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山間の城の物語」
第二章 千の目

14.迷い子 (1)

2011.02.19  *Edit 

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14.迷い子

 グレンが一人で前菜を平らげると、レジーナは立ち上がった。どう答えればいいのか分からず、彼が食事をしている間の沈黙は、耐え難いほど居心地が悪かった。
 とりあえず皿を下げさせるために給仕を呼ぶのだ。やっとやることができて、内心安堵した。
 彼女は扉を開けて、隣に控えている給仕を呼び、前菜の皿を下げさせた。若い給仕は、二人の間に重く落ちた沈黙に気づいているのか、おどおどと落ち着かない様子で皿を取り上げる。
「主菜は一人分でいいわ」
 下がろうとする給仕に、重い声でレジーナは囁いた。これ以上、ここにいても仕方がない。食欲は全く無かった。
「なんだ、前菜だけでいいのか?」
 頷いた給仕が退出すると、背後から椅子に座ったままのグレンが声をかけてきた。先ほど、食事をしたら出ていけと吐き捨てた時と比べれば、表情も声音も幾分温かみが戻っている。それでも友好的という態度にはほど遠く、顔には笑みの欠片も見えなかった。
「食欲が無いのよ。これ以上はいらない。……シェリルの具合が悪いなら、彼女の様子も見たいし、失礼するわ」
 向き直ったレジーナは、軽く目を伏せる。それを挨拶に食堂を出ようとしたが、グレンが再び小さな笑いとともに口を開いた。
「今、シェリルの部屋に行くのはやめとけよ。寝てるみたいだ。医療に詳しい俺の部下をつけてるから、ほっといてやれ」
「顔を見るだけよ」
 そっけなく言い捨てて部屋を出ようとすると、グレンが椅子から立ち上がった。振り向く前に腕を取られる。不覚にも彼女はびくりと肩を震わせた。それを目にしたグレンは、薄笑いを浮かべながら言った。
「鈍いな、お前も。二人で部屋でよろしくやってるかもしれないだろ。今はほっとけって」
「ちょっと!」再び怒りが沸き上がり、レジーナは彼の腕を鋭く振りほどいた。「冗談でもそんなこと言わないで。これ以上、あたしの侍女を侮辱するのは許さない」
「は? 許さない?」
 眉を寄せたグレンの笑みが歪んだ。
 嫌な表情だと思った途端、グレンはレジーナの襟元を両手で掴んだ。上体が僅かに持ち上げられて喉が苦しい。彼はそのまま彼女の体を強引に引き寄せ、テーブルの上に雑に押し倒した。頭と背中に痛みが走る。   
「何するの!」
 先日と同じく、真上にあるグレンの顔を睨みながら、レジーナは噛みつくように怒鳴った。だが彼の表情には、以前にそこに見えたような、欲望と僅かな親愛の情も見えなかった。無関心に近い、乾いて冷たい視線が降ってくるだけだ。
「お前、実はバカなんじゃないの? 何度も同じこと繰り返しやがって。さっきの俺の話も聞いてなかったのかよ。口のきき方にも少しは気をつけろ」
 酷薄な瞳に見据えられ、彼女は一瞬、息を呑んだ。

