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山間の城の物語」
第二章 千の目

12.深淵 (1)

2011.01.18  *Edit 

lesbaux_evning2.jpg

12.深淵

 レジーナが執事を探し当てた時、彼は厨房の隣にある召使い用の食堂で、侍女と問答しているようだった。
 都合が悪い。レジーナは溜め息をついた。
 今日はシェリルと夕食を食べようと思い、執事にこっそり用意を整えるように頼みにきたのだが、他の侍女がいる手前では憚られる。シェリルはレジーナの相談役でもあるが、個人的に彼女を重用しているような印象を、侍女たちに持たせるのは、あまり良くはない。
 このような不安定な状況下では尚更だ。万一シェリルやそしてレジーナ自身が、侍女たちの不信や叛意を買うようなことがあれば、夫がいない今、手がつけられない事態になる可能性もある。
 そこまで考えて、情けなくなった。だが仕方ない。エドワードが起こした騒動を、あんなに大きくなる前に防ぐことができなかったのは、レジーナの力が足りないからだ。せめて同じ轍を踏んではならない。
 食堂に入ってきて、黙って出るわけにもいかない。レジーナは、食堂の隅で何か話し合っている執事と侍女に声をかけた。
「どうしたの?」
 二人が振り返る。今までレジーナに気づかなかったらしい。
 執事の体に隠れて見えなかった相手の侍女を認め、レジーナは複雑な思いで顔をいくらか綻ばせた。執事と深刻な顔で何事か話していたのは、マイラであった。
 古参の侍女である彼女は夫に忠誠が厚く、レジーナに対しても昔から非常に好意的であった。年齢は下だが、レジーナは侍女の中でも彼女をとても信頼していた。マイラもレジーナの立場や彼女の悩みを承知しているので、レジーナがシェリルを頼ることを理解してくれている。
 マイラの前でなら、執事にシェリルとの夕食を頼んでもいいだろう。
 しかし同時に、レジーナの胸に薄い靄がたちこめる。
 マイラはかつて、レジーナの義理の叔父──先代副伯の弟の家に勤めていた。彼女はそこで生まれ、少女の頃に本家ともいえるこの城に上がったのだ。言うまでもなく先代副伯の弟とは、エドワードの父である。つまり幼い頃、彼女はエドワードと同じ屋敷で育ったことになる。
 あのエドワードが夫の従兄弟であるということも、マイラの言だからこそ信じたのだ。
 エドワードの父は既に亡くなり、一家は離散したようだ。理由や事情はレジーナも知らないし、興味は無かった。
 その後数人の供を連れ、この近辺を放浪していたエドワードとマイラはごくまれに、手紙などで連絡を取っていたらしい。この城が大公軍に占領されたことも、マイラが手紙でエドワードに知らせたのだ。
 しかし先日押しかけた彼は、それ以上のことを知っていた。
 大公軍の司令官が、侍女を寝室に呼びつけていること、イブが行方不明になっていること。
 それらを知り、そしてエドワードに知らせることができたのは、マイラしか考えられない。
 だがレジーナは、信頼厚い侍女を正面から問い詰めてはいなかった。
 エドワードは既に領民の信頼を失った。そして決闘に敗れた彼は、夫が戻るまではレジーナの采配に口出ししないと誓った。
 それで十分だ。もう彼には、何もすることができない。この上でマイラを問い詰めても仕方ないと思っていた。
 
