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山間の城の物語」
第二章 千の目

13.沈黙の食卓 (4)

2011.02.16  *Edit 

 息を吐きながら掌で顔を拭ったグレンと目が合う。怯むものかと思ったが、ごく微かな動揺が、一瞬で体を駆け抜けた。激怒しているのは間違いないのに、やはりどこかで自分は彼を恐れている。それが悔しかった。
 つかみ掛かってくるか、以前のように頬を打たれるか、体中を痛憤に焼かれながらも、レジーナはいつでも体を動かせるように、座りながら無意識に身構えた。全身が緊張に張り詰める。
「もったいねーことすんなよ。領民が精魂込めて作った葡萄酒だろ」
 グレンは何度か両手で顔を拭い、掌についた葡萄酒を舐めている。まともに酒をかぶった彼の前髪も、果実の匂いの液体に濡れていた。レジーナの行動を全く予測していなかったのだろう。
 てっきり逆上すると思っていたグレンは、呆れたような溜め息をついているだけだ。しかし寧ろその態度は、レジーナの怒りを煽り立てた。テーブルの上で拳を強く握り締める。この厚顔無恥の男をぼこぼこに殴ってやりたい。爪が掌に食い込んだ。
 以前にもグレンを睨みながら、同じことを感じた気がする。爪が伸びているから、掌に食い込むのだ。以来、爪は短く整えていたつもりだが、いつの間にかまた伸びている。
 怒鳴りつけてやりたいと思いながら、怒りと衝撃のあまりただ蒼白になって黙っているレジーナの前で、グレンはそれまでと変わらない口調で言った。
「なんでお前がそんなに怒ってんの。俺は雑魚兵士に乱暴されたシェリルが可哀相だったから、抱いてやっただけだ。あいつ独身で、泣きつくダンナもいないし、お前は留守だったし、ほっといたら可哀相だろ」
 レジーナは、シェリルが意外に誇り高いことを知っている。その彼女に向かってグレンが何度も可哀相だなどと哀れみを向けるのは、ひどく傲慢に聞こえた。
「だからって、なんで手を出したりするのよ。自分が抱きたかっただけでしょ!」
「あー、まーね。そりゃ、あんな可愛い子が、傷ついてしょげかえってるのを見たらねえ。乱暴したバカ男のことなんか忘れさせて、世の中もっと優しい男がいるってことを教えてあげないと」
「ふざけんな!」
 言葉遣いを乱して怒鳴るレジーナに、グレンは冷笑を返した。
「あいつだって、俺が抱いてやったら喜んでたぜ。お前より全然素直だったよ」
 沸騰している頭の中心が冷えた。
 男に乱暴された直後のシェリルが、グレンなどに抱かれて嬉しいと思うはずない。愛してもいない男に抱かれて、快楽など覚えるはずがない。
「それ以上、彼女を侮辱しないで!」
「侮辱してるつもりはないって。素直で可愛いって褒めてんだよ」
 何度レジーナが声を荒げようと、グレンの口調は乱れなかった。相手を自分の感情に引きずりこめない。怒りに波立っている自分が、哀れで滑稽に思えた。
「あんた、自分に都合のいいようにしか考えてないだけでしょ。自分の兵士の監督もできないくせに、上からシェリルを哀れんでるんじゃないわよ。司令官のあんたが、そうやって自分の欲望も操れないから、下っ端が調子に乗るんじゃない。昔みたいなチンピラじゃないんだから、少しは自分を省みて、部下の模範になるような生活しなさいよ」
 レジーナが一気にまくしたてたことは、全て正論だ。グレンは面白くもなさそうな顔でそれを聞いていた。彼は行儀悪く椅子の背によりかかり、頭の後ろで両手を組んで、再び大きな溜め息を吐いた。
「今度は説教かよ。俺としては、お前もここの愚民どもも、丁寧に扱ってるつもりなんですけどね。シェリルの件を除けば、約束通り略奪なんかはしてないし、この前のガキが乗り込んできた時だって、手助けしてやっただろ。親切だと思わない?」
「恩着せがましいわよ。誰のせいであんな噂立てられたと思ってるの。ひとのこと、散々好きにしておいて、親切だの善意だの言ってんじゃないわよ。そんな邪な親切、ありがたくもないわ」
