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山間の城の物語」
第二章 千の目

2.初夏に咲く紫の花 (1)

2010.09.24  *Edit 

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2.初夏に咲く紫の花

 ノックせずに書斎に入る。特に慌てていたわけではない。ロデリックの癖だ。
 彼の上官は、樫でできた重厚な机に納まり、この古城の城主が収集した本を読んでいた。以前は絶好の昼寝時間だったようだが、ここのところは居眠りもしていない様子だ。
「なんだ」
 副官のロデリックが、『失礼します』という声と同時に書斎に入ってくるのは、いつものことだ。グレンは特に不満も見せず、本から顔を上げた。副官が書斎まで来るからには、彼の判断を仰ぐ必要があるような用事があるのだろう。
「問題があったようです」
 そう前置きした後、ロデリックは口を噤んだ。珍しいことである。
「なんだ、問題って?」
 言葉を探している様子の副官を急かすように、グレンが声をかけると、一瞬視線を宙に投げたロデリックは、息をついて口を開いた。
「昼食の際に私のところに、侍女頭様が血相を変えて、おいでになりまして……」
 グレンはぼんやりと、侍女頭の姿を思い浮かべる。年齢不詳の艶っぽい美人である。彼はどちらかといえば若い女の方が好きだったが、あれほどの色気を醸し出しているなら、年増女も悪くないなどと思っていた。
「どうも、その……」
 口が回るロデリックの歯切れが悪い。面倒なことになりそうな予感がした。
「なんだよ。要点をずばっと言え」
「……侍女の一人が、我々の軍の兵に暴行されたようなのです」
 気まずそうに副官が言った台詞は、グレンが想像していたより煩わしいものではなかった。だが、彼の軍が入城後に初めて起こった類の事件である。対応を考えなければならない。
「暴行って、殴られたとかだけじゃなくて、やられちゃったってことだろ?」
「平たく言えばそうだと思います。侍女の一人が、朝から様子がおかしいので、侍女頭様が問い詰めたところ、涙混じりに打ち明けたそうです」
 ロデリックは苦々しく語った。
「それで、あの色っぽいおばさんが、お前んとこに駆け込んできたわけか。部下思いだな」
「言葉は丁寧でしたが、大層な剣幕でした……」
 楚々とした侍女頭に柳眉を吊り上げて詰め寄られ、たじろぐロデリックの様子が目に浮かぶ。グレンは思わず低く笑った。

