られて張った男の手首に、躊躇せずに渾身の力を込めて固めた拳を叩き込む。骨と骨がぶつかる。男が短い悲鳴をあげた。短剣が落ちる。
 レジーナは怯んだ男の体を地面に押し付けようとした。だが男の脚が跳ね上がり、彼女の膝を打った。
 痛みとともに蹴られた膝が僅かに崩れる。男に腕を振り払われてしまったが、腰が落ちたレジーナの方が、短剣を拾うのは早かった。
 怒りの表情でこちらを向いた男は、レジーナが短剣を構えるのを見て、怖気づいたようだった。
「あんた、誰? 何してたのよ」
 男の目に一瞬逡巡が浮かんだが、すぐに男は身を翻して駆け出した。
「待て、この!!」
 レジーナは追いすがろうとしたが、裾が足にまとわりついて速く走れない。立ち止まって、男の脚目掛け、短剣を投げつけた。
「ぎゃっ」
 短剣は男の尻に命中した。昔から彼女は短剣投げの腕は今ひとつだった。
 尚も追いすがろうと、裾を持ち上げて男に駈け寄るが、尻に短剣をつきたてたまま、男も走り続ける。その先通路が城壁の裏口、暗がりに続いているのを見て、レジーナは追跡を諦めた。
 動きにくい服の上に、丸腰だ。それに暗がりで男の仲間が待ち伏せしていないとも限らない。男の正体と目的は知りたかったが、自分の身の安全の方が大事だ。
 緊張が解け、大きく息をつく。沐浴を済ませたばかりだというのに、服も体も土と砂にまみれてしまっていた。
 貯水槽に戻る。幸い、鍵は壊されていなかった。
 水はこの城の命だ。ここに毒でも盛られたら、公国軍の蹂躙など待たずに城内は全滅する。
 かつては見張りを置いていたが、盗賊団を壊滅させてからは、それも無くなった。それだけ城下はまとまり、平和になったということだが、城壁や城門の警備も含めて甘すぎたかもしれない。
 しかし、今の男は……。
 城下の人間ではありえない。外から来た人間だとしても、この城の内部、貯水槽にたまたま入り込むならず者がいるだろうか。他に狙う場所はいくらでもある。中の人間でも外の人間でも無いとすれば、答えはひとつだ。
 レジーナは脱ぎ捨てた靴を履いて大股で歩き出した。

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