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ココナッツ図書館 夜間書庫

魔女とコヨーテ」
第五話 山の端に陽が沈むまでに

第五話: 山の端に陽が沈むまでに 9

2009.07.25  *Edit 

 月光の下で抱き締められるといつも、初めて彼に抱かれた夜のことを思い出す。炎を灯していない部屋の明かりは、月の光だけだ。
 その光を慈しんで閉じ込めるように瞳を閉じると、まぶたの上に柔らかい唇が触れた。唇よりも柔らかくて頼りない、まぶたへくちづけするのもされるのも、彼女は好きだった。
 寝台に腰掛け、小柄なシェリルを横抱きにするように膝の上で抱えた彼は、左腕で彼女の上半身を起こすように支え、右手でそっと髪を撫でた。何十回、何百回と繰り返されても、豊かな髪を撫でる優しい手つきには飽きない。
 右手が背中に滑ったと思うと、両手で抱き締められた。そっと。やがてきつく。
 彼女もコヨーテの背中に腕を回す。いつものように、押し付けられた情熱を返すように、力が及ぶ限り彼の体を抱き締める。
 しばらくそうやって抱き締め合っていると、理由の無い寂寥が溢れて何故か泣きたくなった。溜め息をついたシェリルを、コヨーテは静かに寝台に横たわらせた。
 上半身を起こして、靴の紐をほどこうとすると、彼の手が穏やかに彼女を押し返した。
「いいよ、僕がやるから。寝てて」
 ひねくれ者の彼女は、やるなと言われるとやりたくなる性質だった。相手がコヨーテの場合は特にだ。しかしこうして体を重ね合う為に頭が熱くなり始めている時は別で、何もかも彼の言う通りにして従いたくなる。
 服や下着はともかく、靴まで脱がせて貰うのは申し訳ないような気もしたが、彼にそう言われると、心にもやもやしたものを溜め込みつつも、結局言われるがまま、再び体を寝台に倒した。
 コヨーテが靴紐をほどいている間、することもなく横たわりながら、首だけ上げて彼の丁寧な動作を見つめる。まるで召使いとして傅かせているような気がした。
 彼は紐を解いた彼女の長靴を床に落とすと、手早く自分の靴も脱ぎ捨てる。彼が覆いかぶさると、月明かりが遮られて視界が暗くなった。陰った視界の中で彼の瞳を探す。視線が絡むと、彼は目元だけで穏やかに笑った。
 右手で頭を撫でられる。
 くちづけして欲しい。
 彼は形になる前の彼女の望みを素早く捉え、右手で頭を抱いたまま、彼女と唇を重ねた。
 温かい手は頬を撫で、唇は額、まぶた、鼻の頭、頬と顎、ところ構わずといった風に、何度も彼女の顔に降り注いだ。小さな子供や動物を可愛がるように、ついばむような口づけを繰り返されていると、自分もそういった無力であどけない存在になってしまったようだ。
 目を閉じて、コヨーテの無数のくちづけと、かりそめの無力感を味わう。こんなに何度も口づけされるのは、初めて抱かれた時以来かもしれない。
 愛した青年と生まれたままの姿で重なりながら、しかし決してこの青年の妻になることは無いと涙を流す彼女に、彼はあやすように何度も口づけをしてくれた。見知らぬ男の前で拭わずに涙を流したのも、あれが初めてだった。あの時彼は、彼女の涙の理由をどう思ったのだろう。 

