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山間の城の物語」
第二章 千の目

3.女に生まれてこなければよかった (3)

2010.10.12  *Edit 

 シェリルの唇から離れ、グレンの唇は彼女の喉に再び触れた。
「──うっ」
 鋭い痺れが走りぬけ、小さな悲鳴をこらえきれなかった。
 濡れた舌がさらに首筋を這い回る。もう一度歯を食いしばり、溜め息と喘ぎを飲み込んだが、体が妖しくのたうつのを止められない。
「いい子だ、シェリル。我慢しなくていい。俺以外の誰にも聞こえないんだ」
 耳元でグレンが囁いた。低い声が背骨に直接響くような気がする。すべて投げうって従いたくなるような、蠱惑的な響きだった。
 シェリルが何も答えずにいるうち、彼の舌は次に鎖骨に触れた。
「……は……あ……」
 ぞくぞくする感覚が突き上げ、そこを舌で撫でられるうち、彼女はついに掠れた声を伴う溜め息を吐いた。
 男は娘の胸元を舐め回したのち、指先で玩んでいた乳首に吸いつく。唇で吸われながら、舌先で軽く突かれた。
「あっ……あ……いや」
 声を上げずにはいられない、切ない疼きが突き上げる。
「素直だな」
 からかうような声が聞こえ、彼が顔を寄せているのとは反対の乳首が、男の指先で軽く弾かれた。
「あっ……!」
 痛みか快感か分からない、鋭い感覚が一瞬走り抜ける。しかしシェリルの口から飛び出したのは、悩ましいほどの喘ぎだった。
「よしよし、かわいいぞ」
 グレンは嬉しそうに呟くと、再び彼女の胸の蕾を口に含んだ。唾液に濡れ、すっかり固くなっている。
 そのまま右手をシェリルの脚に伸ばした。上半身をはだけさせただけなので、彼女の下肢はまだ膝丈の胴着に覆われている。
 裾の中に手を潜り込ませ、閉じられた腿の間に、強引に手を差し入れる。掌が内腿の柔らかい感触を捉えた。
「シェリル、脚開いて」
 優しく囁きかけたが、乳首を刺激されながら喘いでいる娘は、それでも首を振った。
「嫌なのか?」
「いやです」
「嫌でも何でも、ちょっと一回開けって」
 グレンは力を込めてシェリルの右脚を開かせ、その間に自分に両膝を差し入れた。娘の両脚を抱えると、そのまま突き入れてやりたい衝動が湧いたが、辛うじてこらえる。レジーナ同様、この娘もあの野暮ったいドロワーズを穿いていなかった。大変結構な話である。あれに興奮する男もいるようだが、彼は年寄り臭い下履きには色気を感じずに萎える方だった。
 シェリルの太ももを持ち上げ、あられもない姿になった娘の膝にくちづける。
「ん……いやです。下ろしてください」
 か細い声が震えながら響いたが、グレンは取り合わずに舌を伸ばしてシェリルの内腿を舐めた。唾液が娘の白い脚に跡を残す。
 尚もシェリルは脚を閉じようとしているが、間にグレンの脚が割り込んでいるので、それもかなわない話だった。グレンは胴着の裾を軽く捲り上げ、ずっと確かめたかった場所に手を伸ばした。

 グレンが下着の上から触れたシェリルの脚の間は、既に熱く湿っている。
 昨夜一兵卒に陵辱されて、もはやシェリルは男に対して、心も体も開かないのではないかと危惧したが、どうやらそうはならなかったようである。
 そっと指先を押し込めると、布越しに粘液の感触を感じた。
「濡れてるよ、シェリル。かわいいな」
 シェリルの顔は燃えるように熱くなる。駆け上ってくるのは、もはや羞恥だけではなかった。
「昨夜の男が初めてか?」
 触れるか触れないかのような微妙な動きで、彼女の秘部を撫でながらグレンは訊いた。
 一瞬迷ったが、結局シェリルは正直に首を振った。
「──いいえ」
「それはよかった。不幸中の幸いだ」
