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山間の城の物語」
第二章 千の目

6.届かぬ切っ先 (1)

2010.11.08  *Edit 

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6.届かぬ切っ先

 旅から戻った朝、体は疲れていたが、レジーナは渋々グレンと共に朝食を取った。
 集落での話は、結局包み隠さず語った。
「はあ? それでお前、のこのこ帰ってきたの? 武装して行進なんか考えてる首謀者を、突き止めもしなかったわけ?」
 レジーナの気も知らず、非難がましく声をあげたグレンを、彼女は睨み返した。
「長老の話では、誰が首謀者っていうわけじゃないみたいだもの。それにまだ彼らは何も行動を起こしていないわけだし」
「何しに行ったんだよ。奴らが動いてからじゃ遅いだろ。噂だって、一番最初に話し始めた奴がいるはずだ。締め上げてでも、そいつを突き止めてくりゃよかったじゃねえか」
 切り分けもせず、出された山羊のチーズを丸ごと齧りながら、グレンは勝手なことを言っている。
「他人事だと思って、適当なこと言わないでよ。領民を脅迫できるわけないでしょ。……ちょっと、あたしの分のチーズは?」
 グレンは不承不承といった風に、食べかけのチーズを半分切り、レジーナの皿に無造作に盛った。
「弱気だなあ。かつて『巨乳の女豹』と恐れられたレジーナさんの台詞とは思えないね」
「……なによ、それ。そんな通り名初めて聞いたわ」
「俺が昔つけたんだ。あんまり広まらなかったな。やっぱ、巨乳ってのは大袈裟だったか」
「…………」
 領民ではなく、この男の首を締め上げられたら、どんなにいいだろうとレジーナは思った。 
 傭兵時代から早食いの癖がついている二人は、パンと山羊の乳、葡萄の果汁に、チーズという質素な朝食をあっという間に平らげた。
 長く話し込む気にもなれず、レジーナは早々に席を立つ。グレンも続いた。
「あんたこそ、怪我が治ったんなら、いつまでブラブラしてるのよ」
 食堂の扉を開けながら、大いに嫌味を込めて尋ねると、僅かに眉をしかめてグレンは答えた。
「ブラブラとは何だ。じきに間道の工事も始めるし、それまで連中を毎日しごいてる。お前こそ田舎に来て身も心もたるんでるみたいだから、少し体動かしたらどうだ? 侍女と毎晩絡み合ってるよりは健康的だぞ」
「いつまでバカみたいなこと言ってるのよ」
 呆れたものの、様子見も兼ねて兵舎と訓練場に行ってみるのはいいかもしれないと思った。一度、グレンと共に兵舎を訪れたことはあるが、あれは夕食時のことだった。日中の兵たちの様子を見たいし、少々兵舎の改築もしなければならないのだから、職人や執事を連れて、内部の状態を確認する必要がある。
 レジーナは歩き出そうとしたグレンを呼び止めた。
「ねえ、それじゃ、一度訓練を見学させてくれる?」
「あ、来んの? もちろん、大歓迎ですよ。午前中は俺と士官は会議だから、午後ならいつでもいい。なんなら、兵士どもと一緒に鍛えてやろうか」
 振り返った彼は口の端を吊り上げる。 
「あとで考えるわ。……じゃあ、午後にね」
「ああ。兵舎の門番には話を通しておく」
 挨拶代わりのつもりか、グレンは軽く肩を竦めると廊下を歩き去っていった。
 相変わらず彼との間には、忌々しさや苛立ちと共に、旧友に覚えるような僅かな親しさが漂っている。
 今でこそレジーナは一領主の妻、グレンは一軍の将軍といった立場だが、かつては二人とも背負うものもない、自由な冒険者だった。気楽な一方で、誰も守ってくれることもない。厳しい流浪の生活であった。
 城内に勤めている侍女や使用人たちは、大抵が昔からこの地に住んでいて、親から同じ仕事を受け継いだり、親戚や知人の伝手で仕事に就ける。本人の働きぶりや向き不向きは無関係ではないが、やはりものを言うのは人脈だ。そんな彼らの価値観や人生観は、自分の力だけを頼りにしてきた流浪の人間たちとは、どこか異なっているのは当然かもしれない。