 服の襟元を思い切り引っ張られる。留めていた紐と布地が引きちぎられた。
「やめてよ!」
 仰天したレジーナは、さらに大きく服を引き裂こうとしているグレンの両腕を掴んだ。引き離そうと渾身の力を込めるが、全く動かせない。再び甲高い音が響き、彼女の服は臍の辺りまで大きく破られた。レジーナは、手袋をしていない男の手首に思い切り爪を立てたが、彼は眉ひとつ動かさなかった。
「なによ、もう私を抱かないんじゃなかったの?」
 レジーナは足を上げ、グレンの胴を蹴り飛ばそうとしたが、彼は自分の脚と胴を使って、レジーナの脚をテーブルの上へと押さえつける。
「その通りだよ。俺はもうお前みたいな傲慢な女とはやる気がない。あとはせいぜい、女日照りの士官どもの役に立ってくれ」
 氷のような視線と共にそう言われた時、すぐに意味は分からなかったが、レジーナの背筋はぞっと冷えた。
 考える間もなく、さらに服を裂かれる。布地が裂ける哀れな音は、初めて寝室でグレンに抱かれた時の記憶を掘り起こした。初めて彼に、束の間とはいえ完全に屈服した夜。
「やめて……やめろ!」
 叫びながらレジーナは手足を振り回そうとしたが、膝をついてテーブルに乗り上がったグレンに、四肢を押さえ込まれてしまう。彼はいつもの好色そうな薄笑いすら浮かべておらず、乾いた表情で淡々とレジーナの動きを封じつつ、彼女の服を引き裂きながら乱暴に剥ぎ取った。
 抱え込まれるようにして、胴着も背中から破られ、脱がされるというより、引き剥がれてしまう。その間、レジーナはグレンの脇腹に何度も膝蹴りを入れたが、彼は顔をしかめもしなかった。
 胴着も剥ぎ取られると、乳房がむきだしになる。
「くそ、離せ! どいてよ!」
 グレンに対して、今まで感じたことのない恐怖に捕らわれ、レジーナは罵声を上げながら彼を押し退けようとしたが、四肢を封じられて胴体の重みで体を押さえられると、どうしようもない。素肌の上に、彼の体の重さを感じる。彼女の豊かな乳房は、その間で無力に艶かしく潰れた。
 グレンは時折舌打ちを漏らす以外は、ひとことも喋らない。それがひどく不気味だった。
 腰の横に固い掌が触れる。そこにあった下着の紐をグレンは力任せに引いた。脚の間や反対側の腰に強烈な摩擦が走り、引きちぎられるように下着が取り払われた。
 テーブルの上でグレンにのしかかられたまま、全裸にされてしまった。起き上がって、彼の腕を振りほどこうとするレジーナの動きを封じるように、グレンは両腕で彼女を抱え込んだ。男の体温が急速に近づく。額にグレンの顎が触れた。僅かに伸びかけた、ざらざらとした髭が当たる。
「おい、給仕!」 
 男の大声がすぐそばで聞こえ、レジーナの耳を打った。鳩尾の奥が萎縮する。
 彼はテーブルの上で裸のレジーナを抱えたまま、何度か給仕を呼んだ。廊下からあわてふためく足音が聞こえる。レジーナは蒼ざめた。
「やめてよ」
 給仕にこの状態を見られるなんて耐えられない。レジーナはグレンを黙らせようとしたが、がっちりと腕を抱え込まれて、動かすこともできなかった。
 ほどなく扉の外から、失礼しますという少年の声が聞こえた。
「さっさと入れ」
「入ってこないで!」
 二人は同時に叫んだ。扉の外から、困惑する気配が伝わってくる。
「早く入れ!」
 次の言葉は、動揺するレジーナよりグレンの方が早かった。扉が静かに開くと、給仕の少年が恐る恐る顔を見せた。
 彼はテーブルの上の二人を目に留めて、ぎょっと目を見張る。食事をするべき食卓の上で、副伯夫人が全裸のまま司令官に抱きすくめられ、のしかかられているのだ。
 罵声を上げながら腕を振りほどこうとする副伯夫人を押さえ込みつつ、司令官は平然と給仕に告げた。
「おい、今すぐ大食堂に行って、メシ食ってる俺のとこの士官を全員ここに連れてこい。俺が呼んでいると言えばいい」
 給仕の少年は、それを聞くとやはり蒼白になり、思わず夫人の顔を見た。
「やめて! 呼ばないで!」
 レジーナは頭をねじって給仕を見つめ、必死で叫んだ。
 助けを呼んで。
 そう言いたかったが、この城で一体誰が助けになるのだろう。執事か、侍女たちか。誰が駆けつけたところで、レジーナからグレンを引き離そうとすれば、グレンが何をするかは分からない。
 ただひとり、この世で彼女の助けになる人間は、遠い異国にいる。ここにはいない。それはこの時間に限って言えば、存在しないのと同じだとグレンに言われたことがあった。
「早くしろ。奥方様がどうなってもいいのか」
 グレンの低い声が獰猛に響いた。給仕は泣きそうな顔になりながら、グレンとレジーナの顔を何度も見比べている。
「さっさと行け!」
 もう一度グレンの怒鳴り声が轟く。少年は体を大きく震わせると、踵を返して逃げるように扉を閉め、部屋を出ていった。