 娘を思いやってそう答えたものの、グレンは内心舌打ちをしたかった。この愛らしい娘も、既に処女ではなかったのか。年齢を考えれば当然かもしれないが、少々残念だ。
 しかしそれなら、ある程度は男女の快楽を知っているのだろう。
 彼は侍女の下着の紐を解き、取り払った。
「待って。いやです」
「待たない。いい子だから、静かにしてろ」
 少しでも脚を閉じようと、シェリルが腰を動かすたびに、露わになった彼女の秘部が蠢くのが見えた。明かりが間近に無いので、彼女のそこは淫靡な暗がりの中に紛れている。まるで男を待ち受ける妖しい動物のようだと思った。
 指先を襞の中へと差し入れる。微かな湿った音と共に、指が温かい肉に包まれた。それを滑らせて、陰唇の端にあるはずの肉の芽を探り当てた。
「あっ……」
 シェリルが微かな吐息を吐いた。
 指の腹で襞をかき分けながら、柔らかく固い蕾を撫でる。思いがけず、ぷちゅぷちゅと濡れた音が大きく聞こえた。まだ舌で愛撫したわけでもないのに、シェリルの陰核はぬめる液体にまみれている。
 陰核が濡れる女なのだろうか。普通、愛液は膣から漏れてくるが、まれに陰核あたりに同じような粘液を漏らしてしまう女がいる。
「お前、ここも濡れるの? 素直だなー」
 からかいを含んだ男の言葉に、シェリルは首も振れずにただ、恥らうばかりだった。
 羞恥と官能の渦に巻き込まれながらも、しかし彼女は昨夜のように、この時間が早く終わって欲しいとは思わなかった。グレンから与えられる屈辱は、ひどく甘く、体の底へと沈殿していく。
 昨夜の兵士との違いは何なのだろうと、ぼんやりシェリルは思ったが、快楽の芽をさらに強く押さえられ、彼女の思考はそこで弾け飛んでしまった。
「ふ……んっ……ああっ」
 指先でそこを小刻みに震わされ、時折強く押さえられ、どうしようもない切ない感覚が何度も突き上げてくる。そこから聞こえてくる水音は、さらに男の劣情と、娘の恥じらいを熱く煽り立てた。
 グレンが指を微かに動かすのに合わせ、横たわった娘の乳房も淫らに小さく震え、男の目を楽しませた。上気したシェリルの顔は、艶かしく歪み、苦しげに喘いでは官能を吐き出している。
「感じやすいみたいだな。エロくてかわいいよ。もっと大声出してみろ」
 最も敏感な部分を指で弄られながら、グレンの声が耳に響く。昨夜、兵士に同じことを言われたことを思い出し、脳の端がつめたく冷えた。喘ぎを噛み殺してシェリルは首を振った。
「いやです」
「なんで。もっと乱れたところが見たいんだ」
「いやです。そんな女になりたくない……!」
 熱い快楽に苛まれながら、シェリルは悲痛に掠れた声を絞り出した。
「そんな女って、なんだ」
 グレンの声が近づいた。彼はシェリルの秘部を愛撫したまま、上体を起こしてシェリルの顔を上から覗き込んだ。
「気持ちよくて、よがってる女のどこが悪い。素直でかわいいだろ」
「違います。夫でも恋人でもない男の前で、こんな恥を晒したくない」
 昨日からこらえてきた陵辱の屈辱に勝る自責が、シェリルの胸の中でついに爆発した。嗚咽をやっと押し殺しながら、こんな男に訴えても仕方ないと思いつつ、彼女は叫んだ。
「誰にでもこんな姿見せるなら、もう体なんて要らない。女になんか、生まれてこなければよかった……!」
「シェリル」
 彼女の脚の間から手を離し、グレンは両手でシェリルの頬を挟んだ。
「そんなこと言うな。女に生まれてきちゃったもんはしょうがないだろ。男に生まれ直すことはできないんだから、あとは楽しんだもんの勝ちだ。嘆いてたって、誰も男に生まれ変わらせてくれないぞ」
 僅かに滲んだシェリルの涙が、指先でそっと拭われる。
「感じやすい体に生まれてよかったじゃないか。恥じる必要なんか、どこにある。他人が何を言おうが、堂々としてろ。それがお前の肉体なんだから、仕方ないだろうが。もっと自分の体を受け入れてやれ」
