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ココナッツ図書館 夜間書庫

魔女とコヨーテ」
第六話 道の先

第六話: 道の先 12

2009.11.08  *Edit 

 覚えのある宿だった。数年前に全く同じ道を歩いているのだから、当然と言えば当然だ。林の中に唐突に現れる、茶色の煉瓦造りの宿。木造の小さな小屋が多いこの街道の巡礼宿の中では、かなり大きな部類に入る。林を切り開いた広い敷地には、本棟の他に別棟と、小さな菜園もあった。そこに野菜や薬草が植えられているところを見ると、まだ宿は朽ちておらず、人がいるのだろう。安心した。
 伯爵令嬢に扮したシェリルが、婚約者を偽った太った男に夜中に襲いかかられ、そこをコヨーテに助けられた宿だ。彼と彼女が初めて出会った場所だった。
 応対に出た神父の顔にも、見覚えがあった。人のよさそうな、だがどこか誘惑や欲望に弱い、非常に人間的な印象を持たせる。あの時、偽の公子に金を握らされた彼は、本来であれば別々の建物に泊めなければならない未婚の男女──伯爵令嬢を装ったシェリルと偽の公子──を同じ別棟に泊めてしまった。
 果たして今回も、コヨーテが金を見せると、細かいことは言わず、夫婦だという彼らの言葉を信じて、ふたりを一緒に別棟に泊めてくれた。
 林の中の石造りの建物は湿気がこもり、薄暗い。小さめの窓を開けても、幾重にも茂った木々の葉をやっと通り抜けた陽光の残滓が入り込むだけだ。日没が近いので、その光すら弱々しかった。
「先にご飯もらって、今日は早めに寝ようか」
 窓辺から、林の木々を橙色に染める薄明るい陽の光を見つめながら、彼は呟いた。
「そうします。あなたの言うことの方が大体正しいから」
「なにソレ?」
 嫌味を含めて答えると、振り向いたコヨーテの声が尖った。心臓がびくりと震えたが、シェリルは態度には出さず、寝台に腰掛けると、歩きすぎて張ったふくらはぎをさすり始めた。
 コヨーテの攻撃的な視線が横顔に突き刺さる気配を感じたが、シェリルは顔を上げなかったし、彼もそれ以上は何も言おうとしなかった。
 半分は八つ当たりだというのも分かっている。彼に突っかかったところで、下腹の痛みも足の疲れもどうにもならない。
 それでも、もう少し気遣ってくれてもいいのに。
 それを望める相手ではないというのも分かっていたが、ささくれ立つ心を抑えられない。このままではコヨーテに呆れられる一方だし、いずれ本当に彼の怒りを買ってしまうかもしれないというのに、どうしても抑制して振舞うことができなかった。彼が昼間言った通り、自分の意志で自分の体を制御できればいいと思うが、現実には自分の意志すら望む通りの方向に向けられない。
 師の元でひたすら魔術の修行に打ち込んでいる頃には、こんな思いをすることは少なかった。魔術はただ自分の心の内側を覗き込み、精神を操るものだ。しかしそこにひとたび他人が関わってくると、自分の精神を思うように制御できなくなる。多くの魔術師が孤独を好み、一人で研究に打ち込む理由は知っていたが、ようやく最近実感した。やはりただ知っているのと、理解することは違うと思った。


 ふたりはその後もほとんど喋らなかった。
 本棟で他の数人の巡礼者たちと、素朴な煮込み料理を食べ、寝室に戻った後、手ぬぐいを持ってコヨーテは無言で部屋を出て行った。恐らく井戸で顔を洗いに行ったのだろう。どこへ行くかぐらい言い残していけばいいと腹立たしく思った。
 シェリルも部屋を出て厠へ向かう。厠のある中庭には井戸があり、そこにコヨーテが屈んでいるのが見えたが、声もかけなかった。
 厠で用を足して寝る前の処置を済ませ、外に出る。既に陽は沈み、林の中の巡礼宿は宵闇に包まれようとしていた。井戸にはコヨーテの姿は無い。彼女は井戸から水を汲み上げ、下着と経血を吸わせる為に使う布を洗濯して、顔を洗った。全ての作業を終える頃には、空には昼間の光は全く無くなり、林の梢の隙間から、星明りが漏れるだけになっていた。
 ちょっとした恐怖を感じながら、シェリルは危うい足取りで別棟に戻る。明かりがほどんと無い廊下を歩いていると、昔偽のレナード公子によって、この廊下の隅に追い詰められたことが浮かんできた。あんな気色悪い男に、人生で最初のくちづけを奪われたのは、今もって彼女に取って屈辱である。そこにコヨーテが助けに入ってくれたのは、全てはかりごとの茶番だったとしても、やはり嬉しかった。
 扉を開けて部屋に入ると、窓も閉ざされたそこは真っ暗だった。既にコヨーテは眠ってしまったらしい。彼女がまだ寝支度を終えていないのだから、燭台に炎くらい灯しておいてくれてもいいのに。
 再び彼に対する怒りが湧き起こり、シェリルは乱暴に床を歩くと、手探りで窓を探し当てて、鎧戸を開けた。夜のひやりとした空気と僅かな星明かりが差し込む。
 寝台には誰の姿も無く、コヨーテの荷物も無かった。シェリルの荷物だけが、ただ哀れに置き去りにされていた。

