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山間の城の物語」
第二章 千の目

2.初夏に咲く紫の花 (3)

2010.09.30  *Edit 

「お召し物を脱いで、寝台にうつ伏せに横になってください」
 抱えていた籠を床に置くと、立ち上がった娘は穏やかな笑顔でシェリルに言った。
「どうしてですか?」
 いきなり服を脱げと言われ、面食らいつつも警戒していると、彼女はさらに目を細めた。笑顔が深くなるほど、色香が薄れて無邪気な印象になる娘だ。
「香油を塗らせていただきます。お肌によろしいんですのよ」
 贅沢な話だと思った。体に塗る香油は、とても高価だ。それこそ大公国のような大きな国の貴族でも無ければ、手に入らないだろう。
「やはり夜伽の為に呼ばれたのですね」
 皮肉を込めて呟き、シェリルはさっさと服の紐を解いた。恥じらいを見せるのも悔しかった。
「私は存じません。ただ、こうしてあなた様のお支度を整えるよう、ロデリック様から申し付けられただけです」
 すげない答えであったが、サラの声に冷たい響きはない。不思議な女だった。
 裾の長い服を脱ぎ去り、下に着ていた胴着も脱ぎ捨てる。下半身を覆う下着一枚になると、裸の上半身を晒したまま、シェリルは堂々とサラの目の前を横切り、寝台の上に、言われた通りうつ伏せに横たわった。
 サラも特に何も言わず、籠の中から壷を取り出し、寝台のすぐ横に膝をついた。彼女が壷の蓋を開けると、柔らかい清楚な香りが漂う。今山野や中庭の庭園で咲き誇るライラックの香りによく似ている。
 失礼しますとサラが告げると、背中に温かい掌が触れた。紫の花の香りがさらに強く満ちる。
 彼女の手は静かにシェリルの背中を滑った。背骨に沿って指先で体を強く撫でられる。座って薬の調合をしたり、本を読んだりすることが多いシェリルは、普段から肩や背中が凝り固まって疲れ気味であったが、サラの手つきでそれがほぐされていくようだ。とても心地良かった。
「力加減はいかがですか?」
 心ならずも、サラの手の動きに酔っていると、娘の低いがよく響く声が聞こえた。
「ええ、丁度いいです」
「嬉しゅうございます。随分、お疲れのようですね」
 ひどく不思議な心持ちであった。大公国の兵士に陵辱され、それを訴え出るために、司令官の寝室に向かわなくてはならない。その為に敵軍付の娼婦から、香油をすり込まれながらマッサージを受けているのに、妙に気持ちがいい。サラの穏やかで丁寧な手つきは、シェリルの腹の中に溜まっていた怒りと屈辱を、少しずつ溶かしていくようだ。
 サラは確かに娼婦に見えるが、言葉遣いも礼儀作法も美しい。シェリルに対しても、副官などよりよほど慇懃に接している。大都市にいる、貴族や大商人相手の、教養と社交術が売り物の高級娼婦なのかもしれない。
 娼婦という人種を、シェリルは昔から軽蔑していたが、サラに抱いていた偏見とも言える嫌悪もやや薄らいでいく。我ながら単純だと、思わず自嘲した。
「あなたは、大公国の軍についていらっしゃるのですか?」
 サラに対して好奇心が湧き、シェリルはうつ伏せになりながら口を開いた。初対面の人間に対して興味を持つことは、彼女には珍しいことであった。
「そうです。お察しいただいていると思いますが、殿方が昂った時に、お慰めするのが私の役目です」
 あっさりと彼女は告げた。
 では昨夜シェリルの体に体液を放ったあの兵士も、この女を抱いたことがあるのだろうか。男たちがこの魅力的な若い女に群がる様子を想像し、シェリルは顔を赤らめた。サラに対して失礼だ。
 自分だって同じようなものかもしれない。そうでなければ、昨夜兵士に組み敷かれ、肉体が僅かにでも喜びを表すはずがない。
「……私の話は、お聞きになりました?」
 サラに腕を取られ、二の腕に香油をすり込まれながら、シェリルは呟いた。小さな声であったが、彼女はそれをはっきりと聞き取ったらしかった。
「昨夜のお話ですか? 大まかな事情は」
 特に同情や哀れみも表さず、静かにサラは続けた。
「あなた様は大きな心労を負っていらっしゃるはずですから、お体に触れる際や、会話には気をつけるようにと、ロデリック様から申し付けられています」
 ロデリックとは、あの副官のことだろう。彼の姿を思い浮かべると、胸が騒ぐ。
 