 頬を撫でていた手が首筋に滑る。緩んでいた体に心地良い緊張が走った。
 指先が首の上で踊るように緩やかに動く。もどかしいような快感が静かに湧き出てくる。シェリルは目を閉じて眉を寄せ、喘ぎをこらえた。だが首から鎖骨の辺りを慈しむ手が徐々に力強くなってくるに従い、そこから流れてくる快楽が強くなってくる。
「あ……あっ……!」 
 頭を仰け反らせて溜め息が押し出される。
 コヨーテは彼女の声を塞ぐように口づけを落とし、舌をこじ入れてきた。息を弾ませながらそれを夢中で吸い込む。絡めた舌を逆に吸われると、まるで命を吸い出されそうな錯覚を覚えて、いつも軽い恐怖を感じる。それはすぐに快楽と混ざり合ってしまう。
 彼女の顔から離れた彼の唇は、今度は撫でている反対の首筋に吸い付いた。
「ああっ」
 首筋や耳の辺りに特に強く快楽を覚えるシェリルは、甲高い喘ぎを漏らして逃れるように首を反対に捻った。しかしそちらの首を指先で再び強く撫でられて、もう一度首を返す。手と口で挟むように首を愛撫され、一層切ない声をあげながら、頭を仰け反らせた。
 音がするほど強く首筋を吸われた後、彼の唇は静かに肌の上を滑り、耳に触れる。耳たぶに歯を立てられて、体が震えた。
 舌が耳の奥に入り込んでくる。
「あっ……はあっ……! あっ、あっ……」
 まるで脳髄か心臓を探られているような深い感触に、さらに喘ぐ。以前から耳を舐められるのは好きだったが、繰り返される度に、快感に慣れるどころか、増々感覚が鋭敏になり、感じる快楽も増してきた気がする。
「あああっ! ああう……!」
「こらこら、しーっ。隣にも客がいるんだから」
 まるで交合した時のように深い声をあげる彼女の耳で彼が囁く。彼女は頷きながら口を閉じたが、ぼんやり霞んできた頭で、彼の言葉に対して反射的に首を動かしたに過ぎなかった。
 鎖骨を撫でていた彼の手は、斜め下に滑り、脇の下に入り込む。その指先が奥に生えた硬めの体毛を探るように撫でる。以前はくすぐったかったその部分の愛撫も、今では疼くような甘い感覚を伝えてきた。

 コヨーテの手は下にゆっくりと滑り、脇に流れた彼女の豊満な乳房の横に軽く触れて、そのまま腰まで下がる。
 その手がベルトにかかると、あっという間に外された。シェリルが穿いている麻の旅装ズボンの紐も瞬く間に解かれる。
 彼女がズボンを脱がせる彼を手伝おうと、自分の服に手をかけると、また穏やかに振り払われた。
「いいから。今日は君はずっと寝転がってて」
 コヨーテは微笑むと、彼女の腰を抱えて服を滑らせる。
 いつも『君、お尻重いからズボン脱がすの大変』などと言われるので、最近は自分で脱ぐようにしていたのだが、今日は珍しい。
 ズボンを完全にシェリルの足から抜くと、彼女の脚を軽く開かせ、その間に膝をつく。
 彼女の脚を折り曲げて、彼は掴んだ足の甲に唇を押し付けた。柔らかい唇の隙間から、唾液に濡れた舌が滑り出て皮膚を撫でる。初めてそんな場所を舐められた戸惑いは、すぐに緩い快感に変わった。
 舌がすべる。
 ふくらはぎの横を通り、膝を舐め回された。
「ん……!」
 思いがけず強い感覚が昇りあがり、嬌声をこらえる為に唇を引き結ぶ。
 苦悶と見紛うような、快楽に満ちた少女の表情は、彼女の肌を味わいながら、反応を窺うように、時折その顔を見やる彼を楽しませた。
 しばらく膝を舐め、その部分の肌を軽く吸ったりした彼の唇は、再び内腿を滑り上がり始めた。
 広げた脚の間にいるコヨーテに向かって、下着しかつけていない股間を晒している。何度繰り返しても、これも恥ずかしかった。内腿を撫でる彼の舌が、徐々にそこに近づくと、知らずに腰に力が入り、太ももが緊張した。
 しかし彼は彼女の脚の付け根に触れる寸前で顔の動きを止める。今度は反対の足を取り、その甲にくちづけした。そして同じように脚に沿って舌を滑らせていく。
 深い溜め息を何度もついた。しかし彼の唇はやはり、脚の間に触れずに内腿から離れた。
 焦らされているみたいだ。そう思うと、脚の間のその奥の部分が熱くなってくる。自分の淫らさへの罪悪感と陶酔から、シェリルの体は小さくおののき、唇から喘ぎが漏れた。
 コヨーテの手が首元に伸び、彼女の服の襟紐をほどく。両手をあげさせられ、服を体から抜かれた。何から何まで彼にまかせっきりでいる。彼女は無力な子供で、彼は強靭で万能の保護者のようだともう一度思った。
 シェリルの儚げな視線を薄闇の中でしっかりと受け止めると、コヨーテは応えるように彼女の髪を撫で、彼女の着ている綿の肌着の紐を解いた。服と同じように腕を上げさせてそれを脱がせる。
 着ていた布が自分の顔を滑って覆う一瞬、完全に視界が塞がってしまうのは、少しばかり恐ろしかった。だが、その瞬間、無防備に腕を上げて脇の下や乳房を晒している恥ずかしさの方がより強く感じられる。
 服が顔から抜けるとほっとする。
 惚けたようなあどけない表情で、緩く腕を組んでさりげなく乳房を隠すシェリルに、彼は愛しそうにくちづけた。
「後ろ向いて」
 そう言いながら、コヨーテは彼女の体を反転させてうつ伏せにさせる。どうするのか僅かに訝りながらも、従順に彼に従った。
 肩までの長さの漆黒の髪をかき分け、首筋の後ろに温かいものが触れた。同時に吐息が微かに髪を揺るがす。濡れた舌が伸びて、肌を舐めた。
「はっ……」
 ぞくぞくするような感覚に、シェリルは大きく息を吐いて、首を反らせた。
 舌はそのまま背骨に沿って、ゆっくりと背中を滑り下りる。繊細な指先が、触れるか触れないかの微妙な動きで、肩甲骨を撫でた。
「あっ、あっ、あっ……!」
 次々と湧いてくる疼きに似た感覚に、何度も首を反らして喘ぐ。
 抱き締められて背中を撫でられることはよくあるが、こんなに丁寧に慈しまれたことはない。舌がゆっくりと動きながらも、彼の手は首や肩、脇腹を撫で続けた。
 その動きは緩く優しく、慈しみに満ちているのに、次にどこに触れられるか予測できない、その小さな不安が、少女の肉体を一層敏感にさせていた。