 屈辱と動揺、恐怖で頭がぐちゃぐちゃだ。給仕の少年はどこへ行ったのだろう。グレンの命令通り、士官たちを呼びに行ったのだろうか。それともレジーナを助ける為に、執事を呼びに行ったのだろうか。
 士官たちが来てはたまらないが、執事がやってくることも恐怖だった。グレンは間違いなく苛立っている。執事と少年給仕が止めに入ろうとすれば、グレンは彼らを本当に切り殺しかねない。いつだったか、やはりこの食堂から全裸のまま、廊下に引きずり出されたことがあった。あの時も、邪魔する人間がいれば叩き斬るだけだと、彼は淡々と言った。
「そうだ、そうやって少しおとなしくしてろ。今に士官たちがこぞってお前を可愛がってくれる」
 混乱したレジーナが動きを緩めたのを見て、グレンは無表情のまま言った。嘲笑すら浮かんでいない。
「やめてよ、冗談じゃない」怯えを見せないように、腹に力を込めながら答える。「何する気なの」
「俺にとっちゃ、お前はもうどうでもいい。いくら美人だろうが、お高く止まって、思い通りにならないことにはガーガー怒ることしか知らない女なんかに、用はねえよ。あとは、せいぜい士官たちを慰めてやれ。あいつらは約束通り、領民や城内の女に手を出してないんだ。さぞかし女に飢えてるだろうからな。副伯夫人とヤれるなら、連中には何よりの褒美だ」
 怒りも嘲りも匂わせない、低い声の不気味な響きは、レジーナの背筋を冷やした。微かに耳鳴りがする気がする。
「なによ、女日照りなんて言ったって、娼婦を連れてるじゃない」
 もう怒鳴り声が出ない。レジーナはグレンの瞳を睨みながら、やっとのことで声を出した。
「娼婦は兵隊用だ。病気が広まると怖いんで、士官はあまり娼婦とは寝ないんだよ。下っ端が娼婦と寝てるそばで、隊長である士官たちは、ここの侍女たちを毎日目にしながら、手も出せないんだ。相当溜まってるだろうよ。お前が侍女たち全員に代わって、士官どもを慰めてやれ。それで可愛い侍女たちを守れるんだ。本望だろ?」
 体が震え始めた。先ほどのように、体中を駆け巡る熱い怒りによってではない。屈辱を伴う恐怖のためだった。
 士官たちの多くは、見たところ物腰は丁寧で紳士的に見える。しかし彼らも戦を生業にしている男たちだ。それは傭兵と変わらない。戦場に出た男たちがどんなに荒れるかは、レジーナもよく見てきた。グレンの行っていることは暴虐に他ならないが、果たして士官たちが自分の主を諌めるほど、道徳的で善良な男たちだろうか。
 不安から恐慌し始めたレジーナに、グレンは続けて言った。
「ニコラスなんかは喜ぶだろうな。まず初めに、あいつにやらせてやれよ。俺はやらずに見てる。剣の稽古や決闘なんかより、よっぽど面白い余興だぜ」
 瞬時に頭に血が上った。入城当初からレジーナに親切だった青年士官のことを思い浮かべる。一瞬だけ、今自分を抱きすくめているのが、彼であるかのような錯覚に捕われた。
 以前グレンは、そのニコラスにも指一本触れさせるなと言っていたのに、レジーナを士官全員の餌食にしようとしているのだろうか。
 普段温厚な仮面を被っている士官たちが、男の本性を剥き出して、複数でレジーナを押さえ込み、一人ずつ彼女にのしかかってくるのだ。一番最初にレジーナに覆いかぶさるのは、いつも彼女に熱っぽい視線を向けてくる、金髪の青年。
 いや、そんなはずない。ニコラスが本当にレジーナを愛してくれているなら、そんなことを喜ぶはずがない。レジーナが輪姦されるのを楽しむはずがない。
「そんなこと、許されると思ってるの?」
 レジーナは震える声を絞り出した。気力を精一杯張って、グレンの目を見つめる。彼の瞳は冷たく彼女の視線を受け止めていた。
「この城で、私を集団で乱暴するなんて、鬼畜のすることよ」
「だから何? 許されないって、誰にだよ。神様か? 他にいねえもんなあ。無力な人間が、自分の無念を解消するために生んだ神に、お前も縋ってるわけか。落ちぶれたもんだな。プライドばっか高くて、実際には何もできない女に成り下がってるんじゃねえか」
 褐色の瞳に、憐れみと軽蔑が見えた。そんなことは、彼に言われなくても分かっている。夫が背負っていたものまで全て抱えられるほど、レジーナは有能でも頑丈でもない。
「無能のくせに威張り散らしてるんじゃねえよ。いっぺん、男にまわされて、くだらねえ自尊心を粉みじんにされてみろ」
 あまりにも失礼で容赦の無い侮辱に、頭がくらくらした。視界が遠のく気がする。
「なに勝手なこと言ってるの。離してよ」
「そうやって、何でもかんでも声高に命令してりゃ、相手が従うと思ってんのか。やっぱりバカだな。──言っとくけど、士官どもが善意を発揮して俺を止めることなんかないぞ。今までの戦では、奴らも負けた国の貴族の女なんかは、ありがたくいただいたんだからな。この城だけは、特に気を配ってやってたんだ」
 その時、レジーナの耳は廊下を歩いてくる複数の足音を捉えた。 