 司令官が侍女を大広間に集め、一人一人に質問して回った時。司令官の後ろに控えて、黙々と羊皮紙に書き物をしている男を目にしたシェリルは、幻を見ているのかと思った。かつての彼女の恋人にそっくりだったからだ。
 視線を感じたのか、副官は顔を上げ、シェリルを見つめ返した。その瞳には、小さな困惑以外、何も浮かんでいなかった。
 人違いだろうか。それにしてはよく似ている。
 目を逸らすこともできず、彼女が見つめている内、やがて彼も顔を赤らめた。だがシェリルが口を開いて何かを問いかける前に、司令官が間に立ち塞がり、彼女との問答を打ち切って、隣の侍女の元へ移った。副官も影のようにそれに従った。
 以来、彼とまともに顔を合わせるのは、今日が初めてだった。
 司令官に代わって、事務的な雑用を行っているらしい彼の姿は、城内の随所で見かけたが、声を掛ける勇気が出なかった。


「あの、副官のロデリック様とは、どういった方なのでしょう? 古くから司令官様にお仕えしていらっしゃるのですか?」
 できるだけさりげなくサラに尋ねると、体の位置を移して、シェリルの脚をマッサージしていた娘は、静かな声で答えた。
「そのようです。司令官様の古くからの腹心だそうですよ。私も軍の内部については詳しくありませんので、よくは存じ上げません。司令官様にお尋ねになれば、もっとはっきりしたお話が聞けるかもしれませんね」
 これから待ち受けることを思い出し、再び気が重くなったシェリルに、サラが乾いた声をかける。
「どうぞ、仰向けになってください」
「でも……もう結構です」
 思わずためらう。女同士とはいえ、仰向けになって裸の上半身を晒すのは、さすがに恥ずかしい。シェリルを安心させるように、サラはおとなびた笑みを浮かべた。
「どうか、お楽になさってください。貴族のお姫様になったおつもりで、黙って横になっていただいていれば結構です。肌の隅々まで香油で磨くなど、なかなか無い機会でございますよ」
 そうまで言われて躊躇しては、初心な乙女を気取っているようで、却って恥ずかしい。シェリルは思い切って体を翻し、仰向けになった。
 再び失礼しますという声が響き、臍のあたりに、香油を注ぎ足したサラの手が触れる。こそばゆい感覚が走りぬけ、体が震えた。
「お綺麗な肌ですね」
 円を描くように腹を優しく撫でながら、サラが呟く。シェリルは彼女を見返した。サラの方がよほど色白で、手入れの行き届いた肌をしている。
「そうでもありません。日に焼けていますし……」
「日焼けはよくありません。できるだけ日差しは遮る方がいいですわ。ですが、小麦色に焼けた肌も、それはそれで美しいと私は思います」
 話しながら、サラの手はシェリルの豊かな乳房に触れた。
 何故か昨夜のことを思い出す。
 触れているのは女だというのに、体が温まり始めているような気がし、シェリルは思わず眉を寄せた。
 鎮めようと思えば思うほど、体の奥底が妖しく疼き始めるようなこの感覚。昨夜とよく似ている。一体自分の肉体は何なのだろう。相手が誰であれ、刺激が加えられれば、快楽だと認識せずにはいられないのだろうか。
 それでは娼婦と同じだ。今、彼女の肌を撫でている女と同じである。
 微かに呼吸が乱れた。サラに悟られるのが恥ずかしい。身じろぎしそうになる体を押さえ、唇を静かに噛んだ。再び灰色の自己嫌悪がシェリルを包み込んだ。