 シェリルはしばらくぽかんとしていた。
 去ってしまった。
 唐突に彼女の傍らから彼が消えてしまった。
 あれほど重い決心の末、共に西に向かおうと誓ったのに、こんな小さな諍いの為に、コヨーテは彼女の元を去ってしまった。
 部屋を見渡したが、狭い室内には彼の姿や彼の荷物は見当たらなかった。
 胸の奥に急速に熱い塊がこみ上げてくる。
「なによ、バカ! サル!」
 シェリルは自分の荷物を取り上げると、腹立ち紛れに部屋の扉に叩きつけた。大きな音を立てて扉が揺れ、背嚢の中身が床にぶちまけられた。
「ひとのこと短気とか言っておいて、自分の方がよっぽど辛抱ないんじゃん! こんなことぐらいでキレんな、アホ!」
 もはやここにいない男を罵り続けながら、開いた鎧戸を拳で打ち続けた。手の甲に痛みが走ると同時に、涙が溢れてくる。
 悪いとは思っていた。確かにシェリルの歩みが遅いのも疲れやすいのも、彼に責任は全く無い。それでも一緒にいるなら、もっと気遣って欲しいとつい思ってしまうのが、我侭だということも分かっていた。けれど彼ならまだもう少し許してくれるのではないかと思っていたのだ。甘えて依存されるのを嫌う男だと知っていたはずなのに、どうしても頼らずにはいられなかった。
「一人で夜中に出て行って、狼にでも食べられちゃえばいいんだよ、バカ犬!」
 もう一度拳で鎧戸を思い切り叩くと、シェリルは寝台の上に顔を伏せて座り込んだ。
 涙が溢れて止まらない。こんな簡単に別れが来るなんて、いくらコヨーテが相手だからと言って、信じられなかった。

