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魔女とコヨーテ」
第三話 道連れ

第三話: 道連れ 6

2009.05.04  *Edit 

 権力など気にも留めない、自由な踊り子に見えるマルタでも、さすがに領主である男爵の前で踊るとなると、それなりに気合が入るらしい。明日の夜に備えて、今夜は早めに切り上げると言い出した。
 シェリルたちも、そして彼女の楽団の男たちもそれに賛成した。長旅で疲れていて、少しゆっくり眠りたいという気持ちも、皆同じだったようだ。
 夕食の席で三曲ほど踊っただけで、彼女たちは軽く夕食を済ませ、すぐに寝室に向かった。
 マルタは当然のように、就寝の挨拶と共に笑顔で手を振りながら、ユージンと手を繋いで男性の部屋に入っていった。マライアはそんな踊り子の奔放さに驚き、シェリルに向かって「信じられない」と唇だけで語ってみせた。シェリルは苦笑いを返す。一番最後に男たちの部屋に入ろうとしたイーミルも、彼女たちに向かって肩を竦めてみせた。
「俺、やっぱりもう少し飲んでるね」
 彼は先に部屋の中に入ったスタンリーたちに向かってそう言うと、扉を後ろ手で閉めた。
 既にこれは打ち合わせ済みのことだ。彼の今の台詞は、スタンリーたちにではなく、実際にはマルタたちに向かって告げたことになる。今夜も彼は宿を抜け、夜明けまで村を見回ることになっている。
「今日は城の方に行ってくるよ」
「気をつけて。ね、これ持っていって」
 マライアは、いつも首から服の下に下げている聖印を外すと、イーミルの手に握らせた。あまり信心深い方ではないイーミルは微妙な表情だが、彼女は強引にそれを彼の首から下げさせた。
「嫌な予感がするのよ。気休めだと思って持っていって。危ないと思ったら、すぐに戻ってきてよ」
 マライアが念を押すまでもなく、イーミルは臆病なほど慎重だ。彼は彼女を安心させるように微笑む。
「大丈夫だよ。気をつける。やべえと思ったら、言われなくても逃げ帰ってくるから」
 そう言うと、イーミルの小柄な姿は階段を下り、昨夜と同じようにその下の窓から姿を消した。
 マライアが小さく祈りの言葉を呟くのが聞こえた。


 昨夜にまして寝苦しい夜だった。
 この宿もまた空気入れの為のごく小さな窓しかなく、風はほとんど入ってこない。マライアしかいないので、下着姿で寝転がったシェリルだが、汗が滴る程に蒸し暑かった。背中まで伸ばした豊かな髪が、顔や肌に張り付いて不愉快この上ない。隣のマライアがこの暑さでぐっすり眠っているのが不思議だった。眠る直前までイーミルを心配していたようだが、眠りに落ちたが最後、鼾までかいて熟睡している。
 いくつか眠るために試行錯誤した後、ついにシェリルは起き上がった。どうにも眠れない。どうせ勝負は明日の夜なのだ。その為には明日の昼に眠る方がいいかもしれない。だったら今夜は眠くなるまで起きていよう。
 一人で領主の城を見張りに行ったイーミルに付き合うことにして、服を着た。マライアの心配性はいつものことだが、確かにイーミル一人では気がかりだ。何も無いとは思うが、万一何か起きた時に一人では心もとないだろう。
 念の為、短剣をベルトに括りつける。長靴を履こうとして思い直し、昼間露天で買ったサンダルを履いた。旅には耐えられないが、町中を歩くならこれで十分だ。大分足元が涼しい。
 扉を開け、廊下に出る。軋む階段を、できるだけ音を立てないように下った。
 時刻は真夜中過ぎだ。昨日のこの時間は、まだ酒場が賑わっていたが、マルタが寝室に引っ込んでしまった今夜は、客も早く床に就いたようだ。食堂の明かりは消え、建物の中は静まり返っていた。
 暗い廊下を手探りで歩き、入り口の扉の閂を外す。開け放して無用心になるのは申し訳ないが、イーミルのように身軽に窓から出ることは、シェリルには難しかった。
 建物の外に出ると、ふわりとした生ぬるい風に包まれる。暑いことには変わりないが、空気が動くだけで、湿気がかなり違うように感じられた。
 風に散らされた髪をまとめながら、涼しげな水音に惹かれるように、シェリルはすぐそこの広場の噴水に近づいた。夜になっても噴水からは休みなく水が溢れている。
 潤んだ半月が照らす恋人たちの彫像は、何故か不気味に見えた。見事な作りの彫刻は、動き出しそうな気すらする。彼らが持つ水瓶から流れ出す水に触れると、昼間とは違ってひんやりと冷たかった。月の光は太陽と異なり、この地上の物を温めることができない。
 空を見上げる。じっとりとした空気の為、澄んでいるとは言いがたかったが、それでも夏の夜空には無数の星が瞬いていた。それが幾千もの瞳に見える。

