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山間の城の物語」
第二章 千の目

12.深淵 (2)

2011.01.21  *Edit 

 女の部屋を訪ねるので、長剣は持ってこなかった。そのことをロデリックは大きく後悔した。
 用心しながら、慎重に素早く振り向く。机に据えられた一本きりの蝋燭の炎が届くか届かないかという距離。寝台の向こう、部屋の入り口近くの壁際に人影があった。
 意識に霞がかかったシェリルも僅かに顔を上げて、形相を一変させたロデリックの視線の先を追う。
 風の無い澱んだ空気の部屋の中、蝋燭の炎は微かに揺らめくだけだ。ちらちらと踊る頼りない明かりでは、シェリルはよく見えなかったが、暗闇に慣れたロデリックは、壁際に立っている男の姿が見てとれた。
 ロデリックは、シェリルの上に屈み込んだままの、己の不自由な体勢を呪った。彼も小振りの短剣は腰に佩いているが、相手は既に短剣を抜いている。それを投げつけられても、彼はよけることができるかもしれない。だがそうすれば、刃はロデリックの背後にいるシェリルに突き刺さるだろう。
 何故気づかなかった。
 自分の迂闊さに、歯噛みしたい気分だった。シェリルの背に香油を塗っていた頃には、確かに室内には誰もいなかった。だがその後に彼女が息を乱し始めたあたりからは、確信が持てない。ロデリックもシェリルの反応しか見ていなかった。
「楽しそうだな、ロディ」
 壁の前で無造作に佇んだままグレンは呟いた。
 床を這うような低い声が耳に届き、シェリルも寝台の向こうに立っている人間が誰だか分かった。血の気が引く。部屋に鍵は無いが、扉はしっかり閉めたはずだ。いつの間に入り込んだのだろう。そして、いつから見られていたのだろう。
「用事があって兵舎に戻ったら、まだ向こうにサラがいたんで、お前が侍女を呼んでくるのを忘れてるのかと思ったんだ。たまには、こっちから押しかけるのもいいと思って部屋に来てみりゃ、まさか自分の部下が女に手を出してるとは思わなかったな」
 グレンはそこで言葉を一度切り、低い笑いを漏らした。シェリルには相変わらず彼の表情は見えなかった。
「俺はお前に、女を連れて来いと言ったんだ。誰が先に食っていいと言った」
「申し訳ございません」
 ロデリックは上体だけグレンの方を振り向きながら、抑揚の無い声で言った。グレンは目をすがめ、彼を見据える。
「以前にその女と知り合いかと訊いた時に、お前、知らないと言ったよな」
「いいえ。彼女を知らないとは申し上げておりません。尋ねられた時には、思い出せなかっただけです」
 しゃあしゃあと言ってのけるロデリックに対し、グレンはわざとらしく舌打ちを返した。確かにそうだ。シェリルについて尋ねた時、副官は首を傾げてはいたが、否定はしていなかった覚えがある。
「すっとぼけやがって……。まあ、女と馴染みがあったかどうかは、どうでもいい。他の士官どもは俺の言うことを聞いて、真面目に禁欲生活送ってるってのに、お前だけいい身分じゃねえか。サラとのことも、俺が知らないとでも思ったのか」
 グレンは右手で握っていた短剣の柄を、掌で回転させて握り直す。
 それを目にしたロデリックの体に緊張が走った。右の腰に下げた短剣に手を伸ばす。グレンは現在の彼の身分上の上官であるが、だからといって素直に殺されてやるほどの義理はないつもりだ。
 だが、即座に短剣を抜くことはためらわれた。刃物を抜くのは敵意の表れだ。かつて傭兵であったグレンは、尚のことそう捉えるだろう。ここでロデリックもグレンに対して短剣を向ければ、戦うしかなくなる。
 間合いはある。一対一なら、どうとでもなる。問題はシェリルがいることだ。ロデリックがここで逃げようとするなら、グレンは代わりにシェリルを斬り捨てかねない。
 グレンがどこから話を聞いていたのかは分からないが、彼らが旧知の間柄であることには聞こえたようだ。そしてシェリルを傷つけることが、ロデリックにとっての制裁になりうることにも気づいているだろう。
 二度寝室に呼んだことからしても、彼はシェリルをそれなりに気に入っているのだろうが、グレンにとっては女は皆同じだ。遊び道具に過ぎない。シェリルの代わりになるような可愛い女など、いくらでもいる。
 必要があればシェリルを傷つけ、殺すことも簡単にやってのけるだろう。意外にも女には情を残すことが多いグレンだが、自分の障害になるおそれがあると見れば、ためらいもなく女を見捨て、時には自ら始末した。
 ロデリックもグレンのその性質を非難するつもりはない。自分も似たようなものだし、女に入れ込んで目的を忘れるようでは、あの大公が抱える将軍としてふさわしくない。
 しかし今この場では、シェリルに対するグレンと自分の情の違いが、ひどく不都合だった。
「妙なこと考えるな。女も巻き添えになるぞ」
 ロデリックの逡巡は一瞬だったが、グレンはそれを読んだかのうように口を開いた。