「何してんの、宿壊す気?」
 部屋の扉が開いて、背後からコヨーテの硬い声が聞こえた時、安堵と羞恥と混乱が一度にシェリルを襲った。答えることはおろか、振り向くこともできず、彼女は俯いたまま、涙だけを拭って呼吸を落ち着けた。
 重い足音が近づいてくる。同時に背中から明かりが満ちて、シェリルの目の前の壁と窓を照らした。足音が近づくに従い、光も大きくなる。熱を伴ったその光は揺らめく炎だ。
 窓際に歩み寄った彼は、手を伸ばして鎧戸を閉めた。俯いたままのシェリルの視界には、彼の腰から下と足の先だけが見える。
「子供じゃないんだから、何が気に入らないんだか知らないけど、大声出したり暴れたりしないでよ」
 頭上から冷えた声が降ってくる。彼女は両拳で自分の膝を叩いて言い返した。
「だって! いきなりいなくなったりするから」
「だって君、僕と一緒にいるの嫌そうだったから、空いている隣の部屋に移ったんだよ」
「それなら一言言ってくれればいいじゃない!」
「だから言いに戻ってきたんでしょ。もー、なんでそんなに怒ってんの」
 溜め息と共にコヨーテの手が伸びて、シェリルの肩を軽く掴んだ。反射的に彼女はそれを振り払う。ぴりぴりしている時に、他人に触れられるのは、彼女も嫌いだった。
「さわんないでよ!」
「さわんないでって……」
 舌打ちが聞こえ、燭台が窓辺に置かれる音がした。シェリルが腰掛けている寝台のすぐ隣に、コヨーテの体重が落ちる。横顔に視線を感じたが、彼女は自分の足元を見つめ続けた。
「ねえ、何が気に入らないの? どうして欲しいわけ? 言ってくれなきゃわかんないよ」
 それはシェリル自身にもはっきりと分からなかった。実は分かってはいるが、言葉にするとあまりに自己中心的だ。
 もっと私に構ってほしい。もっと私に優しくしてほしい。
 あまりにも幼稚で身勝手で、とても彼には言えない。口に出せないようなことを彼が叶えてくれないからといって、こんな風にへそを曲げているのは、口に出すよりもっと幼稚で卑怯だと思った。
 シェリルが答えられずにいると、コヨーテは冷静な声で続けた。
「僕の態度が気に食わないの? それなら夜は別の部屋取るとか、別々に西を目指すとかする?」
「違うよ」
 この人と離れたいわけじゃない。先ほど、彼と彼の荷物が消えているのを見つけた時の絶望感を思い出し、シェリルは激しく首を振った。
「じゃあ何?」
「わかんない。うまく言えないよ。でも、離れたいんじゃないの。一緒にいたい」
 呟くと再び涙が零れ、口の端から優しい塩辛さが入り込んだ。嗚咽をこらえて体を僅かに震わせていると、肩を抱き寄せられて、体がコヨーテの胸に倒れこんだ。彼の体温と匂いに包まれて、途方も無いほどの安堵が満ちてくる。膝の上で握り締めていた手で、彼の腕を掴んだ。
 髪を静かに撫でられる。彼に許され、受け入れられたと知り、新たに涙が溢れた。しばらくシェリルの髪を撫でた後、彼は小さな声で言った。
「じゃあ、なんであんなひどいこと僕に言うの。嫌われてるのかと思うよ」
「あなただって……」
 つい言い返すと、両手で頭を掴まれ、髪の毛を引っ掻き回された。
「もー、可愛くない! なんで素直に謝れないの」
「あなただって……」
「しかも今、ヒトの服で鼻水拭いたでしょ」
「ごめん……」
「ダメ。許さない」
 こっそりコヨーテの胸で、溢れてきた涙とついでに鼻水を拭っていたのを見抜かれ、シェリルは顔を離そうとしたが、逆に強く抱き締められた。 
 コヨーテの顔がシェリルの頭の左に滑る。喉に彼の髪の毛先が触れ、小さな刺激が伝わってきた。
 耳たぶに軽く歯が立てられる。思わず眉を寄せるような、淡いが切ない快楽が溢れた。
 体の奥底から、ざわざわと音を立てて何かが騒ぎ出す。ずっと触れて欲しかったのに、森に入る前、十日以上も前から肌を合わせていなかったし、くちづけもしていなかった。
 反対側の首筋に彼の手が触れる。繊細な指先に肌を撫でられて、悪寒にも似た快楽が這い上がってくる。
 息を弾ませながら、コヨーテの背中に手を回すと、彼はその手を乱暴に振り払った。
 まだ怒っているのだろうかと、目を見開いた彼女が彼を見つめると、彼は傲然と言った。
「僕に触っちゃだめ」
「どうして? 怒ってるの?」
「怒ってないけどダメ」
 もう一度コヨーテの体に手を伸ばしたが、虚しく振り払われる。  
「どうして?」
 重ねて訪ねると、唇を塞がれた。濡れた舌が乱暴に入り込んでくる。シェリルはそれを自分の舌で捕えようとしたが、すぐに彼の舌は引っ込んでしまった。
「触ったらダメだってば」
 唇を離したコヨーテは、シェリルを咎めるように、軽く彼女の頬をつねった。
「だって、なんで?」
「なんでも。君エロくてすぐ、くねくね動いちゃうから」
「だって……ねえ、怒ってるの? 謝るから」
 つい先刻まで、扉に物を投げつけて怒っていた少女と同じとは思えない。蝋燭の明かりに浮かぶシェリルの素直で弱々しい表情は、彼の嗜虐心を煽った。硬くなり始めていた股間にさらに血が集まる。最初から素直に謝ればいいのに。従順そうに見えて、生意気な女だ。そのくせ、こうして少し触れてやると、すぐ気持ちが高ぶって籠絡されてしまう。
「今さら謝ってもダメ。とにかく動かないでじっとしてなさい」
 再びコヨーテの唇がシェリルの唇に重なった。舌が押し入ってくる。その動きに応えたいのを我慢して、彼の腕を掴もうとしたが、やはり振り払われてしまった。
 入り込んできた舌をつたって、彼の唾液が流し込まれる。ざらざらした舌は彼女の歯茎や顎の裏を撫で、舌の付け根を撫で回す。体が震えるような快楽を、掛布を掴んでこらえた。その間、彼の指先はシェリルの髪の生え際や耳、喉を撫で続ける。
 唇を重ねたまま、コヨーテの手は胸元へと移った。服の上から乳房をぎゅっと握られ、形が変わるほど激しくこね回される。
「う……んっ……」
 掠れた声を上げて、彼女は彼のその腕を掴もうとしたが、しつこく振り払われた。
「触るなって言ったでしょ。どうしておとなしくしてらんないの。次動いたら、もうやめちゃうよ」
「やだ」
 再び唇を外して仏頂面で言い放つコヨーテに、幼女のように首を振ってみせると、彼はようやく微笑んだ。
「じゃあ、おとなしくしてなさい」
 昼間あれほど彼に対して抱えていた反抗心や、意味の無い意地はどこに飛んでいってしまったのだろう。考えるのも億劫で、本能のようにシェリルは頷いた。彼だって、昼間からあんな厳しい顔じゃなく、こうして微笑んで言い聞かせてくれれば、きっと彼女は素直に言うことを聞いていたに違いないのに、などと考えた。

