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山間の城の物語」
第二章 千の目

1.千の目 (1)

2010.09.14  *Edit 

lesbaux_night2.jpg

第二章
1.千の目


 星を見たくて外に出た。
 高地の初夏の空はどこまでも澄み渡り、夜には星屑の天幕が広がる。視界を覆い尽くす無数の星空を見ると、そら恐ろしくなる一方で、夜空に包まれているようで安堵もする。
 星を見つめていると、いくつもの思いが寄せては返し、やがて心がからっぽになる。
 軽めの外套を持って外へ出たが、今夜はかなり暖かかった。真夏でも夜には冷えることが多いのに、とても珍しい。
 真夜中を過ぎた城内は寝静まっている。中庭を通り過ぎても、物音もしなかった。
 彼女は下ろされたままの跳ね橋を渡り、城の外へと出る。
 辺境の山間にある、小さな田舎の城だ。かつては難攻不落の要塞と讃えられた名城も、現在では戦略的価値も無い、小さな領地に過ぎない。ここを狙って侵略してくる人間など、いるはずもなかった。脅威と言えば、山に棲みつく盗賊たちだ。しかし二年ほど前に、近くの林の修道院に棲みついた大きな盗賊団を退治してからは、平和な日々が続いていた。城の跳ね橋も落としたままだ。
 やはり寝静まった城下の町に入らず、城の空堀に沿うように歩くと、兵舎が見えてくる。そこを回り込んだ向こうに、町をぐるりと囲む城壁が聳えていた。城壁に等間隔で立てられた見張り塔からは、星がよく見える。昔から彼女がお気に入りの場所だった。
 兵舎に近づくと、兵舎前の門番小屋にいた男が、彼女の姿に気づいて微笑んだ。
「また散歩かい?」
「はい」
 曖昧な笑顔で頷く。ここのところ晴天続きで、毎夜のように星を見に見張り塔に出かけていた彼女は、同じく連日夜の見張りを勤めている若い兵士と、すっかり顔見知りになっていた。
「今日はあったかいね。のんびり星が見られるだろ」
「そうですね」
「あんたも変わってるな。こんな真夜中に、何刻も星を見ているなんて」
 彼女の姿を見下ろしながら、若い兵士はそう呟いた後、慌てて付け足した。
「ああ……いや、変わってるって、悪い意味じゃないんだ」
「いいえ。よく言われますから」
「そうか」精悍な兵士はくすりと小さな笑いを漏らした。「旦那か恋人の無事を祈っているのか?」
 彼女は首を横に振った。一昨日あたりから、この兵士とはすれ違いざまに世間話をするようになったが、ここまで私的なことを訊かれたのは初めてだ。だがそれは不快ではなかった。
「いいえ、夫も恋人もいません。でも出征した皆さんの無事を祈っています」
「へえ、あんたみたいな可愛い人に恋人がいないなんて、嘘みたいだな」
 おどけたような明るい声をあげ、男は肩を竦めた後、穏やかに微笑んだ。
「皆、無事に戻ってくるといいな」
「ありがとうございます」
 彼女も微笑み返し、軽く会釈を残してその場を離れた。兵士のもの問いたげな、好意のこもった視線が追ってくる気がする。
 いや、気のせいに違いない。足を速めて、城壁の見張り塔に急いだ。

 彼女が立ち去った兵舎には、二千人近い兵士たちが寝起きしている。
 だが彼らは、この領地の軍隊ではない。
 山間の小さな城の城主である副伯は、少ない手勢を引き連れて、国王の勅命を受け、異教国への遠征に出発した。昨年の秋のことだ。
 近辺の盗賊団を壊滅させ、副伯が妻を娶った後の華やかな平和は、一年半ほどしか続かなかった。少ない軍隊を遠征に駆り出された副伯領は、丸腰の状態であったと言える。
 しかしこの辺境地方の、さらに山奥の領地を狙う人間など、いるはずもなかった。誰もがそう考えていた。
 たった一人、辺境地域で最大の勢力を持つ大公を除いては。
 大公国の二千の軍隊が、険しい山道を侵略してきたのは、先月のことだ。
 かつては難攻不落を誇った要塞といえど、守り手がいないのでは戦いにもならない。虐殺されるだけだ。
 戦える人間はほとんど遠征に出かけ、残ったのは女、子供、老人だけである。二千人の大国の軍隊を相手に、小さな山間の村は、膝を屈するしか方法が無かった。
 この領地を守る為、副伯に忠誠を誓った兵士たちが寝泊りしていた兵舎は、現在では侵略してきた大公国の軍隊が駐留している。
 先ほど彼女に親しげに話しかけてきたのも、大公国の軍人である。言うなれば、彼は侵略者の一員である。敵であった。
 だが現在のところ、彼らは彼女たち城内に住まう人間や、城下の領民には手出しをしていない。どころか丁重に扱われ、うまく共存している。
 大公の目的はこの領地ではなく、山を越えた向こうにある伯爵領だという。ここは拠点として、足がかりに使われるに過ぎないのだ。
 副伯不在の為、代理として大公国軍の司令官と交渉した副伯夫人は、それを聞き出すと、領地の人間への一切の略奪や暴行を禁じるという約束を取り付けた。おかげで城内、城下共に、他国の軍隊が駐留する状態でありながら、現在のところは平和が保たれている。中隊長以上の士官を除いては、一般兵は兵舎のある訓練場から外に出ることは、原則として禁じられていた。
 しかしそのために、幾つかの屈辱的な条件を呑まざるを得なかった。
 副伯夫人の苦悩を考えると、心が痛む。