 低いが穏やかな響きが淡々と語る。グレンの顔を見上げながら、瞬きするたびにシェリルの視界は歪んだ。
「道徳だの神の教えだの、クソみたいな観念に縛られてる、かさかさした女よりよっぽどかわいいぞ」
 シェリルは昔、恋人に同じことを言われたことを思い出した。グレンの言葉もまた、積み上げられた重い石のような彼女の自責を幾らかでも軽くしたが、シェリルの嘆きの本質は、やはり彼には伝わっていないのだと思った。
 もっと毅然とありたい。たとえば夫をひたむきに愛しているレジーナのように。たとえ愛する人間がいなくても、快楽を見せる相手は、自分の意志で選びたい。それすらかなわないのだろうか。
「誰かに何か言われたのか?」
 娘の額を撫でながら、グレンは尋ねた。
 保守的な田舎では、強姦であっても女に非があるとされる地域もある。シェリルが同僚の侍女や年寄りたちに、何か嫌味でも言われたのかと彼は考えた。
「いいえ。でも、自分で自分が嫌なんです」
 きっぱりと首を振ったシェリルの声に、底知れぬ響きが宿った。修羅場をくぐってきたグレンを、ほんの一瞬絶句させるような、深く虚無的な声だった。
 彼は静かに首を振ってみせた。
「何度も言うが、自分を責める必要は無い」
「でも、嫌なんです。愛しても、愛されてもいないのに……」
「愛してるよ」
 視線を逸らさないまま、グレンは静かな声で告げた。
「だからそんなに、自分を嘆くな。俺は感じやすい君の体も含めて、愛しいし、大好きだと思う。お前が男だったら、こんなに嬉しかない。ベッドから蹴落とすだけだ。少なくとも一人には好かれてるんだから、もっと誇りを持っていい」
 大きな掌に頭を撫でられながら、シェリルは先ほどグレンの唇から滑り出した言葉を、もう一度聞きたいと思った。だが無論、彼にはそう頼まなかった。もう一度言われても、そうでなくても虚しい言葉だったからだ。女と重なるためなら男はいくらでも嘘がつける。
 胸に広がったのは、安堵のような諦めだった。たとえ偽りであっても、グレンの言葉は渦巻いていたシェリルの暗く燃える激情を鎮火させた。
 彼の言う通りかもしれない。受け入れるしかないのなら、傷つく必要などない。

 シェリルの表情がいくらか落ち着いたのを見ると、グレンは再び彼女の秘所に手を伸ばした。今度は彼女の体内への入り口に触れる。悲痛な問答の後でも、そこは先ほどと同じように、愛液にまみれていた。
 兵士の陵辱によって、膣に怪我を負っていなければいいがと思いつつ、彼は中指を静かに中に差し入れる。
「ううっ……あっ……!」
 肩を波打たせ、シェリルは仰け反った。嬌声は、鮮やかな快楽の色を帯びている。
 娘の体の中で指を動かす。ぬめった柔らかい肉の塊を優しく擦るたび、シェリルは切ない声を上げた。ひと月ぶりの膣内の頼りなく愛らしい感触に、グレンの男性自身も限界近くまで熱くなる。
 彼は右手でシェリルの体内を愛撫しながら、左手でもどかしく服の紐を解いた。上着を脱ぎ捨てると、一度娘の体から指を引き抜き、手早くベルトを外して、寝台の下に放り投げる。
 仰向けのまま快楽に酔っていたシェリルは気配を察して、肘をついて上半身を起こした。グレンが慌しくズボンを脱ぎ捨てるのが見える。劣情に焦る男の仕草は彼女に苦笑いを起こさせ、彼が自分を欲しているということに、小さな感動を覚えた。腹の底で燃える情欲がさらに熱くなる。
 何かが分かりかけた気がしたが、シェリルが深く考える前に、下着を脱いで全裸になったグレンが、彼女の腰で半端に引っかかっている胴着に手をかけた。何も言わずに彼はそれを引っ張り、シェリルの脚から抜いた。
 鍛えられた男の体を目にして、シェリルは微かな恐怖を覚えた。肩や腕はしなやかな筋肉で覆われ、鎖骨の下の胸板も鍛えられて厚い。