 掛け布に落ちる月明かりを見ていると、生まれて初めてその明かりの下で男を知ったことをまた思い出した。その時の相手の男が、うつ伏せに横たわる彼女に覆いかぶさり、指と舌で彼女をいとおしんでいるのが、信じられないような気がした。
『フィリス様……僕の妻、なんて可愛い……』
 他人の名前を呼ぶ彼の熱い囁きのいくつかは、耳に残って離れない。あれからもう何年も経っているのに。
 彼に会いたい。
 心に浮かんだ衝動に、衝撃を受けた。彼はいる。今彼女の体を優しく可愛がってくれている。その彼以外の誰に会いたいというのだろう。
 心を整理しきれない内、感情ばかり高ぶって、ついに瞳から涙が零れた。
 シェリルは身を起こして振り返り、急に動いた彼女に驚いた顔をしているコヨーテにしがみついた。
「……どうしたの?」
 彼女の小さな体を抱きとめた彼は、そっと背中を撫でてくれた。服を着たままの彼の肩に顔を埋めながら、首を振る。涙が幾筋も流れて止まらない。
 何がこんなに悲しいのだろう。どうしてこんなに淋しいのだろう。コヨーテに抱かれながら、こんな空虚な気持ちを覚えたのは初めてだ。
「シェリル、なんで泣いてるの?」
 気遣う涼しげな声も、髪を撫でる手つきも、あの貴公子と全く同じものだ。彼女が初めて知った男は、今抱き締められているこの男に間違いない。何度も何度も言い聞かせた。
「なんでもない……」
「泣かないで」
 嗚咽の混じった声で答えるシェリルを、彼は強く抱き締めた。いっそ声を上げて号泣したいような気持ちに駆られたが、彼女は首を振って声を飲み込んだ。
「……やめる?」
「違う。違うの。やめないで」
 涙を溢れさせながらシェリルは顔を上げ、コヨーテにくちづけた。彼の乾いた唇を押し広げ、強引に舌を差し入れる。彼はそれを受け入れて軽く吸い上げ、片手で彼女の頭を強く撫で回した。
 唇を離した彼の、哀れみを含んだ淋しげな視線が刺さった。
「でも……無理しないでよ」
「無理じゃないよ! そうじゃないの。あたしだって……」羞恥が彼女を口ごもらせた。「したい」
「ほんとに?」
 コヨーテは幾分表情を和ませ、苦笑いを見せながらシェリルの頬を撫でた。
「ほんとだよ。嫌だから泣いてるんじゃない。嬉しいの」
 彼女の言葉に笑みを深くした彼を見て、胸の奥から苦いものが流れ出した。
 嘘をついた。
 涙の理由は自分でも分からないが、決して嬉し涙などではない。それは確かだった。
 そしてさらに彼が彼女の小さな偽りをすんなり信じてしまったことに、途方も無いほどの罪悪感に苛まれる。
 こんな嘘に騙されないでよ。
 今まで嬉しかっただけの、彼との間に生まれたささやかな信頼に、初めて苛立ちを感じた。その得体の知れない怒りは、彼女に焦燥を起こさせて欲望を煽った。
 再び彼に固く抱きつく。
「優しくしないで」
 涙が止まると、肉体は再びぼんやりした情熱に取り巻かれた。彼女の囁きに応えて、コヨーテもまた激しい抱擁を返してきた。
「シェリル……」
 素肌に彼の腕の筋肉を感じて、彼女はその力強さに酔った。目尻に唇が触れる。次に唇。
 荒々しく舌が押し込まれる。迎えようとする彼女の舌には構わず、彼の舌は上顎の裏や頬の内側を蹂躙した。口の中で唾液が溢れる。彼にしがみつきながら、その背中の服の布を握り締めた。
 口づけしながら胸の膨らみを掴まれる。
「あっ」
 突然弾けた快楽に、彼女は小さな声を上げた。
 熱くなった乳房を何度か強く揉まれ、指先で乳首を押し潰すように撫でられる。時折爪で甘く引っかかれる度、悲鳴のようなか細い喘ぎが漏れ、体が震えた。彼女の嬌声を吸い込むように、彼は唇を合わせて舌を吸った。さらに息が荒くなる。
 唇を外した彼の顔が乳房に下りた。月明かりの中で褐色に見える髪がまず肌に触れる。その後に唇が触れた。舌が伸びて乳輪と乳首を舐められる。
「うっ……うう」
 背中や腿に触れる彼の手も心地良かったが、耳や乳房から流れてくる快楽はまた違う。体の外側の穏やかな部分を撫でられるのではなく、体の芯にある、もっとどうしようもない場所を刺激される気がする。喉から漏れる喘ぎの種類も違う。声をこらえる為、彼女は拳を口に押し当てた。
 音を立てて乳首が吸われる。シェリルの手はコヨーテの背中で爪を立てるように固まり、体中に流れた快楽が下腹に集まる。その情熱をどうすることもできず、彼女は腰を僅かにくねらせた。
 視線を落とすと、乳房に顔を埋めている男の頭が見える。
 コヨーテ。
 相変わらず名前も知らない男に、たまらない愛しさを覚えて、その頭を抱き締めた。さらさらとした髪から、清潔な石鹸と薄荷の香りが微かに漂う。昼間触れた時の脂っぽさは抜け切っていた。自分の体を貪る彼と、彼に貪られる自分の体に満足と陶酔を覚える。彼女の体に頭を押し付けられた彼は、乳房の中心を吸い続けながら、時折優しく歯を立てた。
 甘い喘ぎが、押し当てた拳の隙間から漏れる。