 服の上から爪で乳首を擦られ、そこで鋭く弾けた快楽が、顔を熱くさせた。
「あ……あっ……」
 目を閉じて切ない声をあげながら、シェリルは寝台についた手で掛布を握った。そうすると僅かに体が反り、コヨーテに向かって胸を突き出す形になる。
 指先で擦っていた乳房の中心を、彼の指が軽くつまんだ。
「固くなってる……。オッパイの方が素直だよね」
「だって……」
「ほら、だってって言わない」
 さらに力を込められて乳首をつねられ、軽い痛みを覚えた。だがその痛みをこらえると、同時に脳の奥にじめじめとした快楽が溜まる。
 コヨーテの手はシェリルの巡礼服のベルトを取り払い、腰に巻いた紐も解くと、寝台に腰掛けていた彼女の膝を抱えて、寝台の上に乗せ上げた。
 膝を折って軽く捲れた服の裾をシェリルが直そうとすると、彼の手がそれを乱暴に押し退ける。そうしておいて、コヨーテは大きく彼女の服をたくしあげる。
 小さな蝋燭の炎が、シェリルの肉付きのいい太ももと、すらりとした脛、そして脚の付け根を照らし出す。月経の為、いつもの下着ではなく、布を幾重にも巻いた不恰好なものだ。
「見ないで」
 色気も何もない、赤子のおむつのような月経用の下着を見られるのは、本当に恥ずかしい。シェリルは慌てて裾を戻そうとするが、コヨーテはさらに強引に服をたくしあげ、すっぽりと彼女の体から脱がせてしまった。
「ごめん、あの、今日生理なの」
「だから何?」
 脱がされた服を取り返そうと引っ張るが、彼もシェリルからそれを取り上げようとする。引っ張り合いになった。
「無理に引っ張ると破けるよ。明日からそのパンツだけで歩く?」
「だって……」
 彼が全く力を緩める様子が無いので、仕方なく彼女が手を放すと、麻の巡礼服はコヨーテの手に納まった後、寝台の下に放り出されてしまった。
 脚を折って股間を少しでも隠そうとするシェリルを、彼女の肩を掴んだ彼が寝台の上に押し倒す。他の諸々の事情はあったが、その仕草に、シェリルの意識は眩みそうなほどに酔った。
 舌が胸の膨らみに触れる。滑らかな肌を数度嘗め回した後、それは膨らみの先端に触れた。舌先で強くそこを押されると、唾液の音がして、駆け上ってくる快楽と共に、頭が熱くなる。
「気持ちいい?」
 乳首を舌でねぶりながら、合間に澄んだ声で尋ねられ、腰から力が抜けていく。反対側の乳房も彼の手で撫でられ、時折乳首をつままれている。
「気持ちいい……」
 掠れた声で答えながら、弱々しく右手を彼の頭に伸ばすと、再び振り払われた。
「僕に触ったらダメだってば」
「どぉして……?」
 自分でも驚くほど、媚びに満ちただらしのない声が溢れた。
「だってさっき、君、触るなって言ったじゃん」
 高揚した意識の奥で、脱力する思いがした。先ほど彼が彼女に手を伸ばした時、気が立っていたシェリルは、確かにそう言ってコヨーテの手を振り払った。それを根に持っていたのか。
「だって、あの時は苛々してたから……」
「僕だって、今苛々してるよ」
 何故だか分からないが、コヨーテのぶっきらぼうに返されたその言葉は、彼女の体の芯に突き刺さり、体を燃え上がらせた。息が乱れ、喘ぎが零れる。
「ごめん」
「だめ」
 やっと告げた彼女の侘びを一蹴し、彼は舌先で弄んでいた彼女の乳頭に軽く歯を立てた。
「……あぁーっ」
 乳首から流れてくる刺激による快楽だけでなく、彼に支配されているような感覚が、彼女により深い声をあげさせた。喉を反らして、小さいが艶っぽい溜め息を漏らす。
「エロい声あげてもダメ。勝手に僕に触ったら、やめるからね」
「やだやだ」
 腰を揺すって、両手で寝台を叩いて不満を訴えるシェリルの姿は、子供そのものだ。それを目にした彼は、呆れると同時に愛しさがこみ上げてくるのを止められなかった。
 柔らかな乳房の中心を固く尖らせ、瞳を潤ませて彼を見上げる娘を見ているうち、彼の股間はすっかり硬く膨らんでいる。ベルトを外し、簡素な麻のズボンを下着と一緒にずり下げると、彼の分身が飛び出す。
 彼は彼女の体に馬乗りになり、熱く尖ったその器官で、シェリルの柔らかい乳房を突いた。先端から漏れている液体が、彼女の肌を汚す。ほとんどに陽にさらされてない、白い乳房をもっと、精液を引っ掛けて汚してやりたいという衝動が湧いた。
 さすがにそんなことをすれば、この前肛門にこっそり挿入しようとした時と同様に、シェリルは激怒するだろう。もう少しお互いに睦みあいに馴染んで、新しいことを試す好奇心が湧いた頃合を待つ方がいい。
 彼の性器で、乳房を撫でられる光景を目の当たりにしているシェリルは、羞恥と興奮に顔を上気させている。彼が手を伸ばして黒い髪を撫でると、同じくらい深い色の瞳が、彼を見つめ返した。服従への歓喜と悦楽がそこに宿っている。
「触りたい?」
「触りたい……」
 尋ねると、シェリルは舌足らずな声を鸚鵡返しに返してくる。幼女のようだった。
「舌だけならいいよ」
 囁きながら、彼は体をずらして、彼女の顔に自分の股間を近づける。どちらがどちらの望みを叶えようとしたのかは、もうふたりにも分からなかった。シェリルははしたないほどに舌を伸ばし、彼は自分の陰茎を彼女の口元に近づける。