 五人や六人ではない。ぞろぞろと続く足音と、男たちの微かな話し声。給仕はやはり、執事ではなく士官を呼んできたのだ。
 ひどい。私ではなく、グレンの命令を優先させるなんて。
 失望のあまり、初めて涙が出そうになった。この城のためには仕方ないことかもしれない。誰を呼ぼうと、レジーナの助けにはならないのだ。冷静に考えれば、若い給仕の判断は間違っていないのだろうが、裏切られたような気がした。
「ほら、来た。──起きろ」
「いやだ!」
 抱え起こそうとするグレンを必死に押しのけ、腕を振りほどこうとしたが、再び両腕を捕まえられてしまった。彼はレジーナの腕を背中に回し、彼女の両手首を片手でまとめてがっちりと握る。男の大きな分厚い掌と指が、太縄のように手首に食い込んだ。ぎりぎりと締め付けられ、骨が悲鳴を上げる。
 グレンはテーブルから身軽に下りると、レジーナの手首と腰を抱えて床に下ろした。裸足の足の裏に、板張りの床の冷たい感触があった。
「やめて!」
「早く来い。奴らを迎えに出てやれ」
 足を突っ張り、重心を落として動くまいとするレジーナをグレンは強引に引き寄せた。背中で彼女の両手首を捕えながら、彼は自分の体の前にレジーナを押しやる。
 全裸のまま彼女は扉の前に立った。もう片方の手でレジーナの胴を抱え、グレンは背後から囁いた。
「お前、ほんとにいい体だよな。俺が独り占めしてるんじゃ勿体ないよ。連中もお前のでかい乳と綺麗な脚を見たら驚くぞ。むしゃぶりついてくるだろうな」
 顔にさらに血が上った。想像するだけで、耐えられない屈辱と羞恥だった。そしてその後、男たちが何人もレジーナに触れ、体の中まで弄って入り込んでくるのだ。
「やめて……」
 脚が震える。腰から力が抜けて、へたりこみそうになったが、グレンの右腕にしっかりと抱え直された。
「やめねえよ。お前に命令されるいわれはない」
 グレンの声が近づいた。低い声が耳の奥に届く。頭の横に彼の顔が押し付けられた。背後からレジーナの顔を覗き込もうとしているのだろう。
「お願い、やめて」
 顔をそむけながら、レジーナは弱々しく呟いた。廊下に響いていた足音が、レジーナのすぐ目の前にある扉の向こうで、ばらばらと止まる。
 今、扉が開いたら。
 恐慌がわっと押し寄せ、腕に鳥肌が立った。
「グレン様、お呼びでしょうか」
 扉の向こうから若々しい声が聞こえる。ニコラスだ。
「待って、やめて。お願い」
 レジーナはグレンを振り仰ぎ、喉の奥から哀願するような声を上げた。助けを請うことができるのは、災いとなった張本人しかいない。ひどく屈辱で自分が哀れだった。見上げた忌々しいグレンの顔が、何故か眩しい。目の奥が熱くなり、視界が大きく歪んだ。めまいがしそうだった。
 グレンは無表情にレジーナを見返し、黙って彼女を抱えたまま扉に歩み寄る。レジーナがつんのめるようにして扉に向かって押されると、彼の冷たい声が響いた。
「いいぞ、入れ」