 この山間の城に無血入城し、約ひと月になる。副伯夫人との約束に従い、司令官である彼は、各部隊の隊長である士官に、彼らは勿論、部下である兵士たちにも、決して領民に乱暴をさせないように通達した。
 グレンが知る限り、それが破られたのは初めてだ。知った以上、手を打たないわけにはいかない。
「状況は詳しく聞いたのか?」
 尋ねると、有能な副官は首を振った。
「いいえ。侍女頭様も本人から詳細は聞いておられないようです。暴行が本当だとすれば無理もないことですが」
「狂言とは思えないけどな。そんなことをしても、何の得にもならないだろ」
 二千人の軍隊が駐留するこの城下で、その兵隊に乱暴されたと狂言で騒ぎ立てて、何か本人に利益があるとは、グレンには思えなかった。彼が副伯夫人との取り決めを無視し、事件を揉み消したとしても、ここでは誰も文句をつけられない。
 しかしロデリックは、やや顔を顰めた。
「以前にも申し上げましたが、女を甘く見ない方がいいですよ。あらゆる可能性を考えておくべきだと思います」
「あらゆる可能性を考えてたら、頭が破裂しちまうよ。……まあ、とにかく本人から話を聞かないと、犯人も分からないな。被害にあった侍女の名前は分かるか?」
「シェリルという若い侍女だそうです。数年前から仕えているようです」
 グレンは記憶を探ったが、生憎心当たりはない。
「聞き覚えが無いな。例の侍女たちの一覧表を持ってこい」
「……そう仰るだろうと思って、お持ちしました」
 溜め息を押し殺し、ロデリックは、侍女と女中の名前や年齢、容姿が書き込まれた、世にもくだらない上等の羊皮紙を上官に差し出した。
「さすが。気が利くな」
「私個人としては、できれば火をつけて燃やしてしまいたい物ですけどね」
「勝手にそんなことしてみろ。お前も同じ目に合わせてやるからな」
 肩を落とす副官をよそに、グレンは受け取った羊皮紙を開いた。副官の几帳面な字で、侍女と女中の名前、年齢、婚姻歴や容姿の特徴が書き込んである。一度抱いた女には、彼自らご丁寧に印をつけて、一言書き込んでいた。
 毎夜侍女を呼びつけては抱き、いずれこの一覧表を制覇したいなどと、副官を嘆かせるようなことをグレンは考えていた。しかし先月に、呼びつけた侍女の一人に不意を襲われ、深手を負ってからは、傷を癒すために夜伽をさせるのも止めていた。  
 暴行されたらしい侍女の名前を探し当てる。やはり彼がまだ手をつけていない女であった。
 司令官であるグレンが、怪我の為に女を抱けないというのに、一兵卒が暴走して、勝手に侍女を乱暴するとは何事だ。妬みと怒りが腹から持ち上がってきた。
「覚えていらっしゃいませんか?」
 一覧表に書かれた侍女の特徴に目を通していると、ロデリックが声を上げた。顔も上げずに応じる。
「何を?」
「シェリルという侍女ですよ。以前にその一覧表を作りながら、あなたが侍女たちに、極めて私的で失礼な質問をして回った時、私のことを驚いたように見ていた侍女がいましたでしょう」
「あ~……。あったっけか? そんなこと」
 そう答えたものの、ロデリックの言葉で、グレンは当時のことをはっきり思い出した。
 彼が大広間に侍女と女中を集め、居並ぶ女たち一人一人を問答しながら見て回った時のことだ。女たちは不安そうに、俯きがちに語っていた者が大半だった。グレンに多少好奇心を見せた者もいたが、いずれも慎ましいものだった。
 その中でひとり、グレンが目の前に立った時、彼を凝視していた娘がいた。よほど好みなのだろうと、一瞬気を好くしたのだが、よく見れば娘の視線は、司令官である彼を素通りし、あろうことかその後ろで、グレンの言葉や侍女の答えを陰気に書き込んでいる、副官に向けられていたのだ。
 ロデリックもその視線に気づいて顔を上げたが、凝視する侍女を怪訝そうに見返すだけだった。やがて、見つめられる副官の顔がうっすらと赤く染まるのを見て、不愉快になり、グレンはその娘との質問を打ち切った。直後、ロデリックに小声で「知り合いか?」と尋ねたが、彼は首を傾げるだけだった。
 あれがシェリルか。
 面白くない気分で、再び一覧表の覚書きに目をやる。彼好みの、小柄で幼い外見のなかなか可愛い娘だった気がするが、そんなことがあったので、すぐには娘を寝室に呼びつけなかったのだ。
「そんな女がいたような気がするな。まあ、お前に一目惚れとかじゃ絶対にないと思うぞ。親の仇に似てたとか、昔騙された男にそっくりとか、そういうことじゃねーの」
「どちらも覚えがありませんよ」
 ロデリックは疲れた顔で首を振った。
「よし、とりあえず、俺が直接話を聞こう。夕食の後、女を俺の部屋に寄越せ」
 グレンが羊皮紙を再び丸めながら言うと、副官は眉を寄せて彼を見返した。
「あなたの部屋って、寝室ですか?」
「他に俺の部屋はねえだろ」
「……あの、もう一度初めから話した方がいいでしょうか。私の話、聞いていただいてました?」
「耳があんだから、聞こえてる」
 何かを抑えるように、目を閉じて大袈裟に嘆息した後、ロデリックは再び口を開いた。
「何を考えてるんですか。暴行されたのが本当なら、侍女は心身共に傷ついているはずですよ。そんな気の毒な娘を、さらにあなたが強姦してどうするんです。それでも人間ですか」
「人聞きの悪いこと言うな。強姦って何だよ。夫人がいないんだから、俺が話を聞いてやるしかないだろ。余計な人間を混ぜないで、侍女から率直に話を聞くだけだ。必ずや心を開いてくれるだろう」
「何言っちゃってるんですか。あなたが話を聞くのであれば、誰か女性……侍女頭様にでも同席していただいて……」
「自分が強姦された時の話を、おおっぴらに広めたいと思う女がどこにいる。同性がいるから気軽に話せるとは限らないだろ。俺の鍛えた話術で聞き出してやる。とにかく決めたんだ。つべこべ言うな」
 ロデリックは再び溜め息を吐いた。グレンはすっかり依怙地になってしまったようだ。説得して思い留まらせるのは無理だろう。元々良心や正義感など、大して持ち合わせていない男なのだ。
「……かしこまりました。ですが、先ほども申し上げましたように、お気をつけください。次に脇腹に風穴空いたら、もう助かりませんよ」
「それについては、この前話した通りにしろ」
 副官は深々ともう一度頷く。
 グレンが口で言っている通り、本当に侍女から話を聞くだけなのか、何か下心を持っているのかは分からなかったが、彼が考えるべきことは、侍女の心労より上官の身の安全である。

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