「散歩?」
 背後で突然聞こえた声に、ぎょっとして振り返る。
 近づいてくるのはユージンだった。服の上に薄手の日よけ用の外套を羽織っている。驚きを飲み下し、短剣に伸ばしかけた手を下ろす。
「暑くて眠れないから」
 こっそり息をつき、軽く微笑んで見せた。
 今日一日、仕事のことばかり考えていた。村で起きている出来事、領主の動き、閉ざされた教会。いくつもの可能性を検討し、考察した。そうして思考を繰り返し始めると彼女は夢中になってしまう。
 おかげかどうかは分からないが、マルタとユージンに関して抱いていた複雑な嫉妬は掻き消えていた。
 今やシェリルにとって、ユージンは踊り子の恋人以外の何者でもない。赤毛の吟遊詩人と、かつて彼女が恋した貴公子を結びつけるものはもはや皆無だった。
 しかし彼に宿を抜け出したところを見られたのは、あまり都合が良くない。
「ほんとに暑いね。あんな大部屋じゃ眠れやしないよ」
 言いながらユージンは、噴水の縁に腰を下ろした。
 シェリルとマライアしかいない女性部屋と違って、男性部屋にはスタンリーたちの他にも、別の泊り客もいる。集まった人間の体温だけでも暑いだろう。
「そうだね。──少しぶらついてくる」
 吟遊詩人の言葉に頷きながら、シェリルは踵を返す。さりげなく村を散歩する振りをしながら、城に向かうことにした。 
「どこ行くの?」
 珍しく好奇心を出したユージンに、舌打ちしたくなった。行き先に興味を持たれても、ついてこられても困る。仕方なくもう一度振り向いた。   
「ちょっとその辺を散歩して回るだけ。このままじゃ眠れないから。宿に戻るなら、入り口は開けておいて」
「散歩なら僕も付き合うよ」
(来んなよ……)
 心の声はおくびにも表に出さず、舌打ちを堪えて精一杯の愛想笑いを浮かべた。
「ごめんなさい。考え事したいから、一人で歩きたいの」
「二人で歩いてても考え事はできるでしょ」
 ユージンは笑顔で立ち上がる。
 何故そこまで食い下がってくるのだろう。今までほとんどシェリルの存在を無視していたというのに。
 苛立ちと共に、警戒が湧き起こる。
 春の時のように、こちらの仕事が既に相手──領主に露見していて、コヨーテは自分たちを邪魔する為に雇われていたとしたら。
 だが、すぐに思考の飛躍だと思い至った。マルタたちと同行することになったのは、本当に偶然だ。万一、コヨーテがここの領主に、シェリルたちに対抗する為に雇われたのだとしたら、吟遊詩人などに扮装するよりも、村で待ち受ける方が余程確実だ。
 何よりそれはほぼありえない話だ。前回と違い、今回の雇い主はごく小さな領地を持つ一騎士である。誰も彼が雇った冒険者のことなど気にもとめないだろう。
「悪いけど」愛想笑いを引っ込めて口を開く。「一人になりたいんだ。ついてこないでくれる?」
「抜け出した仲間とどこかで落ち合うから?」
 シェリルの表情につられるように、ユージンの笑顔にも皮肉が混ざった。
 そうか。この時間に起きて部屋から出た時に、イーミルがまだ戻っていないことに気づいたのだろう。
 知らず眉根が寄る。何か彼はこの村での出来事に関わっているのだろうか。それなら油断できないし、そうでないなら首を突っ込み過ぎだ。
 一瞬考え、とぼけることにした。
「何? 抜け出した仲間って」
「あれ、気づいてないの? もう一杯飲むって言ってた、君のとこの笛吹き、まだ部屋に戻ってなかったよ」
 飄々と言い放つユージンの心づもりは、どうにも読みづらい。せめてこちらの心を読ませないように、シェリルは呆れたように溜め息をついてみせた。
「また? あいつ、どこほっつき歩いてるんだろ。散歩のついでに捜してくる」
 彼が本当にコヨーテだとしたら、簡単な嘘などすぐに見破ってしまうだろう。内心ひやひやしながら、再び彼女は歩き出そうとした。
 ユージンも歩み寄ってくる。我慢できずに舌打ちを漏らし、彼を睨みつけた。
「ねえ、ユージン。何度も言うけど、ついてこないで欲しいの」
「何で? あの笛吹きを捜すなら一緒に行くよ。それとも何かやましいことでもあるの?」
 この時点で苛立ちはほぼ頂点に達した。
 昨日まで、シェリルが何度目で追いかけても無視していたというのに、肝心の仕事の部分で邪魔をしてくるのが実にうっとうしい。
 苦笑いに近い冷笑を浮かべて、ユージンに言った。
「真夜中に、彼女がいる男の人と二人で散歩する趣味は無いから」
 ユージンは一瞬驚いたような表情を見せた後、苦笑する。
「……あのさ、何か誤解してない? マルタとはそういう関係じゃないんだけど」
「ひどいね。あんなに仲良さそうなのに」
 半分本気で、マルタの為に腹が立った。あれだけ彼女に無邪気に慕われていて、よくもぬけぬけと言えるものだ。
 シェリルの声色にこもった小さな怒りに気づかず、ユージンはまだ顔を緩めている。
「あれはあの子が勝手にくっついてきてるだけだよ。彼女は僕を自分の恋人だと思い込んでるみたいだけど、僕にとってはマルタはただの綺麗な踊り子だよ」
 彼の厚顔無恥にも限界だ。黙っていようとしたことが、つい口をついて出た。
「へー。恋人とも思ってないのに、ちゃっかりやることだけやってるんだ。あたしには理解できないな」
 ユージンは虚をつかれたように表情を固めた。どうやら一昨日の夜と今朝、シェリルやイーミルが、大部屋でこっそりと交わる彼らに気づいていたとは思わなかったようだ。
「……見てたの?」
 片手で耳の後ろを撫でながら、ユージンは呟いた。さすがに少々気まずそうだ。
 言い放ったシェリル自身、一瞬彼を絶句させたのは小気味良かったが、彼らの睦み合いを聞いていたことを暴露したことになる。内心、同じくらい気まずかった。
「聞こえただけ。今度からは他でやって欲しいかな」
 平然と言ってやったが、顔に血が上るのを止められなかった。
「いやさ、まあ……」
 ユージンは口ごもり、少々後ずさって再び噴水の縁に腰を下ろした。
「何というか、君のお友達みたいに、バイタリティある方じゃないんで、女の子追っかける気力が無いんだよね。だから逆に女の子から誘われると断れなくてさ」
 何だ、その言い訳は。
 男の図々しさに、さらに怒りが膨れた。情事の責任を全て女に押し付ける気なのだろうか。
 しかしマルタに対する義憤の裏側で、美しい踊り子に対する優越感が少しずつ芽生えてくるのが分かる。宿で寝ているだろうマルタは、ユージンがこんな場所で、たかだか道中一緒になったタンバリン叩きの女に、こんな話をしているとは、思いもよらないだろう。
 そして同時に彼に対する期待が湧いてくるのが止められない。今までのところシェリルは、ユージンがコヨーテだとほぼ確信しながら、無視を決め込んできた彼に対する意地から、あくまで初対面の吟遊詩人として接していた。先にこの前の春や、去年の秋の話を持ち出して、彼にコヨーテとして話しかけるのは、何か負けた気がするのだ。
 ユージンの方もはっきりとは、シェリルと彼しか知らないような話を持ち出してこない。二人の会話は、目に見えない大きな綿でも間に挟んでいるような、不思議な気安さと緊張感を孕んでいた。
 ただ、普段は見た目によらず、どこか粗っぽいユージンの口調が、気のせいか幾分柔らかいような気がする。それは彼女が知るコヨーテの話し方と同じだった。

