FC2ブログ

ココナッツ図書館 夜間書庫

スポンサー広告

スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



登録させていただいているサイト様
「山間の城の物語」に投票
 ↑現在連載中の「山間の城の物語」が気に入ったら、クリックして投票してください。
「乙女の裏路地」へ 「にほんブログ村 小説ブログ」へ
fc2ブログランキングへ投票 「十八禁恋愛私花集」へ
*Edit TB(-) | CO(-) 

山間の城の物語」
第一章 山間の城

11.静寂 (1)

2010.09.03  *Edit 

lesbaux_evning3.jpg

11.静寂


 このまま時間が止まればいいと思った。


 **


 この手紙を君が読んでいるなら、まずは無事に手紙が届いたこと、そして君が無事であることを感謝したい。

 長い間留守にしていてすまない。その後領地は変わりはないだろうか。
 君はしっかりしているから、ちょっとした問題なら大丈夫だと思うが、何でも自分で解決しようと思うと疲れてしまう。
 執事たちや君を慕う侍女たちに適度に頼って、任せられることは任せた方がいい。君はできない、分からないと言えない人だから、物事を抱えすぎないか心配だ。
 手に負えないような大きな問題があれば、大公を頼るといい。私も今の大公には二、三度会ったきりだが、聡明な方だ。何某かの見返りは必要だろうが、力になってくれるはずだ。

 私の方は幸いなことに健康だ。病気もしていないし、五体も欠けていない。
 今の防衛線を突破すれば、海を越えて敵国に乗り込むことになる。戦況は悪くない。教圏内の有力諸侯が顔を揃えていて、士気も高い。
 だが大きな戦いでは何が起こるか分からない。昨日の戦いで四人の兵士が亡くなった。別紙に名前と遺品を同封したので、遺族に渡して欲しい。つらいことだが、よろしく頼む。
 怪我をして寝込んでいる者があと二人。医者の話によれば助からないかもしれないそうだ。回復して、また一緒に戦いたいが、苦しんでいる彼らを見ていると、早く安らかに神の元へ送ってやりたい気もしてくる。
 やはり戦争は僕の性に合わないらしい。陛下の勅命で無ければ、こんなところに来たくはなかった。
 できれば早く帰りたい。そして君に会いたい。

 愚痴ばかりでみっともない。
 だが実はもう三回手紙を書き直している。これ以上書き直す時間も無いので、今回はこの見苦しいまま託すことにするよ。
 君が字を書くことが苦手なのは知っているが、返事を書いてくれると嬉しい。
 必ず生きて戻るつもりだが、万一運が無く、ここで土となることになったら、君は元通り自由に生きて、幸せを探して欲しい。領地のことは何とかなる。僕のいない土地に君を縛り付けたくない。

 どうか体に気をつけて。
 いつ、どこにいても、たとえ肉体が滅びても、君を愛している。


 **


 脱いだ下着にぬるりとした自分の愛液と、体内から僅かに漏れた白っぽい精液が染みついている。汚れた下着を洗うつもりだったが、目にすると惨めだ。
 あれほど心を凍らせて、グレンを拒絶しようとしたのに。そして彼の声や局部に触れる肌の熱さえもが、硬く凍った自分の上を撫ですぎるだけだった時は、成功するかと思ったのに。結局は欺瞞に満ちた言葉にかき口説かれるように、受け入れてしまった。
 偽りだと分かっていても、言葉が滑り込んでくるのは、どこかでそれが真実かもしれない、真実だといいと思っているからだ。その意識の深いところまで、自分の意志では制御できない。
 もしかしたらそれは、彼を愛しているからだろうかと考えてみた。夫がいるからそう思うことを拒絶しているだけで、本当はグレンを愛しているのかもしれない。
 しかしそれは胸の奥にしっくりと馴染まなかった。
 彼を自分だけのものにしたい、いつでも彼の側にいたい、彼に幸せになって欲しい、彼と共に人生を歩みたい。彼女が夫や、それ以前に淡い恋心を抱いた少数の男性たちに対して考えていたような気持ちは、グレンには全く感じない。
 拭いがたい嫌悪を持っているわけではないが、好意や友情という段階にも達しないほどの好奇心と、昔の知り合いだという、ささやかな気安さを覚えるだけだ。
 なのに、肌を重ねている最中は、彼が唯一の存在であり、支配者であり、どこまでも深く繋がって、ひとつに溶けあってしまいたいとさえ思うのが不思議だった。
 これがかつて修道院で教えられた、堕落だろうか。欲望に負けて身をゆだね、理性を失ってしまう。堕落した人間は神の手から離される。レジーナは格別信仰厚い人間では無かったが、進んで地獄に落ちたいとも思わない。何より神の加護を失うことより、夫を失うことの方が遥かに恐ろしかった。