 彼女の体とは正反対だ。男の肉体に対する恐ろしさは、全く別の部分をも刺激した。引き締まった腹の筋肉の下には、硬く立ち上がった男の象徴が見える。鼓動がはちきれそうに早くなった。息が苦しいほどだ。
 意識が甘く霞んでいく。そんな感覚も数年来覚えなかった。
 半分体を起こしかけたシェリルを物も言わずに再び押し倒し、グレンは彼女の脚の間に、自分の下肢を割り込ませた。
 頑丈な腕に抱き締められ、シェリルの視界が塞がった。男の体臭に包まれたと思った瞬間、脚の間に硬く温かい異物が触れる。
 それは静かに彼女の中に押し入ってきた。

「ふぅぅっ……あああああっ!」
 僅かな痛みとないまぜになった、強烈な悦楽が脳天まで突き上がる。シェリルは我を忘れてグレンに取りすがりながら、あられもない悲鳴を上げた。
 熱いかたまりに貫かれたまま、喘ぎながら僅かに体を震わせる彼女を、グレンは満足げに見下ろした。なんて素直でかわいい娘だ。自分が淫乱だと悩んでいるようだが、彼としては大変結構な話だった。
 しかし先ほどは嘆く娘を宥める為に、彼女の淫らな性質を気にしなくていいと言ったものの、他の男にもこの痴態を見せるようでは、少々面白くない。だがそれについては、これからじっくりと娘の体に言い聞かせていけばいい。
「大丈夫か? 痛い?」
 浅い呼吸を繰り返すシェリルの頬に触れ、グレンが優しく尋ねる。取り繕うことも及ばず、シェリルは首を振った。
 グレンの腰が浅く動き始める。ほどなくその動きは、深く激しくなった。
「う……あ……あぁっ……! はあぁぁっ……!」
 むせび泣くような、シェリルの深い嬌声が、男の耳を揺さぶる。
「シェリル」
 彼女の叫びを吸い出そうとするように、グレンがくちづけてシェリルの舌を吸う。彼女も夢中で彼に顔を押しつけ、男の熱い動きに体を合わせた。
 グレンの背中の筋肉は、まるでシェリルの手を弾き返そうとしているようだった。振り落とされないように必死にしがみつく。どちらの肌も汗ばみ、その匂いが散って部屋中に漂った。
「あう、あ……やう……あああっ、はあああっ!」
 体に入り込んでいる男によって強烈に何度も揺さぶられ、脳が攪乱されていく。体の芯が限界近くまで熱くなった。意識が溶けて流れ出し、もう何も分からない。
「エロいんだな、シェリル。可愛いよ、大好きだよ」
「うあっ、あっ、やああっ……」
 耳に響く言葉も、真実か偽りかなどと、どうでもよかった。ただ今は、からだを走り回る愉悦の中に埋没してしまいたい。
 ほどなくグレンの動きはさらに速まる。荒くなった熱い吐息がシェリルの顔や喉を撫でた。
「一度出すぞ。シェリルの中が気持ちよくて、我慢できない」
 シェリルの小柄な体はがくがくと揺れた。こんなに力強く体を揺さぶられたのも、彼女には初めてだった。壊されそうだと思いながら、どこかでめちゃくちゃにして欲しいという、くすんだ甘美な情熱が湧いてくる。
「グレン様……グレン様あっ……! あああっ、あううっ!」
 体中が熱い。全身ごとまるで、今貫かれている性器に同化してしまったようだ。情熱に脳を溶かされながら、はしたないほどの声でグレンの名を呼び、悦楽を叫んだ。
「シェリル……」
 男もまた彼女の名を呼び、大きく深い息を吐き出す。息苦しいほどに抱き締められたと思った瞬間、彼が腰の動きを一瞬止め、数度、彼女の中により深く突き入った。彼の情熱がシェリルの体内で弾け飛ぶ。それすらもう、シェリルには分からなかった。


 少しの間、シェリルを抱き締めていたグレンは、やがて自身を彼女の中から引き抜いた。
 肉欲の熱が冷めないまま、ぼんやりしているシェリルの頭をグレンが抱える。鍛えた肉体に引き寄せられ、汗ばんだ肌が再び触れ合った。そこには無論、先ほどまでのような熱い一体感は無い。
