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山間の城の物語」
第二章 千の目

8.蜜を足す (1)

2010.12.03  *Edit 

rose_1.jpg

8.蜜を足す

 叩きつけた切っ先がたやすく弾き返される。反動を右手で押し込めて刃を返し、レジーナはすかさず反対側から切り込んだ。しかしニコラスも敏捷に剣を構え直し、その一撃を受け止める。
 剣を再び強烈に弾かれ、右腕に僅かに痺れが走った。ニコラスはその隙を逃さず、太刀筋を縫うように剣を突き込んでくる。
 木剣はレジーナの喉に触れる寸前で、ぴたりと動きを止めた。
 また負けた。
 ここ五日ほど、ニコラスとは毎日のように勝負をしているが、勝てたのは一度きりだ。それもニコラスが何人もの演習に付き合った後で、疲れ切っていた時の話だった。
「大丈夫ですか?」
 勝負がついて、木剣を部下に預けてしまうと、ニコラスはそれまでとは別人のように穏やかな顔つきになり、レジーナが握ったままの木剣を丁寧に取り上げた。
 息を弾ませながら、レジーナはただ頷く。呼吸が乱れて声が出なかった。
 女に本気を出すような男に見えないと思ったが、間違いであった。剣を握って相手と対峙すると、目の光が変わる類の人間だ。普段あれだけ丁重に接しているレジーナに対しても、剣の勝負となるとニコラスは容赦が無かった。グレンの方が遥かに上手に手を抜いている。
 だがニコラスの気迫に引っ張られるように、レジーナの体にも気力が漲った。どうしてもこの男にもう一度勝ちたい。
 午前中と午後の早い内に普段の仕事を片付けると、レジーナは侍女を連れて兵舎の訓練場に通った。彼らは午前は部隊全体の演習、午後は各隊に分かれての訓練を執り行っている。直属の大隊を持たないニコラスは、比較的時間に余裕があるらしく、レジーナの相手をよくしてくれていた。
 彼以外の兵や士官とも、剣を合わせてみたこともある。若手の兵や小隊長なら、レジーナでも勝てるが、大隊を率いている士官が相手だと、簡単には勝てなかった。やはりこの軍は実力主義だ。武芸への習熟が、そのまま将の器になるわけではないが、強くなければ、周囲の兵がついてはこない。
 侍女たちも一度試しに兵と剣の手合わせをしてみたが、惨憺たる結果であった。以来、数人の負けず嫌いの侍女たちはレジーナについてきて、大公軍の兵に勝とうと基礎訓練に混ぜてもらっている。
 そんな副伯夫人と侍女たちを兵士たちは面白そうに眺めた。所詮、女の遊びだと彼らは思っていたが、彼女たちはめげずに、軍と同じ基礎訓練を地味にこなしている。
 公都にも女性の兵はいるが、貴族や騎士の子女で構成される独特の集団だ。主に身分の高い婦人の護衛についている。元傭兵が多く混ざるグレンの軍の男たちは、彼女たちをお飾りだと密かに揶揄していた。嫁ぎ先の無い娘たちが、珍しい『女の兵』として、貴族たちや他国から脚光を浴びる。革新的な発想を好む大公の趣向のひとつで、実用的な価値は皆無に等しい。
 彼女たちに比べれば、この城主の奥方と侍女たちは、もっと地道に鍛錬を積んでいるように見えた。
 ことに副伯夫人は、疲労の度合いが違ったとはいえ、筆頭士官のニコラスから一本取っている。身のこなし、戦いの気迫、どれも男の兵にもひけを取らない。
 称賛、揶揄、好奇心。兵士たちが、夫人と侍女に抱く感情は様々だったが、彼らは関心をもって、毎日訓練に通ってくる女たちを迎えた。髪をまとめ、動きやすい服で男装してやってくる彼女たちに下卑た邪心を抱く者は、それほど多くはなかった。