 兵舎を囲う長い柵沿いに歩き、城壁へと通じる細く急な階段を上る。欠けていく月の細い明かりが、足元を頼りなく照らしていた。腰を屈め、前の段に手をつくようにして慎重に一段ずつ上るうち、目の前に視界が開ける。
 彼女の首くらいの高さまである城壁の向こうは、ほぼ垂直の急な崖になっている。その向こうにはかつて盗賊が棲みついていた林が広がっているが、夜の暗闇の中で濃い影を見せているだけだった。
 横目でその風景を見ながら、城壁沿いに歩くと、見張り塔に辿り着く。塔の中は、視界が暗転するほどの濃い闇に包まれていた。だが、屋根が無いので、頭上から星の光が微かに降ってくる。
 彼女はその淡い明かりと感覚を頼りに、手探りで壁沿いの階段を上り始める。角灯を持ってくれば足元はもっと明るいが、星を見るのに火の明かりは邪魔だ。
 城壁の階段よりもっと狭い石段を、壁に張り付くようにして上る。やがて大きく視界が開けて、砕いた輝石と硝子を散りばめたような、満天の星空が見えた。
 見張り塔の最上は、屋根が無く、彼女の胸くらいの高さの、矢来を含んだ壁に囲まれている。
 ぬるい風が優しく顔を撫でた。
 彼女は壁にもたれかかり、眼下の黒い林を見下ろした後、空を見上げた。無数の星。恐ろしいほどの数だ。
 副伯も、彼が連れている兵士たちも、遠く離れた異教の地で、同じ星空を見上げているのだろうか。
 早く無事に戻ってきて欲しい。
 既に占領された後で、数百人にも満たない小隊が戻ったところで、事態は何も変わらないかもしれない。だが、領地の正式な主がいるのといないのとでは大違いだ。
 彼女はぼんやりと公国軍が入城した日のことを思い出した。


 公国軍の司令官は、副伯夫人とかつて知り合いであったらしい。
『獣……いえ、ケダモノね』
 彼女に向かって、夫人は司令官をそう称していたので、さぞかし暴力的なむくつけき男であろうと戦々恐々としていた。
 しかし大広間に挨拶に出てきた敵軍の総大将は、意外にも礼儀正しく、温厚そうであった。長身の体躯は鍛えられていたが、筋骨隆々というほどでもない。日焼けした顔もどこか甘い。正直言えば、彼女の心は少しばかりときめいた。
 だが慇懃な態度も表面だけだったようだ。司令官は夫の留守を預かる気丈な夫人を、弱みにつけこんで毎晩のように寝室に呼び寄せて陵辱した。
 それだけではない。すぐに夫人に飽きた彼は、次に侍女や女中たちに目をつけた。広間に城中の女を集め、一人一人値踏みするように顔を見て、名前や年齢などを聞き、あろうことか自分の副官にそれを書き留めさせていた。
 彼女も例外ではない。
 彼女には恋人も夫もいなかったが、占領軍の司令官に身を任せるなど、本当は真っ平であった。しかし彼女の主であり、夫を持つ副伯夫人が、毎晩のように司令官に組み敷かれていたのだ。それを考えれば、一度や二度、司令官の慰み物になる覚悟は決めなくてはならないと思っていた。 
 居並ぶ侍女たちを順に眺め回し、ご丁寧に一人一人質問していた司令官が彼女の目の前に来た時、彼女の心臓は、その鼓動が止まるかと思うほど大きく弾んだ。

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