「気持ち良さそうだったな」
 再びからかうような声音で、グレンは尋ねた。シェリルを見る褐色の瞳は笑みを見せている。
 シェリルが再び重い後悔に苛まれていると、頬にグレンの手が触れた。
「正直に言えって。気持ちよかった? 他のこと全部置いといて」
 グレンの意図は分からないが、シェリルは仕方なく、僅かな屈辱を感じながらも首を縦に振った。彼と繋がってからの官能的な愉悦は、嘘いつわりなく言えば、目もくらむほどだった。
「それでよし。俺もよかった、お前もよかった。誰も不幸じゃない」
 グレンは呑気に言いながら、笑顔を見せて彼女の額にくちづけた。
「昨夜の兵士のことは、お前の好きにしてやる。許せないってんなら、お前に手を下させてやってもいいし、勿論俺に任せてもらってもいい」
 肌を重ねたせいなのだろうか、部屋に入ってきた時に彼が放っていた威圧感は、今はほとんど感じられなかった。シェリルはグレンの喉を意味もなく見つめながら、口を開く。
「軍規で裁かれるということですか……?」
 彼女の喉から出た声は、あまりに激しく情熱を叫んでいたために掠れていた。シェリルは顔を赤らめたが、グレンは苦笑いを漏らしただけで、すぐに問いに答えた。
「そんなこまけー軍規はねえよ。俺が裁く。荷車に手足を結びつけて、城壁から蹴り落としてやる」
 本当か冗談なのか分からないが、彼はそう言うと、シェリルの小さな頭に腕枕をしたまま仰向けになった。
「どうする?」
「……考えさせてください」
 シェリルを強引に組み伏せたあの兵士は許せなかったが、死をもって償って欲しいのかどうか、欲情から冷め切ってない今は、すぐに結論を出せなかった。
「ま、お前がそう言うならいい。ゆっくり考えろ。でもあんまりちんたらしていると、つけあがったバカにまた同じことされるからな。気をつけろ」
「はい」
 頷くと、シェリルは静かに身を起こした。体の芯がまだ熱っぽいが、いつまでもここにいるわけにいかない。
「どこ行くんだ」
 彼女の動きを見咎め、グレンが首を向けた。
「部屋に戻ります」
「もう少しゆっくりしてけって」
 再び頭を抱えられ、強引に横にさせられた。溜め息をつきたかったが、さすがに司令官に対して失礼である。我慢した。だが互いに素肌を触れ合わせていると、あまり良くない感情が生まれそうで、シェリルは怖かった。
 そんなことを言ったものの、グレンは取り立ててシェリルに用事や話があるようでもなかった。彼女の頭を抱えたまま、目を閉じてじっと横になっている。
 沈黙が気まずくなり、シェリルは僅かに鼓動を高めながら、思い切って口を開いた。
「あの、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ」
 無感動にグレンが応じる。
「副官のロデリック様ですが、いつから司令官様についていらっしゃるのですか?」
 グレンは目を開けた。眉が僅かに顰められる。
「あいつか? 俺が大隊を率いるようになってから、副官が必要なんで引っこ抜いたんだよ。何年か前だ」
「ずっと軍にいらっしゃった方なんですか?」
「いや。大公の遠戚にあたる名門の家の跡継ぎだったんだけど、ちょっと変わっててな。あの通り青白くて一年中貧血気味だから、軍に入れずに文官目指して大学で勉強してたんだよ。おかげで父親から廃嫡されちまったんだけど、本人はぜーんぜん気にしないで親の脛かじって、王都の大学に留学までしてたんだと」
 シェリルの心臓は小さく弾んだ。彼女もかつては王都の大学に籍を置き、真理の研究に勤しんでいた身であった。
 グレンは話を続けた。