 ニコラスが扉を開けると、こちらに背を向けた長身の司令官の姿が見えた。
 何をしているのかと彼は思ったが、どうやらグレンは誰かを抱きかかえているらしい。グレンの体が邪魔になって相手は見えないが、恐らく女だろうとニコラスは思った。 
 グレンが首だけ振り向き、口を開いた。
「悪いな。副伯夫人が、お前らに話したいことがあるって言うんで、ちょっと来てもらったんだけど、酒を飲みすぎたみたいで、急に体調が悪くなったようだ」
 ニコラスは思わず踵を上げて、グレンの向こうにいる女を覗き込んだ。司令官の肩ごしに、蜜色の髪が見える。
「レジーナ様、ご気分がすぐれないのでしょうか?」
 ニコラスが声をかけると、やや間があって、レジーナの頼りない声が聞こえた。
「少しお酒に酔ったみたいですので……」
「薬をお持ちしましょうか?」
 自分の後ろから室内を覗き込もうとする他の士官たちを制し、ニコラスは尋ねた。
「いいえ……。酔っただけですので、少し休めば大丈夫です」
 レジーナは顔を覗かせず、グレンの体の向こうから声だけが響いた。彼女にしては珍しく、ひどく弱々しい。
「そういうわけで、話はまた今度だそうだ。呼び立てて悪かったな。食堂に戻って、メシを続けてくれ」
 グレンはやはり背を向けたまま、首だけ振り向けてそう言うと、後ろ足に扉を蹴った。ニコラスたちの目の前で乱暴に扉が閉まる。
「何だったんだ?」
 ニコラスの後ろで、士官の一人が呟いた。別の男がさあ、と答える。
「何にしても用は終わったらしい。食堂へ戻るぞ」
 ニコラスも思わず溜め息を吐き、他の士官たちに食堂に戻るように促した。
 どうやらまた司令官のだしに使われたらしい。背を向けたグレンの脚の隙間から、その向こうにいるはずのレジーナの素肌の脚が覗けたのだ。司令官は副伯夫人には既に飽きたものと思っていたが、まだああしてたまに遊んでいるようだ。
 軍の司令官であるグレンと、城の留守を預かるレジーナが仲が良いのはいいことだ。今後の占領も楽になる。だが、夫が不在中にああしてグレンに肉体を玩ばれて、夫人は無心でいられるだろうか。夫は夫、愛人は愛人と、器用に使い分けられる女性には見えない。もし彼女がグレンに夢中になるようなことがあれば、事態は少々やっかいだ。ニコラスの上官は、女の扱いが下手ではないが、後始末が雑なのだ。だから、何人もの女を始末しなければならない羽目になる。
 美貌の副伯夫人をニコラスは哀れんだ。彼女は賢明であり、美しく、人望もある。だからこそ、この状態は苦しいだろう。いっそ何も分からないような白痴であれば、レジーナも苦しまずに済んだのかもしれない。グレンに喜んで屈し、領地も領民も大公に差し出せば、それで終わりだ。大公は決して暴君ではない。君主が変わったところで、領民の生活は大きくは変わらないのだ。
 しかしもちろん、副伯夫人がそんなに愚か──あるいは、聡明でありすぎたなら、ニコラスの興味は引かなかっただろうが。

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