 やがて顔を離したコヨーテは、もう一度軽く唇を重ねると、上半身だけ起こしていた彼女を寝台の上に押し倒す。彼は彼女の肉づきのいい腿を掴んで両脚を開かせた。触れられた内ももがぴくつく。
 彼はいきなり指を伸ばし、下着の上から陰核に触れた。体中を愛撫され、既に熱くなった彼女の小さな肉芽も、やはり温かく膨らんでいる。
 中指の腹で、潰そうとするように強く押された。
「うあっ……!」
 尖った快感が突き刺さり、甲高い声が喉から溢れた。構わず彼はぐいぐいとそこを押してくる。突きあがってくる感覚は、痛みにも近かった。   
「あっ、あっ、あ……待って。ちょっと痛い」
 喘ぎながらやっとのことで告げたが、彼の動きは緩まない。
「優しくするなって、さっき言ったじゃん」
 囁く声は情熱に濁って熱い。確かにそう言った。見下ろしてくる彼は無表情に近く、いつもに増して優しく愛撫してくれた彼にそんなことを言ったので、彼が気分を害したのではないかと思った。
 鋭く流れ続ける、痛みと快楽がないまぜになった感覚に、歯を食いしばるようにして耐える。
 指の動きが止まったと思うと、素早く紐を解かれて下着が剥ぎ取られた。両脚を掴まれて膝を折り曲げられる。彼の目の前で秘部がむきだしになった。
 長い指で陰毛を掻き分けられる。頭を下げたコヨーテの舌が、指で探られて膨れ上がった陰核に触れた。
「……あ」
 快楽というより羞恥の為にシェリルは小さな声を上げた。濡れて温かい舌が、先ほどまでいたぶられていたその部分を、慰めるように愛撫する。
 横たわったまま首を上げると、開いた脚の間の、黒く縮れた恥毛の隙間から彼の顔が見える。目にした光景の淫靡さに頭が眩む思いがする。
 ぼんやり見つめていると、視線を感じたのか、彼が顔を上げた。
「……あんまり見ないでよ。こっちだって恥ずかしいんだから」
 そう言いながらも、彼はシェリルの目をじっと見据えながら、さらに舌を伸ばして彼女の敏感な部分を舐め取る。
 瞳が潤んだ。私もこの人もなんて淫らで堕落しているんだろう。 