「だもんで、天候、地理だのから兵法まで、やたら詳しいんだよ。俺は学が無いもんで、そのあたりを補佐してくれる人間が欲しかったわけ。で、公都の大学に戻って、毎日本読みながら鼻ほじってたロディを知り合いに紹介されて、副官に抜擢したんだ」
 胸に失望と安堵がないまぜになったおもりが落ちた。彼女の恋人によく似ていたが、やはり違う人間なのだろか。しかし髪や瞳の色だけでなく、声まで似ている。他人の空似とは簡単に思えない。
 何か事情があって軍隊に入り、占領下の城の侍女としてシェリルを見つけ、知り合いだと名乗り出るのをためらっているのではないだろうか。
「なに、お前? あんな奴に興味あるの?」黙り込んだシェリルにグレンが問いかけた。「やめとけ。あいつ、絶対童貞だぞ。あの年まで童貞だった奴なんて、大体ロクな趣味持ってないんだ。ガキじゃないと勃たないとか、踵の高い靴で尻をふんづけて欲しいとか、そういう嗜好があるに決まってる」
 随分な偏見だろうと思ったが、あえて語らなかった。     
「お前こそ、この前、あいつをじーっと見てたけど、何かあるのか?」
 反対にグレンに訊かれ、シェリルは言葉に詰まった。かつての恋人に似ていると告げてもいいのだろうが、やはりためらわれた。
「いいえ。知り合いに似ていた気がしたので……。でもよく見ると違いますし、今聞いたお話からしても人違いのようでした」
「ふーん」
 平坦な相槌のあと、グレンは微かに皮肉を込めた笑みを浮かべて、シェリルの頭を撫でた。
「それなら、まあいいや。……しかし言っておくけど、他の男に体を触らせたりするな。士官にも兵士にも、城内や城下の女とは交渉を持つなと、徹底してある。万一のことがあったら、お前じゃなくて、相手の男を崖から蹴り落とすからな」
 グレンの勝手な言い草に、さすがにシェリルの胸に小さな怒りが湧いた。
「暴行した兵士と同様に対処するということですか」
「そうだ」
「でも、士官方にすらそうおっしゃってるのに、あなたは私や侍女たちを寝室に呼びつけているじゃありませんか」
「俺はいーの。司令官だから」
(なんじゃ、そら)
 子供の理屈を聞いて、思わず脱力した。殴ってやりたいと思ったが、怒ることすら馬鹿馬鹿しくなる。
 隠し切れずに溜め息を吐いたシェリルの体を、再びグレンが引き寄せた。
 そのまま寝台に仰向けに転がされる。咄嗟に掛け布を纏おうとしたが、すぐにグレンに取り上げられた。
「話は終わりだ。もう一戦つきあってもらおうか。長い間女とやってないから、さっきだってすぐにイっちゃったし、お前だってまだ物足りないだろ」
 シェリルに再び覆いかぶさり、見下ろす瞳の奥を見て、彼女の体にも痺れのような震えが走った。
「いいえ、結構です」
 冷めた声で告げて起き上がろうとしたが、簡単に体を押さえ込まれた。その手の動きは断固としているのに、グレンの表情は甘く緩んでいる。
「そう言うなって。素直になった方がカワイイって言ったでしょうが」
「素直に言って、もう結構なんです」
 シェリルは決然と告げたつもりだったが、唇が重ねられ、力強い腕で情熱的に抱き締められると、あっという間に張り詰めたものが緩む。
 だらしない。
 再び自己嫌悪が襲ってきたが、それも意識ごと頭の中で少しずつ霞んでいく。
 自分ですら肯定できないものを、少なくともこの男は受け入れている。腕の中にいて、重みの下で喘いでいる間は、すべて忘れて自分を憎まなくて済む。
 昨夜、兵士に押さえつけられて受けた行為と、今、司令官に強引に抱き止められて受けている行為と、何が違うのだろう。
 また何か理解できそうな気がしたが、やはりそれも急速に上ってきた熱に取り巻かれて、シェリルの思考からは切り離されてしまった。

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