 舌先が彼の器官に触れる。見上げるコヨーテの眉が微かに寄った。
 反り返った陰茎の筋に沿って舐め上げると、彼は深い吐息を吐き出した。首を起こして、手でそれに触れ、唇で包み込もうとしたが、触るなと何度も言われたことを思い出した。
 仕方なく唇と舌だけで先端をちまちまとねぶっていると、痺れを切らしたように、彼が腰を動かし、性器を彼女の口へと押し込んできた。口に含むと、生臭い匂いが鼻の奥に広がる。
 コヨーテは掌で彼女の頭を包むように撫でると、シェリルが顎を動かす前に、自分で腰を軽く動かし始める。決して乱暴な動きではなく、馬乗りになりながらも、彼女を気遣っているのは肌で分かる。しかしシェリルの小さな口で彼の性器全てを受け止めるのは、やはり苦しかった。
 けれど生理中の彼女が、体内に彼を受け入れることはできない。せめてこうして口の中で彼に快楽を与えてやり、何も含まない彼の精液を受け止めてあげたい。コヨーテに命令された通り、彼の背中や尻を抱き締めたいという衝動を抑えて、両手で虚しく掛布を掴んだまま、彼女は彼自身を吸い込もうと唇をすぼめた。
  
 だがコヨーテは体液を放つ前に、性器をシェリルの唇から引き抜いた。遠慮されているのかと思い、シェリルが彼に合わせるように気だるく上体を起こすと、体をずらした彼は、彼女の脚の間に割り込み、下着に手をかけていた。
 まさか交わる気なのだろうか。
 王都に彼がたまに彼女に会いに来ていた頃、運悪く彼女の月経にぶつかったことも二度ほどある。しかしいずれも出血がひどくない、終わりかけの時期だったので、あまり深く考えずに、そのまま交わってしまった。彼女の愛液の方が、経血より多いほどだったので、どちらもそれほど気には留めなかった。
 だが今日は出血の量が違う。経血用の布がすぐに汚れてしまうくらいだ。
「待って。待って、待って。今生理なの。だから……」
 普段の下着よりずっと頑丈に、幾重にも巻かれた紐をほどいている彼を押し留めようとするが、再び乱暴に手を振り払われた。
「だから、なに? 関係ないじゃん」
「あるよ! まだ出血がひどいの。汚れちゃうよ」
「シーツが? いんじゃない、別に。終わったらあっちの部屋で寝ればいいじゃん」
 コヨーテはけろりとしている。欲情に浸っていたシェリルの頭は、焦りでさらに血が上った。
「だ……、それだけじゃなくて、あなたも血だらけになっちゃうし……」
「いいよ、いいよ、気にしない」
「汚いよ」
「汚くないよ。僕のもさっき井戸んとこで洗ったから、大丈夫」
 開いた口が塞がらない。先ほど彼は中庭の井戸で、いくら夜で人気が無いとはいえ、堂々と股間を洗っていたのか。
 困ったことに、シェリルが嫌がれば嫌がるほど、コヨーテの方は興味が傾いていくようだった。先日肛門を使って交わろうという話が出た時と同じだ。あの時は絶対に嫌だったので、彼の体を蹴り飛ばすほどに怒って暴れたものだが、あれぐらいやらないと、彼の場合引かないらしい。
 膣から出血しているというのに、敷布や互いの性器を血で汚して交わる。多少の嫌悪はあったが、コヨーテの無邪気なほど悪びれない顔を見ると、確かにそれの何が問題なのだろうという気がしてくる。それにシェリルも彼を受け入れたくて仕方なかった。
 彼女の顔に浮かんだ、ほどけた困惑を見て取ったように、コヨーテは取り払ったシェリルの下着と月経用の布をどけ、彼女の脚を開かせた。服を汚さない為か、彼は膝までずり下ろしていたズボンと下着を完全に脱ぎ、上着も慌しく脱ぎ捨てる。
「わー、血だらけ。……ちょっとヤバイかな」