 グレンが自分でない女を抱いているのが、全く気に障らないと言えば嘘になる。だがそれはどちらかと言えば、嫉妬というより自尊心の問題だ。多分大抵の女は、自分に興味を向けていた男が突然別の女に目移りすれば、少なからず面白くないだろう。
 むしろ寝室に呼ばれている侍女たちの身の方がよほど心配だ。
 マイラが呼び出された日は、たまたまグレンが副官に彼女を呼ぶように言いつけた場面に居合わせたが、昨日誰が呼ばれたのかは分からなかった。グレンはレジーナや侍女頭を通さず、側近に直接侍女を呼びに行かせているらしい。
 敢えてその日に誰が呼び出されたか、昨日も今日も確認していない。侍女も寝室に呼ばれたことを知られたくはないだろうと思ったからだ。

 宵闇に包まれた浴室で、蝋燭を一本だけ灯して入浴と洗い物をしているのは、何か淫猥な儀式じみている気がする。
 普段は夜に浴室を使うことは無いが、無理を言って召使いに用意してもらった。
 夕方、庭園から戻った後、侍女が届けてくれた一通の手紙。
 小食堂に持ち込み、一人で読んだ。万感の想いが溢れて、レジーナには珍しいことに、食事が手につかなかった。
 夫が生きていた。長い旅路の末に届いた手紙の日付は二月以上前だったが、生きて無事に戦場に辿りついていたのだ。
 グレンが以前に「情報は全て教えろ」と言っていた通り、届いた書簡の類はまず公国軍に渡されることになっていた。個人的な手紙などは確認しないと言っていたが、開封されてしまうのは間違いないだろう。
 予感があったわけでもないだろうが、気の利いた侍女が予め夫に持たせたインクには、細工がしてあったらしい。行商人によって手紙が麓の町まで届いた時にそれを察知した侍女は、鳥を使って、公国軍には知られることなく、極秘に手紙を手に入れて、すぐにレジーナに渡してくれた。
 夫の几帳面な字を何度も瞳で辿っていると、懐かしさと愛しさがこみあげて、いてもたってもいられなくなった。かといって食事も喉を通らず、気持ちを落ち着かせる為に、下着の洗濯も兼ねて風呂に来てしまった。一人で考え事をするには、ここか庭園が一番いい。邪魔をしにくるのはグレンくらいだが、レジーナの食事より前に、呼び出した侍女との夕食を終え、既に寝室に引っ込んでいるはずだ。
 彼と何度も交わり、こうして汚れてしまった下着を洗っていることも、大切な侍女たちを差し出さなければならないことも、夫が生きているなら耐えられる。
 洗い物を終え、再び温かな浴槽に漬かりながら、濡れた手を拭いて、また手紙を手に取った。
 距離と時間を隔てても、夫は側にいた時と変わらずレジーナに力を与え続けてくれる。声は無くても綴られた文字が静寂を湛えたまま励ましてくれる。
 愛する人がいるとはそういうことだ。家族も恋人も持たない、孤独なグレンには解らないだろう。初めて彼を哀れだと思った。


 様々なことに思いを馳せながら、浴槽の湯が冷めるまで何度も手紙を読み返した。
 風呂場を出て、召使部屋の裏手にある物干し場に、こっそり洗った下着を干していると、物悲しい気分になってくる。
 いつまでこの生活は続くのだろう。
 どんな形でもいい。早く戦争が終わって、夫に戻ってきて欲しい。敗北でも構わない。夫さえ無事ならそれでいい。
 夫が戻ったところで、大公の軍が帰るわけではないだろう。かつての平和な日常は戻っては来ない。夫の手紙には何かあれば大公を頼れとあった。聡明な夫も、まさかその大公がこの小さな領地に進軍してくるとは思いもよらなかったのだろう。
 だが夫ならレジーナよりもうまく、駐留している公国軍と交渉できるだろうし、侍女や召使い、領民たちも落ち着く。正当な城主がいれば、エドワードのような人間に煩わされることもない。勅書に書かれていたことも知ることができる。
 何よりレジーナの心の隙間が埋まる。寄り添っていた夫を失って、危うく揺れる自分が落ち着く。
 だからそれまで、この領地を守らなければ。 
 レジーナは手紙を丁寧に折りたたみ、胴着の胸元にしまいこんだ。
 乾いた風が吹いて、春の夜の寒さを伝えてくる。ここのところ暖かかったが、今夜から急に冷え込むようだ。
 ふと眩しさに気づいて空を仰ぐと、完全に満ちた月から冴えた金色の光が降り注いでいた。
 今夜は満月だった。

BackNext


ネット小説ランキング>【R18部門】>山間の城の物語

 ↑ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。


登録させていただいているサイト様
「山間の城の物語」に投票
 ↑現在連載中の「山間の城の物語」が気に入ったら、クリックして投票してください。
「乙女の裏路地」へ 「にほんブログ村 小説ブログ」へ
fc2ブログランキングへ投票 「十八禁恋愛私花集」へ
*Edit TB(-) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。