「サラのことはいいとしても、俺は城内や城下の女に手を出すなと、お前ら全員に言ったよな。それも覚えてないほどボケが始まってんのか」
「いいえ、覚えております」
「命令を破れば、処罰するとも言った。それも、その忌々しい脳みそで覚えてるな」
「はい」
 シェリルには、グレンの姿はまだよく見えなかった。蝋燭の弱々しい明かりに、長身の濃い影がぼんやりと浮かぶだけで、ただ恫喝するようなグレンの押し殺した声が聞こえる。応じるロデリックの声は相変わらず平坦で、動揺も滲ませていなかった。 
「分かってんならいい」もう一度、グレンは小さな笑いを漏らした。その声の奥深くには、張り詰めた芯がある。「続けろ」
 シェリルはグレンの言ったことの意味が分からず、まだぼんやりと前方の壁を眺めて、影に溶け込んだ声の主の姿を見分けようとしていた。彼女の目の前で、上半身だけ振り返っていたロデリックも動かなかった。奇妙な、ねじれたような静寂が落ちる。
 やがて再びグレンの抑えた声が聞こえた。
「聞こえなかったのか? そのまま続けろ。女をイカせてやるんだろ? 俺にも見せろ。たまには見てるだけなのも楽でいい」
 グレンの存在を知り、冷え始めていたシェリルの頭に、再び血が上る。
 冗談なのか、皮肉なのか。そう思いたかったが、相変わらずグレンの表情は闇に紛れて、彼女には見えなかった。
 腰をひねり、上半身だけグレンに向けていたロデリックが、寝台の上で膝立ちになる。彼が体ごと振り返ろうとすると、威圧的な低い声が響いた。
「こっちを向く前に、まず腰に下げてる短剣を床に捨てろ」
 木張りの床が微かに軋んだ。頼りない明かりの輪の中にグレンの姿が入ってくる。シェリルは慌てて腕で胸を覆い、膝を体に寄せて局部を隠した。しかし彼はシェリルの動作には構わず、ロデリックを見据えている。唇は緩み、僅かに笑みをかたどっていたが、好意や寛容などひとかけらも感じさせはしなかった。副官に向けた視線は、猛禽のように鋭く硬い。
 右手に短剣を握りこんだままのグレンを一瞥し、ロデリックは腰に佩いた短剣に手をかける。グレンの乾いた声がそれを遮った。
「お前は短剣に触るな。シェリル、お前がやれ。そいつの腰の短剣を鞘ごと床に捨てろ」
 シェリルはかすかに体を震わせ、ロデリックを仰ぎ見た。彼はグレンに顔を向けたまま、短剣にかけようとした手をだらりと垂らす。
 どうしよう。
 冷たい焦燥がシェリルの肺の奥から立ち昇ってきた。
 他の男に体を触らせるな。万一のことがあれば、相手の男を殺す。
 以前グレンに抱かれた後、彼はそう言った。士官や兵士たちは、城内や城下の女性と肉体的な交渉を持つことを禁じられている。
 グレンに言われるままロデリックから短剣を取り上げた後に、丸腰の彼がなすすべもなくグレンに斬り殺されてしまったら。
「グレン様……」
 シェリルは口を開いたものの、後が続かなかった。ロデリックとは親しい知り合いであったと言えばいいのだろうか、それとも無理やり押さえつけられていたのではなく、合意の上で行為に及ぼうとしていたとごまかせばいいのだろうか。しかしいずれもグレンの怒りを解くには至らないだろう。グレンはか細い声を上げたシェリルに目も向けなかった。
「言うとおりにして」
 ロデリックがシェリルに一瞬だけ視線を送り、そう囁いた。
 尚もシェリルが躊躇していると、やはり彼女を一瞥したグレンが再び口を開く。
「びくびくするな。お前らが妙な真似しなきゃ、何もしねえよ。さっさとそいつの短剣を捨てろ」
 仕方なく彼女は、ロデリックの腰に下がった短剣の鞘に手をかける。彼の下半身が僅かに膨らみ、服を押し上げているのが目の前に見えて、そんな場合ではないと思いながらも顔が熱くなった。鞘をベルトから外す手つきが、ぎこちなくなる。
 やっと外した短剣を、指示通りに床に落とした。その間、ロデリックは身動きもせず、口も開かず、グレンに視線を留めたままだった。
「お前は女の後ろに回れ」グレンは傲然とロデリックを顎で差す。「女が見えなきゃ面白くない」
 一瞬の沈黙の後、ロデリックはシェリルの肩を掴み、膝立ちのまま彼女の背後に回った。シェリルが覗けたその顔は、感情の表れない無表情に戻っている。
 グレンの視線からシェリルの姿を半分隠してくれていたロデリックの体がどくと、全裸の彼女はグレンの視線に晒される。
 耐え切れずにシェリルは体をねじってそむけ、背後にいるロデリックを振り向いた。茶色の瞳と視線が合う。乾いた表情の瞳の奥に、僅かに何かの感情を見た気がした。
「こら、シェリル。こっち向け。俺が言ったこと忘れたか? 他の男と何かあったら、相手はただじゃ済まさないと言ったよな。そいつを殺されたくないなら、言うとおりにしろ」
 ロデリックを凝視する間もなく、シェリルはグレンを振り向く。
 後ろから回ったロデリックの手が、横向きにねじっていた彼女の胴と肩をつかみ、正面を向かせた。
「待って……」
 背中に虫が這うような不安を覚え、シェリルはロデリックに首を向けた。だが彼は彼女を見返さず、力を込めて娘の肩を抱くと、耳元でごく小さな声で囁いた。
「言うとおりにして」