「何、それ。寄ってくる女なら誰でもいいの」
 少しずつ早くなる鼓動を抑えるように、息を吐きながら口に出すと、思いがけず吐き捨てるような強い口調になった。
「誰でもってわけじゃないけど……。でもそうそう女の子に好かれることって無いし、しかもあんな美人が相手だったら勿体なくて断れないでしょ。君だってそうじゃない?」ユージンは薄笑いを交えて続けた。「僕を公子だと思ってた時は、やけに隙だらけで、さっさと体許しちゃったよね。似たようなもんじゃん」
 小馬鹿にするような彼の視線にかちんと来た。
 しかしそれが怒りに育つより早く、心の中で何かがほろりと剥がれ落ちる。今の彼は、流れの吟遊詩人としてではなく、コヨーテとしてシェリルと話していたのだ。
 肩から力が抜けた。
 一体何をそんなに意地になっていたのだろう。彼にずっと無視されていたのがそんなに悔しかったのか。繊細な自尊心を必死で守ろうとしていた自分が少し悲しくなった。自分を守るのに精一杯で、だからいつも欲しい物にも素直に手を伸ばせず、惚れ込んだ男たちにも好かれない。
「……何の用でそんな格好してるの?」
 コヨーテの言葉には答えず、彼女は全く違う質問をした。それはずっと訊きたかったことだった。彼は肩を竦め、憮然と答える。
「特に何の用も無いよ。──『コヨーテ』を名乗ってたあいつが相当引っ掻き回してくれたから、当分はでかい仕事はしないで、おとなしくしてようと思ってるんだ。まあ吟遊詩人としてやっていけそうだったら、それで食っていってもいいしね」
 あっけらかんとコヨーテは言った。
 彼も恐らくシェリルたちと近い、何でも屋なのだろうが、彼女たち冒険者と違い、どこか後ろ暗い仕事を特に請け負っているような印象があった。実際、シェリルが知る限り、彼が引き受けた仕事は誘拐と暗殺だ。シェリルたちなら、まず引き受けない類の仕事である。
 それから足を洗って吟遊詩人に鞍替えするなら、誰に取ってもいいことのような気がする。彼のリュートの腕も、同行している笛吹きや太鼓叩きと比べれば劣るものの、スタンリーと同じくらいには上手い。
 一度、彼の歌と独奏を聞いてみたいと思った。あのマルタが惚れ込んだ程だ。一体どんな歌をその唇から紡ぎ、どんな旋律をその指で奏でたのだろう。
 リュートの弦を弾く為か、爪を短く切った指先に目を移すと、そこから視線を逸らせなくなる。シェリルの手を取り、髪や頬を撫で、素肌に触れた指だ。元々色白なのか、日に焼けたシェリルの手より白く、しなやかで長い指は、彼女の体の中に潜り込んだことさえある。
 けれど、それが触れたのは自分だけではない。マルタをはじめ、他に何人もの女を同じく熱くさせたはずだ。
 胸の奥を灰色に疼かせて、シェリルは口を開いた。
「それでマルタを引っ掛けたんだ。彼女と一緒なら、どこ行っても食べていけそうだもんね」
「引っ掛けたって……」彼は顔をしかめた。「まあ、目立つし上手な踊り子だから、一緒に組めたら楽だとは思ったよ。でもあんな美人が僕なんかに惚れるとは思わなかった」
「美人って大抵ダメ男に惚れるもんだからね」
「……。ダメ男って……。ほんと口悪いね、あんた。まあ、否定はできないけどさ」
 呆れた口調ながら、彼の口元は穏やかに微笑んでいた。彼が貴公子に扮していた頃は、この微笑みを見る度、彼女の心は浮き立ち、うっすら熱を持って溶けていったものだ。
 だが今は、その笑みがどれほどの間マルタに向けられたのだろうと思うと、切なさをかきたてるものでしかない。
 彼の微笑はすぐに苦笑いに変わった。
「でもね、そろそろ吟遊詩人演じるにも疲れてきたんだよね。マルタも可愛いんだけど、ああ見えて結構独占欲強いし。それに俺、あんまり人前でべたつかれるの好きじゃないんだよね」
 聞きながら、口元が緩みそうになるのを必死で引き締めた。
 それが彼の本心かどうかなんて分からない。彼がこうしてマルタに対する愚痴を、シェリルの前で並べ立てたからと言って、決してユージンが踊り子の元を離れて、シェリルの元に来ることにはならない。
 湧き上がってくる美しいマルタへの勝利感は錯覚だ。誰にも憎まれたくないだけの小狡い男に、いいように揺さぶられているだけだ。
「人前でべたつくのが嫌でも、皆寝てる大部屋でエッチするのは平気なんだ。ふーん」
 揺れる感情を押さえ込んで、はすっぱに言い返してやると、彼は目を閉じてこめかみに指を当てた。
「いやね、それはマルタの方から誘ってきたの。断れないタチなんだって」
 嘘をつくな。今朝はどうだか知らないが、一昨日の夜、シェリルが聞いていた時は、ユージンの方から彼女に手を出したのは間違いない。しかしそんな細部まで聞いていたことを話すのは、どうにも気恥ずかしかった。
 それに何も今矛盾を暴き立てることはない。

