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魔女とコヨーテ」
第五話 山の端に陽が沈むまでに

第五話: 山の端に陽が沈むまでに 11

2009.07.31  *Edit 


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 馬を使えば伯爵家まで通常二日で着くところだが、到着予定の二日目の夕方になっても、二人はまだ道半ばにいた。原因は二人乗りであったことと、馬に乗り慣れないシェリルが酔いを起こしたことだ。
 コヨーテに教えられた通りに、馬の動きに合わせるように体を動かしてはいたが、慣れない動きに、すぐに体力は尽きた。長い間平衡感覚が揺さぶられ、何度か馬を下りて吐いた。
 そんなこともあって、休憩を挟むことが多く、また時折常歩で進まなければならなかったので、旅の速度は大幅に遅くなった。
 出発当初は「エッチしてる時は、いっくら揺れてても平気なのにねえ」などと、苦笑いをしていたコヨーテだが、シェリルがそれに対して肘鉄を繰り出す気力も無くなった頃には、哀れに思ったのか、薬草などを手に入れて煎じてくれた。彼が淹れた茶を飲むと大分気分がすっきりした。魔術師であるシェリルも薬草の知識はあったが、彼はさらに詳しいようだった。

 王都から伯爵領に抜ける道を駆けていく風景を見ると、昔のことを思い出す。
 丁度二年前、伯爵の親戚である貴族を護衛してこの街道を下っている時に、思いがけずコヨーテと再会したのだ。当時は馬車に揺られながら、隊商の護衛についた傭兵と、女傭兵に変装していたコヨーテに散々からかわれたものだ。同乗していたサムソンは、傍らで黙り込んでいて、助けてくれなかった。
 あの時、暗殺の巻き添えになって殺された商人と、コヨーテが始末した、彼の名を騙っていた暗殺の首謀者が眠る館は、今はどうなっているのだろうと、ふと考えた。
 一日目は宿場町に泊まることができたが、翌日は野宿する羽目になった。
 野営の為の備えは録に無かったが、幸い気候は暖かかった。外套にくるまり、身を寄せ合って眠った。
 旅に出てからの両日とも、ふたりは眠る前に肌を重ねた。酔いで体調が優れなくても、仲間の身を案じていようとも、コヨーテが霞んだような瞳でシェリルを見つめ、そっと抱き寄せられると、頭は目の前で起こっていること以外の情報を遮断してしまう。
 彼の求めに応じなければ、彼が離れてしまうなどと考えたわけではない。彼女は心から純粋に、少しでも多く、長く、彼と触れ合い、重なり合いたかった。
 その最中が途方もなく素晴らしい時間のように思えるのは、肉体の快楽もさることながら、過去を忘れ、未来を考えずに、その一瞬一瞬の衝動だけ、ただ味わっていれば良いからかもしれない。

 野宿をした二晩目も、湿気を含んで潤み始めた星空の下、街道沿いの大木の根元で交わった。下半身だけ服を脱いで重なるような、慌ただしい交合だったが、彼の愛撫を受けて、彼女の体は短時間で熱くなった。
 獣や盗賊を近寄らせない為に、彼女が張った魔術的な結界の中で抱き合った。自分の甲高い嬌声に合わせるように、この近辺に生息しているコヨーテの遠吠えが聞こえてくるのが、妙に暗示的に思えた。
 本来なら彼女は、伯爵領に到着するまでになすべきことがあったのだが、彼と肌を合わせたいという欲望に負けてしまった。もっとも勝とうとも思っていないのだから、葛藤も覚えない。
 ことの後、隣で眠り込んだ彼の寝息を確認して、慎重に彼女は体を離した。
「トイレ行ってくるね」
 感覚が鋭敏な彼に向かってそう囁いたが、大きな寝息を立てている彼は反応を見せなかった。
 足音を忍ばせてその場から離れる。少し歩いて別の大木の根元に来ると、シェリルは腰に下げた袋から、鳥の羽と乾燥させたニガヨモギの葉を取り出した。
 組んだ手の中でその二つを握りながら、呪文を唱える。二つの触媒が白熱したように熱くなった。
 やがて彼女の術に応じて、街道沿いの森の奥から、一羽の梟が飛んでくるのが目に入った。
 左腕に外套を巻きつけて突き出すと、森の賢者と呼ばれる大きな夜の鳥はそこに止まって羽を畳む。右手でその頭を撫でると、梟は命令を急かすように小さく鳴いた。

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