 軽く彼女の脚の間に視線を落とした彼は、小さく呟いた。彼女の膣から溢れる血液は、掛け布の上にあっという間に鮮やかな染みを作る。
「ほら……」
「でも、いっか」
 何か言い返そうとしたシェリルを遮り、彼は立ち上がった己を彼女の脚の間に押し込める。経血でぬるぬると滑ったが、シェリルの膣は彼をすんなりと受け止めた。
「あっ……あっ……あああーっ!」
 うっすらとした罪悪感と共に、強烈な快楽が押し寄せ、シェリルは首を反らして叫んだ。目の前で火花が散ったようだ。
 生理中で子宮が過敏になっているせいか、下腹がいつもより熱い。震えているようだ。
「やめる? 生理だし、抜いた方がいい?」
 喘ぐ彼女の頬を両手で押さえ、コヨーテは腰を動かさずに、意地悪く囁いた。
「やだっ、やだやだ。抜いちゃやだ」
 頭を殴られたような、挿入の強烈な快楽に喘ぎながら、切れ切れに彼女は答える。
「じゃ、どうして欲しい?」
「……動いて」
 どうしても触れずにはいられない。赤子が伸ばされた指を反射的に握るように、シェリルは自分の体の上にのしかかる彼の背中を抱き締めた。しかし今度は彼もシェリルが触れたことについては、何も言わなかった。ただ彼女の言葉に対して問い返す。
「どういうこと? 何をどう動かすの?」   
 答えられずに、彼女はしっかりと彼の背中にしがみつき、爪を立てる。
 彼は軽い痛みを感じたが、恥らうシェリルの懸命な仕草だと思うと、咎める気にもならなかった。
「ほら、言わないの? 抜いちゃうよ」
「やだっ」シェリルは首を振って、彼の頬に口づける。「……中で動かして」
 彼女の髪を握り、小さな息をついた彼が、腰を動かし始めた。経血でぬめった膣を、彼の陰茎が往復する。腰の奥に届く衝撃は、初めて感じるほど重かった。
「ああーっ、あっ、はあっ、うはあっ」
 体をねじるようにして嬌声を絞りだす。腰が小刻みに震えた。体の中に入ってくる彼はいつも熱かったが、今夜はまるで自分の下腹が炎の塊になってしまったようだった。
「シェリル」
 腰の動きに合わせて揺れる彼女の乳房を掴みながら、荒い息を吐いて彼はシェリルの名前を呼んだ。
 あらゆる不安や不満は消し飛び、ただコヨーテにしがみついて、何もかも彼に従いたいという、いつものあの衝動だけが押し寄せる。彼の滑らかな背中に回していた手を伸ばし、彼の尻に触れる。引き締まったそこは、背中と変わらないくらいに、滑らかな手触りだ。規則的に動く、その尻の奥に、彼女に悦楽を与えている源があると思うと、不思議な陶酔を覚えた。
 もう一度シェリルの名を囁いた彼が、動きを早めた。さらに強烈な感覚が膣を擦り、奥へとぶつかる。
「ああっ、あーっ、気持ちいい……!」
 思わず快楽を叫ぶと、吐き捨てるような声が返ってくる。
「ほんと、やらしーな、もう。ここをどこだと思ってんの?」
「巡礼やど……」
「分かってんなら、もう少し声抑えなよ。あんまりエロい声出してると、ばちが当たるよ」
「やだけど、無理……。ムリだよう……! あうっ、あうっ、あああっ!」
「もう、この……!」
 コヨーテは苦しげなほどに聞こえる、大きな息を吐き出すと、さらに動きを早める。体の奥を何度も突かれ、シェリルの喘ぎも悲鳴に近くなった。
 ほどなく彼は深い息をつく。
「シェリル……出すよ」
「コヨーテ、欲しい。全部、ぜんぶ、出して」
 後から思い出して赤面するような淫らな声を上げ、彼女は彼自身の痙攣が体内で収まるまで、やっと触れることを許された彼の体にきつくしがみついていた。 