 レジーナの返事を聞いたグレンの褐色の瞳が、それまでとは違う光を帯びた。彼女もそれに気づいたが、そこに浮かんだ男の感情までは解らなかった。
「──へっ」ややあって、グレンは目を伏せ、乾いた笑いを漏らした。「ああ、そう。お前や侍女を見返りに要求しておいて、厚意や親切を語るなってこと?」
「そうよ」
 またも彼の視線に怯みそうになりながらも、背筋を伸ばしたままレジーナは言った。
「お前、何様?」
 グレンの目が吊り上がる。射抜くような鋭い視線を向けられ、彼女は一瞬硬直した。
「なに? こんなちっちぇー国に攻め込んだ俺たちは、お前の権利と地位を尊重して、見返りもない善意を捧げて、無償でご奉仕しなきゃいけないわけ? 確かに俺は好き勝手やってるけど、兵士たちには許してない。シェリルを犯ったヤツもいずれ処分する。……その俺の配慮が、そんなに汚ねえかよ。それとも、お前や侍女が高貴な体を差し出しているんだから、それぐらいの厚意は当然って言いたいの?」
「そんなこと言ってないわ。ただ、あんたがあんまり恩着せがましいから……」
 はっきりと答えようとしたが、どうしても声から僅かに力が抜けた。レジーナの言葉を遮って、低く冷たい声が話を続ける。
「毎日跪いて拝めとは言わないけど、下種呼ばわりされて、酒ぶっかけられるんじゃ、わりに合わねえよ」
 グレンは一度言葉を切ると、椅子の背から体を起こして、テーブルに肘をついた。
「お貴族様に嫁入りして、何か勘違いしてんじゃないの。自分に近づいてくる人間は、全員無償の好意を持ってるとでも思ってるのかよ」
「違う」
 かぶりを振って反論しようとしたが、グレンは声を上げて強引に自分の話を続けた。
「食糧にしたって、この領地から取り上げりゃ早いものを、わざわざ大公に補給を頼んでるんだ。それも邪な親切かよ。前にも言ったけど、他んとこじゃここまでやらねえよ。お前が昔なじみで、女だから、面倒ごともはからってやってんだ」
 彼は杯を取り上げ、首を傾けて葡萄酒を一気に飲み干した。銀杯がどんという音を立てて、乱暴に食卓に戻される。
「お前が男だったら、わりいけど、こんな村一夜で略奪しつくして終わりだ。女だから親切にしてやってんだ。当然、抱けるぐらいの見返りは期待するに決まってんだろ。お前に言わせりゃ、それは下心で、そんな取り計らいは邪だってわけか。俺たちも社交や慈善事業で来てるんじゃねえ。戦に来てるんだ。甘ったれたきれいごと抜かして、お姫様にでもなったつもりかよ。──お前なら解ってると思ってたんだどね。幻滅だ」
 吐き捨てられた最後の言葉は、冷たくレジーナの胸に突き刺さった。
 軽蔑している男に幻滅されたところで、痛くも痒くもないはずだ。だがグレンにそう告げられた瞬間、彼女は自身に小さく失望した。
 間違ったことは言っていないつもりだが、それほど高慢で世間知らずに聞こえただろうか。
 確かにグレンの言うとおり、戦争ではただ力だけが物を言う。人道や正義など弱者の言い訳だ。傭兵だったレジーナは、嫌というほどそれを知っていた。
 しかし副伯夫人となった今、グレンがきれいごとと呼んだ、弱者の尊厳や正義を安易に踏み潰すことはできない。
「話はそんだけか?」
 皿の上の料理に視線を落としながら唇を噛んでいると、グレンの冷えた声が響いた。
 顔を上げる。グレンは酒壷から、自分の杯に葡萄酒を注いでいた。
「他に用事が無いなら、さっさとメシ食って出ていけ。俺も高慢なバカ女は大嫌いだし、抱く気も起きねえよ。二度とお前とはやらないから安心しろ」
 グレンが言い放った言葉より、それによって自分が受けた衝撃の重みにレジーナは愕然とした。
 彼女が答えることもできずにいるうち、グレンは皿の上に残った料理を次々と口に放り込む。会話もなく、彼はレジーナと目も合わせようとしなかった。

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