 舌で触れ、時々唇を押し付けて軽く陰核を吸いながら、コヨーテの指は膣へと伸びた。緩く動かされる。湿った淫猥な音がそこから聞こえる。顔が赤らんだ。
 指先が滑り込んでくる。
「はああああっ! あっ……あ!」
 体の奥に火を灯されたようだ。悦楽をこらえきれずに叫んだ。
 いつもなら体の中を丁寧に探るその指は、いきなり前後に動き始めた。
「あ……待って……あっ! ああっ」
 重い息をつきながら声を上げるが、彼の動きは止まらない。粘液が小さく弾ける、ぷちゅという音を何度も耳が拾い上げた。少し乱暴だと思う一方、そんな彼に縋りつきたい程の魅力を感じる。 
 彼女の股間から顔を離した彼は、指を体内に埋め込んだまま、彼女の瞳を見つめた。反射的に伸ばした手を彼の手が捕まえる。互いの指を組み合わせるように手を握り合った。
 膣から指が抜けていく。熱さだけがその中に残った。
 彼女の愛液に濡れた自分の指を舐め回すと、彼はベルトとズボンの留め具を外し、服と下着をずり下げた。そこから立ち上がる彼の陰茎を目にして、意識がおののく。これから彼自身に貫かれる。繋がってひとつになるのだ。
 そこだけ露出させ、上半身も服を纏ったままで、コヨーテは彼女の脚を再び抱え、膝を折って大きく広げさせた。
 そして何も言わずに彼女の中に押し入る。
 瞳を閉じて叫んだ。
 目蓋の裏が白むような悦楽。正体の分からない情熱。羞恥と恐怖、寂寥。数々の思いが入り乱れて言い表せない感情を、叫びに乗せて爆発させる。だが涙は出なかった。
 挿入の衝撃に喘ぎながら脚を彼の腰に巻きつける。コヨーテは上半身を折って彼女の顔を覗き込んだ。
 突然、どんと壁を叩く音が聞こえ、ふたりは繋がったまま思わずそちらに目をやる。
「うるせーぞ、静かにやれ」
 壁の向こうから微かに男の声が聞こえた。
 顔を見合わせたふたりは、小さく笑い合った。
「……ほら、大きい声出すから怒られちゃったじゃん」
「だって……」
「ま、いっか。やめろって言われたわけじゃないもんね」
 彼は含み笑いをしながら彼女の額にくちづけ、体を動かし始めた。体内の奥底を固く尖った彼自身が突いてくる。
 また怒鳴られてはたまらない。シェリルは両手で自分の口を塞いだが、その隙間から熱い吐息と低い呻きが、とめどなく漏れ続ける。
 彼が彼女の中を往復する度に、体の中心に重く熱い快楽が届く。それはすぐに脳まで駆け上がった。
「ふ……ううっ……んふっ……う」
 くぐもった喘ぎは、激しく揺さぶられる動きにぶれる。彼女の体の脇に両手をついた彼の動きは、やはり荒々しい程だった。
「うーっ! ううっ!!」
 口を塞ぎながら狂おしい快楽に耐えていると、コヨーテの手がそっと彼女の手をどける。体を揺らされ続けながら、口づけされた。シェリルも彼の背中を強く掴む。体の中で荒れ狂う熱を彼に伝えようと、彼の服を握り締めた。
 