 振り返った執事は、普段温厚な顔を曇らせている。マイラもまた、温和な顔立ちを強張らせていた。どうやら込み入った話をしていたようだ。
「何かあったの?」
 嫌な予感を覚え、レジーナも眉を僅かに寄せて二人に尋ねた。
 短い沈黙が流れる。執事は気まずそうに目を伏せた。口を開いたのは侍女の方であった。
「いいえ……今夜の夕食のことで、少し……」
「なあに? 献立の話?」
「いいえ……」
 どうもレジーナがいては話しづらそうだ。
 だが、だからといって引っ込むわけにはいかない。執事と古参の侍女が深刻になるような話は、女主人である彼女が知らないわけにいかない。
「どうしたの? 私に話せないこと?」
 率直に尋ねると、執事は息をつき、マイラに視線を向けた。同じように目を伏せていたマイラが、決然とレジーナの目を見た。
「レジーナ様、今夜の司令官様とのお食事は、ぜひ私をお招きくださいと、司令官様におっしゃっていただけますか?」
 束の間、レジーナはマイラが告げたことの意味が分からなかった。
 先日、エドワードがやってきた前日の夜を除いて、レジーナはグレンと夕食を取っていない。彼女は客用の小さな食堂で食べ、グレンは副伯夫妻が使っていた、家族用の食堂兼応接間で食べているはずだ。
 グレンと食事をするなどと、まるでその後の寝所も共にしたいという申し出のようではないか。
 実際、イブによって負傷するまでは、グレンは侍女をまず食事に呼びつけ、その後寝室へと招いていた。彼によって、侍女の中から一番最初に選ばれたマイラも、同じように司令官と食事をした後、共寝したはずだ。その後、婚約者がいる彼女は、グレンに抱かれた屈辱を言葉少なにレジーナに語っていた。
 そのマイラが、再びグレンと寝たいと言っているのだろうか。レジーナの頭は、軽い困惑に襲われた。 
 かつてグレンは、それなりに女受けが良かった。
 顔立ちも甘いし、低い声も魅力がある。鍛えた長身の体は、傭兵が出入りするような酒場や食堂の女たちの目を引いた。頭も悪くないので、話もそれなりに面白い。若い頃のレジーナも、グレンに男として全く興味が無かったわけではない。それに彼が寝床で女に与えるであろう快楽は、確かにある種の女たちを夢中にさせるのかもしれない。レジーナ自身、逆らいがたい力を感じているのだ。それは認めないわけにいかなかった。
 無論──と語るのもおかしいが、そうして彼に近づいた女たちは、グレンにいいように遊ばれて捨てられた。彼の悪評は傭兵や冒険者たちの間でも有名だったが、グレンに惚れた女たちは『自分だけは違う』と思い込んでしまうらしい。彼に取っては他の女は遊びだが、自分とだけは本気で愛を育んでくれるはずだと。
 レジーナは女たちに同情しつつも、彼女たちの迂闊さ、甘さに僅かな軽蔑を覚えていた。
 まさか、マイラも。
 あのくだらない男のうわべだけの魅力にとりつかれてしまったのだろうか。 
「マイラ……」動揺を押し隠して、レジーナは答えた。「いきなりどうしたの? 司令官様なら、ここのところは一人で食事をお召し上がりのはずよ。あなたが何もそんな……」
 マイラの顔が歪んだ。そして同時に目を伏せていた執事が、複雑な視線をレジーナに送る。彼女は思わず口を噤んだ。
 そして気づいた。
 負傷して寝込んでいたグレンは、寝台から起き上がるようになっても、一人で夕食を取っていた。ずっとそうしていると思っていたが、今も一人で食べているのか、本人からも執事からも聞いたことはない。
「レジーナ様はご存知なかったかもしれませんが」レジーナの予測を裏付けるように、マイラが震える声をあげた。「司令官様は、ここ数日、以前のように私たちを夕食と寝所にお召しになっているのです」
 頬を張られたような気がした。むしろ、自分で自分の顔をいやというほど張ってやりたかった。
「……本当なの?」
 レジーナに重い声で尋ねられ、執事は頷いた。
「はい。司令官様のお使いの方から、直接私が言いつかっておりました」
「どうして私に言ってくれなかったの」
 執事の気持ちは解る気がしたが、つい詰問口調になった。執事は頭を垂れて小声で答える。
「申し訳ございません。奥方様の心労を増やしたくなかったのです。私の口からは、とても申し上げられず……。いずれ司令官様ご本人から、伝達があるかと……」
 レジーナは唇を噛んで、彼女よりやや低い位置にある、白髪が混じった頭を見下ろした。
 彼の言うことも分かる。領地の問題で頭を悩ませているレジーナに、再び侍女が呼びつけられていますなどとは、言いづらいだろう。レジーナがそれを知ったところで、どうしようもない。グレンの負傷により中断されていたことが、再開されただけのことなのだ。
 だが何人もの侍女が、マイラやイブのような思いをしていたというのに、何も知らずに放牧地の問題しか考えていなかった自分の間抜けさが情けない。当の侍女たちには、さぞかし能天気な女主人に見えていたことだろう。