 ぴたりと肌を触れ合わせ、腰を押し付けて、脚を絡めたまま、ふたりはしばらく荒い息をついていた。
 このまま眠ってしまえたら幸せだが、シェリルの体の奥からは、熱い液体がじわじわと滲んでくる。彼女が名残惜しいまま、僅かに身じろぎすると、コヨーテも体をゆっくりと起こした。
「うっわー。流血……」
 シェリルの体内から自身を引き抜いた彼は、小声ながら本気で驚いているようだった。目を向けてみれば確かに、力を失い始めた彼のそこは、真紅に染まっている。女であるシェリルには、秘部が血にまみれているなど、毎月のことだが、彼には結構衝撃的な光景だったようだ。
 腰や尻に付着した血液は早くも固まり始め、ざわざわとして気色悪い。
 コヨーテは掛布で大雑把に自分の腰周りを拭うと、下着だけ履いて、シェリルの手ぬぐいを外の井戸で湿らせてきた。それを使って、経血に汚れた彼女の尻から腰周りを、丁寧に拭ってくれる。ひんやりと濡れた布の感触が心地良かった。
 彼も改めて自分の腰を拭い、服を着る。
 身支度を整えたふたりは、無言で鮮血に染まった寝台を見下ろした。まるで殺戮が行われた後のようである。
「……洗う?」
 シェリルがコヨーテに尋ねると、彼は肩を竦めた。
「僕は洗わないよ」
 なんて勝手で失礼な奴だと思ったが、シェリルにしても、この血に汚れた大きな掛布と敷布を洗うのは、少々手間だと思った。彼女も宿の人間に対して失礼である。
「洗濯の手間賃として、お金多めに置いておけばいいじゃん。隣で寝よ」
 シェリルの表情から彼女の考えを読んだらしく、彼は彼女の荷物を持ち、手を引いて隣の部屋へと導いた。体を合わせる前のわだかまりは綺麗に消え去り、シェリルは素直にコヨーテに身を寄せる。
 やや埃臭い隣室の寝台で、ふたりは身を寄せ合って眠りに落ちた。