 後ろから伸びた両手が、柔らかい乳房を押さえる。首筋に唇が押し当てられた。
 シェリルはロデリックの腕を押さえ、振り払おうとしたが、彼の腕は全く揺るがなかった。
 つい先ほどは、同じ手で乳房を撫でられ、快楽に喘いでいたが、目の前にグレンがいるこの状態では、快楽を感じるどころではない。ただ居心地の悪い恥じらいと焦りに苛まれた。
 この場から逃げ出したい。しかしロデリックにしっかりと捕まえられ、それがかなわない。動けたとしても、彼女が逃げれば、グレンはロデリックを殺そうとするだろう。
 ロデリックの言う通り、この場ではグレンの言うとおりにするしかないのかもしれない。
 いずれ隙を窺って、逃げることができれば……。
 首筋に再び唇が触れる。舌が伸びて肌を撫で、彼女は大きく体を震わせた。舌は首筋を這い上り、喉と顎を通って耳たぶに触れる。
「シェリル」
 もう一度、唇と舌が触れるだけの、ごく微かな囁きが耳の奥に忍び込んだ。恐らくグレンの耳にも届いていないだろう。
「変なこと考えないで。僕も君も命が危ない」
 失望がシェリルを襲った。ロデリックはどうにかして、この場を脱出することを考えているわけではないのだろうか。グレンの言いなりになることは、彼女の素肌、そして痴態を晒し続けることだ。
「わかった?」
 ロデリックの囁き声は小さすぎて、言葉以上のものを全く聞き取れない。
 わからない。
 そう答えたかったが、囁きと同時に右の乳首を軽くつねられ、シェリルは眉を寄せて口を噤んだ。
 彼の指先にはさまれて、乳首はますます固くなる。つい視線を下げて自分の胸を見ると、ロデリックの繊細な指の間で、紅色の突起が身をよじるようにして玩ばれているのが目に入った。反対側の乳房は、彼の左手によって揉みしだかれ、掌の下で卑猥に形を変えている。
 今、シェリルの真正面にいるグレンも、同じ光景を見ているのだ。まるで玩具のように、乳房を背後から玩ばれるシェリルを見ている。
 見てはいけないと思いながら、彼女はグレンに視線を向けた。
 彼は相変わらず短剣を握って立ったまま、薄笑いを浮かべてシェリルを眺めている。重さも実体も持たない視線が肌を這うのを確かに感じた気がした。
 グレンと目が合った。体の奥を突かれたような錯覚に襲われた。
 その小さな衝撃から覚めない内に、再び首筋に舌が触れる。彼女は思わず目を閉じて、体を跳ねさせた。先ほど触れられた時より強烈な、痺れるような刺激が突き抜けた。
 体が熱くなっている。背後から体を玩ばれる様子を別の男に見られているというのに、恐慌と羞恥の裏で、ざらついた熱がシェリルの肉体を覆い始めている。