 ニコラスとの勝負を終えた後は、レジーナは息を整えながら軍の訓練を眺めていた。立ち回りの時間は短いが、体力を限界まで使う。ニコラスが相手となると、気力も大きく消耗した。
 レジーナの目の前では、侍女たちが小隊に混ざって、腕立て伏せに精を出している。途中でばてる侍女もいたが、汗を滴らせて男たちについていく侍女もいる。自分の部下ながら感心である。
「おらあっ、へたれんな! 腕立てぐらいでヒーヒー言ってるんじゃねえよ。気合い入れろ、コラ!」
 訓練に勤しむ兵たちの上から、鼓膜を突き破るような司令官の怒声が響いた。侍女の中には驚いて動きを止める者もいる。
「へい!」
 兵たちが一斉に返答する。はい、と言っているのかもしれないが、レジーナには「へい」と聞こえる。
「……どこの海賊の訓練かと思ったわよ。もう少し上品な気合いの入れ方は無いの?」
 近づいてくるグレンに眉を顰めて見せると、彼は唇を歪めて笑った。
「海賊が訓練なんかすんのか? お前、見たことあるの?」
「たとえよ。揚げ足取らないでよ」
 グレンは何も言わずに笑い声だけ小さく漏らすと、レジーナの隣に腰掛けた。今レジーナが座っているのは、兵舎の入り口、訓練場の正面にいつも用意されている木造りの長椅子である。兵士たちの訓練が見渡せる場所にあるので、大抵司令官が座っている。もっとも、動きが悪い隊があれば、彼らを一喝しに近づいていくので、グレンがここにおとなしく座っている時間は、それほど長くはなかった。
 グレンとも、あれから何度か手合わせをしているが、当然勝てたことはない。ニコラスと違って、見るからに手を抜かれているのが悔しかった。
「ニコラスには勝てたか?」
「勝てるわけないでしょ。今日も負けたわ」
「情けねーなー。あれでヤツは手ぇ抜いてるぜ。巨乳の女豹なら、せめて本気出させろよ」
「……その呼び方やめて」
 苦々しくレジーナが言った時、傾きかけた日差しの中に、早足で近づいてくる長身の人影が浮かんだ。飲み物を取りに行ったニコラスが戻ってきたのかと思ったが、彼ではなかった。先日、レジーナが役人たちを連れて視察に訪れた時に、門の前で問答になった黒髪の若い士官だ。
 彼はレジーナに一瞥もくれず、グレンの前に来ると膝を折って屈んだ。
「閣下、それでは私どもは本日の鍛錬は切り上げまして、明日に備えます」
「ああ、そうしろ。早めに作業が進むよう、ばりばり働かせろよ」
 鷹揚に頷くグレンに対し、生真面目な士官は深く頭を下げた。
「心得ております。ご期待に答えられるよう、一同で邁進します」
 明日から、山裾の伯爵領に下る間道を作る工事が始まる。このひと月の間、グレンは軍で抱えている職人たちを山に派遣して、工事の計画を立てさせていたらしい。今の話を聞く限り、このガブリエルが工事の指揮を取るのだろう。
 傭兵であったレジーナには想像がつかないが、グレンが引き連れている軍だけでなく、大公軍のほとんどの兵たちが土木建築の作業も行うらしい。辺境に遠征する時などは、兵たちが自ら街道を作り、道を切り開いて軍の通り道を作る。かつて古代帝国の兵たちもそうしていたと、以前に夫から聞いたことがあった。
 大公の軍の半数が山に入って間道の工事を進め、残り半分はここで訓練を続ける。一定期間を置いて、交替するらしい。間道の工事にどのくらいかかるのかは分からないが、グレンは一年ほどと言っていた。一年、山で工事を続けるのは苦痛だろうが、交替で工事を行うなら、兵士の体力も士気も温存できる。二千人もの軍を送り込んできたのは、この交替作業のためだったのだ。
「頼むぞ」
 もう一度頷いたグレンは、レジーナにちらりと視線を向けた。
「そうだ、ガブリエル。お前、夫人と手合わせしたことはあるか? 工事に出る前に、ひと勝負やってみないか?」
 ガブリエルは顔を上げ、やっとレジーナを見た。その表情は興味も嫌悪も表していない。彼は再び頭を垂れ、上官に告げた。
「恐れながら、グレン様、私は鍛錬とはいえ、ご婦人と剣を合わせることなどできません」
「そう堅苦しく考えるなよ。剣の勝負の時の夫人は、女性だと思わなくていい。獣だと思え」
 お前に獣呼ばわりされたくない。レジーナは憮然としたが、士官の前なので言い返すのは我慢した。
「申し訳ございませんが、やはりできません」
 ガブリエルは頑なだった。グレンは興を削がれたように溜め息をつく。
「いい勝負になると思うんだけどな。まあ、いい。じゃあ、隊を連れてさっさと寝ろ。明日は早いんだろ」
「夜明けには出発します。それでは、失礼致します」
 青年士官は二人に礼を取ると、踵を返して早足で去っていった。
 相変わらず女嫌いを隠そうともしないガブリエルの態度は、不愉快ではあった。しかし彼が工事の指揮を執るなら、万一、集落の領民が山で軍隊と鉢合わせになったとしても、彼らに危害を加えるようなことは無いような気がした。
「あー、これで仕事は進むし、男どもが半分減って兵舎が空くなあ」
 あんなに真面目な士官が、どうしてこんなに不真面目な司令官の下に就いているのか、レジーナは不思議に思いながら、へらへら笑っているグレンを横目で見た。グレン自身は工事の指揮は執らず、ここに腰を据えるらしい。一番いなくなって欲しい人間に居座られて、非常に迷惑であった。

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