 翌朝、本棟に泊まったらしい、父子連れと年配の男性四人の巡礼者たちが、昨夜獣の吠え声を聞いたと話し合っているのを、朝食の時に耳にした。父子連れの息子の方が、夜中に厠に出た時に、耳にしたらしい。
「狼の遠吠えなんかじゃなかったよ。もっと甲高い、魔物みたいな声。きっと魔物だよ。近寄ると食い殺されちゃうんだよ」
 夜中のちょっとした怪談を興奮気味に語る、まだ十歳にもなっていないだろう息子の話を、他の客や神父たちは退屈凌ぎに聞いていた。しかし二人きりで別棟な泊まった、若い夫婦に見えるシェリルたちの姿に気づくと、気まずそうに視線を見交わした。無論その意味に気づかない子供は、大人たちに向かって話し続ける。
「聞いてよ、父さん。おわぁー、うぎゃーって、そりゃすごい声だったんだから」
「分かった、分かった」
 少年の父も、落ち着かない様子で、子供に話を止めさせようとしている。
 厠のある中庭で、少年がふたりが愛し合う声を聞きつけた可能性はあるが、いくらなんでも、そんな獣を通り越して、怪物じみた声を上げてはいない。
(話作りやがって、ガキ……)
 できるならその頭を小突いてやりたかったが、それでは宿泊者と神父の前で、彼らが夜中に抱き合ったのを認めるようなものだ。なるべく無表情を保ちながら、シェリルは席についた。
「にいちゃんたち、夜中に聞こえなかった? 怪物の鳴き声」
 忌々しい子供は、物怖じせずに、シェリルの隣に腰掛けたコヨーテに近寄ってきた。彼の父は、何とも言えない表情で、「こら、失礼だろ……」と弱々しく咎めている。少年の耳には全く入っていないようだった。
 コヨーテは例の警戒心を持たせない笑顔で、にこやかに少年に笑いかけた。
「さあねえ。私たちには聞こえなかったな。ぐっすり寝てたからね」
「じゃあ、聞いたのは俺だけか。ほんとにすげー声だったんだよ」
 シェリルは少年の言葉を聞きながら、微かにコヨーテの肩が震えているのに気づいた。笑い上戸の彼は、必死でこらえているようだが、腹を抱えて笑いたいに違いない。
 誰のせいだ。軽くテーブルの下で彼の足を蹴るが、彼は体を震わせたまま、少年に答えた。
「猫の交尾じゃないかな。サカリのついたメス猫は交尾してる時、すごい大きな声出すんだよね」
「サカリって何?」
「おい、ジョン、こっちに来なさい」
 どう見ても面白がってるコヨーテが何か答える前に、首を傾げた少年は、ようやく父親に連れ戻された。
 もう一度コヨーテの足を蹴り飛ばしながら、やはりあの経血で汚れた掛布と敷布は、洗っておかなければ、あまりに申し訳ないと、シェリルは思った。


 *****


 階下の食堂に下りると、コヨーテは既にひとりで食事を始めていた。
 シェリルも給仕娘を呼んで、何か頼もうとしたが、昼食時で忙しいらしく、彼女が細い声を張り上げても、なかなか気づいてくれなかった。
 以前はそんな時、シェリルに代わって給仕を呼んでくれたコヨーテは、黙々と自分の食事に専念している。敢えて意地の悪い真似をしているのではない。本当に、彼女が困っていることまで、気が回らないのだ。
 シェリルはごく自然に彼の向かいに座っている。彼はそれを受け入れている。
 しかしだからこそ、彼に取って、彼女は他人として認識されていない。
 彼を取り巻く空気の中に、やっと馴染めたというのに、皮肉なことに、それによって、シェリルはコヨーテに正面から見つめてもらうことがなくなった。
 たまらず彼女が、自分がそこにいることを思い出してもらおうと、彼の手を引き、何かを主張すると、彼はひどく苛立つようだった。
 旅の途中、ぶつかりあうことは何度もあった。互いにそっぽを向いていることにどちらかが耐えられず、近寄って、夜に肌を重ねれば、翌朝にはさっぱりと仲直りできていた頃が懐かしい。春が去り、夏至が訪れる頃までは、そんな風にどうにかうまくやってきた気がする。
 しかし今思えば、寂しさや愛欲に流されずに、諍いの原因をふたりで話し合って、ひとつずつほどいていくべきだったのかもしれない。表面には分からなくても、目に見えないずれが、ふたりの中に少しずつ積もり、今ではもうそれを取り除くことは不可能だ。
 彼との距離は間違いなく近づいているのに、近づけば近づくほど、積もっていく不満も大きくなる気がする。
 そしてシェリルはそれを知っていた。賢い彼女は、だから彼に限らず、人との距離の取り方には慎重だった。
 全部知っていたのに、どうして避けられなかったのだろう。心だけは、他人のものは勿論、自分の心すら思い通りにはならないからだ。
 それも知っていたのに。
 給仕娘を呼びつけるのを諦め、コヨーテが頼んだ皿から料理を分けてもらおうと、彼を見る。休みなく煮込み料理を食べている彼は、シェリルの視線にも、彼女の瞳が潤んでいることにも気づかない。
 窓辺の席では、外の雨が鎧戸を叩く音が聞こえ、雨のもたらす秋の最初の冷気が滲んできた。

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re: 拍手お返事 >Hさん 

拍手、ありがとうございます!
第11回では、どれだけシェリルの台詞を「だって~」から始めることができるかに苦心(?)しました(笑)
身に覚えのあるすれ違い…なのでしょうか!?

荷物ごと無くなってたっていうのは、コヨーテ君の意地悪かもしれませんね(笑)
ちょっと脅かしてやろうと思ったら、隣の部屋から物を投げる音が聞こえてきたので、慌てて駆け込んできた…そんなところかもしれません。
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