 レジーナは城下、城内の人間を愛していたが、嫁いできた時から、やはりどこか自分が異端であるような、違和感と少しばかりの孤独は感じていた。それは決して二人の愛の妨げにはならなかったが、愛する夫との間にすら小さな溝として厳然と存在していた。
 この村を訪れて盗賊討伐隊の手伝いをするまでは、占い師として放浪していたシェリルを侍女として召し抱えたのも、自分と似た境遇の人間が周囲に欲しかったからだ。かつてはレジーナと同じく王都で冒険者をしていたという彼女とは、考え方や性格は異なるが、根元の方で同じ物の見方をしている気がする。
 そしてそれはグレンも同じだ。根元の考えが似ているから、会話で妙な気を遣わずに済む。根本的な人生観が異なる人間と話す時、知らず知らずの内に、相手の生き方そのものを否定するような言い回しになってしまうことが何度かあった。レジーナにとってはごく当たり前のことでも、相手にとってはそうではなかったりする。
 嫁いだばかりの頃は、それで執事や侍女頭たちともかなりぎくしゃくしたことがあった。以来、身分が上のレジーナの方が気をつけるようにはしているが、少々気疲れするのは確かだ。執事も侍女頭も信頼できる有能な人間であるし、かけがえのない人材だが、彼女が本当に気をおけずに話せるのは、夫を除けばシェリルだけだ。
 しかしシェリルばかりを無用に重用するわけにもいかない。ただでさえ、彼女は普通の侍女とは違う仕事をしていて、女官たちの中では少々孤立している感がある。本人は大勢でつるんで行動するのが嫌いらしく、あまり気にしていないようだが、普段から人付き合いが良くないと、何かあった時に反感を買いやすい。
 グレンと話しているのは、余計な気遣いが要らないという意味では気楽だった。
 傭兵時代にはグレンと話していて僅かでも寛ぎを覚えるなど、考えられないことだった。レジーナが知る限り、最も狡猾な人間の一人だったからだ。
 当時は会う度に口説かれていた気がするが、他の気のいい傭兵たちの冗談と違い、グレンの場合は目の奥に危険な光があった。冒険者仲間と行動していた彼女は、グレンが現れた時には極力仲間と離れないようにしていた。強姦の危険を感じたのだ。
 それだけではない。グレンがレジーナたちと一緒に飲み食いした挙句、金も払わずに姿を消したことも何度かある。同じようなことは他の傭兵仲間たちからも聞いたし、グレンに金を脅し取られたなどという話もよく耳にした。およそごろつきまがいの信用できない人間だったのだ。
 しかし状況が変われば、人間関係も変わる。
 価値観の違う人間たちの中で、今まで経験したことのないような環境に放り込まれ、唯一その支えにしていた夫がいない今、同じような経験をしてきた人間に共感や親しみを持つことも、無理ないことかもしれない。グレンの方も相変わらずの部分はあるが、やはり立場を持つ人間となったためか、かつての粗暴さはさほど見られなくなった。
 けれど、間違えてはいけない。
 彼は他国の軍の将である。味方でもなければ、信頼できる人間でもない。現在のところは、領地内での平穏を保つのに協力してくれているが、限りなく敵に近い存在である。
 それに彼はイブを殺している。
(いや、それは違う)
 複雑に波立つ心を落ち着けようとした。
 あの夜、道理と正義を貫いてイブの無念を晴らすよりも、城内と城下の安全を取ったのだ。彼女の死は、無かったことにした。機会はあったのに手を下さなかったレジーナが、いつまでもこのことでグレンを恨むのは卑劣だ。
 彼を信用しすぎてはいけないが、何もかも彼に繋げて、ただあの男を憎むのも筋違いだ。他人をどんなに深く憎んだところで、状況は何も変わらない。自分は何もせずに、ただ相手に慈悲が無いからと他人ばかり見ていては、無力な人間に成り下がっていくばかりだ。
(でも、むかつくのよね……)
 グレンもまだ怪我が治りかけだ。レジーナの留守中もてっきりおとなしくているだろうと思ったが、今朝、庭園でシェリルに抱きついていたことといい、またくだらないことをやらかしているかもしれない。グレンの脳天気な態度を見ていると腹は立つ。早く軍を連れて、どこかに消えて欲しかった。

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