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~ Comment ~

ドキドキした~(>。<) 

まさか背後にグレイがいたなんて!
なんかフクロモモンガさんの手の上で、コロコロと転がっている気分です(笑)すごく楽しい時間をありがとうございます!
ロデリックがシェリルを守ろうとしてくれている姿に愛を感じました。二人の幸せを願ってやみません!
なんとか二人が無事に生き残ってくれる事を祈りながら、続きを楽しみにしています!フクロモモンガさんのペースを大事にしながら執筆して下さいね。
インフルエンザも流行っているようなので、体にはくれぐれも気を付けてください(^-^)/

RE: あちこさん 


ロディも気づけよって感じですが…(笑)
それだけ目の前のことに夢中になってたんですかね~。
気がついた時には、かなり不利な体勢ですけど…。

こちらこそ、自己満足の拙い話ですが、楽しんでいただければ本当に幸いです。

そして二人の幸せを祈っていただいて、ありがとうございます。
当座はこの場を生き残れるかどうかというところですが…。
変なところで途切れてしまってすみません。
近々、続きを更新します。

本当ですね、寒いしインフルエンザも流行っていますね。
その上、もうすぐ花粉大魔王が…(泣)
体調に気をつけて頑張ります。
あちこさんも、お体ご自愛くださいませ。

NoTitle 

山間の城の物語が初めに読んだ作品だったので、
レジーナ&グレン側の今後がどうなるのかと楽しみだったんですが、魔女とコヨーテを読んで、もう一度「山間の城の物語」を読み返して、今度はシェリル&ロディはどうなるのかと、ますますドキドキしてしまいました!!

更新楽しみにしています^^

RE: みぃさん 

コメントありがとうございます。
お返事が遅くなってしまって、ごめんなさい。

「山間の城の物語」だけでなく、「魔女とコヨーテ」まで読んでいただいて、ありがとうございます!
一応独立した作品として、テーマも違っているのですが、共通する出来事なども多くて、姉妹編のようになっています^^;
形としては、「魔女とコヨーテ」の方が長い外伝にあたるのですが、私の頭の中に生まれたのはこちらの方が先なので、読んでいただけて嬉しいです。

レジーナさんやグレン君の行く末と合わせて、またお時間がある時に続きを読んでいただければ幸いです。
ありがとうございました~!
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