「忘れて」
 彼女の頭を抱き締めながら、彼はそう囁いた。
「忘れさせてよ」
 彼が何を差してそう言っているのか分からないまま、彼女も囁き返す。
 全部忘れたい。捕らわれている仲間たちのことも。行方不明の男爵も。運命の指輪も。胸に住み着いて離れない虚しい幻も。すべて。
 何も分からなくなるまで貪って欲しい。この瞬間、彼以外のものなど何も必要ないはずだ。彼の言った通り、ただの呼び名にすぎない名前もいらない。思ったことを叫べばいい。
「シェリル……」
 腰を彼女の尻に打ちつけて何度もそこを浮かせながら、彼はうわごとのように彼女の名を呼んだ。しかしシェリルは喉から溢れかけた言葉を、やはり飲み込んだ。ただ嬌声を上げながら彼の低い囁きに酔いしれた。
 揺さぶられ続け、愉悦に意識が吹きこぼれそうになる頃、コヨーテは大きく息を吐く。
「あっ、あ……出すよ」
「出して。中に出して」
 力を込めて抱き締める彼を抱き締め返しながら、同じように彼女も喘いだ。彼の体液が体内で熱く弾けたと思った瞬間、すべてを忘却させるような待ちかねた一瞬が訪れる。

 体を離す前に、いつもコヨーテは軽くくちづけをしてくれる。できることならいつまでも繋がっていたいと思うシェリルに取って、そのちょっとした気遣いはとても嬉しかった。
「あー……そういや、タオルも持ってないなあ」
 部屋を見回した彼は、二人とも碌に荷物を持っていないことを思い出したらしい。手ぬぐいが無ければ、体液に汚れた体を拭くこともできない。
「明日出発する前に買わないとね」
 仕方なくそのまま掛け布にくるまるシェリルの横で、コヨーテも上着を脱ぎ捨てた。
「そうだねえ。毛布は無くてもあと外套と……君の替えのパンツも」
「うるさいなー」
 手渡された下着を、赤面しながら受け取った。確かに愛液に汚れてしまっているので、洗う間の替えが欲しい。
 ズボンを脱ぎ捨てた彼も掛け布の下に潜り込んでくる。向き合って横になったふたりは、意味も無く微笑みを交わし合った。
 快楽の残り香が穏かに胸に沈殿していく。
 そう時間が経たない内、彼は目を閉じて寝息を立て始めた。シェリルに劣らず寝つきがいい。
 色白の寝顔を見つめながら考えた。適当に呼んでいいと言われたのだから、何か呼び名を自分でつけてみようか。しかしあれは駄目、これは駄目と、意外と注文が多い。
 いっそレナードと呼んでみようか。
 少しの間その思いつきを頭の中で転がしてみる。
 いいや。またゆっくり考えよう。
 思い直して、シェリルも目を閉じた。彼女としては他人の名前だし、どんな呼び名でも良かったが、レナードだけは彼に最もふさわしくないと思った。二度とその名前で彼を呼びたくない。

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