 動悸が静かに激しくなる。
 噴水の水音が妙にうるさく聞こえた。少しの間水瓶から流れ出る清水を眺めていたシェリルは、コヨーテに視線を戻した。噴水の縁に座ったまま、こちらを見上げている彼と目が合う。
「誘われると断れないんじゃ、体がいくつあっても足りないね」
 話しながら視線を合わせているつもりだったが、やはりつい目がそれた。
「だーかーらー、誰でもウェルカムって訳じゃないよ」
 コヨーテは腕と足を組み、体を前屈みに軽く丸めると、再び首だけをあげてシェリルを見た。
 視線が絡まると、次の言葉が出てこない。
 ただ鼓動だけが高鳴る。でもどんなに体の中を高ぶらせたところで、彼には伝わらない。言葉にして、声に出さなければ。けれど胸の奥まで苦しい程に溢れ、締め付けてくるものが何なのか、よく分からなかった。
 思いあぐねていると、先に彼が相好を崩して口を開いた。
「もちろん、君ならいいよ。せっかく会えたんだし、もう一度しよっか?」
 シェリルの瞳から彼女の願いを読み取ってしまう彼の聡さに、感謝し、感心し、そして屈服した。
 誘われれば女を抱くなら、私もそうして欲しい。
 その気持ちはシェリルの中で形を成すより、コヨーテが掬い取る方が早かった。  