 サラは丹念にシェリルの全身に香油をすり込み、強張っていた彼女の肉体をほぐしてくれた。
 それ自体は心地良かった。サラは何故かシェリルを安心させる雰囲気を持っていて、彼女との会話は不思議に安らいだ。
 しかし胸や腿、下着を取り払った尻にまで彼女の手が触れた際、全身をのたうつように走った感覚は、昨夜の出来事と同じく、シェリルを重く苦しめた。
 作業を終えると、サラは壷に蓋をして、持っていた柔らかい手ぬぐいで、シェリルの肌を軽く撫で、付きすぎた香油を拭った。その手つきも非常に細やかで丁寧だった。
 シェリルはそそくさと服を着ようとしたが、サラに穏やかに押し留められた。
「恐れ入ります。お召し物は私が……」
 優雅ではあったが、シェリルの遠慮や躊躇を許さない手つきで、サラが下着を取り上げた。それまでの丁寧な仕草とはやや異なる、断固とした動作だ。
 そうだ。この女の本来の役目は、司令官の暗殺への警戒の為、シェリルが武器などを隠し持たないよう、全身を調べることなのだ。香油で肌を磨くのは、ついでの用事に過ぎないのだろう。
 司令官に万一のことがあれば、サラが罰されるに違いない。
 無論もとより、シェリルは司令官に手を下そうなどとは考えていない。彼を殺したところで、組織だった二千人の軍、そして背後にある大公国という豊かな国を瓦解させることなど、できるはずもない。
 そんなことが可能なら、一番最初に司令官と床を共にした副伯夫人が、とうに行っているだろう。
 真っ先に犠牲になった気丈な彼女のことを思い出すと、今の自分の境遇がほんの少し慰められる気がする。
 元通り、下着と胴着、服を纏わされると、サラは籠から取り出した櫛で、シェリルの癖のある豊かな髪を丁寧に梳いた。
「よろしゅうございますか? では、参りましょうか」
 愛らしい笑みを浮かべたサラに促され、シェリルは口元を引き結んで、彼女と共に部屋を出た。
 司令官は半月以上前に怪我を負ったという。シェリルが診察をしたわけではないので、詳細は分からないが、数日は寝台に伏せっていたという話で、起きて出歩くようになったのもここ十日ほどのことだ。負傷して以来、彼は侍女たちを寝室に呼びつけていないらしかった。
 もう女遊びにも飽きたのだとシェリルは考えていたが、今夜、彼女に香油まで塗りこませて寝室に呼びつけるからには、ある程度の覚悟はしておいた方がいいだろう。昨夜の話を聞きたいなどというのは、口実かもしれない。
 なんでもないことだ。レジーナが受けた屈辱に比べれば。
 彼女には夫も恋人もいない。後ろめたく感じる相手はいない。それに昨夜既に別の男に犯されているのだ。こうなっては、何人に抱かれようと同じだ。現に自分の体は、昨夜だって喜んでいたではないか。
 自暴自棄のように考えながら、サラと並んで、廊下を歩き、階段を上り下りする。
 やがて、かつては副伯夫妻が使用していた、主寝室の前に着いた。現在では司令官の寝室となっている。
 扉には鍵が無いので、司令官は昼夜共、二人の見張りをつけている。下級の兵士ではなく、常に士官の誰かが控えていた。
 サラに続くように、寝室へと歩く。見張り役の士官は礼儀正しく、顔を伏せたまま微動だにしなかったが、すれ違いざま、右側に立っているのが、副官のロデリックであるのが見てとれた。
 体が震えた。
「失礼致します。シェリル様をお連れしました」
 サラがよく響く声を張り上げると、寝室の内側から低い答えがあった。サラが取っ手を捻り、扉を押す。彼女はそこに手を掛けたまま、シェリルを内側に招いた。
 一瞬ためらい、シェリルは腹に力を込めて部屋の中へと踏み入る。
 彼女が部屋に入ったのを確認すると、サラは部屋の外に出た。シェリルの背後で軋む音も立てず、扉が静かに閉まる。     

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