 仁王立ちのまま黙って眉をしかめ、目を閉じたレジーナに、マイラが穏やかだが芯のある声をかける。
「レジーナ様、どうかお一人で悩まないでください。司令官様の申し上げることですもの、どうしようもないことは分かっております。けれど今日は、どうか私を代わりにお召しになるよう、司令官様にお伝えください」
「代わりって……誰の?」
 レジーナの口から漏れた声は、自分でも驚くほど暗かった。
「シェリルです」
 再び頭を殴られたような衝撃がレジーナを襲った。なんて呑気だったのだ。レジーナがのほほんと夕食を共にしようとしていた侍女は、既にグレンに呼びつけられていたなんて。
 己を苛むレジーナに、マイラが続けざまに言い募る。
「少し前に、司令官様付の副官の方が、シェリルの部屋に入っていくのを見たのです」
 マイラの言うことは事実だろう。グレンは選んだ侍女を呼び出すのに、レジーナや侍女頭を通さず、自分の副官に直接呼びに行かせていた。それ以外の用事で、士官たちが侍女の部屋を訪れるわけがない。
 レジーナ本人が侍女を呼び出すのは、あまりに後ろめたく、つらいと思っていたので、副官が侍女を呼び出すことになっているのは、正直ありがたいとレジーナは思っていた。しかしこのことが、とんだ無知につながってしまったものだ。
 自分が情けない。
 溜め息を吐き、レジーナは口を開いた。
「マイラ、あなたが代わりになることはないわ……」
 私が代わる。
 そう言おうとして、レジーナはためらった。
 マイラを含め他のグレンに抱かれた侍女たちは、皆同じ思いをしているのだ。
 レジーナは侍女たちの中でもシェリルを最も信頼し、親しみを覚えている。現在の身分は違っても彼女は部下などではなく、まず友人であった。
 シェリルが乙女かどうかは知らないが、多くの男に求婚されながら独身を貫いている彼女が、グレンのような男に遊びで抱かれるのは、苦痛以外の何物でもないだろう。
 だからといって、シェリルが呼び出された時だけレジーナが代わるのは、他の侍女にとって公正ではない。だいいち既にレジーナに飽きたなどと言っていたグレンが、若い侍女の代わりとしてのレジーナを承知するかどうかは分からない。
 レジーナの逡巡を察したのかどうか、幾らか感情を高ぶらせた声でマイラが言った。
「レジーナ様、私なら大丈夫です。これ以上、シェリルにむごい思いをさせたくないのです」
「これ以上って何? シェリルが呼び出されるのは、初めてじゃないの?」
 眉を寄せたマイラの瞳が潤んだ気がした。彼女は口元を片手で覆い、数度首を振る。
「言えません……でも」
 侍女の瞳から涙が零れるのを目にし、ただごとではないと感じたレジーナは、硬い声で執事に告げた。
「ジョージ。悪いけど、少し外に出ていてくれない?」
 執事は恭しく頭を下げ、心なしか沈んだ足取りで食堂から退室した。

「マイラ、話して。何があったの?」
 片手で顔を覆い、声もなく涙を流すマイラの肩をつかみ、レジーナは彼女を手近な椅子に座らせようとした。しかしマイラは首を振ってそれを拒絶した。
「レジーナ様……私からは申し上げられません」
「じゃあ、誰に訊けば教えてくれるの? シェリル?」
「違います。どうか、シェリルにだけは訊かないでください……」
 何かあった。
 泣き崩れんばかりのマイラを前に、レジーナは確信した。何度かシェリルと食事をしながら他愛もない話などをしているが、特に変わった様子は見られなかった。だが彼女の身に何かが起こり、そしてマイラはそれを知っているのだ。
「マイラ。話してちょうだい。シェリルがどうしたの? 私が知らなくてもいいはずないでしょう」
「でもシェリルが、レジーナ様にこれ以上心配をかけたくないからと言って……」
「もうここまで知ってしまったのよ。黙っていられる方が、よほど心配だわ。シェリルに尋ねてはいけないなら、あなたから話して。あなたから聞いたとは、絶対に言わないから」
 マイラは首を振りつづけたが、レジーナが粘り強く問い詰めるうち、ついに話し始めた。
 まだレジーナが放牧地の視察に行っている間、シェリルが大公軍の兵士に強姦されたという。
 そんなことがあったばかりのシェリルが、今夜、司令官の寝室に呼び出されたらしいことを知ったマイラは、夕食の采配をしている執事に事実を確かめ、自分が代われないかと頼み込んでいたところだったのだ。
 話を聞き終わったレジーナは、嗚咽を漏らしているマイラの背中を軽く叩き、強引に椅子に座らせた。
「マイラ、話してくれてありがとう。大丈夫よ、司令官様とは私が話し合ってみる」
「でもレジーナ様、司令官様の不興を買っては……」
 不安げにレジーナを見上げる、慎重な侍女の肩を安心させるように抱く。
「大丈夫。そのあたりは気をつけるわ」
 それだけ言い、レジーナはすぐに立ち上がった。なおも危なげな視線で彼女を見ているマイラを振り切るように、踵を返して食堂の扉を開け、廊下を歩き出す。
 グレンはかつて兵士や士官たちに、城内や城下の人間に乱暴はさせないと約束した。
 シェリルが受けた仕打ちをグレンがまだ知らないなら、知らせて抗議し、犯人の兵士を処罰させる。
 だが、もしグレンが既に知っているなら。

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