「……と思ったんだけどねえ」
 無表情を装いながら、恐らく無意識に微かに瞳を輝かせるシェリルを見ると、彼はもう少し彼女を焦らしたくなった。
「場所が無いよね。部屋って訳にもいかないし」
 シェリルは黙って彼を見つめた。徐々に頭に熱が上ってくると、ものを考える頭の働きはこうして鈍くなる。
 そんな彼女を面白そうにいっとき見つめ返し、コヨーテは言った。
「いっそここでやる? それならいいよ」
「え!?」
 全く思ってもみなかった彼の言葉に、さすがにシェリルも目を見開いた。
「ここって、この場所? だって広場のど真ん中じゃない……」
 広場に面して、宿をはじめ、いくつもの建物が建ち並んでいるのだ。冗談で言っているのだろうと思ったが、彼の目は並々ならぬ興味を湛えていた。
「だって他に無いじゃん。大丈夫だよ。どの窓も鎧戸が閉まってるし。この噴水と像が陰になるから平気だよ。小さい路地とか行く方が、よっぽど聞こえやすいんじゃない? 君、声大きいし」
「でも他に……どこか……」
 コヨーテの最後の台詞に赤面しながらも、シェリルはうろたえて辺りを意味も無く見回した。実際のところ、とても他の場所など考える余裕は無かった。
「無いよ。ぱっと思いつかないもん。場所探してウロウロした挙句に、やる気無くして盛り下がるくらいなら、今ここでしようよ」
 座ったまま、彼は立ってるシェリルの手を掴んだ。その温かい体温を感じると、もう何も考えられなくなる。
「……やだ?」
 下から覗き込む彼に向かい、シェリルはやっと首を振ってみせた。場所や時間なんか関係ない。ひとときでいいから、彼を独占したい。 

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こんばんは

えっと

いいです。

うーん

心の襞をそうように、人の心を描写していると思いますよ^^

ぐはっ

やられそうです。

仕事中に読まないように、気をつけます。

けっしてお気に入りには登録しませんよ^-^

RE: ulaxさん 

こんにちは。
お話、読んでいただいてありがとうございます♪
複雑な人たちを主人公にしてみたので、少しでも彼らの心理が文章に表れていれば幸いです。

…私も仕事中にネット小説に夢中になったりすることがあります^^;
気をつけていただいて、続きも目を通していただけると嬉しいです!
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